幸福の花束を

天空

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空ろ木な装束

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「あら、どうしたの? しょんぼりとしちゃって」

「鬼灯さんのせいで青園先輩に怒られたじゃないですか!」

「あーそれはごめんなさいね、でもあれは怒ってるというより、ちょっとした冗談みたいな物だからそんなに気にしなくて良いわよ。連絡忘れてたのは私だしね」

「そういうものですか?」

「そういうものよ、それに冗談を言えるって事はむしろ仲良くなれてるんじゃないかしら?」

「なるほど! そうかもしれないです!」

「本当に単純で可愛いんだから、所で用事はそれだけかしら?」

「そうでした! 仕事の見学させて貰うよう言われてたんですよ。今は何してるんですか?」

「そう、それならじっくり見てってね。今から丁度塗装するところよ」

「塗装? 上から塗り直すんですか?」

 チャペルは小魚等の小物はもう無いが、壁や天井は全面真っ青のままだ。

「この壁実はねぇ」

 鬼灯は壁際へ近寄って町田をちょいちょいっと手で呼んだ。

「これ、持ってみて」

「何ですか? これ」

 町田が透明な紐を持ったのを確認すると、鬼灯は町田の手ごと紐を思いっきり引っ張った。

「えっ!」

 すると、真っ青だった壁は一瞬にして真っ白な通常のチャペルの壁に変わった。

「両面テープでビニールを壁に貼ってただけだからこうして引っ張ると簡単に取れるのよ」

「直で塗ってなかったんですね」

「直だと色々と面倒だからね。楽できる所は楽しなきゃ」

 そう言いながら、他の壁や天井をどんどんと白に戻していく。

「さっこれで元通り」

 ほんの数分で青かった壁は真っ白に戻っていた。

「すごい、真っ白ですね」

「早速次の仕事よ」

 大きなレジ袋から取り出した透明なビニールシートの端をを町田さんに渡した。

「これって今日買った」

「そうよ~これがさっき貼ってたビニールになるのよ」

 筒状に丸められたビニールを壁の長さに合わせて切り出し、切った方の端を私が持つ事で、2人で両端を持って壁に貼り付けていく。

「いつもと違って1人で持たなくて良いから楽だわ~」

 鬼灯は燃える様に赤い髪をポニーテールにし視界を広げると、丁寧な手付きで壁にビニールを貼りつけた。

「これ、全面やるんですか?」

「そうよ~若いんだから頑張りなさーい」

 それから1枚、また1枚と貼り、天井まで貼り終わる頃には2時間程経っていた。

「や、やっと終わりましたね。まさか全て貼り終わった後に気に食わないから全部やり直しになるとは思いませんでしたが……」

 町田は腕をプルプルと振るわせながら、床に倒れ込んだ。

「お疲れ様。いや~助かったわぁ。これなら良い作品が描けそうよ。はい、これお駄賃って言ったらあれだけど」

 鬼灯は壁に立て掛けられていた脚立に座り、ポッケから取り出した物を町田に放り投げた。

「これは、飴ですか?」

 キャッチした町田の手の平に入っていたのはビニールの包装に包まれた白い飴玉だった。

「塩飴よ。それで塩分補給しときなさい、結構気付かないうちに汗かいてるんだから」

「……ありがとうございます」

 町田は飴をポケットにしまうと、また床に寝転がった。

「それじゃ、私は次の工程に入ろうかしらね、町田さんはそこで寝ながら見てて大丈夫よ」

「まだ動けるんですね」

「そりゃ町田さんと違っていっぱい栄養取ったからね」

 鬼灯は袋から複数のペンキを取り出して壁にペンキを塗り始めた。すると、壁のシートは色が重なる度に夕焼けへ変わってゆき、まるで本当にそこに太陽が有るかの様に変わっていった。

「流石に上は届かないわね」

 ほんの数分で壁を塗り終えた鬼灯はペンキを先に脚立の上に置き、脚立を登ると天井を塗り始めた。

「凄い……本当に外に居るみたいですね」

「そうよ~実は私スッゴいのよ~」

 筆が触れる度に壁は夕焼けの街並みに、天井は黄昏の橙と青の混じった空へと変わっていった。

「今日はこのくらいにしましょうか」

 そう言われ、町田はゆっくりと起き上がった。

「お疲れ、もう鍵閉めるよ」

 扉の前では、青園が鍵を持って立っていた。

「え、もうそんな時間ですか!? 仕事……」

「私が見てきなって言ったんだから出来そうな所は代わりやっといたから大丈夫よ。それより早く帰りましょ」

「すみません! 今出ます!」

「じゃ、町田さんに青園ちゃんまたね~」

 髪と同じ真っ赤な車に乗った鬼灯を見送り、2人で駅まで歩いた。

「今日は勉強になった?」

「はい、今思うと他の職員の仕事よく知らなかったので、凄く勉強になりました。ただちょっとレベルが高過ぎて……」

「確かに、木那乃は凄いよね。何となく見てるだけでも何かしら為になるかなって思ったんだけど」

「あまりにもレベルが違いすぎますよぉ。多分ああいう人を天才って呼ぶんですよ。私の友達もその類で、ああいう人達ってなんかオーラみたいなのがありますよね」

 鬼灯の凄さに半ば呆れたようにそう町田は呟いた。
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