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1章 暴虐の黄金竜マーハティカティ再討伐編
13 五千円札の女はまた変わるらしい
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「いててて……」
さて、それから数秒後、俺は無事に?領主の館に着いていた。というか、屋根を突き破り、一階の床の上に着弾していた。
「こ、これは何事――」
俺が落ちたのは、ちょうどニセモノの剣が置いてある玄関ホールだった。周りには衛兵たちと見物客が数人いたが、みな驚いた顔で俺を見ている。
「あ、あの……すごい大きな音がしたんですけど、大丈夫ですか?」
見物客の一人と思しき、小太りのおばちゃんが俺に近づいてきた。「いえ、これぐらいなんとも」俺は体についた木屑などを手で払いながら立ち上がった。
「ちょうど高校の体育の授業で柔道を習ってましたからね。受け身はばっちりです」
そうそう。確か、剣道と柔道、どっちを習うか二択だったんだよなあ。剣道が防具が汗臭いから柔道にしたんだよなあ。選んでよかった柔道。
「お、お前! なんで空から――」
と、ワンテンポ遅れて、今度は衛兵たちがぞろぞろ集まってきた。まあ、当然か。まだ上空のモンスターは飛来してきてないようだし。
「聞いてください。これからここに魔物がやってきます。たぶんわりと強い? だからみんなここから逃げてください」
「何を突然。急に空から落ちてきた胡乱《うろん》な輩の言葉を信じるわけなかろう!」
「そうだ、適当なことを言うな!」
「だいたい、空から落ちてきてピンピンしているお主のほうが魔物ではないか? ウケミとはなんだ! まずはそこから説明しろ!」
衛兵たちは口をそろえて、俺に反論する。ちょ、まるで信用されてない……。
「飛んできたのは急いでたからです! だから知り合いに魔法でここまで飛ばしてもらって……あ、受け身ってのは柔道っていう武道の基本の技です。俺の生まれた国ではメジャーな格闘技なんですよ。海外でもかなり普及してるんですが、最近は国際試合で外人選手に有利なルールばっかり追加されてるみたいで、俺としては、そこはマジで許せないかなって思う今日このごろ――」
と、俺が柔道のなんたるかを語り始めたときだった。
突如、壁をぶち壊して、大きなモンスターが館の中に入ってきた!
「うわあああっ!」
俺以外の全員が、たちまち悲鳴を上げた。
「ほら、言ったじゃないですか。モンスター来るって。俺、ちゃんと警告しましたよ?」
俺はふふん、と、鼻を鳴らしながら言った。
「に、逃げろおおっ!」
おそらくほとんど一般人だと思われる見物客たちは、あわてて、館の外に逃げていく。外で行列を作ってる人たちもおそらく同様だろう。うむ、正しい判断だ。安心した。
だが、衛兵たちはそうではなかった。勇ましくも、剣や槍などそれぞれ握り締め、突如現れた謎のモンスターを囲み始める。それは遠くから確認したとおり、悪魔系の上位モンスターのようだった。羊のようなツノが生えた頭に、体長五メートルはありそうな巨大で、筋肉隆々のボディ。二本足で立っているが、脚の形は獣の後ろ足によく似ている。背中にはコウモリのような翼が生えている。おそらく、デューク・デーモンっていうやつだ。そう、普通の人間ではまず太刀打ちできないレベルの種族……。
「た、例え魔物といえど、数は一匹! ひ、ひるむな!」
隊長らしき兵士のおっさんが震える声で叫んだ。
「やめとけよ。こいつはあんたらじゃ倒せないぜ。早く逃げ――」
「かかれ!」
衛兵たちは俺の言葉なんか聞いちゃいねえ。瞬間、いっせいにデューク・デーモンに飛びかかった。
そして、直後、デューク・デーモンの鼻息で、全員吹っ飛ばされ、反対側の館の壁に打ち付けられることになった。
「あーあ。だから言ったのに」
鼻息一つでこれかよ。壁際でうめき声を上げている衛兵たちの姿に、俺はため息を吐かずに入られなかった。だから、はよ逃げろって言っただろうが。
「ほう。我が波動を受けて、立っていられる人間がいようとはな」
と、デューク・デーモンが、俺のほうを見た。そうか、今のは鼻息じゃなくて、攻撃の波動だったのか……。そこでようやく気がつく俺だった。
「まあ、お前みたいなのを相手にするのは慣れてるからな」
「面白い。久しくホネのある相手にめぐり合えず、生き飽いていたところだ」
デューク・デーモンはくぼんだ眼窩の奥の金色の瞳を鋭く光らせ、にやりと笑った。なんだよ、こいつ。バトル脳かよ。
「戦ってもいいんだが、せっかく言葉が通じる相手みたいだし、まずは説明してくれ。お前、何しにここに来たんだ?」
「……これだ」
と、デューク・デーモンは、近くに飾られている勇者アルドレイの剣 (ニセモノ)を指差した。
「アルドレイ……それは我が種族にとって忌まわしき名! かつて、あの男一人に、我が眷属が、どれほど血祭りにあげられたことか……」
「どれほどって……あ」
そういえば、思い出したぞ。一時期、悪魔系モンスターを狩りまくってた時期があったっけ。悪魔系モンスターを千匹倒すと、女神の祝福により超絶モテ体質になるって話を聞いて。まあ、デマだったけどな!
「そっか、そりゃあ、災難だったなあ」
ごめん。悪気はなかったんだ。あのころの俺はモテるためならなんだってやるボーイだったから。
「我はずっと復讐の機会をうかがっていた。だが、ようやくやつの居所を突き止めた直後、やつは病で倒れて勝手に死んでいた! なんと卑怯千万! まさに勝ち逃げというやつだ!」
「そ、そうかな? その人も別に好きで死んだわけじゃないんじゃあ」
勝ち逃げどころか、実は好きな人に殺されたんですよ。悲劇マックスですよ?
「だが、我もさすがに冥府までは追って行けぬ。振り上げた拳を、断腸の思いで下ろし、やつがもたらした惨劇の記憶を忘れるほかなかった……はずだったのだが!」
デューク・デーモンはそこで、アメリカの法廷ドラマに登場する弁護士みたいに、ひときわオーバーリアクションで拳を振り上げた。
「近年、人間どもは何かにつけアルドレイアルドレイと、やつを称えはじめているではないか! なぜだ! 許せぬ!」
「そ、それは、早死にしたからじゃないっすか。尾崎なんとかとかいう歌手もそうでしょ。早めに死ぬと後世の人間に神格化されて、過剰評価されがちっていうか。五千円札の女とかもそんな感じだし……」
「そんなものは知らん!」
「ですよねー」
俺も実際、五千円札の女は最近までよく知らんかったし。
「そこで我は誓ったのだ。人間どもがあの、我が仇敵を崇め続けるのなら、我はその行為そのものを粉砕しようと! アルドレイの名をこの世から消すほどに!」
「あー、そうか。お前かっこつけてしゃべってるけど、ようするにアレなのか」
俺はニヤリと笑った。
「単なるアルドレイアンチってわけだな」
「アンチ、だと……」
「そうそう。アンチ行為、マジださっ! 相手もう死んでるのに粘着しすぎぃ」
「き、貴様……我を侮辱するというのか!」
とたんに、デューク・デーモンの顔色が真っ赤になった。
「我への侮辱は我が一族への侮辱と同じ! 覚悟せよ、人間!」
デューク・デーモンは俺に襲い掛かってきた!
さて、それから数秒後、俺は無事に?領主の館に着いていた。というか、屋根を突き破り、一階の床の上に着弾していた。
「こ、これは何事――」
俺が落ちたのは、ちょうどニセモノの剣が置いてある玄関ホールだった。周りには衛兵たちと見物客が数人いたが、みな驚いた顔で俺を見ている。
「あ、あの……すごい大きな音がしたんですけど、大丈夫ですか?」
見物客の一人と思しき、小太りのおばちゃんが俺に近づいてきた。「いえ、これぐらいなんとも」俺は体についた木屑などを手で払いながら立ち上がった。
「ちょうど高校の体育の授業で柔道を習ってましたからね。受け身はばっちりです」
そうそう。確か、剣道と柔道、どっちを習うか二択だったんだよなあ。剣道が防具が汗臭いから柔道にしたんだよなあ。選んでよかった柔道。
「お、お前! なんで空から――」
と、ワンテンポ遅れて、今度は衛兵たちがぞろぞろ集まってきた。まあ、当然か。まだ上空のモンスターは飛来してきてないようだし。
「聞いてください。これからここに魔物がやってきます。たぶんわりと強い? だからみんなここから逃げてください」
「何を突然。急に空から落ちてきた胡乱《うろん》な輩の言葉を信じるわけなかろう!」
「そうだ、適当なことを言うな!」
「だいたい、空から落ちてきてピンピンしているお主のほうが魔物ではないか? ウケミとはなんだ! まずはそこから説明しろ!」
衛兵たちは口をそろえて、俺に反論する。ちょ、まるで信用されてない……。
「飛んできたのは急いでたからです! だから知り合いに魔法でここまで飛ばしてもらって……あ、受け身ってのは柔道っていう武道の基本の技です。俺の生まれた国ではメジャーな格闘技なんですよ。海外でもかなり普及してるんですが、最近は国際試合で外人選手に有利なルールばっかり追加されてるみたいで、俺としては、そこはマジで許せないかなって思う今日このごろ――」
と、俺が柔道のなんたるかを語り始めたときだった。
突如、壁をぶち壊して、大きなモンスターが館の中に入ってきた!
「うわあああっ!」
俺以外の全員が、たちまち悲鳴を上げた。
「ほら、言ったじゃないですか。モンスター来るって。俺、ちゃんと警告しましたよ?」
俺はふふん、と、鼻を鳴らしながら言った。
「に、逃げろおおっ!」
おそらくほとんど一般人だと思われる見物客たちは、あわてて、館の外に逃げていく。外で行列を作ってる人たちもおそらく同様だろう。うむ、正しい判断だ。安心した。
だが、衛兵たちはそうではなかった。勇ましくも、剣や槍などそれぞれ握り締め、突如現れた謎のモンスターを囲み始める。それは遠くから確認したとおり、悪魔系の上位モンスターのようだった。羊のようなツノが生えた頭に、体長五メートルはありそうな巨大で、筋肉隆々のボディ。二本足で立っているが、脚の形は獣の後ろ足によく似ている。背中にはコウモリのような翼が生えている。おそらく、デューク・デーモンっていうやつだ。そう、普通の人間ではまず太刀打ちできないレベルの種族……。
「た、例え魔物といえど、数は一匹! ひ、ひるむな!」
隊長らしき兵士のおっさんが震える声で叫んだ。
「やめとけよ。こいつはあんたらじゃ倒せないぜ。早く逃げ――」
「かかれ!」
衛兵たちは俺の言葉なんか聞いちゃいねえ。瞬間、いっせいにデューク・デーモンに飛びかかった。
そして、直後、デューク・デーモンの鼻息で、全員吹っ飛ばされ、反対側の館の壁に打ち付けられることになった。
「あーあ。だから言ったのに」
鼻息一つでこれかよ。壁際でうめき声を上げている衛兵たちの姿に、俺はため息を吐かずに入られなかった。だから、はよ逃げろって言っただろうが。
「ほう。我が波動を受けて、立っていられる人間がいようとはな」
と、デューク・デーモンが、俺のほうを見た。そうか、今のは鼻息じゃなくて、攻撃の波動だったのか……。そこでようやく気がつく俺だった。
「まあ、お前みたいなのを相手にするのは慣れてるからな」
「面白い。久しくホネのある相手にめぐり合えず、生き飽いていたところだ」
デューク・デーモンはくぼんだ眼窩の奥の金色の瞳を鋭く光らせ、にやりと笑った。なんだよ、こいつ。バトル脳かよ。
「戦ってもいいんだが、せっかく言葉が通じる相手みたいだし、まずは説明してくれ。お前、何しにここに来たんだ?」
「……これだ」
と、デューク・デーモンは、近くに飾られている勇者アルドレイの剣 (ニセモノ)を指差した。
「アルドレイ……それは我が種族にとって忌まわしき名! かつて、あの男一人に、我が眷属が、どれほど血祭りにあげられたことか……」
「どれほどって……あ」
そういえば、思い出したぞ。一時期、悪魔系モンスターを狩りまくってた時期があったっけ。悪魔系モンスターを千匹倒すと、女神の祝福により超絶モテ体質になるって話を聞いて。まあ、デマだったけどな!
「そっか、そりゃあ、災難だったなあ」
ごめん。悪気はなかったんだ。あのころの俺はモテるためならなんだってやるボーイだったから。
「我はずっと復讐の機会をうかがっていた。だが、ようやくやつの居所を突き止めた直後、やつは病で倒れて勝手に死んでいた! なんと卑怯千万! まさに勝ち逃げというやつだ!」
「そ、そうかな? その人も別に好きで死んだわけじゃないんじゃあ」
勝ち逃げどころか、実は好きな人に殺されたんですよ。悲劇マックスですよ?
「だが、我もさすがに冥府までは追って行けぬ。振り上げた拳を、断腸の思いで下ろし、やつがもたらした惨劇の記憶を忘れるほかなかった……はずだったのだが!」
デューク・デーモンはそこで、アメリカの法廷ドラマに登場する弁護士みたいに、ひときわオーバーリアクションで拳を振り上げた。
「近年、人間どもは何かにつけアルドレイアルドレイと、やつを称えはじめているではないか! なぜだ! 許せぬ!」
「そ、それは、早死にしたからじゃないっすか。尾崎なんとかとかいう歌手もそうでしょ。早めに死ぬと後世の人間に神格化されて、過剰評価されがちっていうか。五千円札の女とかもそんな感じだし……」
「そんなものは知らん!」
「ですよねー」
俺も実際、五千円札の女は最近までよく知らんかったし。
「そこで我は誓ったのだ。人間どもがあの、我が仇敵を崇め続けるのなら、我はその行為そのものを粉砕しようと! アルドレイの名をこの世から消すほどに!」
「あー、そうか。お前かっこつけてしゃべってるけど、ようするにアレなのか」
俺はニヤリと笑った。
「単なるアルドレイアンチってわけだな」
「アンチ、だと……」
「そうそう。アンチ行為、マジださっ! 相手もう死んでるのに粘着しすぎぃ」
「き、貴様……我を侮辱するというのか!」
とたんに、デューク・デーモンの顔色が真っ赤になった。
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