上 下
163 / 436
2章 ドノヴォン国立学院編

162 謁見の間にて Part 2

しおりを挟む
「あらためて自己紹介するね。ラティーナってば、実はこの聖ドノヴォン帝国で一番偉い、女帝様だったのだー。ラティーナってのも、世を忍ぶ仮の名前で、本名はファニファローゼ・ヴァン・ドノヴォン! トモキ君、ルーシア、今度からファニファって呼んでもいいよ☆」

 何やらキラキラな笑顔で、目の前の女児は俺たちに改めて自己紹介した。

 いや、女児には見えるが、こいつ確か……。

「あ、あの、ラティ、じゃなかった、陛下? あんた確か十一歳の時に即位して四十年――」
「そうだよ」
「じゃあ今、いったいいくつなのかなって……」
「うぷぷー、トモキ君ってば、そんな簡単な足し算もできないんだ? 十一足す四十は五十一だよ。ねー、リュシアーナ?」
「はい。陛下は今年で、御年五十一歳になられます」

 なんだとう! こんなロリロリな外見で、言動もクソ生意気なお子様以外何物でもないのに、実際は五十一のババアなのかよ!

「もしかして、即位の時に『ニニアの寵愛』とかいうのを受け継いだら、外見の成長が止まるのか?」
「あ、トモキ君、今度はかしこい! そうだよ、大正解!」
「そ、そうか、外見はそうなんだな……」

 でも中身は? その理屈だと、精神的には年相応に成長してないとダメなんじゃないの、ねえ!

「お前、よくそんなノリで女帝ってのが務まるな? まさか、お前はただのお飾りで、真の権力者は別にいるのか?」
「いないよー? ファニファ、マジで超権力者だよ? ちゃんといっぱい女帝様のお仕事してるし。どんな貴族も大臣もファニファには逆らえないんだよ?」
「陛下、そのおっしゃりようだと、まるで暴君のようですわ。実際は、陛下のお仕事が大変素晴らしいので、ほとんどのみなさんが陛下を心の底から敬愛しているというだけなのに」
「まー、そうだよね! ファニファ、みんなに超愛されてるもんねー」

 ロリババア女帝様はリュシアーナと微笑みあいながら言う。

「こ、この外見とこのノリで、女帝として超権力者で、超有能で、超敬愛されている、だと……?」

 にわかには信じられんが、

「今の話は全部本当だぞ、トモキ。この国の国民のほとんどはファニファを支持している。地方の諸侯や、王宮に頻繁に出入りしている有力貴族や、ロザンヌをのぞく周辺諸国の王たちも、同様だ」

 俺の隣に立つ褐色イケメン、レオが俺にこう言った。そうか、マジで超スペックの女帝様なのか……。

 って、お前、その口ぶり、最初からラティーナの正体を知ってたんかい!

「お前、ラティーナの正体、知ってるならもっと早く教えとけよ」
「教えられるのなら、俺も初めからそうしている。このことは、ファニファに口止めされていたのだ」
「そうですよ。僕だって固く口止めされていたんですから」

 と、リュクサンドールも俺たちの会話に割り込んできた。そうか、こいつ確か、女帝から直々に神聖魔法食らってお仕置きされたことがあったんだっけ。ラティーナの正体、知らないわけがないよな。

「ラ、ラティーナさんが、女帝陛下……」

 と、そんな俺たちのそばではルーシアが驚きのあまり呆然としているようだ。まあ、正しい反応だ。クラスメートが実は女帝様だったとか、こんなこと知らされたら、誰だってそうなる。俺だってそうなった。

 と、そこで、

「ああ、レオ。あなたも一緒だったのね。その姿だとわかりにくくて」

 と、リュシアーナが俺のすぐ隣の褐色イケメンに近づいてきた。実に親し気に。

「ここではそんな姿でいる必要はないでしょう? 早く、本来のあなたの姿に戻って。そして、いつものように――」
「はは、わかっている」

 褐色イケメンは軽く笑いながら答えると、いきなりその姿を大きな黒ヤギに変えた! 着ている制服をバリバリと破きながら。まあ、これもすぐに修復されたんだが。

「わあ、やっぱりあなたのその姿、すごく雄々しくて素敵ね! 毛並みだってこんなに……」

 リュシアーナは黒ヤギのレオを小さな手でナデナデしはじめた。黒ヤギはすぐにうっとりした表情で目を閉じ、その場に腰を落とした。

 なんだこの光景? 当然、俺は戸惑いを覚えたが――近くには、そんな俺の比ではなく驚いている人物がいた。

「レ、レオローン君が、突然黒いヤギの姿に!」

 ルーシアは再び愕然としている。まあ、無理もない。まさかクラスメートの一人がヤギだとは思わないだろうし。

「あ、あの額に生えたまっすぐな三本目のツノ……。まさか、彼は聖獣カプリクルス?」

 しかしさすが博学なクラス委員長様だ。一目で正解しやがった。

「ルーシア、あいつ普段はあの姿のまま授業を受けてるぞ。幻術で見た目だけ変えてるらしい」
「あの姿のまま? しかし、あのような獣の姿では、椅子に腰かけることも、ペンを握ってノートに筆記することも不可能でしょう?」
「いや、できてるから。俺、いつもそばで見てるから」
「何をふざけたことを――」
「今のトモキの話は全部本当だぞ、ルーシア」
「えっ!」

 レオ本人から直接答えられ、ルーシアはまたしても激しく驚いたようだった。

 そして、

「あ、あの姿のまま、椅子に座って、ペンを……握る? 握るとはいったい……」

 ひどく錯乱した様子でうわごとのようにブツブツつぶやき始めた。目の前の現実に理解が追い付かないようだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ブラック宮廷から解放されたので、のんびりスローライフを始めます! ~最強ゴーレム使いの気ままな森暮らし~

ヒツキノドカ
ファンタジー
「クレイ・ウェスタ―! 貴様を宮廷から追放する!」  ブラック宮廷に勤めるゴーレム使いのクレイ・ウェスターはある日突然クビを宣告される。  理由は『不当に高い素材を買いあさったこと』とされたが……それはクレイに嫉妬する、宮廷魔術師団長の策略だった。  追放されたクレイは、自由なスローライフを求めて辺境の森へと向かう。  そこで主人公は得意のゴーレム魔術を生かしてあっという間に快適な生活を手に入れる。    一方宮廷では、クレイがいなくなったことで様々なトラブルが発生。  宮廷魔術師団長は知らなかった。  クレイがどれほど宮廷にとって重要な人物だったのか。  そして、自分では穴埋めできないほどにクレイと実力が離れていたことも。  「こんなはずでは……」と嘆きながら宮廷魔術師団長はクレイの元に向かい、戻ってくるように懇願するが、すでに理想の生活を手に入れたクレイにあっさり断られてしまう。  これはブラック宮廷から解放された天才ゴーレム使いの青年が、念願の自由なスローライフを満喫する話。 ーーーーーー ーーー ※4/29HOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝! ※推敲はしていますが、誤字脱字があるかもしれません。 見つけた際はご報告いただけますと幸いです……

金貨増殖バグが止まらないので、そのまま快適なスローライフを送ります

桜井正宗
ファンタジー
 無能の落ちこぼれと認定された『ギルド職員』兼『ぷちドラゴン』使いの『ぷちテイマー』のヘンリーは、職員をクビとなり、国さえも追放されてしまう。  突然、空から女の子が降ってくると、キャッチしきれず女の子を地面へ激突させてしまう。それが聖女との出会いだった。  銀髪の自称聖女から『ギフト』を貰い、ヘンリーは、両手に持てない程の金貨を大量に手に入れた。これで一生遊んで暮らせると思いきや、金貨はどんどん増えていく。増殖が止まらない金貨。どんどん増えていってしまった。  聖女によれば“金貨増殖バグ”だという。幸い、元ギルド職員の権限でアイテムボックス量は無駄に多く持っていたので、そこへ保管しまくった。  大金持ちになったヘンリーは、とりあえず念願だった屋敷を買い……スローライフを始めていく!?

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

闇の錬金術師と三毛猫 ~全種類のポーションが製造可能になったので猫と共にお店でスローライフします~

桜井正宗
ファンタジー
Cランクの平凡な錬金術師・カイリは、宮廷錬金術師に憧れていた。 技術を磨くために大手ギルドに所属。 半年経つとギルドマスターから追放を言い渡された。 理由は、ポーションがまずくて回復力がないからだった。 孤独になったカイリは絶望の中で三毛猫・ヴァルハラと出会う。人語を話す不思議な猫だった。力を与えられ闇の錬金術師に生まれ変わった。 全種類のポーションが製造可能になってしまったのだ。 その力を活かしてお店を開くと、最高のポーションだと国中に広まった。ポーションは飛ぶように売れ、いつの間にかお金持ちに……! その噂を聞きつけた元ギルドも、もう一度やり直さないかとやって来るが――もう遅かった。 カイリは様々なポーションを製造して成り上がっていくのだった。 三毛猫と共に人生の勝ち組へ...!

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

ゴミアイテムを変換して無限レベルアップ!

桜井正宗
ファンタジー
 辺境の村出身のレイジは文字通り、ゴミ製造スキルしか持っておらず馬鹿にされていた。少しでも強くなろうと帝国兵に志願。お前のような無能は雑兵なら雇ってやると言われ、レイジは日々努力した。  そんな努力もついに報われる日が。  ゴミ製造スキルが【経験値製造スキル】となっていたのだ。  日々、優秀な帝国兵が倒したモンスターのドロップアイテムを廃棄所に捨てていく。それを拾って【経験値クリスタル】へ変換して経験値を獲得。レベルアップ出来る事を知ったレイジは、この漁夫の利を使い、一気にレベルアップしていく。  仲間に加えた聖女とメイドと共にレベルを上げていくと、経験値テーブルすら操れるようになっていた。その力を使い、やがてレイジは帝国最強の皇剣となり、王の座につく――。 ※HOTランキング1位ありがとうございます! ※ファンタジー7位ありがとうございます!

処理中です...