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1章 暴虐の黄金竜マーハティカティ再討伐編

60 王都で嘔吐 Part 2

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「うおおおっ! 食らえ、新勇者稲妻キーック!」

 新しい機械の体を手に入れ、バリアに吹っ飛ばされなくなった俺は、さっそくバジリスク・クイーンの頭に向かって飛び蹴りをはなった。

 当然それはバリアによって防御されたが、それはもはや想定内だった。すぐに空中で身を反らしバク宙して、少し後ろに着地し、再びバジリスク・クイーンに襲い掛かった。拳を強く握り締めて。

「どりゃっ! 食らえ! 新勇者乱れ撃ち拳!」

 ようするにただのパンチの連打だ! そして、それらの一撃一撃は当然、バリアによって防御された。だが、それこそまさに、俺たちの狙い通りだった。そう、こんなふうにバリアをやたらと使い続けていれば、いつかそれも枯れるに違いないからな。

「どや? バリアの反動ないやろ? イケるやろ?」

 と、マオシュの声が聞こえた。俺の首にまたがっているはずだが、俺は今、白いロボと体の感覚が完全にシンクロしているらしく、その声は、頭の中に直接語りかけてくるように、遠く響いて聞こえた。でも、ゲロ臭いのは相変わらずだった。嗅覚はコックピットの俺の体に置き去りで、シンクロしてねえのかよ。

「ああ、攻撃しても吹っ飛ばされないってのはいいな。でも、なんで反動がないんだ? この機体にはレジェンドのバリアを弱める力でもあるのか?」
「いや、バリアを弱めとるわけやないで。攻撃の反動自体は普通に発生しとるはずなんや。ただ、ワイの開発した特殊な緩衝材で、それを打ち消しとるんや」
「特殊な緩衝材か。よくわかんねえが、スゲーな」
「せやろ? ワイ、やっぱ天才やし? いくらでも褒めてーな」

 マオシュは実に得意げだ。ついさっきまでボロ雑巾のように転がっていたくせになあ。

「いわば、この機体は、魔剣が作れんワイなりに開発した、対レジェンド用の秘密兵器なんや。ただ、まだ未完成で、バリアの反動を相殺する以外、たいしたことはできへん。攻撃の決め手がなんもないんや」
「なるほど、未完成ってのはそういうことか」
「それにな、ここだけの話、内部のバッテリーがちょっぴり衝撃に弱いねん。ヘタすると、爆発するねん」
「え」

 なにそれ怖い。褒めて損したわー。はよリコールしろ。

「なーに、あくまで、ちょっぴりや。アルが大事に、丁寧に扱ってくれれば、それでええんやで?」
「大事に、丁寧に、ってなあ……」

 この状況でそれはさすがに無理ってもんだぜ。こうやって、話をしている間にも、目の前の緑色の大トカゲは鬼気迫る勢いで、俺に襲い掛かってきているのだ。今はその攻撃をよけつつ、バリアで防がれると承知のうえで、反撃しまくるしかなかった。うおおっ! バリアよ、とっとと剥がれろ!

「ねえ、もしかして、あなたは、私のバリア能力が尽きるのを待っているのかしら?」

 と、そこで、バジリスク・クイーンはにやりと笑った。

「え……べ、別にぃ?」

 口笛を吹きながら、すっとぼけるしかない俺だった。こいつ、爬虫類のくせに鋭いな、ちくしょうめ。

「言っておくけど、いくらやっても無駄よ。私なら、何万回と、物理障壁を展開することができるんだから」
「え、万単位なの?」

 そんな、ほぼ無限じゃないですか、やだー。

「アル、あいつの言葉に騙されたらアカンで。確かに、体力万全のレジェンドなら、65535回くらいはバリアを使えるはずや。せやけど、今のあいつは、三つあるライフを二つ失って崖っぷちの状態や。バリア能力だって、たいして残ってないはずやで!」
「マジか」
「ほんまや。現に今、効いてないアピールしてきたやろ? わざわざそんなこと言うてくるってことは、ほんまは効いてるってことの証拠や!」
「なるほど」

 確かに、本当に俺たちのやっていることが無駄だったら、それをわざわざ言う必要はないな?

「そうとわかりゃ、全力で行くぜ!」

 バッテリーが爆発する前にな! 俺は再びバジリスク・クイーンに殴りかかった。この拳が、いつかバリアを破ってくれると信じて!

 だが、そのとき――突然、俺は脚が動かなくなった。

「な、なんだこれは……」

 下を見ると、俺の脚(正確にはロボットの脚だが)は、接着剤でも使われたかのように、石畳の床にぴったりとくっついて、持ち上がらなくなっているようだった。誰だ、ここにアロンアルファ撒いたのは!

「それは同化の魔法よ。あなたの乗っているカラクリの脚は、今、床と一つになっているということなの。だから、動けないのよ。床なんだから」

 バジリスク・クイーンはそんな俺をあざ笑いながら言った。

「魔法? まさか、てめえの仕業か?」
「ええ。勇者様と一緒に楽しくエクササイズしながら、こっそり仕掛けておいたのよ。どう?」
「こっそりすぎるだろ……」

 魔法使ってるそぶりとか一切なかったんですけど! そもそもトカゲモードで魔法が使えるって聞いてなかったんですけど! さすがはロイヤル。崖っぷちでも、一筋縄ではいかないってことか。

「勇者様には魔法が効かなくても、そのカラクリには効くんじゃないかと思ったのだけれど、正解だったわねえ。まさか、こんなに簡単に動きを封じられるなんて。ちょっと作りが粗雑すぎるのではなくて、このカラクリ?」
「おい、マオシュ、ダメ出し食らってるぞ」
「せやな。魔法耐性の強化は今後の最重要課題やな」
「今後なんてあるのかよ! この状況で!」

 と、話している間にも、バジリスク・クイーンはじわじわとこっちに迫ってきていた。とっさに腕を動かし、抵抗しようとしたが、また何か魔法を使われたのだろう、それも動かなくなった。

「さて、どう料理してあげようかしら? せっかくの極上の食材だし、おいしくいただかないとね」

 やがて、バジリスク・クイーンは、俺たちの乗っているロボットにぴったりと巻きつき、ゆっくりと締めはじめた。さながら、コブラツイストならぬ、バジリスクツイストだ。機体のあちこちから、みしみしといやな音が響いた。

「おい、マオシュ! このままだと俺たちやられちまうぞ! 緊急離脱だ!」
「いや、そんな機能、これにはないで?」
「なんで! スイッチ一つでぽーんと外に飛び出す装置とか、普通用意してるじゃん!」
「せやから、さっき言うたやん? これ、まだ未完成やって」
「未完成過ぎるだろ!」

 さっきついうっかりこのキツネを褒めた自分を殴りたい。使えないにもほどがあるだろ、このポンコツ!

「ああ、そうだわ。このまま、カラクリごと丸焼きにしてあげましょう」

 という声が聞こえたとたん、俺たちの乗っているロボットはバジリスク・クイーンごと業火に包まれた。あ、熱い! 熱すぎるう!

「勇者様のカラクリ包み焼き、どんな味かしらねえ」
「スズキのパイ包み焼きみたいに言うなあっ! あ、あつっ!」

 やべえ。このままだと、本当においしく調理されてしまうぜ! キツネと一緒に! 早くコックピットの壁を破って脱出しないと……って、この状況でいまだにシンクロ率100パーで、意識がコックピットの俺の体に戻れないんですけど! なんだこのポンコツ、空気読んでとっとと意識を俺の体に返しやがれ。あと、やっぱゲロくさい。ゲロの焼けるにおいも臭い。こんなにおいの中で、焼け死ぬのはいやだあっ!

 しかし、そのとき――何かがものすごい速さでこちらに駆けてきた!

「え……」

 その人物は一本の剣を携えており、迅雷のような速さで、バジリスク・クイーンに斬りかかった。バジリスク・クイーンはとっさに俺たちから離れ、その直撃を避けたが、尾の先端を切り落とされてしまった。

「お、おま、なんで……」

 俺は自分の目を疑った。その人物とは、よく見覚えのある、目つきのおかしい銀髪の男だったからだ。まだ三十分たってないのに、どうしてこいつは復活してるんだ?

「フフ……レジェンド、それもロイヤルクラスの登場とあっては、ワタシも黙って封印されているワケにはいかないですヨ? そんな極上の獲物、百年に一度、食えるかどうかですからネ!」

 目つきのおかしい銀髪の男こと、ネム in ザドリーは、口からよだれを垂らしながら高笑いした。

 そして直後――口を大きくあけたまま、ゲロを吐いた……。

「お前も吐くのかよ!」

 もうやだ、このゲロくさい戦闘。俺もなんだか吐き気がしてきた。
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