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5 黒川さんの里帰り
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「今はちょうど彼の今期の推しアニメの最速放送時間ですからね。放送が終わるまで待ちましょう」
「こ、今期の推しアニメ?」
「数百歳のジジイのくせに、三ヶ月ごとに二次元の嫁が変わるんですよね、あの人」
「え、そんなおじいさんなのにあんなオタクなんですか?」
「なんか、江戸時代くらいから二次元にハマってるらしいですよ」
「どんな時空を生きてるんですか、それ……」
さすが黒川の父である。彼以上によくわからない人物のようだ。
いや、人物ではなく、妖怪か。それも、黒川の話によると、黒龍という神とも呼ばれる気高く偉大な存在――。
と、そこで、
「あちゃー、なんでそこでギスるかな! 監督もシリーズ構成も無能かよ! シリアルいらねーって何度も言ってるだろ!」
気高く偉大な存在の妖怪が、見ているアニメの内容に何やらキレたようだ。
「く、黒川さん、あの人、何言ってるんでしょうか?」
「見ている萌えアニメが、ストレスフリーの美少女動物園ものだと思っていたのに、急に不意打ちでシリアス展開になり鬱要素をぶっこんできたので、萌え豚として悲鳴をあげただけです」
「も、萌え豚?」
「……赤城さん、あまりあの生き物を理解しようと考えてはいけない」
黒川は心底うんざりしたような口調だった。
「そりゃあ、僕だって、漫画家のはしくれですし、彼のようにアニメ漫画などのオタ文化にどっぷりのめり込んで、業界に金を落としてくれる消費者はありがたい存在だと思いますよ。思いますけど……それが、実の父親である必要は別になかったかなって……」
黒川は大きくため息をついた。
ああ、そうか。だから彼は父親のことは「あまり話したがらない」感じだったんだ。いい歳してあんなガチのオタクだから……。雪子は大いに理解し、少しばかり黒川に同情した。そりゃあ、父親があんなありさまならなあ。
やがて、玄信が見ているアニメは本編が終わり、エンディングが始まった。もう話しかけてもいいよね、と、雪子は彼に近づこうとしたが、そこで黒川に止められた。
「まだスタッフクレジットのチェックとCパートと次回予告が残っています」
「は、はあ」
ガチのアニオタは最後の最後まで画面から目を離さないということか。雪子は仕方なく、もう少し待つことにした。確かに玄信は黒川の言うとおり、エンディングで流れるスタッフクレジットをしっかりチェックしているようで、
「作画やべーと思ったら、作監多すぎだろ。これそのうち万策じゃねえか?」
などと、意味のわからないことを言っていた。わかりたくもないが。
やがてエンディングが終わり、Cパートと次回予告も終わり、提供画面になって、玄信はようやくこっちに振り返った。
「うーん、どうすっかなー? 一話アバンでオーラ感じて円盤全巻ポチり済みだけど、このままギスるならキャンセルしちまおうかな? お前ならどうする一夜?」
「いや、僕としてはどうもこうもないですよ、父さん」
「つか、お前帰ってたの」
「反応おそっ!」
「しかも女連れかよ。陰キャのド貧乏のくせに意外とやるじゃねえか」
がっはっはと、豪快に笑う玄信だった。アニオタとはいえ、かなりオープンな性格のようだ。心の声、口からダダモレだし……。
「で、祝言の日取りはいつだ?」
「い、いや、私はそういう理由でここに来たわけじゃなくて!」
また黒川の身内に何か誤解をされているようで、雪子はあわてて、ここに連れてこられたいきさつを説明した。
「ははーん? 厄除けの加護ねえ。ま、モノは言いようか」
玄信はふと、黒川のほうを見て、意味ありげににやりと笑った。
「というわけで、父さん。これから清めの泉を使わせてもらいますよ」
「おう、たっぷり外の穢れを落として来い。煩悩もな」
と、煩悩まみれのオヤジは二人に言った。
「こ、今期の推しアニメ?」
「数百歳のジジイのくせに、三ヶ月ごとに二次元の嫁が変わるんですよね、あの人」
「え、そんなおじいさんなのにあんなオタクなんですか?」
「なんか、江戸時代くらいから二次元にハマってるらしいですよ」
「どんな時空を生きてるんですか、それ……」
さすが黒川の父である。彼以上によくわからない人物のようだ。
いや、人物ではなく、妖怪か。それも、黒川の話によると、黒龍という神とも呼ばれる気高く偉大な存在――。
と、そこで、
「あちゃー、なんでそこでギスるかな! 監督もシリーズ構成も無能かよ! シリアルいらねーって何度も言ってるだろ!」
気高く偉大な存在の妖怪が、見ているアニメの内容に何やらキレたようだ。
「く、黒川さん、あの人、何言ってるんでしょうか?」
「見ている萌えアニメが、ストレスフリーの美少女動物園ものだと思っていたのに、急に不意打ちでシリアス展開になり鬱要素をぶっこんできたので、萌え豚として悲鳴をあげただけです」
「も、萌え豚?」
「……赤城さん、あまりあの生き物を理解しようと考えてはいけない」
黒川は心底うんざりしたような口調だった。
「そりゃあ、僕だって、漫画家のはしくれですし、彼のようにアニメ漫画などのオタ文化にどっぷりのめり込んで、業界に金を落としてくれる消費者はありがたい存在だと思いますよ。思いますけど……それが、実の父親である必要は別になかったかなって……」
黒川は大きくため息をついた。
ああ、そうか。だから彼は父親のことは「あまり話したがらない」感じだったんだ。いい歳してあんなガチのオタクだから……。雪子は大いに理解し、少しばかり黒川に同情した。そりゃあ、父親があんなありさまならなあ。
やがて、玄信が見ているアニメは本編が終わり、エンディングが始まった。もう話しかけてもいいよね、と、雪子は彼に近づこうとしたが、そこで黒川に止められた。
「まだスタッフクレジットのチェックとCパートと次回予告が残っています」
「は、はあ」
ガチのアニオタは最後の最後まで画面から目を離さないということか。雪子は仕方なく、もう少し待つことにした。確かに玄信は黒川の言うとおり、エンディングで流れるスタッフクレジットをしっかりチェックしているようで、
「作画やべーと思ったら、作監多すぎだろ。これそのうち万策じゃねえか?」
などと、意味のわからないことを言っていた。わかりたくもないが。
やがてエンディングが終わり、Cパートと次回予告も終わり、提供画面になって、玄信はようやくこっちに振り返った。
「うーん、どうすっかなー? 一話アバンでオーラ感じて円盤全巻ポチり済みだけど、このままギスるならキャンセルしちまおうかな? お前ならどうする一夜?」
「いや、僕としてはどうもこうもないですよ、父さん」
「つか、お前帰ってたの」
「反応おそっ!」
「しかも女連れかよ。陰キャのド貧乏のくせに意外とやるじゃねえか」
がっはっはと、豪快に笑う玄信だった。アニオタとはいえ、かなりオープンな性格のようだ。心の声、口からダダモレだし……。
「で、祝言の日取りはいつだ?」
「い、いや、私はそういう理由でここに来たわけじゃなくて!」
また黒川の身内に何か誤解をされているようで、雪子はあわてて、ここに連れてこられたいきさつを説明した。
「ははーん? 厄除けの加護ねえ。ま、モノは言いようか」
玄信はふと、黒川のほうを見て、意味ありげににやりと笑った。
「というわけで、父さん。これから清めの泉を使わせてもらいますよ」
「おう、たっぷり外の穢れを落として来い。煩悩もな」
と、煩悩まみれのオヤジは二人に言った。
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