上 下
95 / 436
2章 ドノヴォン国立学院編

94 勇者、やっぱり呪われてました

しおりを挟む
 まさか、こいつ俺を殺る気か――。

 そのただならぬ眼光を前に、俺はとっさに身構えた。やはりこの男、腐ってもロイヤルクラスのレジェンド・モンスターだったか。ついに本性をむき出しにしやがったか、かかってきやがれ!みたいな気持ちだった。

 だが、そんなふうに俺が久しぶりに勇者魂を奮い起こした次の瞬間――目の前の男は急に、顔を悲しみに歪ませ、涙目になってしまった……。

「なんで君、世界を救っちゃったんですか! なんで人々を幸せにしちゃったんですか! もっと世の中に不幸が満ちてないとダメじゃないですか!」
「え……?」
「それじゃあ、呪術はますます必要とされなくなっちゃうじゃないですか! ただでさえ人気がない業界なのに!」
「なん……だと……」

 一瞬言ってることの意味が分からんかったが、ようするに、この男は……。

「つまり、暴マーがのさばっていた時代のほうが呪術の研究がやりやすかった、と?」
「当然です!」
「で、俺が暴マーを倒したから、呪術の研究がやりにくい時代になってイラついていたと?」
「そうですね!」
「ちょ、ちょっと待てい……」

 俺を憎く思ってた理由って、そこ? こいつ、マジで呪術のことしか考えてないのかよ!

「いや、俺もなんか強くなりすぎてその場のノリと勢いで、つい暴マー倒しちゃってただけだし、悪気はなかったんだ……」
「一回だけなら出来心だと言えなくもないですが、君、二回もやっちゃってますよね?」
「え、ええ、まあ」
「二回もノリと勢いで世界を救うってどうなんですか! 僕、つい最近、あの竜が目覚めたと聞いて、今度こそ呪術の時代が来るはずだと、期待に胸を膨らませていたんですよ! それなのに、君という人は、またあっさり倒してしまって!」
「すまぬ……」

 あれ? なんで俺謝ってんだろう?

「いやでも、おかげで、俺はバッチリ呪われてしまったわけで――」
「ああ、そうでしたね! 今は君を恨むどころではなかった! むしろ、そんな貴重な呪いを受けて僕のところまでやってきてくれたことに感謝しなくてはいけない」

 と、俺に恨み節全開だったリュクサンドールは、とたんに満面の笑顔になった。何この豹変っぷり。怖い。

「では、君の体を調べるので、さっそく服を脱いでもらいましょうか」
「上だけでいいよな?」
「いいですよ、今日は初診なので」

 医者か、お前は。とりあえず、言われた通りに上着とシャツを脱ぎ、上半身をさらけだした。現れたのは、カンスト勇者様の鍛えに鍛えた超絶ムキムキの胸板……でもなかった。俺ってば、わりと普通の細マッチョな体型だった。地球と違って、どうもこっちの世界では、レベリングしてもそれが体型に必ず反映されるとは限らんようなのだ。筋力マックスでも見ためは細マッチョとか、よくあることなんだな、ここでは。

 リュクサンドールはローテーブルに並べた謎器具の中から金色の輪を複数手に取り、そんな俺の首やら二の腕やら額やらに次々と装着していった。何かの検査器具のようだった。そして、俺の上半身がその輪っかまみれになったところで、さらにローテーブルの上から水中メガネのようなものを取り、丸眼鏡を外してそれを自分の頭に装着した。

 とたんに、ヴーンという音とともに輪っかと水中メガネが同時に起動したようだった。まるで電源が入ったように、それらは光り始め、俺の上半身の表面に何やら魔法陣のような模様が投影されて浮かび上がった。それらは、サキの呪い診断アプリを使ってみた時に見たものの似ていた。色も赤かった……って、赤はやっぱりアカン色なのかな、これ……。

「うーん、これは……」

 なんか、目の前の男も表情が暗くなってきてるんだが?

「せ、先生、俺大丈夫ですよね?」

 思わず敬語になってしまったわけだが、

「大丈夫です。きっと希望はあります」

 むしろ希望がまるでなさそうな答えなんだが?

「た、助かりますよね、俺?」
「呪いをうまくコントロールしていく方向なら、あるいは」
「治らないんですか!」
「……覚悟はしておいてください」
「って、なんの覚悟だよ、チクショウ!」

 さすがに、ばかばかしくなってキレるしかない俺なんだが! 不治の難病の患者じゃねえんだぞ!

「あんた、それでも呪いの専門家かよ! 俺の呪いを解けないのから、そんな看板、とっとと引っ込めちまえよ!」

 そうだ、はるばるこんなところまでやってきたのは、そんな頼りない答えを聞くためじゃあ、ない!

「落ち着いてください、トモキ君。今はまだ、君の呪いをほんの少し調べてみただけです」

 リュクサンドールは俺に比べるとずいぶん冷静だった。

「まず、今の検査ではっきりとわかったことは、サキさんから聞いていた通り、君にかけられた呪いがディヴァインクラスのモンスターによるものとしか思えないほど強力であること。そして、それは君自身の未来と、この世界の運命を悪い意味で結びつけるものだということです」
「悪い意味で結びつける?」
「ええ、上位存在によって世界の分岐の選択肢が歪められ、特定の人物の未来が破滅へと決定される……。これはまさしく、長らく伝説上のものとされていた呪い――すなわち『バッドエンド呪い』に他ならない!」
「やっぱその正式名称であってんのかよ!」

 ネムの言ってたこと、全部本当だったっぽい。やだもう、こんな体……。

 しかし、俺が改めてショックを受けているにもかかわらず、

「いやあ、まさか僕が生きている間に、こんな伝説上の呪いを目の当たりにできるとは! 君はなんて僕思いの勇者様なんでしょう! ありがとう、トモキ君!」

 目の前の男はめちゃくちゃ嬉しそうにはしゃいでいるのだった。うう、俺の呪いの主治医じゃなかったら、殴りてえ!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

無限初回ログインボーナスを貰い続けて三年 ~辺境伯となり辺境領地生活~

桜井正宗
ファンタジー
 元恋人に騙され、捨てられたケイオス帝国出身の少年・アビスは絶望していた。資産を奪われ、何もかも失ったからだ。  仕方なく、冒険者を志すが道半ばで死にかける。そこで大聖女のローザと出会う。幼少の頃、彼女から『無限初回ログインボーナス』を授かっていた事実が発覚。アビスは、三年間もの間に多くのログインボーナスを受け取っていた。今まで気づかず生活を送っていたのだ。  気づけばSSS級の武具アイテムであふれかえっていた。最強となったアビスは、アイテムの受け取りを拒絶――!?

ブラック宮廷から解放されたので、のんびりスローライフを始めます! ~最強ゴーレム使いの気ままな森暮らし~

ヒツキノドカ
ファンタジー
「クレイ・ウェスタ―! 貴様を宮廷から追放する!」  ブラック宮廷に勤めるゴーレム使いのクレイ・ウェスターはある日突然クビを宣告される。  理由は『不当に高い素材を買いあさったこと』とされたが……それはクレイに嫉妬する、宮廷魔術師団長の策略だった。  追放されたクレイは、自由なスローライフを求めて辺境の森へと向かう。  そこで主人公は得意のゴーレム魔術を生かしてあっという間に快適な生活を手に入れる。    一方宮廷では、クレイがいなくなったことで様々なトラブルが発生。  宮廷魔術師団長は知らなかった。  クレイがどれほど宮廷にとって重要な人物だったのか。  そして、自分では穴埋めできないほどにクレイと実力が離れていたことも。  「こんなはずでは……」と嘆きながら宮廷魔術師団長はクレイの元に向かい、戻ってくるように懇願するが、すでに理想の生活を手に入れたクレイにあっさり断られてしまう。  これはブラック宮廷から解放された天才ゴーレム使いの青年が、念願の自由なスローライフを満喫する話。 ーーーーーー ーーー ※4/29HOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝! ※推敲はしていますが、誤字脱字があるかもしれません。 見つけた際はご報告いただけますと幸いです……

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

処理中です...