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「僕が自由に遊ぶために税金を使うわけにはいかないからね。それで経済が回るのも事実だけれど、限度がある」

 ……思ったよりはまとも、なのかな。
 女と遊ぶ金が欲しい、と言い出したときには大丈夫かこいつ、と思ってしまったけれど、根はいい人らしい。

「……でも、それこそ足りなくないですか?」

 貴族令嬢にプレゼントするのであれば、それなりに値は張る。『遊び』として散在するには、ひと月の給料では足りないと思うのだが。

「大丈夫、相手は平民だから。今日も来てたでしょ? お客さん」

 前言撤回。全然まともじゃないわこの王子。平民に手を出す王族がいるか? ……目の前にいるんだけど。
 ていうか、今日、妙に女性客が多かったの、この人が手を出した女性ばかりだったのか。道理で入って初日なのに明らかソルヴェード様目当ての客が多いと思った。店長が宣伝してたんじゃなかったのか。

「あ、ちゃんと合意だからね? 身分は完全に明かしてないけど、結婚できるような相手じゃないことは伝えてるから。双方納得した遊びなの」

 よっぽど、わたしの感情が顔に出てしまっていたのか、ソルヴェード様は笑いながら言ってきた。

「それに、平民の生活を身をもって知っている王族がいたほうがいいだろ?」

「……ものは言いようですね」

 絶対そんなこと思ってないだろうに。建前だけはまともなのがイラッとくる。
 まあ、でも、ちゃんと人としてのラインが分かっていて、その一線を超えないのであれば、別にとやかくいうわけでもないのか。わたし、この人の婚約者でもなんでもないし。
 男として最低だなこいつ、と思ってイラつくだけで、わたしに実害はない。

「本命ができても、相手にされなそうですね」

 本気にされなくてこっぴどくフラれればいいのに、と思って言うと、「あはは」と声を上げて笑われてしまった。

「おかしいことをいうね、君。僕が――僕たちが、恋愛結婚できると思ってるの?」

「――……それ、は」

 わたしは答えられなくて、口ごもってしまう。失言だった。
 政略結婚が当たり前の貴族社会。結婚した後、恋愛に発展する、という話はちらほら聞くけれど、好きあった者同士が結婚した、という話はそうそう聞いたことがない。
 わたしは気まずくなって立ち上がり、既に食べ終えていた二人分の食器を片付ける。

「……と、とにかく。仕事はちゃんとしてくださいね。女性と遊ぶのは、仕事の時間以外でお願いします」

 わたしは、ソルヴェード様の「分かってるよ」という返事を聞き、皿を持って逃げ出すように休憩室を後にした。
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