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2章 ドノヴォン国立学院編

192 未来解析眼球《ラプラスゴースト》

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「勘違いしていただいては困るのですが、今の術は、闇魔法のアビスゲイザーとは似て非なるものです」

 と、上空でまた呪術オタが何か解説し始めた。

「そもそも、純粋な闇魔法のアビスゲイザーとは、今お見せした呪術、始原の観測者アビスゲイザー・ケイオスをアレンジしたものなのです。こちらが本家であり、元祖であり、起源なのです」
「はあ」

 唐突に起源を主張されてもなあ。本家とか元祖とか長浜ラーメンの店かよ。

「せんせー、じゃあ、二つの術に違いとかあるんですか?」

 まあ、せっかくだし、役に立ちそうな情報を聞き出しておくか。普通は自分の術について敵に解説するバカはいないが、こいつはバカで呪術オタだしな。

「いい質問ですね、トモキ君! もちろん、違いはありますよ」

 と、案の定、バカは俺に解説する気マンマンのようだった。

「まず一つは、術の効果範囲ですね。闇魔法のアビスゲイザーは複数の術者で実行する大規模術式なので、効果範囲は特大です。対して、呪術の始原の観測者アビスゲイザー・ケイオスは、術者一人で使う術なので、効果範囲はそれほどでもありません」
「ああ、それは確かに」

 レーナのやつは、あのスタジアムのステージいっぱいに暗黒レーザーが発射されていたが、今使われたやつは、せいぜい直径二メートルぐらいだったな。

「ただ、術の効果範囲が狭いぶん、呪術の始原の観測者アビスゲイザー・ケイオスのほうが、術の威力は高いです」
「え」

 ちょっと待ちなさい。レーナのあれ、俺に直撃こそしなかったものの、肌にビリビリきたんだが? かなりやばそうな威力だったんだが? 今のはそれより殺傷力は上だとう……。

「また、さらにオリジナルの、呪術の始原の観測者アビスゲイザー・ケイオスは、使用時に激痛を伴います。めちゃくちゃ痛いんです!」

 と、言っている男の顔をよーく見ると、確かにちょっと涙目だった。この痛みに強い変態が泣くほど痛いのか。

「この激痛はいわば呪術には欠かせない生贄のようなものです。術者が対価として支払わなくてはいけないものなのです。例えると、鼻の穴からスイカが出るくらいの激痛です」
「出産かよ」

 男の俺には逆によくわからん例えなんだが。

「そして、術者の一時的な激痛以外に何の対価も必要としないことと、術そのものの見栄えの良さから、昔から始原の観測者アビスゲイザー・ケイオスは、呪術の中では異例の人気を誇っていました。そう、呪術ながらも呪術らしくない、悪趣味でもグロテスクでもない、人道的でお客様にお出ししても恥ずかしくない、安心安全な術だとして」
「まあ、自爆攻撃とかに比べればな……」

 呪術って、マジでろくでもない術ばっかりみたいだからなあ。

「それゆえ、いつしか術者の間で、不人気の呪術の中から人気の始原の観測者アビスゲイザー・ケイオスの術だけを切り離そうという気運が高まりはじめました。今から約二百年前の話です。そして、それにより生み出されたのが、激痛を伴わない代わりに複数の術者が必要になった、闇魔法アビスゲイザーです」
「ふーん?」

 まあ、そのへんの歴史はどうでもいいかなって。

「僕はこの闇魔法アビスゲイザーの成り立ちについて思い出すたびに、いつも考えるのです。みなさん、そんなにも呪術が憎いのかと。呪術から、唯一見栄えのいい術を奪い取って、ただの闇魔法として改変し、そちらのほうをあたかも本家元祖であるように喧伝して、本当のオリジナルの呪術、始原の観測者アビスゲイザー・ケイオスは禁術として闇に葬り去る――そんな汚い社会に誰がした!」
「し、知らんよ、そんなん!」

 二百年前のことを無関係の俺に振るなよ。

「とにかく! 闇魔法アビスゲイザーなんかより、こっちのほうが歴史が古いんです! すべての術は呪術に通じるんです!」

 と、叫びながら、また何か怒りがこみあげてきたのだろう、ヤツは再び始原の観測者アビスゲイザー・ケイオスをこっちに使ってきた!

「うわっ!」

 また紙一重でそれをかわしたものの、今度は詠唱なしの発動だった。というか、この男は、どの術も最初の一回しか詠唱してない。詠唱することで、術をいつでも使えるように「セット」しているのか、あるいは、本当は無詠唱でも発動できるくせに、俺に呪術の詠唱を聞かせたいがために最初の一回だけあえてそうしているのか……なんか、後者のような気がするな? 呪術オタだしな。

 しかしまあ、今はそんなことを考えている場合ではない。やつの超高速発動の始原の観測者アビスゲイザー・ケイオスのレーザー攻撃を回避しながら、反撃の糸口を探さないと! あるのか知らんけど!

「……ふむ、やはりトモキ君はすばしっこいですね。なかなか当たりません」

 と、回避し続けていると、上からこんな声が聞こえてきた。

「実は、この始原の観測者アビスゲイザー・ケイオスはリアルタイム視覚認証で発動しているのですよ。術を一度使った後は、術者が攻撃対象を見るだけで術が発動するわけです。ただ、君は非常に素早く、その処理で生じる若干のタイムラグの間に、すでに違う場所に移動しているようです。これでは術が当たらないのも当然です」
「はは、敗北宣言かよ。だせーな」

 よし、よくわからんけど、この術には勝てたっぽい、俺! はは、どんなもんだい!

 と、一瞬ほっとしたわけだったが……。

「というわけなので、僕はこれから、少し未来の君の姿を追うことにします」

 リュクサンドールはそう言うと、いきなり手で自分の左目をほじくりだした!

 そして、それを掲げながら詠唱した。

「かの邪悪な知性の透徹なる瞳は、世界が振り続けている不確定の賽の目を知るだろう! その炯眼を今ここに! 未来解析眼球ラプラスゴースト!」

 直後、掲げられたヤツの左の眼球は光を帯びながら、ゆっくりと浮かび上がった。

「トモキ君、これが呪術、未来解析眼球ラプラスゴーストです。この眼球には、君の未来が見えるんですよ」
「み、未来だと……」

 なんかやばそうな術また使われちゃったんだけど、どうなるの俺ぇ……。
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