193 / 436
2章 ドノヴォン国立学院編
192 未来解析眼球《ラプラスゴースト》
しおりを挟む
「勘違いしていただいては困るのですが、今の術は、闇魔法のアビスゲイザーとは似て非なるものです」
と、上空でまた呪術オタが何か解説し始めた。
「そもそも、純粋な闇魔法のアビスゲイザーとは、今お見せした呪術、始原の観測者をアレンジしたものなのです。こちらが本家であり、元祖であり、起源なのです」
「はあ」
唐突に起源を主張されてもなあ。本家とか元祖とか長浜ラーメンの店かよ。
「せんせー、じゃあ、二つの術に違いとかあるんですか?」
まあ、せっかくだし、役に立ちそうな情報を聞き出しておくか。普通は自分の術について敵に解説するバカはいないが、こいつはバカで呪術オタだしな。
「いい質問ですね、トモキ君! もちろん、違いはありますよ」
と、案の定、バカは俺に解説する気マンマンのようだった。
「まず一つは、術の効果範囲ですね。闇魔法のアビスゲイザーは複数の術者で実行する大規模術式なので、効果範囲は特大です。対して、呪術の始原の観測者は、術者一人で使う術なので、効果範囲はそれほどでもありません」
「ああ、それは確かに」
レーナのやつは、あのスタジアムのステージいっぱいに暗黒レーザーが発射されていたが、今使われたやつは、せいぜい直径二メートルぐらいだったな。
「ただ、術の効果範囲が狭いぶん、呪術の始原の観測者のほうが、術の威力は高いです」
「え」
ちょっと待ちなさい。レーナのあれ、俺に直撃こそしなかったものの、肌にビリビリきたんだが? かなりやばそうな威力だったんだが? 今のはそれより殺傷力は上だとう……。
「また、さらにオリジナルの、呪術の始原の観測者は、使用時に激痛を伴います。めちゃくちゃ痛いんです!」
と、言っている男の顔をよーく見ると、確かにちょっと涙目だった。この痛みに強い変態が泣くほど痛いのか。
「この激痛はいわば呪術には欠かせない生贄のようなものです。術者が対価として支払わなくてはいけないものなのです。例えると、鼻の穴からスイカが出るくらいの激痛です」
「出産かよ」
男の俺には逆によくわからん例えなんだが。
「そして、術者の一時的な激痛以外に何の対価も必要としないことと、術そのものの見栄えの良さから、昔から始原の観測者は、呪術の中では異例の人気を誇っていました。そう、呪術ながらも呪術らしくない、悪趣味でもグロテスクでもない、人道的でお客様にお出ししても恥ずかしくない、安心安全な術だとして」
「まあ、自爆攻撃とかに比べればな……」
呪術って、マジでろくでもない術ばっかりみたいだからなあ。
「それゆえ、いつしか術者の間で、不人気の呪術の中から人気の始原の観測者の術だけを切り離そうという気運が高まりはじめました。今から約二百年前の話です。そして、それにより生み出されたのが、激痛を伴わない代わりに複数の術者が必要になった、闇魔法アビスゲイザーです」
「ふーん?」
まあ、そのへんの歴史はどうでもいいかなって。
「僕はこの闇魔法アビスゲイザーの成り立ちについて思い出すたびに、いつも考えるのです。みなさん、そんなにも呪術が憎いのかと。呪術から、唯一見栄えのいい術を奪い取って、ただの闇魔法として改変し、そちらのほうをあたかも本家元祖であるように喧伝して、本当のオリジナルの呪術、始原の観測者は禁術として闇に葬り去る――そんな汚い社会に誰がした!」
「し、知らんよ、そんなん!」
二百年前のことを無関係の俺に振るなよ。
「とにかく! 闇魔法アビスゲイザーなんかより、こっちのほうが歴史が古いんです! すべての術は呪術に通じるんです!」
と、叫びながら、また何か怒りがこみあげてきたのだろう、ヤツは再び始原の観測者をこっちに使ってきた!
「うわっ!」
また紙一重でそれをかわしたものの、今度は詠唱なしの発動だった。というか、この男は、どの術も最初の一回しか詠唱してない。詠唱することで、術をいつでも使えるように「セット」しているのか、あるいは、本当は無詠唱でも発動できるくせに、俺に呪術の詠唱を聞かせたいがために最初の一回だけあえてそうしているのか……なんか、後者のような気がするな? 呪術オタだしな。
しかしまあ、今はそんなことを考えている場合ではない。やつの超高速発動の始原の観測者のレーザー攻撃を回避しながら、反撃の糸口を探さないと! あるのか知らんけど!
「……ふむ、やはりトモキ君はすばしっこいですね。なかなか当たりません」
と、回避し続けていると、上からこんな声が聞こえてきた。
「実は、この始原の観測者はリアルタイム視覚認証で発動しているのですよ。術を一度使った後は、術者が攻撃対象を見るだけで術が発動するわけです。ただ、君は非常に素早く、その処理で生じる若干のタイムラグの間に、すでに違う場所に移動しているようです。これでは術が当たらないのも当然です」
「はは、敗北宣言かよ。だせーな」
よし、よくわからんけど、この術には勝てたっぽい、俺! はは、どんなもんだい!
と、一瞬ほっとしたわけだったが……。
「というわけなので、僕はこれから、少し未来の君の姿を追うことにします」
リュクサンドールはそう言うと、いきなり手で自分の左目をほじくりだした!
そして、それを掲げながら詠唱した。
「かの邪悪な知性の透徹なる瞳は、世界が振り続けている不確定の賽の目を知るだろう! その炯眼を今ここに! 未来解析眼球!」
直後、掲げられたヤツの左の眼球は光を帯びながら、ゆっくりと浮かび上がった。
「トモキ君、これが呪術、未来解析眼球です。この眼球には、君の未来が見えるんですよ」
「み、未来だと……」
なんかやばそうな術また使われちゃったんだけど、どうなるの俺ぇ……。
と、上空でまた呪術オタが何か解説し始めた。
「そもそも、純粋な闇魔法のアビスゲイザーとは、今お見せした呪術、始原の観測者をアレンジしたものなのです。こちらが本家であり、元祖であり、起源なのです」
「はあ」
唐突に起源を主張されてもなあ。本家とか元祖とか長浜ラーメンの店かよ。
「せんせー、じゃあ、二つの術に違いとかあるんですか?」
まあ、せっかくだし、役に立ちそうな情報を聞き出しておくか。普通は自分の術について敵に解説するバカはいないが、こいつはバカで呪術オタだしな。
「いい質問ですね、トモキ君! もちろん、違いはありますよ」
と、案の定、バカは俺に解説する気マンマンのようだった。
「まず一つは、術の効果範囲ですね。闇魔法のアビスゲイザーは複数の術者で実行する大規模術式なので、効果範囲は特大です。対して、呪術の始原の観測者は、術者一人で使う術なので、効果範囲はそれほどでもありません」
「ああ、それは確かに」
レーナのやつは、あのスタジアムのステージいっぱいに暗黒レーザーが発射されていたが、今使われたやつは、せいぜい直径二メートルぐらいだったな。
「ただ、術の効果範囲が狭いぶん、呪術の始原の観測者のほうが、術の威力は高いです」
「え」
ちょっと待ちなさい。レーナのあれ、俺に直撃こそしなかったものの、肌にビリビリきたんだが? かなりやばそうな威力だったんだが? 今のはそれより殺傷力は上だとう……。
「また、さらにオリジナルの、呪術の始原の観測者は、使用時に激痛を伴います。めちゃくちゃ痛いんです!」
と、言っている男の顔をよーく見ると、確かにちょっと涙目だった。この痛みに強い変態が泣くほど痛いのか。
「この激痛はいわば呪術には欠かせない生贄のようなものです。術者が対価として支払わなくてはいけないものなのです。例えると、鼻の穴からスイカが出るくらいの激痛です」
「出産かよ」
男の俺には逆によくわからん例えなんだが。
「そして、術者の一時的な激痛以外に何の対価も必要としないことと、術そのものの見栄えの良さから、昔から始原の観測者は、呪術の中では異例の人気を誇っていました。そう、呪術ながらも呪術らしくない、悪趣味でもグロテスクでもない、人道的でお客様にお出ししても恥ずかしくない、安心安全な術だとして」
「まあ、自爆攻撃とかに比べればな……」
呪術って、マジでろくでもない術ばっかりみたいだからなあ。
「それゆえ、いつしか術者の間で、不人気の呪術の中から人気の始原の観測者の術だけを切り離そうという気運が高まりはじめました。今から約二百年前の話です。そして、それにより生み出されたのが、激痛を伴わない代わりに複数の術者が必要になった、闇魔法アビスゲイザーです」
「ふーん?」
まあ、そのへんの歴史はどうでもいいかなって。
「僕はこの闇魔法アビスゲイザーの成り立ちについて思い出すたびに、いつも考えるのです。みなさん、そんなにも呪術が憎いのかと。呪術から、唯一見栄えのいい術を奪い取って、ただの闇魔法として改変し、そちらのほうをあたかも本家元祖であるように喧伝して、本当のオリジナルの呪術、始原の観測者は禁術として闇に葬り去る――そんな汚い社会に誰がした!」
「し、知らんよ、そんなん!」
二百年前のことを無関係の俺に振るなよ。
「とにかく! 闇魔法アビスゲイザーなんかより、こっちのほうが歴史が古いんです! すべての術は呪術に通じるんです!」
と、叫びながら、また何か怒りがこみあげてきたのだろう、ヤツは再び始原の観測者をこっちに使ってきた!
「うわっ!」
また紙一重でそれをかわしたものの、今度は詠唱なしの発動だった。というか、この男は、どの術も最初の一回しか詠唱してない。詠唱することで、術をいつでも使えるように「セット」しているのか、あるいは、本当は無詠唱でも発動できるくせに、俺に呪術の詠唱を聞かせたいがために最初の一回だけあえてそうしているのか……なんか、後者のような気がするな? 呪術オタだしな。
しかしまあ、今はそんなことを考えている場合ではない。やつの超高速発動の始原の観測者のレーザー攻撃を回避しながら、反撃の糸口を探さないと! あるのか知らんけど!
「……ふむ、やはりトモキ君はすばしっこいですね。なかなか当たりません」
と、回避し続けていると、上からこんな声が聞こえてきた。
「実は、この始原の観測者はリアルタイム視覚認証で発動しているのですよ。術を一度使った後は、術者が攻撃対象を見るだけで術が発動するわけです。ただ、君は非常に素早く、その処理で生じる若干のタイムラグの間に、すでに違う場所に移動しているようです。これでは術が当たらないのも当然です」
「はは、敗北宣言かよ。だせーな」
よし、よくわからんけど、この術には勝てたっぽい、俺! はは、どんなもんだい!
と、一瞬ほっとしたわけだったが……。
「というわけなので、僕はこれから、少し未来の君の姿を追うことにします」
リュクサンドールはそう言うと、いきなり手で自分の左目をほじくりだした!
そして、それを掲げながら詠唱した。
「かの邪悪な知性の透徹なる瞳は、世界が振り続けている不確定の賽の目を知るだろう! その炯眼を今ここに! 未来解析眼球!」
直後、掲げられたヤツの左の眼球は光を帯びながら、ゆっくりと浮かび上がった。
「トモキ君、これが呪術、未来解析眼球です。この眼球には、君の未来が見えるんですよ」
「み、未来だと……」
なんかやばそうな術また使われちゃったんだけど、どうなるの俺ぇ……。
0
お気に入りに追加
211
あなたにおすすめの小説
ブラック宮廷から解放されたので、のんびりスローライフを始めます! ~最強ゴーレム使いの気ままな森暮らし~
ヒツキノドカ
ファンタジー
「クレイ・ウェスタ―! 貴様を宮廷から追放する!」
ブラック宮廷に勤めるゴーレム使いのクレイ・ウェスターはある日突然クビを宣告される。
理由は『不当に高い素材を買いあさったこと』とされたが……それはクレイに嫉妬する、宮廷魔術師団長の策略だった。
追放されたクレイは、自由なスローライフを求めて辺境の森へと向かう。
そこで主人公は得意のゴーレム魔術を生かしてあっという間に快適な生活を手に入れる。
一方宮廷では、クレイがいなくなったことで様々なトラブルが発生。
宮廷魔術師団長は知らなかった。
クレイがどれほど宮廷にとって重要な人物だったのか。
そして、自分では穴埋めできないほどにクレイと実力が離れていたことも。
「こんなはずでは……」と嘆きながら宮廷魔術師団長はクレイの元に向かい、戻ってくるように懇願するが、すでに理想の生活を手に入れたクレイにあっさり断られてしまう。
これはブラック宮廷から解放された天才ゴーレム使いの青年が、念願の自由なスローライフを満喫する話。
ーーーーーー
ーーー
※4/29HOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!
※推敲はしていますが、誤字脱字があるかもしれません。
見つけた際はご報告いただけますと幸いです……
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
金貨増殖バグが止まらないので、そのまま快適なスローライフを送ります
桜井正宗
ファンタジー
無能の落ちこぼれと認定された『ギルド職員』兼『ぷちドラゴン』使いの『ぷちテイマー』のヘンリーは、職員をクビとなり、国さえも追放されてしまう。
突然、空から女の子が降ってくると、キャッチしきれず女の子を地面へ激突させてしまう。それが聖女との出会いだった。
銀髪の自称聖女から『ギフト』を貰い、ヘンリーは、両手に持てない程の金貨を大量に手に入れた。これで一生遊んで暮らせると思いきや、金貨はどんどん増えていく。増殖が止まらない金貨。どんどん増えていってしまった。
聖女によれば“金貨増殖バグ”だという。幸い、元ギルド職員の権限でアイテムボックス量は無駄に多く持っていたので、そこへ保管しまくった。
大金持ちになったヘンリーは、とりあえず念願だった屋敷を買い……スローライフを始めていく!?
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
闇の錬金術師と三毛猫 ~全種類のポーションが製造可能になったので猫と共にお店でスローライフします~
桜井正宗
ファンタジー
Cランクの平凡な錬金術師・カイリは、宮廷錬金術師に憧れていた。
技術を磨くために大手ギルドに所属。
半年経つとギルドマスターから追放を言い渡された。
理由は、ポーションがまずくて回復力がないからだった。
孤独になったカイリは絶望の中で三毛猫・ヴァルハラと出会う。人語を話す不思議な猫だった。力を与えられ闇の錬金術師に生まれ変わった。
全種類のポーションが製造可能になってしまったのだ。
その力を活かしてお店を開くと、最高のポーションだと国中に広まった。ポーションは飛ぶように売れ、いつの間にかお金持ちに……!
その噂を聞きつけた元ギルドも、もう一度やり直さないかとやって来るが――もう遅かった。
カイリは様々なポーションを製造して成り上がっていくのだった。
三毛猫と共に人生の勝ち組へ...!
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる