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3章 とこしえの大地亀ベルガド攻略編

239 勇者、異世界で近代泳法を披露する

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 水泳実習はセレナ先生がマンツーマンで行うことになった。

 その説明をされたとき、生徒はたくさんいるのにマンツーマンってどういうこと?と不思議に思ったが、その疑問はすぐに解消された。セレナ先生が湖に入ったとたん、分裂したからだ。水があるところでは自分の分身を無数に出すことができるらしかった。これなら生徒一人一人を個別に指導することも可能か。さすが水の精霊。

「あ、そうだ、実習を始める前に、みなさんに聞いてほしいことがありまーす」

 と、浜に上がって一つの個体に戻ったところで、思い出したようにセレナ先生は言った。

「この湖には凶暴な水棲モンスターが生息してるんですけどぉ、たまーに浜のほうまで来ちゃうことがあります。なので、何か危険を感じたら、なるべく自分の身を守るようにしてくださいね」

 ノリは軽いくせに、言っていることはヘビーだ。たちまちどよめく生徒たちだった。

「せ、先生! 勇者様があの竜を倒したから、凶暴なモンスターはもういないんじゃないですか?」

 男子生徒の一人がそんなセレナ先生に質問したが、

「あ、はーい。実はそれ、このベルガドには関係のない話なんですよねー」

 にっこり笑って全否定された。関係ないってどういうことだよ。

「みなさんもご存じの通り、このベルガドっていう島は、とこしえの大地亀ベルガドっていうレジェンド・モンスターそのものなんですけどぉ、その亀さんはあの黄金竜の暴マーさんと同じディヴァインクラスなんですね。なので、初めから暴マーさんの邪悪な力の影響は受けてないんですよ。同じディヴァインクラスの亀さんパワーで相殺されているようなイメージ?」

 なるほど。そういや、ここには独自の生態系があるとかいう話だったな。俺があの竜を倒しても、ここだけは何の変化がなかったってわけだ。観光客の激減をのぞいては。

「なのでぇ、勇者様のおかげで世界が平和になったと思って油断しないでくださいね。このベルガドにはフツーに凶暴なモンスターがうじゃうじゃしてますから」

 相変わらず軽いノリで不穏なことを言うセレナ先生だった。

 やがて、生徒たちとセレナ先生は湖に入り、水泳実習がスタートした。

 まあ、泳ぎは日本の義務教育でばっちり習得済みの俺には指導など必要なかったが。普通に楽しくそのへんを泳ぐだけだった。クロールですーいすいっと。

 すると、その俺の優雅な泳ぎに周りの生徒たちは驚きの声を上げた。

「うわあ、すごい! トモキ君あんなに泳げるんだ!」
「さすが伝説の勇者様だね!」
「先生の見本の泳ぎとは全然違う! あんな泳ぎ方もあるんだ!」

 どうやら、俺が完璧に泳げることだけではなく、俺のクロール泳法にも驚いているようだった。

 そういや、この世界にはクロール泳法は存在しなかったかな。えへへ、俺、またなんかやっちゃいましたー?

「他にもいろんな泳ぎ方があるんだぜ?」

 俺は続いて、平泳ぎ、背泳ぎ、バタフライと、地球では極めて一般的な泳ぎ方を周りに見せてみた。みんなやはり初めて見るもののようで、驚いていた。日本の学生なら、誰だってこれぐらいは泳げるものなのにナー?

 最後に犬かき泳ぎを見せつけてみたが、これは面白そうに笑われただけだった。まあ、動物の泳ぎ方だしね。見ると、近くでヤギが同じように泳いでいた。フィーオもドラゴンの姿になって犬かき泳ぎしていた。

「君、トモキ君だっけ? すごい完璧に泳げるのね。まるで水馬ケルピーみたーい」

 セレナ先生もそんな俺に感心したようだった。水馬ケルピーってのは、下半身が魚になってる水棲の馬のモンスターのことだっけ。河童みたいなもんか。

「こんなに泳げるのなら、私の代わりに誰かに泳ぎ方を教えてあげて」
「え、俺がですか?」
「この子とか、どう?」

 と、セレナ先生が指さしたのは、ちょうど近くにいたユリィだった。

「この子、全然泳げないみたい。まず水に浮くところから教えてあげて」
「はい、喜んで!」

 俺は二つ返事で引き受けた。

 女子の水着のデザインにはがっかりさせられたものだったが、こんなラッキーイベントが待ち受けているとはな! やっぱ修学旅行来てよかったぜ!
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