上 下
12 / 436
1章 暴虐の黄金竜マーハティカティ再討伐編

12 強敵現る?

しおりを挟む
「え、各地のアルドレイの遺品が魔物に狙われてる?」

 それはまさに、寝耳に水の話だった。

「そうよ。なぜだかわからないけど、アルドレイゆかりのアイテムを持つ人間が魔物に襲われる事件が多発してるみたいなのよ。だから、ここの街の領主も、近いうちに手放すつもりなのね。もちろん、魔物に襲われるいわくつきのアイテムだってことは秘密にしてね」
「まあ、そんなことが公になったらオークションに出品できなくなるしな……」

 ニセモノだったけどな!

「にしても、ティリセ様、すごいです。そんな秘密の情報を半日足らずで入手してるなんて」
「別に。豪華な剣って聞いたから、実際、盗んだとして、いくらぐらいでさばけるものなのか、この街の盗賊ギルドに聞きに行っただけよ。そしたら、そこでは、下っ端の雑用係ですら知ってることだったわ。アルドレイ関連、全面取引禁止って通達の張り紙もあったわねえ」
「そ、そうか、元盗賊様は、そういうところに顔が利くのか……」

 というか、実際高値で売れそうだったら盗む気マンマンだったよね、君のその行動?

「でも、なんで、智樹様が昔使っていたアイテムを魔物が狙っているんでしょう?」

 ユリィは首をかしげる。確かに妙な話だ。

「ま、いずれにしても、この街の剣とは無関係の話だな。ありゃ、真っ赤なニセモノだしな」
「そうでもないわよ。魔物がニセモノだって判断できるわけないんだから。実際、ついこのあいだ狙われたアイテムは、『アルドレイが生前使っていた手鏡』だったわ」
「え? 手鏡なんて俺使ってなかったけど?」
「そうよね。そんなリア充アイテム、童貞のあんたが持ってるわけないわ。つまり、それはニセモノ。そして、それが狙われたって事は、魔物にとって遺品の真贋は関係ないってことなのよ」
「お、おう……」

 話はわかりやすいが、どさくさに俺をけなすのやめてくれないかな、このクソエルフ。

「じゃあ、この街にも、あの智樹様の剣のニセモノを狙って、魔物が来るかもしれないってことでしょうか」
「そうだな。鉢合わせると面倒なことになりそうだ。とっととこんな街出ようぜ」

 球も直せないポンコツ職人しかいないしな。

「そうね。稼げるネタでもないし、明日朝一番に出発しましょ」

 ティリセも俺の言葉に賛同した。

 だが、その翌朝――。

「おい、てめえら、いつまで寝てんだよ!」

 女神の後れ毛亭の二階、ティリセたちの部屋の前で扉を蹴り飛ばしている俺の姿があった。女ども二人は、ゆうべはまた遅くまで飲んでいたらしい。そして、その反動で、今朝は超絶寝坊しやがっている。もう太陽がだいぶ高くなっている時間だというのに。

「……うっさいわね。もう少し寝かせなさいよ」

 やがて、ティリセがネグリジェ一枚の格好で出てきた。普通なら眼福と言いたいところだが、こいつは貧乳で貧相な体つきだし、今は寝起きで髪はぼっさぼさだし、口の端にヨダレの跡がついてるしで、見てもいらだち以外何も感じなかった。

「早く着替えろ。あと顔も洗え。すぐにここを出るぞ」

 俺は部屋に入り、窓を開けた。明るい日差しがいっぱいに部屋に入ってきた。近くのベッドでは、ユリィがシーツの束を抱きしめながらぐうぐう寝ている。お前も早く起きろ。

「朝からうるさいわね。あたしがゆうべ寝たの何時だと思ってんのよ。もっと寝かせなさいよ」
「てめえ、昨日俺にした話忘れたのかよ?」
「話って……なんだっけ?」
「俺の遺品に関わる面倒事のことだよ! 自分で言って忘れんな!」

 俺はそこで、ユリィのベッドに近づき、彼女が抱きしめているシーツの束を取り上げた。「ほわぁ?」と、そこで、ユリィもようやく目覚めたようだった。おせーよ。

「ああ、そんなことあったわねえ。でも、別に急ぐ必要ないんじゃないの。この街に魔物が来るとはまだ決まってないんだし」

 ティリセは寝ぼけ眼のまま、窓に近づき、外の景色を見た。

「ほら、街は今日も平和じゃん? いい天気じゃん?」

 確かに、窓の外は雲ひとつない青空と、昨日と変わらない平和な街の風景があった。

 あった――が、

「あれ? なんか飛んでる?」

 ふと、ティリセは眉を寄せた。なんだろう、俺も窓に近づき、その視線の先を追った。確かに、上空に何か飛んでいる。しかも、シルエットは鳥じゃない。あれは……。

「悪魔系モンスターじゃん。それも結構上位のやつね」

 ティリセはあくびをしながら言った。

「え、上位のやつ? でもなんか、街に降りてきてないか?」

 というか、その向かっている方向はどう見ても領主の館だった。そう、俺の剣 (ニセモノ)が飾ってある……。

「やばいだろ、アレ。あそこには人がゴミのようにたくさんいるってのに」
「別に放置でいいでしょ。魔物に襲われるほうが悪いわ」

 ティリセは相変わらず眠たげで、実にどうでもいい感じだ。

「よかねえよ! あそこにいるの、ほとんど一般人だぞ! しかも、過去の俺のファンじゃねえか!(ここかなり重要)」
「じゃあ、あんた一人で行けば?」
「ああ。だが、今から行って間に合うかどうか――」

 俺はちらっと、これ見よがしにちらっと、ティリセの顔を見た。そして、「こういうとき、速く移動できる魔法があればなあ」と独り言をつぶやいた。あくまで独り言な!

「ちっ、いちいち世話のかかるやつね。ここに立ちなさい」

 ティリセはいかにもめんどくさそうに窓枠を指差した。俺はすぐにそこに飛び乗った。

「あんたをあそこまで飛ばすわよ。あとは自分でなんとかしなさい」
「おうよ!」
「じゃあ、がんばってね」

 ぽん、と、ティリセは俺の背中を軽く叩いた。

 そして、その瞬間、俺の体はすさまじい速さで、窓から射出された!

「ぎゃああああっ!」

 なんだよこの魔法! 明らかに人間の移動に使う魔法じゃないんですけど! まるで人間ロケットなんですけど! 俺は悲鳴とともに、領主の館にぶっ飛ばされた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ブラック宮廷から解放されたので、のんびりスローライフを始めます! ~最強ゴーレム使いの気ままな森暮らし~

ヒツキノドカ
ファンタジー
「クレイ・ウェスタ―! 貴様を宮廷から追放する!」  ブラック宮廷に勤めるゴーレム使いのクレイ・ウェスターはある日突然クビを宣告される。  理由は『不当に高い素材を買いあさったこと』とされたが……それはクレイに嫉妬する、宮廷魔術師団長の策略だった。  追放されたクレイは、自由なスローライフを求めて辺境の森へと向かう。  そこで主人公は得意のゴーレム魔術を生かしてあっという間に快適な生活を手に入れる。    一方宮廷では、クレイがいなくなったことで様々なトラブルが発生。  宮廷魔術師団長は知らなかった。  クレイがどれほど宮廷にとって重要な人物だったのか。  そして、自分では穴埋めできないほどにクレイと実力が離れていたことも。  「こんなはずでは……」と嘆きながら宮廷魔術師団長はクレイの元に向かい、戻ってくるように懇願するが、すでに理想の生活を手に入れたクレイにあっさり断られてしまう。  これはブラック宮廷から解放された天才ゴーレム使いの青年が、念願の自由なスローライフを満喫する話。 ーーーーーー ーーー ※4/29HOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝! ※推敲はしていますが、誤字脱字があるかもしれません。 見つけた際はご報告いただけますと幸いです……

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

金貨増殖バグが止まらないので、そのまま快適なスローライフを送ります

桜井正宗
ファンタジー
 無能の落ちこぼれと認定された『ギルド職員』兼『ぷちドラゴン』使いの『ぷちテイマー』のヘンリーは、職員をクビとなり、国さえも追放されてしまう。  突然、空から女の子が降ってくると、キャッチしきれず女の子を地面へ激突させてしまう。それが聖女との出会いだった。  銀髪の自称聖女から『ギフト』を貰い、ヘンリーは、両手に持てない程の金貨を大量に手に入れた。これで一生遊んで暮らせると思いきや、金貨はどんどん増えていく。増殖が止まらない金貨。どんどん増えていってしまった。  聖女によれば“金貨増殖バグ”だという。幸い、元ギルド職員の権限でアイテムボックス量は無駄に多く持っていたので、そこへ保管しまくった。  大金持ちになったヘンリーは、とりあえず念願だった屋敷を買い……スローライフを始めていく!?

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

闇の錬金術師と三毛猫 ~全種類のポーションが製造可能になったので猫と共にお店でスローライフします~

桜井正宗
ファンタジー
Cランクの平凡な錬金術師・カイリは、宮廷錬金術師に憧れていた。 技術を磨くために大手ギルドに所属。 半年経つとギルドマスターから追放を言い渡された。 理由は、ポーションがまずくて回復力がないからだった。 孤独になったカイリは絶望の中で三毛猫・ヴァルハラと出会う。人語を話す不思議な猫だった。力を与えられ闇の錬金術師に生まれ変わった。 全種類のポーションが製造可能になってしまったのだ。 その力を活かしてお店を開くと、最高のポーションだと国中に広まった。ポーションは飛ぶように売れ、いつの間にかお金持ちに……! その噂を聞きつけた元ギルドも、もう一度やり直さないかとやって来るが――もう遅かった。 カイリは様々なポーションを製造して成り上がっていくのだった。 三毛猫と共に人生の勝ち組へ...!

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

嘘つきと言われた聖女は自国に戻る

七辻ゆゆ
ファンタジー
必要とされなくなってしまったなら、仕方がありません。 民のために選ぶ道はもう、一つしかなかったのです。

処理中です...