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2章 ドノヴォン国立学院編
120 魔術の実技のテスト Part 2
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クソッ! かくなるうえは……!
俺はとっさに、手に持っている小刀(ゴミ魔剣)に口を近づけ、「ネム、あの先生を頼む」と、小声で命令し、
「先生、本当に今、付与魔術《エンチャント》の効果が発動したんですよ。疑うなら、これを調べてみてくださいよ」
と、アーニャ先生に小刀(ゴミ魔剣)を差し出した。
「本当に?」
アーニャ先生はすぐに俺の手からそれを受け取った。しめしめ、これで先生はゴミ魔剣の操り人形になって、俺の言うことはなんでも聞く体になったぞ! ぐへへ……。
と、思いきや――、
「変ね。やっぱり魔法を使った形跡がどこにもなさそうだけれど?」
アーニャ先生は小刀を矯《た》めつ眇《すが》めつしながら、不思議そうに小首をかしげてらっしゃる……。あれ? ネムのやつ、アーニャ先生の体を乗っ取れてない?
あ、そういえば前に、魔法防御高い人間の精神には入り込めないみたいなことを言っていたっけ。ジオルゥの体で。そうか、アーニャ先生は、名門校だというこのドノヴォン国立学院の魔術担当の先生じゃないか。それなりに高い魔法防御力をお持ちに間違いないはずじゃないか。くそ、俺としたことが、実にうかつ! 圧倒的にうかつ!
「そ、そうですか。ならいいです」
俺はあわててアーニャ先生の手からゴミ魔剣を回収した。これ以上アーニャ先生に調べられると、ゴミ魔剣の正体がバレて色々やばそうだからな。ハリセン仮面の使っていたハリセンそのものだし、これ。
と、そこで、ユリィが再び口を開いた。
「先生ごめんなさい。やっぱりわたし、ウソはつけません。今の、小刀から出た真空の刃は、わたしが何か魔法を使ったわけじゃなくて、トモキ様が自分で起こしたものなんです!」
そう言い終えると、アーニャ先生に深々と頭を下げるユリィだった。
ユリィ、お前ってやつは……。
俺はその姿に、胸を強く打たれた。元はといえば、俺が一人で勝手にやったイカサマ行為なのに、なんでお前が謝ってるんだよ! なんで自分から罪を告白してるんだよ! 正直すぎかよ!
しかも、
「先生、トモキ様は魔法が全然使えないわたしのことを気遣ってくれただけなんです。だから、悪いのはわたしなんです。本当にごめんなさい」
俺のぶんまで罪を背負おうとしているじゃないか! なぜお前はそこまで性根が清らかなんだ!
「今の話は本当なの、ユリィさん?」
「はい。わたし、付与魔術《エンチャント》なんて、全然使えません」
「そう……。黙っていれば私は気づかないままだったのに、よく話してくれたわね」
「ウソは、よくないことです。本当じゃない言葉で、自分をいつわったり、誰かをだましたりしたら、いつかよくないことが起きます。わたしはそう思うんです。だから……」
ユリィの言葉はやはり聖人そのものだった。俺はとたんに良心の呵責を感じ、胸が痛くなった。善良なユリィに比べると、俺はなんて汚れ切っているんだろう。
『ハリセン仮面にも聞かせてあげたい言葉ですネー』
そうそう、なぜなら俺は凶悪犯ハリセン仮面だったから。周りを欺き、自分を偽り、正体を隠して過ごしている日々だから……って、なんで唐突にゴミ魔剣が俺の思考に割り込んでくるんだよ、クソが!
「そ、そのう、インチキやってすんませんでした」
とりあえず、俺もユリィにならってアーニャ先生に頭を下げた。
「まあ、この場で正直に話してくれたんだし、いいわ。彼女想いのやさしい彼氏クンがやったことだしね」
アーニャ先生はにっこり笑って言う――が、なんかまた誤解されてるんだが!
「せ、先生、ち、違います! わ、たしたち、恋人では……」
ユリィは昨日と同様、耳まで真っ赤になっている。俺もめっちゃ恥ずかしくて顔が熱くなっちゃうじゃあないか!
「え、違うの? 君たち付き合ってないの?」
アーニャ先生はまた不思議そうに小首をかしげた。そして、そのとたん、周りの生徒たちも、「え、あの二人って、恋人同士じゃなかったの?」と、疑問を口にしはじめた。
「どうみてもカップルって感じだったのにね」
「仲よさそうなのにね」
「すごくお似合いじゃん?」
「もういっそ夫婦でもいいんじゃないかって……」
なんかすごくはずかしいけれどもうれしいような誤解の言葉が聞こえてくるんだが! やだもー、俺たち、お似合いですって! もう夫婦みたいですって! 知らなかったなあ、周りからは俺たちそんなふうに見えてたのかー。まいったなー。別に付き合ってるとかじゃなかったのになー。はっはー。
と、俺がにやにやしていた、そのとき、
「みなさん、静粛に。お二人にはお二人なりの関係性というものがあるのですよ」
ルーシアがざわつき始める生徒たちを一喝するように声を張り上げた。
「なんでも、お二人は友達以上恋人未満という、大変微妙な間柄だそうです。周りがとやかく言って、二人の間でこれから徐々に育まれていくであろう甘酸っぱい感情を損ねてはいけません」
「お、お前、また何を言って――」
なんでそういうデリケートなことをはっきり口に出すの、このクラス委員長様は!
「そっかー。これから仲を深めていく感じなんだね、トモキ君とユリィさんは」
「私、応援してあげたくなっちゃう!」
「キスとかはまだなのかなー」
たちまち俺たちの周りにクラスメートたちが集まってきて、なんか好き放題言い始めた。く……なんて恥ずかしいんだ! 編入早々、まさか唐突にこんないじられ方をされてしまうとは! でも、恥ずかしいだけじゃない、すごくうれしいぞ! ユリィとの関係をみんなが応援してくれるってことはよォ! これってまさに、俺が探し求めていた青春《アオハル》ってやつじゃあないか……。
『凶悪指名手配犯のくせに、なに青春を謳歌してやがるんですかネー』
なんか雑音が聞こえてくるんだが! クソが!
「君たち、今は授業中よ。騒ぐのは後にしなさい」
アーニャ先生が、そんな生徒たちをなだめ、散らした。
と、そこで、
「ハッ! ただのイカサマ野郎に、何むらがってるんだよ! バカかよ、てめーら!」
少し離れたところから、イラつきマックスな声が聞こえてきた。
見ると、そこには小柄な男子生徒が立っていた。髪と目は黒く、髪型はツーブロックでシルバーのメッシュが入っており、耳には銀色のピアスをしていた。顔つきは幼い感じだったが、目つきだけは妙に凶悪だった。制服は、何か改造しているのか、上着の裾がやたらと短く、ズボンはふわふわでゆったりしていた――って、あれ? これもしかしてツッパリスタイルか?(※短ランにボンタンですネー)
「お前みたいな典型的な不良、この学校にいたんだな……」
俺は思わず感心してしまった。
「誰が不良だ! 俺の名はザック! 一年三組、出席番号十三番だ!」
チビの不良クンはそう名乗ると、俺にめっちゃメンチ切ってきた。
俺はとっさに、手に持っている小刀(ゴミ魔剣)に口を近づけ、「ネム、あの先生を頼む」と、小声で命令し、
「先生、本当に今、付与魔術《エンチャント》の効果が発動したんですよ。疑うなら、これを調べてみてくださいよ」
と、アーニャ先生に小刀(ゴミ魔剣)を差し出した。
「本当に?」
アーニャ先生はすぐに俺の手からそれを受け取った。しめしめ、これで先生はゴミ魔剣の操り人形になって、俺の言うことはなんでも聞く体になったぞ! ぐへへ……。
と、思いきや――、
「変ね。やっぱり魔法を使った形跡がどこにもなさそうだけれど?」
アーニャ先生は小刀を矯《た》めつ眇《すが》めつしながら、不思議そうに小首をかしげてらっしゃる……。あれ? ネムのやつ、アーニャ先生の体を乗っ取れてない?
あ、そういえば前に、魔法防御高い人間の精神には入り込めないみたいなことを言っていたっけ。ジオルゥの体で。そうか、アーニャ先生は、名門校だというこのドノヴォン国立学院の魔術担当の先生じゃないか。それなりに高い魔法防御力をお持ちに間違いないはずじゃないか。くそ、俺としたことが、実にうかつ! 圧倒的にうかつ!
「そ、そうですか。ならいいです」
俺はあわててアーニャ先生の手からゴミ魔剣を回収した。これ以上アーニャ先生に調べられると、ゴミ魔剣の正体がバレて色々やばそうだからな。ハリセン仮面の使っていたハリセンそのものだし、これ。
と、そこで、ユリィが再び口を開いた。
「先生ごめんなさい。やっぱりわたし、ウソはつけません。今の、小刀から出た真空の刃は、わたしが何か魔法を使ったわけじゃなくて、トモキ様が自分で起こしたものなんです!」
そう言い終えると、アーニャ先生に深々と頭を下げるユリィだった。
ユリィ、お前ってやつは……。
俺はその姿に、胸を強く打たれた。元はといえば、俺が一人で勝手にやったイカサマ行為なのに、なんでお前が謝ってるんだよ! なんで自分から罪を告白してるんだよ! 正直すぎかよ!
しかも、
「先生、トモキ様は魔法が全然使えないわたしのことを気遣ってくれただけなんです。だから、悪いのはわたしなんです。本当にごめんなさい」
俺のぶんまで罪を背負おうとしているじゃないか! なぜお前はそこまで性根が清らかなんだ!
「今の話は本当なの、ユリィさん?」
「はい。わたし、付与魔術《エンチャント》なんて、全然使えません」
「そう……。黙っていれば私は気づかないままだったのに、よく話してくれたわね」
「ウソは、よくないことです。本当じゃない言葉で、自分をいつわったり、誰かをだましたりしたら、いつかよくないことが起きます。わたしはそう思うんです。だから……」
ユリィの言葉はやはり聖人そのものだった。俺はとたんに良心の呵責を感じ、胸が痛くなった。善良なユリィに比べると、俺はなんて汚れ切っているんだろう。
『ハリセン仮面にも聞かせてあげたい言葉ですネー』
そうそう、なぜなら俺は凶悪犯ハリセン仮面だったから。周りを欺き、自分を偽り、正体を隠して過ごしている日々だから……って、なんで唐突にゴミ魔剣が俺の思考に割り込んでくるんだよ、クソが!
「そ、そのう、インチキやってすんませんでした」
とりあえず、俺もユリィにならってアーニャ先生に頭を下げた。
「まあ、この場で正直に話してくれたんだし、いいわ。彼女想いのやさしい彼氏クンがやったことだしね」
アーニャ先生はにっこり笑って言う――が、なんかまた誤解されてるんだが!
「せ、先生、ち、違います! わ、たしたち、恋人では……」
ユリィは昨日と同様、耳まで真っ赤になっている。俺もめっちゃ恥ずかしくて顔が熱くなっちゃうじゃあないか!
「え、違うの? 君たち付き合ってないの?」
アーニャ先生はまた不思議そうに小首をかしげた。そして、そのとたん、周りの生徒たちも、「え、あの二人って、恋人同士じゃなかったの?」と、疑問を口にしはじめた。
「どうみてもカップルって感じだったのにね」
「仲よさそうなのにね」
「すごくお似合いじゃん?」
「もういっそ夫婦でもいいんじゃないかって……」
なんかすごくはずかしいけれどもうれしいような誤解の言葉が聞こえてくるんだが! やだもー、俺たち、お似合いですって! もう夫婦みたいですって! 知らなかったなあ、周りからは俺たちそんなふうに見えてたのかー。まいったなー。別に付き合ってるとかじゃなかったのになー。はっはー。
と、俺がにやにやしていた、そのとき、
「みなさん、静粛に。お二人にはお二人なりの関係性というものがあるのですよ」
ルーシアがざわつき始める生徒たちを一喝するように声を張り上げた。
「なんでも、お二人は友達以上恋人未満という、大変微妙な間柄だそうです。周りがとやかく言って、二人の間でこれから徐々に育まれていくであろう甘酸っぱい感情を損ねてはいけません」
「お、お前、また何を言って――」
なんでそういうデリケートなことをはっきり口に出すの、このクラス委員長様は!
「そっかー。これから仲を深めていく感じなんだね、トモキ君とユリィさんは」
「私、応援してあげたくなっちゃう!」
「キスとかはまだなのかなー」
たちまち俺たちの周りにクラスメートたちが集まってきて、なんか好き放題言い始めた。く……なんて恥ずかしいんだ! 編入早々、まさか唐突にこんないじられ方をされてしまうとは! でも、恥ずかしいだけじゃない、すごくうれしいぞ! ユリィとの関係をみんなが応援してくれるってことはよォ! これってまさに、俺が探し求めていた青春《アオハル》ってやつじゃあないか……。
『凶悪指名手配犯のくせに、なに青春を謳歌してやがるんですかネー』
なんか雑音が聞こえてくるんだが! クソが!
「君たち、今は授業中よ。騒ぐのは後にしなさい」
アーニャ先生が、そんな生徒たちをなだめ、散らした。
と、そこで、
「ハッ! ただのイカサマ野郎に、何むらがってるんだよ! バカかよ、てめーら!」
少し離れたところから、イラつきマックスな声が聞こえてきた。
見ると、そこには小柄な男子生徒が立っていた。髪と目は黒く、髪型はツーブロックでシルバーのメッシュが入っており、耳には銀色のピアスをしていた。顔つきは幼い感じだったが、目つきだけは妙に凶悪だった。制服は、何か改造しているのか、上着の裾がやたらと短く、ズボンはふわふわでゆったりしていた――って、あれ? これもしかしてツッパリスタイルか?(※短ランにボンタンですネー)
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