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1章 暴虐の黄金竜マーハティカティ再討伐編
2 お元気ですか異世界列島
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さて、なぜか突然ポニテ美少女に異世界に拉致された俺だが、もちろん、それまでの人生は平凡そのものだった。容姿も成績も家の経済事情も極めて普通の、高校生だったのだ。
あえて普通じゃないところを挙げるとすれば、俺はなぜかめっぽう喧嘩が強かった。特に訓練したわけでもないのに、生まれる前から戦いのすべを熟知しているようだった。
例えば、四歳の頃、公園で砂遊びをしていると、突然大きな犬が襲いかかって来たのだが、すぐに返り討ちにすることができた。犬の首にはリードが付いており、遠くに飼い主らしい男がいた。散歩の途中で暴走したようだった。俺でなければやられていただろう。四歳の俺はふっと笑って、俺にコテンパンにされて白目をむいて倒れている犬の体に座った。どんなもんでい。
もちろん俺の武勇伝はそれにとどまらない。七歳の時には、下校途中にたまたま前を通りがかった銀行で強盗事件が発生していたので、ランドセルと文房具を駆使して犯人達を取り押さえることに成功した。十歳の時には、たまたま近くのクマ牧場へ輸送中に脱走したヒグマの群れと遭遇したので、それを無傷で生け捕りにし、牧場に返した。十四歳の時には、家族旅行で行った中東のとある国でたまたま内戦に巻き込まれたので、とりあえず一人でゲリラ部隊を壊滅させ家族みんなで無事国外に脱出し、ことなきを得た。かようにして、俺は、やたらと喧嘩が強いという以外は、実に平凡な人生を送って来たのだった。
「いや、それは平凡とは言わないと思います……」
原っぱで俺と向かい合って正座しているポニテ少女は、俺の自己紹介を聞きながら、はあとため息を漏らした。呆れたような声と口調だった。
「え、でも、喧嘩が強くても特にいいことなかったぜ。たまに柔道部とか剣道部とかの助っ人頼まれるぐらいでさ」
「アルドレイ様がそれまでいらした地球という世界ではそうなのでしょう。しかし、その意味不明な強さこそが、あなた様がまぎれもない勇者であるというあかしなのですよ」
「いや、さっきから俺のこと、勇者とかアルドレイとかそういう呼び名で話進めてるけどさ、俺の名前は二宮智樹って言うんだけど。別に勇者やってないんだけど。ジョブは学生なんだけど」
「わかっています。あなた様は今は二宮智樹という名前ですが、かつては勇者アルドレイとして生きていました。つまり、アルドレイ様というのはあなた様の」
「前世?」
「はい。そういうことです」
ポニテ少女はきっぱりと断言した。
「そ、そうか。言われてみれば、まあ、そうなんだろうけどさ……」
心当たりはめちゃくちゃあるしなあ。あのバッドエンドの夢の記憶。
「でも、死んだら違う世界で生まれ変わりってそういうのありなの?」
「ありです」
「自由だな、オイ……」
まあ、ここファンタジー世界みたいだし、そのへんは適当なんだろう。
「そういうわけで勇者様、さっそくですが、あの竜を退治していただきたく……」
「え、なんで?」
「? なぜと言いますと?」
「だってさ、俺は今まで、普通の高校生としてそれなりに満足して生活してたんだぜ。前世とか知るかよ。早く元の世界に返せよ」
「で、ですが、アルドレイ様のお力なくしては、この世界は竜に滅ぼされてしまいます」
「そんなのこの世界の人間でなんとかすりゃいいだろうが。勇者はもう死んだんだよ。で、俺はただの学生。お前のやったことはただの誘拐。未成年者略取。俺の世界じゃ重犯罪だぞ」
「え……わ、わたしってば、とても悪いことをしてしまったのですか?」
ポニテ少女はたちまち青い顔になった。
「そうだよ。わかったら早く俺を元の場所に返せ。そして違う人材探せ」
「で、でも……わたし、そんな魔法使えない……」
ポニテ少女はおろおろしてるようだ。
「何言ってんだよ。なんか魔法っぽいもの使って、俺をこっちの世界に拉致したじゃねえか」
「あれは魔法の水晶の力を使ったんです。わたし自身の魔法ではなくて……それで、その力はもう残っていないんです」
ポニテ少女は申し訳なさそうにうなだれつつ、ふところから水晶の球を取りだした。それはさっきまでとは違って、輝きを失い、くすんでいるように見えた。
「じゃあ、お前は俺を元の世界に返せないのか?」
「はい……」
「んだよ、それ!」
ほんとにもう、意味わからんし! 憤然として、原っぱに大の字に寝転がってしまう俺だった。草と土のにおいがした。それは地球のものと変わらないように思えた。何が異世界だよ、バカバカしい。
「だ、大丈夫ですよ。この水晶に魔力を込めてくれた、わたしのお師匠様に頼めば、きっと元の世界に帰れるはずです」
「へー、そのお師匠様のところへ行くのはどれくらいかかるの」
「ここからだと、えーっと、いっか、二十日くらいでしょうか」
「今、一カ月って言おうとしてなかった? そんなに遠いのかよ」
「い、いえいえ! 頑張って行けば、もっと早く着くはずです。ほんとにほんとです!」
「あーあ、一カ月にしろ二十日にしろ、それまで帰れないのかよ。マジ最悪」
ごろごろ。草の上を転がっちゃう俺だった。ほんとにもう、やってらんないよ。こないだ買ったゲーム、あともう少しでクリアだったのにさ。しばらく出来ないって何。最低、二十日はお預けって何。あと、そろそろ放送される深夜アニメの最終回も見れねえじゃねえか。今期豊作だったんだぞ、クソが。
「あ、あの、アルドレイ様。ここで寝ていては、いつまでたっても帰れませんよ? それに、その、この世界には悪い竜がいてですね……」
いかにも気まずそうにポニテ少女が話しかけてくるが無視だ。今はふてくされながら、ひたすら草の上を転がるしかない俺だった。ごろごろ。ごろごろ。
と、その時だった。突然ポニテ少女が「きゃあ!」と悲鳴をあげた。
いったい何事だろう。俺はすぐに身を起こし、周りを見回した。すると、いつのまにやら、複数の亜人型のモンスターに囲まれているようだった。ブタそっくりの頭に、黒光りする肥えた体を申し訳程度の皮の鎧で覆ったその姿には、見覚えがあった。そう、オーク族だ。アルドレイとして生きていたころ、冒険者駆けだしの時にレベル上げにお世話になったモンスターの一種だ。みな、斧やら棍棒やら安っぽい武器で武装している。
そして、ポニテ少女はその一匹に捕まってじたばたしていた。
「兄貴ぃ、人間の女ですよ。ぐへへ」
「いたずらしちゃおうかな。ぐへへ」
オーク族たちはよだれを垂らしながら、ポニテ少女を見つめている。
「は、放して!」
「ちがうなあ。そこは、『くっ、殺せ!』とか言わなきゃあ」
「そうそう。俺達、下品なオーク族だしぃ。これから、君に殺されたほうがマシないたずらしちゃうわけだしぃ?」
「さあ、言ってみよう。リピートアフターミー、『くっ、殺せ!』。略してくっころ!」
「くっころ! くっころ!」
「――って、何遊んでんだよ、てめーら!」
どこっ! さすがにツッコミのパンチを近くのオークに浴びせずにはいられなかった。何が、くっころだよ! そういうのはカタブツの女騎士に言わせるものだろうがよ! 全然わかってねえよ、こいつら!
「な、なんだ、こいつ、突然……」
オーク達は寝転がっていた俺の存在に全く気付いてなかったのだろう。一様にびっくりしている。ちなみに、俺が殴ったオークは、数メートル離れたところで倒れていて、口から泡を吹きながら痙攣している。
「てめえ、この女の仲間か!」
「男には用はねえんだよ!」
「死ね!」
たちまち、オーク達はいっせいに襲いかかって来た――が、
どかばき、ぼこぼこ!
素手でいとも簡単に倒すことができた。
「ひいい! こいつ、メチャ強え……」
かろうじて俺が仕留めそこなったオーク達も、俺の強さにびびったようだった。失禁しながら、ちりぢりに逃げて行った。
「おい、大丈夫か」
俺はオーク達が捨てて行ったポニテ少女に近づいた。すると、彼女は「うえええん!」と泣きながら俺の胸にしがみついてきた。
「わ、わたし、本当に怖くて……死ぬかと思って……」
俺の制服の胸元を涙で濡らしながら言う。その胸のふくらみが俺の体に当たって、なんか少しどぎまぎしてしまう。
「いや、大げさだろ。あんなのどう見ても、しょぼい雑魚モンスター……」
「そんなこと、ないです! 普通の人間ならやられてます! わたしだって、勇者様が助けてくださらなかったら今頃……」
「そうか。あいつらにエッチなこと色々されてたんだな。じゃあ、どうせなら、それを見届けてから助ければよかったかな」
「ひ、ひどいです! そんなこと言わないでください!」
「はは。冗談だよ、冗談」
笑いながら、ポニテ少女の背中をぽんぽんと叩いてやった。第一印象では、なんだか生真面目で、とっつきにくい感じがしたが、意外と普通の女の子なんだな。ちょっと親近感を覚えた。
「あ、ああいうタチの悪いモンスターは、最近急に沸いて来たんです」
やがて落ちついたのだろう、ポニテ少女は俺から離れて、言った。
「へえ。もしかしてそれって、さっき言ってた、悪いドラゴンが目覚めたのと関係あるのか?」
「はい。かの竜の悪しき魔力により、各地のモンスターが活性化してるそうです。このままでは人間はモンスターに滅ぼされてしまいます」
「あんな弱い連中に?」
ちょっと信じられないなあ。素手で倒せたのに。
「勇者様だから、そう言えるのです。普通の人なら、あんなモンスター達を素手で倒すことなんで不可能です。それに、あれよりもっと強いモンスターもたくさんいるんです」
「まあ、そうだろうな」
オークって雑魚モンスターの代表みたいなもんだったしな。ガーゴイルとかキマイラとか、もっと経験値の多い上位モンスター、たくさんいるはずだしな。
「お願いです、勇者様。これ以上、モンスターたちに好き放題させないためにも、ぜひあの竜めを今一度倒してください!」
「やだよ、めんどくさいし」
「そんなことを言わないでください……」
「それにさ、俺、前に一度、そのドラゴン倒してんだぜ。で、その後、姫に殺されたの。人類救った英雄のはずなのになぜかバッドエンド。理不尽すぎね? どうせまた同じことになるんだろ。そんなのもうやだよ」
「そ、それはその……その人にも色々と事情があったはずです……」
ポニテ少女はいかにも返答に困っている様子だ。まあ、当然か。きっと、人類を救った勇者の最期なんて、知らなかっただろうしな。
「てなわけで、俺はとっとと自分の世界に帰るから。そのつもりだから。わかったら、お前の師匠とやらのところまで案内してくれ」
「は、はい……」
ポニテ少女はしょんぼりしながらも、うなずいた。
俺としては突然異世界に拉致されて、理不尽極まりない境遇なんだが、こいつはこいつで、悪気があってやったわけじゃないんだろうな。この世界の人類の存亡がかかってるみたいだし。そう考えると、なんだか同情の気持ちすら沸いてきた。
「なあ、お前、なんていう名前なんだ?」
「わたしですか? ユリィです」
「そうか、よろしくな、ユリィ。あと、俺はさっきも言ったけど、二宮智樹って言うんだ。もう勇者はやってないし、やらないつもりだから、智樹って呼んでくれよ」
「はい、わかりました、智樹様……」
ユリィはやはり落胆しつつも、俺の呼び方を改めた。
あえて普通じゃないところを挙げるとすれば、俺はなぜかめっぽう喧嘩が強かった。特に訓練したわけでもないのに、生まれる前から戦いのすべを熟知しているようだった。
例えば、四歳の頃、公園で砂遊びをしていると、突然大きな犬が襲いかかって来たのだが、すぐに返り討ちにすることができた。犬の首にはリードが付いており、遠くに飼い主らしい男がいた。散歩の途中で暴走したようだった。俺でなければやられていただろう。四歳の俺はふっと笑って、俺にコテンパンにされて白目をむいて倒れている犬の体に座った。どんなもんでい。
もちろん俺の武勇伝はそれにとどまらない。七歳の時には、下校途中にたまたま前を通りがかった銀行で強盗事件が発生していたので、ランドセルと文房具を駆使して犯人達を取り押さえることに成功した。十歳の時には、たまたま近くのクマ牧場へ輸送中に脱走したヒグマの群れと遭遇したので、それを無傷で生け捕りにし、牧場に返した。十四歳の時には、家族旅行で行った中東のとある国でたまたま内戦に巻き込まれたので、とりあえず一人でゲリラ部隊を壊滅させ家族みんなで無事国外に脱出し、ことなきを得た。かようにして、俺は、やたらと喧嘩が強いという以外は、実に平凡な人生を送って来たのだった。
「いや、それは平凡とは言わないと思います……」
原っぱで俺と向かい合って正座しているポニテ少女は、俺の自己紹介を聞きながら、はあとため息を漏らした。呆れたような声と口調だった。
「え、でも、喧嘩が強くても特にいいことなかったぜ。たまに柔道部とか剣道部とかの助っ人頼まれるぐらいでさ」
「アルドレイ様がそれまでいらした地球という世界ではそうなのでしょう。しかし、その意味不明な強さこそが、あなた様がまぎれもない勇者であるというあかしなのですよ」
「いや、さっきから俺のこと、勇者とかアルドレイとかそういう呼び名で話進めてるけどさ、俺の名前は二宮智樹って言うんだけど。別に勇者やってないんだけど。ジョブは学生なんだけど」
「わかっています。あなた様は今は二宮智樹という名前ですが、かつては勇者アルドレイとして生きていました。つまり、アルドレイ様というのはあなた様の」
「前世?」
「はい。そういうことです」
ポニテ少女はきっぱりと断言した。
「そ、そうか。言われてみれば、まあ、そうなんだろうけどさ……」
心当たりはめちゃくちゃあるしなあ。あのバッドエンドの夢の記憶。
「でも、死んだら違う世界で生まれ変わりってそういうのありなの?」
「ありです」
「自由だな、オイ……」
まあ、ここファンタジー世界みたいだし、そのへんは適当なんだろう。
「そういうわけで勇者様、さっそくですが、あの竜を退治していただきたく……」
「え、なんで?」
「? なぜと言いますと?」
「だってさ、俺は今まで、普通の高校生としてそれなりに満足して生活してたんだぜ。前世とか知るかよ。早く元の世界に返せよ」
「で、ですが、アルドレイ様のお力なくしては、この世界は竜に滅ぼされてしまいます」
「そんなのこの世界の人間でなんとかすりゃいいだろうが。勇者はもう死んだんだよ。で、俺はただの学生。お前のやったことはただの誘拐。未成年者略取。俺の世界じゃ重犯罪だぞ」
「え……わ、わたしってば、とても悪いことをしてしまったのですか?」
ポニテ少女はたちまち青い顔になった。
「そうだよ。わかったら早く俺を元の場所に返せ。そして違う人材探せ」
「で、でも……わたし、そんな魔法使えない……」
ポニテ少女はおろおろしてるようだ。
「何言ってんだよ。なんか魔法っぽいもの使って、俺をこっちの世界に拉致したじゃねえか」
「あれは魔法の水晶の力を使ったんです。わたし自身の魔法ではなくて……それで、その力はもう残っていないんです」
ポニテ少女は申し訳なさそうにうなだれつつ、ふところから水晶の球を取りだした。それはさっきまでとは違って、輝きを失い、くすんでいるように見えた。
「じゃあ、お前は俺を元の世界に返せないのか?」
「はい……」
「んだよ、それ!」
ほんとにもう、意味わからんし! 憤然として、原っぱに大の字に寝転がってしまう俺だった。草と土のにおいがした。それは地球のものと変わらないように思えた。何が異世界だよ、バカバカしい。
「だ、大丈夫ですよ。この水晶に魔力を込めてくれた、わたしのお師匠様に頼めば、きっと元の世界に帰れるはずです」
「へー、そのお師匠様のところへ行くのはどれくらいかかるの」
「ここからだと、えーっと、いっか、二十日くらいでしょうか」
「今、一カ月って言おうとしてなかった? そんなに遠いのかよ」
「い、いえいえ! 頑張って行けば、もっと早く着くはずです。ほんとにほんとです!」
「あーあ、一カ月にしろ二十日にしろ、それまで帰れないのかよ。マジ最悪」
ごろごろ。草の上を転がっちゃう俺だった。ほんとにもう、やってらんないよ。こないだ買ったゲーム、あともう少しでクリアだったのにさ。しばらく出来ないって何。最低、二十日はお預けって何。あと、そろそろ放送される深夜アニメの最終回も見れねえじゃねえか。今期豊作だったんだぞ、クソが。
「あ、あの、アルドレイ様。ここで寝ていては、いつまでたっても帰れませんよ? それに、その、この世界には悪い竜がいてですね……」
いかにも気まずそうにポニテ少女が話しかけてくるが無視だ。今はふてくされながら、ひたすら草の上を転がるしかない俺だった。ごろごろ。ごろごろ。
と、その時だった。突然ポニテ少女が「きゃあ!」と悲鳴をあげた。
いったい何事だろう。俺はすぐに身を起こし、周りを見回した。すると、いつのまにやら、複数の亜人型のモンスターに囲まれているようだった。ブタそっくりの頭に、黒光りする肥えた体を申し訳程度の皮の鎧で覆ったその姿には、見覚えがあった。そう、オーク族だ。アルドレイとして生きていたころ、冒険者駆けだしの時にレベル上げにお世話になったモンスターの一種だ。みな、斧やら棍棒やら安っぽい武器で武装している。
そして、ポニテ少女はその一匹に捕まってじたばたしていた。
「兄貴ぃ、人間の女ですよ。ぐへへ」
「いたずらしちゃおうかな。ぐへへ」
オーク族たちはよだれを垂らしながら、ポニテ少女を見つめている。
「は、放して!」
「ちがうなあ。そこは、『くっ、殺せ!』とか言わなきゃあ」
「そうそう。俺達、下品なオーク族だしぃ。これから、君に殺されたほうがマシないたずらしちゃうわけだしぃ?」
「さあ、言ってみよう。リピートアフターミー、『くっ、殺せ!』。略してくっころ!」
「くっころ! くっころ!」
「――って、何遊んでんだよ、てめーら!」
どこっ! さすがにツッコミのパンチを近くのオークに浴びせずにはいられなかった。何が、くっころだよ! そういうのはカタブツの女騎士に言わせるものだろうがよ! 全然わかってねえよ、こいつら!
「な、なんだ、こいつ、突然……」
オーク達は寝転がっていた俺の存在に全く気付いてなかったのだろう。一様にびっくりしている。ちなみに、俺が殴ったオークは、数メートル離れたところで倒れていて、口から泡を吹きながら痙攣している。
「てめえ、この女の仲間か!」
「男には用はねえんだよ!」
「死ね!」
たちまち、オーク達はいっせいに襲いかかって来た――が、
どかばき、ぼこぼこ!
素手でいとも簡単に倒すことができた。
「ひいい! こいつ、メチャ強え……」
かろうじて俺が仕留めそこなったオーク達も、俺の強さにびびったようだった。失禁しながら、ちりぢりに逃げて行った。
「おい、大丈夫か」
俺はオーク達が捨てて行ったポニテ少女に近づいた。すると、彼女は「うえええん!」と泣きながら俺の胸にしがみついてきた。
「わ、わたし、本当に怖くて……死ぬかと思って……」
俺の制服の胸元を涙で濡らしながら言う。その胸のふくらみが俺の体に当たって、なんか少しどぎまぎしてしまう。
「いや、大げさだろ。あんなのどう見ても、しょぼい雑魚モンスター……」
「そんなこと、ないです! 普通の人間ならやられてます! わたしだって、勇者様が助けてくださらなかったら今頃……」
「そうか。あいつらにエッチなこと色々されてたんだな。じゃあ、どうせなら、それを見届けてから助ければよかったかな」
「ひ、ひどいです! そんなこと言わないでください!」
「はは。冗談だよ、冗談」
笑いながら、ポニテ少女の背中をぽんぽんと叩いてやった。第一印象では、なんだか生真面目で、とっつきにくい感じがしたが、意外と普通の女の子なんだな。ちょっと親近感を覚えた。
「あ、ああいうタチの悪いモンスターは、最近急に沸いて来たんです」
やがて落ちついたのだろう、ポニテ少女は俺から離れて、言った。
「へえ。もしかしてそれって、さっき言ってた、悪いドラゴンが目覚めたのと関係あるのか?」
「はい。かの竜の悪しき魔力により、各地のモンスターが活性化してるそうです。このままでは人間はモンスターに滅ぼされてしまいます」
「あんな弱い連中に?」
ちょっと信じられないなあ。素手で倒せたのに。
「勇者様だから、そう言えるのです。普通の人なら、あんなモンスター達を素手で倒すことなんで不可能です。それに、あれよりもっと強いモンスターもたくさんいるんです」
「まあ、そうだろうな」
オークって雑魚モンスターの代表みたいなもんだったしな。ガーゴイルとかキマイラとか、もっと経験値の多い上位モンスター、たくさんいるはずだしな。
「お願いです、勇者様。これ以上、モンスターたちに好き放題させないためにも、ぜひあの竜めを今一度倒してください!」
「やだよ、めんどくさいし」
「そんなことを言わないでください……」
「それにさ、俺、前に一度、そのドラゴン倒してんだぜ。で、その後、姫に殺されたの。人類救った英雄のはずなのになぜかバッドエンド。理不尽すぎね? どうせまた同じことになるんだろ。そんなのもうやだよ」
「そ、それはその……その人にも色々と事情があったはずです……」
ポニテ少女はいかにも返答に困っている様子だ。まあ、当然か。きっと、人類を救った勇者の最期なんて、知らなかっただろうしな。
「てなわけで、俺はとっとと自分の世界に帰るから。そのつもりだから。わかったら、お前の師匠とやらのところまで案内してくれ」
「は、はい……」
ポニテ少女はしょんぼりしながらも、うなずいた。
俺としては突然異世界に拉致されて、理不尽極まりない境遇なんだが、こいつはこいつで、悪気があってやったわけじゃないんだろうな。この世界の人類の存亡がかかってるみたいだし。そう考えると、なんだか同情の気持ちすら沸いてきた。
「なあ、お前、なんていう名前なんだ?」
「わたしですか? ユリィです」
「そうか、よろしくな、ユリィ。あと、俺はさっきも言ったけど、二宮智樹って言うんだ。もう勇者はやってないし、やらないつもりだから、智樹って呼んでくれよ」
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ユリィはやはり落胆しつつも、俺の呼び方を改めた。
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ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする
「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。
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