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2章 ドノヴォン国立学院編
103 聖獣カプリクルス
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「いや、だから僕はちゃんと言ったじゃないですか。彼のことはあまり気にしないように、と」
「気にするにきまってるでしょう、あんなん!」
校舎裏の人気のないところで、リュクサンドールを肩からおろし、あらためて尋ねてみたが、この反応。またしてもイライラしてしまう俺だった。
「いったい、あいつは何なんですか?」
「そりゃあ、見ての通り、彼は聖獣カプリクルスですよ」
「かぷりくるす? やっぱりモンスターなんですか?」
「そうですね。ただ、一般に恐れられている凶悪なモンスターとは違い、昔から聖なるものとして人にあがめられている種族です」
「あんな黒ヤギが……」
いやでも、確かに、同級生にはあがめられてたよな? 勉強教えてやってて。それに、聖なるものかどうかは知らんが、ちゃんとアルコール消毒は徹底してて、きれい好きっぽかったし。礼儀正しかったし。
「また、聖獣カプリクルスは人間の目を惑わす、非常に強力な幻術を使うことのできる種族です。自らの姿を偽って、人間の社会にまぎれ込むことも実に容易なのですよ」
「ああ、それで、あの黒ヤギが、ここではワイルド系イケメンってことになってたんですね!」
と、俺は一瞬納得したわけだったが、
「あれ? じゃあ、なんで俺の目には黒ヤギに見えて?」
「そりゃあ、トモキ君には、そういう幻術が効きにくいからでしょう」
なるほど、俺ってば、やっぱり魔法耐性高めなのか。
「というか、今の話の感じだと、先生にもあの黒ヤギの幻術効いてないんですか?」
「ええ。きっと人間向けの術なんでしょうね」
「じゃあ、あいつが黒ヤギだってわかっていながら、ずっと学校で放し飼いにしてたってことですか」
「彼は優秀な生徒ですからね」
リュクサンドールはにっこり笑って言う。モンスター教師なだけに、モンスター生徒の存在には寛容ということだろうか。
と、そのとき、噂をすれば影ってやつだろうか、当の本人(いや本獣?)が、向こうから俺たちのところに歩いてきた。
「なんだか様子がおかしいので後をつけさせてもらったが……なるほど、やはり君には俺の幻術が効いていなかったのだな」
黒ヤギ、レオは俺のすぐ前までやってきて言った。俺たちの今の会話は聞かれていたようだ。
「おい、お前ヤギのくせに、なんで人間の学校に通ってんだよ?」
「学びたいことがあるからに決まっているだろう」
「学びたいことって? ヤギだから、美味い草の見分け方とかか?」
「はは。そのような生きるための知識ももちろん重要だが、わざわざこのような人間の学校に通って学ぶまでもないだろう。俺が求めているのは、ひとえに、魔法に関する知識と技術だ」
「魔法? お前、もしかして魔法キャラなのか?」
「まあな。俺たち一族、カプリクルスは、人よりはるかに強い魔力を持っているものなのだぞ」
「へえー」
こんなヤギがなあ。ふーん?
「さらに、聖獣カプリクルスは、この頭の中央にまっすぐ伸びた神聖なツノで、邪悪なるものを滅すると言われています」
と、リュクサンドールが説明する。
「邪悪なるものって……例えば、不死族とかも倒せるのか?」
ふと気になって、隣の呪術オタの顔をチラ見しながら尋ねたが、
「ああ、僕も前に一度、彼のツノを心臓に食らって、殺されたものですよ」
リュクサンドールが黒ヤギに代わって答えた……って、あれ? なんか答えがおかしくない? さらっと言うことじゃなくない?
「どういうことなんだよ、レオ? お前なんで過去にこいつの心臓ぶち抜いてんだよ?」
「い、いや、あれはその……事故というか、なんというか」
黒ヤギはいかにも気まずい感じで言葉を濁らせたが、
「ああ、あのときは、ちゃんと事前に説明しなかった僕が悪かったんですよ。実は、去年の秋、レオローン君がこの学院に入学願書を提出しにきたとき、僕たちははじめて顔を合わせたんですが、そのとき彼は、僕のことを、教師ではなく、ただの邪悪な不死族だと思ったらしいんですね。それで反射的に攻撃されてしまいまして。いやー、さすがに痛かったなあ、あれは」
リュクサンドールは相変わらずのほほんとした調子だ。なぜ自分がうっかり殺されてしまった話を、ほのぼのエピソードみたいに語るんだ、こいつは。つか、入学願書を学校に提出しに来た黒ヤギってのも、なんなんだよ? 何もかもおかしすぎる話じゃねえか。
「す、すみません、先生。あのときの俺は本当に軽率でした」
「いえ、よいのですよ、レオローン君。僕はなかなか死なないことぐらいしか取り柄がないんですから」
うーん、この会話。やっぱり頭おかしいな?
「では、僕はそろそろ戻りますね。仕事がまだ残ってるので」
やがて、リュクサンドールはすたすたと職員室のほうに帰って行った。なるべく日陰を通りながら。
「なあ、レオ。お前のツノって本当に邪悪なるものを滅する力あるのか?」
ふと、その後姿を見ながら隣の黒ヤギに尋ねた。
「お前のツノに心臓をぶち抜かれたっていうアイツは、めっちゃ元気そうじゃねえか?」
「いや、間違いなく俺のツノは、並みの不死族なら一撃で浄化できるはずだ」
「並みの不死族なら……」
「俺がこう言うのもなんだが、あの先生は色々おかしい」
「まあ、そうだな」
黒ヤギの生徒にこう言われちゃあなあ。大いにうなずきあう俺たちだった。
「気にするにきまってるでしょう、あんなん!」
校舎裏の人気のないところで、リュクサンドールを肩からおろし、あらためて尋ねてみたが、この反応。またしてもイライラしてしまう俺だった。
「いったい、あいつは何なんですか?」
「そりゃあ、見ての通り、彼は聖獣カプリクルスですよ」
「かぷりくるす? やっぱりモンスターなんですか?」
「そうですね。ただ、一般に恐れられている凶悪なモンスターとは違い、昔から聖なるものとして人にあがめられている種族です」
「あんな黒ヤギが……」
いやでも、確かに、同級生にはあがめられてたよな? 勉強教えてやってて。それに、聖なるものかどうかは知らんが、ちゃんとアルコール消毒は徹底してて、きれい好きっぽかったし。礼儀正しかったし。
「また、聖獣カプリクルスは人間の目を惑わす、非常に強力な幻術を使うことのできる種族です。自らの姿を偽って、人間の社会にまぎれ込むことも実に容易なのですよ」
「ああ、それで、あの黒ヤギが、ここではワイルド系イケメンってことになってたんですね!」
と、俺は一瞬納得したわけだったが、
「あれ? じゃあ、なんで俺の目には黒ヤギに見えて?」
「そりゃあ、トモキ君には、そういう幻術が効きにくいからでしょう」
なるほど、俺ってば、やっぱり魔法耐性高めなのか。
「というか、今の話の感じだと、先生にもあの黒ヤギの幻術効いてないんですか?」
「ええ。きっと人間向けの術なんでしょうね」
「じゃあ、あいつが黒ヤギだってわかっていながら、ずっと学校で放し飼いにしてたってことですか」
「彼は優秀な生徒ですからね」
リュクサンドールはにっこり笑って言う。モンスター教師なだけに、モンスター生徒の存在には寛容ということだろうか。
と、そのとき、噂をすれば影ってやつだろうか、当の本人(いや本獣?)が、向こうから俺たちのところに歩いてきた。
「なんだか様子がおかしいので後をつけさせてもらったが……なるほど、やはり君には俺の幻術が効いていなかったのだな」
黒ヤギ、レオは俺のすぐ前までやってきて言った。俺たちの今の会話は聞かれていたようだ。
「おい、お前ヤギのくせに、なんで人間の学校に通ってんだよ?」
「学びたいことがあるからに決まっているだろう」
「学びたいことって? ヤギだから、美味い草の見分け方とかか?」
「はは。そのような生きるための知識ももちろん重要だが、わざわざこのような人間の学校に通って学ぶまでもないだろう。俺が求めているのは、ひとえに、魔法に関する知識と技術だ」
「魔法? お前、もしかして魔法キャラなのか?」
「まあな。俺たち一族、カプリクルスは、人よりはるかに強い魔力を持っているものなのだぞ」
「へえー」
こんなヤギがなあ。ふーん?
「さらに、聖獣カプリクルスは、この頭の中央にまっすぐ伸びた神聖なツノで、邪悪なるものを滅すると言われています」
と、リュクサンドールが説明する。
「邪悪なるものって……例えば、不死族とかも倒せるのか?」
ふと気になって、隣の呪術オタの顔をチラ見しながら尋ねたが、
「ああ、僕も前に一度、彼のツノを心臓に食らって、殺されたものですよ」
リュクサンドールが黒ヤギに代わって答えた……って、あれ? なんか答えがおかしくない? さらっと言うことじゃなくない?
「どういうことなんだよ、レオ? お前なんで過去にこいつの心臓ぶち抜いてんだよ?」
「い、いや、あれはその……事故というか、なんというか」
黒ヤギはいかにも気まずい感じで言葉を濁らせたが、
「ああ、あのときは、ちゃんと事前に説明しなかった僕が悪かったんですよ。実は、去年の秋、レオローン君がこの学院に入学願書を提出しにきたとき、僕たちははじめて顔を合わせたんですが、そのとき彼は、僕のことを、教師ではなく、ただの邪悪な不死族だと思ったらしいんですね。それで反射的に攻撃されてしまいまして。いやー、さすがに痛かったなあ、あれは」
リュクサンドールは相変わらずのほほんとした調子だ。なぜ自分がうっかり殺されてしまった話を、ほのぼのエピソードみたいに語るんだ、こいつは。つか、入学願書を学校に提出しに来た黒ヤギってのも、なんなんだよ? 何もかもおかしすぎる話じゃねえか。
「す、すみません、先生。あのときの俺は本当に軽率でした」
「いえ、よいのですよ、レオローン君。僕はなかなか死なないことぐらいしか取り柄がないんですから」
うーん、この会話。やっぱり頭おかしいな?
「では、僕はそろそろ戻りますね。仕事がまだ残ってるので」
やがて、リュクサンドールはすたすたと職員室のほうに帰って行った。なるべく日陰を通りながら。
「なあ、レオ。お前のツノって本当に邪悪なるものを滅する力あるのか?」
ふと、その後姿を見ながら隣の黒ヤギに尋ねた。
「お前のツノに心臓をぶち抜かれたっていうアイツは、めっちゃ元気そうじゃねえか?」
「いや、間違いなく俺のツノは、並みの不死族なら一撃で浄化できるはずだ」
「並みの不死族なら……」
「俺がこう言うのもなんだが、あの先生は色々おかしい」
「まあ、そうだな」
黒ヤギの生徒にこう言われちゃあなあ。大いにうなずきあう俺たちだった。
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