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2章 ドノヴォン国立学院編

166 鬼つよ勇者の霍乱

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 ありがたい勲章を女帝陛下から賜った後、俺たちはとっとと謁見の間を出た。そのまますたすたと王宮の廊下を歩いて、外に向かう。

「いやあ、まさか陛下から勲章をいただけるとは」

 と、歩きながら、胸元に輝く金ぴかの勲章を確かめるのはリュクサンドールだった。各自、女帝陛下じきじきに制服の胸のあたりにつけてもらったのだ。レオも人間の姿に化けて、制服を着なおして。

「僕、いろんな国で、迫害されたり、拷問されたり、処刑されたり、何やっても死なないから『気持ちわるっ』って言われて国外追放されたりしたことはわりとあるんですけど、こんなふうに国の偉い人に褒められたのは初めてですね。いやあ、やっぱり人のためになるよいことはしておくべきなんですねー」

 相変わらずさらっと異常なこと口走ってやがる。そんな体験が「わりとある」って、お前、過去にどんだけ呪術の研究とやらで人に迷惑かけて生きてきたんだよ。

「フィーオさんのぶんは、私から後で手渡しておきます」

 と、ルーシアが手に持っている勲章を掲げながら言った。一応、フィーオのぶんの勲章も、もらったのだ。あいつもあのとき活躍したからな。まあ、あのときのことを思い出せるのかは知らんが……。(思い出さないでくれ、頼む!)

 やがて俺たちはそのまま王宮を出た。そのころにはだいぶ空は暗くなっていた。そろそろ日没のようだ。

「では、僕はこれで。みなさんも早く帰宅してくださいねー」

 と、リュクサンドールはいつかのときのように、背中からコウモリのような羽をはやし、学院のほうに飛んで行ってしまった。こいつはもう夜モードか。

 その後、ルーシアも自分の家のほうに去って行った。こいつは寄宿舎住まいじゃなく、モメモにある自分の家から徒歩で学院に通っているそうだ。俺とレオもすぐに寄宿舎に向かって歩き出した。

 と、その途中、俺はめまいを感じ、よろけて、路上に膝をついてしまった。

「……あ、あれ?」

 なんだろう。やけに体が熱いような気がするし、頭もクラクラする……。

「トモキ、どうした?」

 すでにヤギの姿に戻ったレオが、俺の正面に回り込んできた。

 そして、その前足の蹄を俺の額に押し当ててきた。ぺたぺた。初めての蹄の感触は、ちょっと冷たくて、土のにおいがした……って、何この仕打ち!

「お、お前、俺の額まで登頂する気かよ」
「いや、熱があるのではと思ってな」
「熱?」
「顔が赤いし、息が荒いぞ、お前」

 え、そうなん? そういえば、なんかさっきから息苦しい気がする……。

 つか、この状態もしかしてアレ? アレなの?

「レオ、俺、まさか風邪ひいたん?」
「だろうな。熱があるようだ」
「熱か……」

 つか、お前のその分厚い蹄でちゃんと検温できたのかよ。

「トモキ、もしかすると、これはただの風邪ではなくて、ハシュシ風邪ではないか?」
「ああ、今、流行ってるっていう?」
「過去にハシュシ風邪にかかったことはあるのか?」
「ないです」

 目の前の動物のお医者さんに即答する俺。つか、もうなんか立ってるのもつれえし、話をするのもつれえ……。

「とにかく、いったん寄宿舎に戻るぞ。俺の背中に乗れ」

 と、ヤギが俺に背中を差し出してきた。

「そうかあ……。今日は俺がお前の上に乗るんだぁ……」

 熱で朦朧としながら、その黒い、毛むくじゃらの大きな背中に覆いかぶさった。もふもふ。初めてのヤギの毛皮は、あったかくて、やっぱり土のにおいがした……。
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