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鬼灯の花が枯れる前に
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鬼灯は無言で化粧室に入り、壁に寄りかかっていた。
「人手足りないから、私が担当する事になったから、よろしく」
「あっそうなんすね。それじゃあお願いします」
「じゃあ、そこ座って」
私は鏡の前の椅子を指差した。
「うーん。やっぱり何処かで」
椅子に座った川波が鏡越しに鬼灯の顔を見ながら首を捻った。
「気のせいよ、さ、これで完成」
「おお! しっかりしてる!」
ささっと顔を明るくして、少し髪をセットするだけで元々の整った顔には十分だった。
「何よそれ、仕事はしっかりやるわよ、当たり前でしょ?」
鬼灯は化粧道具を仕舞うと、川波の隣の椅子に座った。
「そういえば、あんたが何で青園ちゃんをほっぽってったのか聞いてなかったわね」
「あーあんまり面白い話じゃないぞ?」
「むしろ面白かったら絶対に許さないわ」
「ま、これも心配かけた側の義務って奴か。あれは高校一年の冬の事だった」
俺はあの日いつも通り青園と家の前で別れて玄関を開けたんだ。
「ただいまー」
玄関からリビングの母に向かって俺は声を掛けたんだが、返事が無く、部屋は真っ暗で少し不気味だったな。
「出かけてるのか?」
俺がそう声をかけながら扉を開けると、顔を俯かせた母が机に突っ伏していた。
「うお! びっくりさせんなよ、ってか何で電気消してんだ」
「あ、錨。おかえり」
俺が電気を着けると、いつもの無駄に元気な母はそこには居らず、少しやつれた雰囲気の母が俺を見上げていた。
「電気消して、何してたんだよ」
「……ゃっきん」
「何? 百均?」
「しゃっきん出来ちゃった」
しゃっきん。借りるに金と書くその言葉の意味を俺はすぐには理解出来なかった。
そんな俺に現実を突きつける様に母から投げる様に1枚の紙が渡された。
「じゅ……!?」
その紙に書いてあった数字は俺がそれまで生きてきて見たどの数字よりも大きく現実味が薄れる様なものだった。
「こ、こんなんどうやって返すんだよ、そもそも何でこんなに有るんだよ!」
「あの人が私名義で借りてたみたいで」
あの人っていうのは俺の義父の事で、その日は丁度別れて1ヶ月程経った頃だった。
しかもこんな法外な額だ。勿論借りてた先は裏の人らしかった。
「どうすんだよ、返す宛はあるのか?」
「そんなものないわよ!」
「じゃあ、どうするってんだよ!?」
「どうするって、逃げるしかないわよ。それと誰にも言うんじゃ無いわよ、言ったら最悪その子諸共消されるわよ。もし持っていきたい物あったら今のうちに纏めときなさい。明日の夜決行よ」
そう言って母はふらふらとした足取りで部屋を出て行った。
「んで、その翌日の夜に夜逃げしたんだ」
「だから危害が加わらないように。ね」
「あぁ、青園には申し訳ない事をしたと思ってる」
「そう、でその借金はもう返したの?」
「いや、返してない。そもそも逃げてきたんだ、それ以前の問題だろ?」
自傷気味にそう笑う。
「なら何でこっちに戻ってきたらのよ。もし見つかったらこれまでの全てがパーよ?」
「それは……みんなに会いたかったから」
「はい?」
「……ただ昔の友人に久しぶりに会いたかったんだ」
「まさか、こっちで開けば会えるかもって? ただそれだけで?」
すると、鏡の彼は少し気まずそうにこくりと頷いた。
「ただあの頃みたいに下らない話で笑い合えたらなって。まぁそう上手くは行かないよな。ま、青園に会えただけ良かったわ」
「あんた、少しは視野を広くしないと痛い目見るわよ」
って今更かしらね。
「まぁあんたの事情は分かった。勿論だからって許す訳じゃ無いけど、今は仕事よ。ほら私の作品に身を包まれながら幸せを享受なさい」
「あぁ、ありがとうな」
私は川波の背中を押してチャペルへと向かわせた。
「さて、これで私の仕事は終わりね」
私はうーんと背伸びをしながらスタッフルームの扉を開けた。
ソファで式が終わるまでごろごろしようかと思ったのだが、なぜかそのソファには青園が座っていて、スタッフルームに入ってきた私を見つめていた。
「青園ちゃん? どうしたの? 式は?」
「何か町田さん達に後は任せて下さいって追い出されちゃった」
「そう、んじゃあんたもそうしみったれた顔してないでゆっくり寛ぎなさい」
私は青園ちゃんの隣に座って、青園ちゃんの頭を掴んで、私の膝に押しつけた。
「今は何も考えず寝なさい」
「……ありがと、おやすみ」
寝かしつけたのはこっちだけど、ここまで平然と寝られるとそれはそれでアレだ。
暫く青園ちゃんの頭を撫でながらぼーっとしてると、外がザワザワと騒がしくなってきた。
「宴会場は2階となります! あちらの階段から足元に気をつけてお進み下さい!」
どうやら式が終わって宴会場に向かってる所らしい。
「全く、こんな忙しい日々を送る事になるとは思わなかったわ」
鬼灯はそっと青園の頭を上げて、自分の膝とクッションを入れ替えると、町田さんの声の響く喧騒とした廊下を鎮めに向かった。
「人手足りないから、私が担当する事になったから、よろしく」
「あっそうなんすね。それじゃあお願いします」
「じゃあ、そこ座って」
私は鏡の前の椅子を指差した。
「うーん。やっぱり何処かで」
椅子に座った川波が鏡越しに鬼灯の顔を見ながら首を捻った。
「気のせいよ、さ、これで完成」
「おお! しっかりしてる!」
ささっと顔を明るくして、少し髪をセットするだけで元々の整った顔には十分だった。
「何よそれ、仕事はしっかりやるわよ、当たり前でしょ?」
鬼灯は化粧道具を仕舞うと、川波の隣の椅子に座った。
「そういえば、あんたが何で青園ちゃんをほっぽってったのか聞いてなかったわね」
「あーあんまり面白い話じゃないぞ?」
「むしろ面白かったら絶対に許さないわ」
「ま、これも心配かけた側の義務って奴か。あれは高校一年の冬の事だった」
俺はあの日いつも通り青園と家の前で別れて玄関を開けたんだ。
「ただいまー」
玄関からリビングの母に向かって俺は声を掛けたんだが、返事が無く、部屋は真っ暗で少し不気味だったな。
「出かけてるのか?」
俺がそう声をかけながら扉を開けると、顔を俯かせた母が机に突っ伏していた。
「うお! びっくりさせんなよ、ってか何で電気消してんだ」
「あ、錨。おかえり」
俺が電気を着けると、いつもの無駄に元気な母はそこには居らず、少しやつれた雰囲気の母が俺を見上げていた。
「電気消して、何してたんだよ」
「……ゃっきん」
「何? 百均?」
「しゃっきん出来ちゃった」
しゃっきん。借りるに金と書くその言葉の意味を俺はすぐには理解出来なかった。
そんな俺に現実を突きつける様に母から投げる様に1枚の紙が渡された。
「じゅ……!?」
その紙に書いてあった数字は俺がそれまで生きてきて見たどの数字よりも大きく現実味が薄れる様なものだった。
「こ、こんなんどうやって返すんだよ、そもそも何でこんなに有るんだよ!」
「あの人が私名義で借りてたみたいで」
あの人っていうのは俺の義父の事で、その日は丁度別れて1ヶ月程経った頃だった。
しかもこんな法外な額だ。勿論借りてた先は裏の人らしかった。
「どうすんだよ、返す宛はあるのか?」
「そんなものないわよ!」
「じゃあ、どうするってんだよ!?」
「どうするって、逃げるしかないわよ。それと誰にも言うんじゃ無いわよ、言ったら最悪その子諸共消されるわよ。もし持っていきたい物あったら今のうちに纏めときなさい。明日の夜決行よ」
そう言って母はふらふらとした足取りで部屋を出て行った。
「んで、その翌日の夜に夜逃げしたんだ」
「だから危害が加わらないように。ね」
「あぁ、青園には申し訳ない事をしたと思ってる」
「そう、でその借金はもう返したの?」
「いや、返してない。そもそも逃げてきたんだ、それ以前の問題だろ?」
自傷気味にそう笑う。
「なら何でこっちに戻ってきたらのよ。もし見つかったらこれまでの全てがパーよ?」
「それは……みんなに会いたかったから」
「はい?」
「……ただ昔の友人に久しぶりに会いたかったんだ」
「まさか、こっちで開けば会えるかもって? ただそれだけで?」
すると、鏡の彼は少し気まずそうにこくりと頷いた。
「ただあの頃みたいに下らない話で笑い合えたらなって。まぁそう上手くは行かないよな。ま、青園に会えただけ良かったわ」
「あんた、少しは視野を広くしないと痛い目見るわよ」
って今更かしらね。
「まぁあんたの事情は分かった。勿論だからって許す訳じゃ無いけど、今は仕事よ。ほら私の作品に身を包まれながら幸せを享受なさい」
「あぁ、ありがとうな」
私は川波の背中を押してチャペルへと向かわせた。
「さて、これで私の仕事は終わりね」
私はうーんと背伸びをしながらスタッフルームの扉を開けた。
ソファで式が終わるまでごろごろしようかと思ったのだが、なぜかそのソファには青園が座っていて、スタッフルームに入ってきた私を見つめていた。
「青園ちゃん? どうしたの? 式は?」
「何か町田さん達に後は任せて下さいって追い出されちゃった」
「そう、んじゃあんたもそうしみったれた顔してないでゆっくり寛ぎなさい」
私は青園ちゃんの隣に座って、青園ちゃんの頭を掴んで、私の膝に押しつけた。
「今は何も考えず寝なさい」
「……ありがと、おやすみ」
寝かしつけたのはこっちだけど、ここまで平然と寝られるとそれはそれでアレだ。
暫く青園ちゃんの頭を撫でながらぼーっとしてると、外がザワザワと騒がしくなってきた。
「宴会場は2階となります! あちらの階段から足元に気をつけてお進み下さい!」
どうやら式が終わって宴会場に向かってる所らしい。
「全く、こんな忙しい日々を送る事になるとは思わなかったわ」
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