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5 黒川さんの里帰り
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やがて月日は流れ、十月になった。雪子はやはり、アパートと勤務先のレストランを往復する毎日だった。ただ、相変わらずの金欠だったので、黒川に紹介してもらった幽世ハロワに定期的に通い、簡単な仕事をすることにしていた。
最初にそこに行くとき黒川が説明したとおり、普通の人間の雪子にもできる仕事はあったのだ。そのほとんどは人間社会のあれやこれやを買ってきて欲しいという、買い物代行の依頼だった。妖怪の多くは人間に姿を変えられないため、人間社会の現世には出入りができないのだが、人間の文化や文明に興味を持つものも少なくないわけなのだった。
買い物代行で頼まれる物品は多岐にわたったが、たいていはスーパーに普通に売っているような食べ物で、仕事は簡単だった。他に、服やら本やらゲームやらあったが、ほとんどはネットを駆使すれば入手できないことはなかった。まあ、中には探すだけ探してやっぱり入手無理という、ムダ骨案件もあったが。
買い物代行の単価は安く、一件当たり五百円から二千円くらいだったが、毎日の買い物のついでに実行できるので悪い仕事ではなかった。幽世ハロワの支払いシステムも妙に洗練されており、報酬が未払いに終わることも特になかった。
さすがハロワを名乗っているだけのことはある……というか、これはむしろ、ハロワというより派遣会社なのでは? やはり妖怪世界。微妙にネーミングがズレている。
また、そんななか、幽世ハロワの受付で妖怪たちと話をする機会もあった。
主に話をするのは、雪子の担当になった、馬の頭の妖怪、馬頭《めず》である。
「雪子ちゃんが来てくれて、マジ超助かってるわ。現世とここを気軽に往復できる人って、なかなかいないのよねえ」
牛頭と同じムキムキマッチョボディをしているが、牛頭と違ってオネエ言葉なのであった。
「私のほうこそ、助かっています。簡単なお使いでお金をいただいちゃって」
「いいのよお。みんな感謝してるんだから、気にしないで」
オホホ、と、馬頭は笑いながら言う。
そして、
「ところで、雪子ちゃんって、もう一夜ちゃんとはヤったの?」
なんかいきなり下品なこと聞いてくるし!
「そ、そんなことするわけないでしょう!」
「えー、なんで? 二人って付き合ってるんでしょ? だったら――」
「付き合ってません! あの人は、恋人でもなんでもないです!」
「そーなの? 雪子ちゃんかわいいし、一夜ちゃんもイケメンで超お似合いのカップルじゃない。付き合っちゃいなさいよ」
「お、お断りです、あんな人!」
雪子は必死に馬頭の言葉を否定した。この妖怪、見た目は不気味なのに言動はただのコイバナ好きのオカマである。
「もったいないわねえ。噂によると、一夜ちゃんのお父さんって超大物妖怪らしいわよ? 玉の輿のチャンスじゃないのよ」
「超大物妖怪? どんな妖怪なんですか?」
「さあ? みんな詳しくは知らないのよねえ。ただ、お母さんのほうが羅刹で、これまた超一流妖怪でしょ? それとデキちゃったんだから、相当な妖怪じゃないとつり合わないわよね」
「羅刹もそうなんですか」
知らなかった。ただ、羅刹とは、日常会話レベルでたまに耳にする言葉なので、妖怪としては有名どころであることには違いないだろう。ということは、父親も……。
「でも、いくら妖怪世界の血統エリートだからって、あんな生き方じゃ……」
「まー、そういう考え方もあるわね。オトコはしょせん、顔より、生まれより、年収よね」
「そう! それが一番大事ですよ!」
ようやく馬頭と意見が一致した雪子だった。
最初にそこに行くとき黒川が説明したとおり、普通の人間の雪子にもできる仕事はあったのだ。そのほとんどは人間社会のあれやこれやを買ってきて欲しいという、買い物代行の依頼だった。妖怪の多くは人間に姿を変えられないため、人間社会の現世には出入りができないのだが、人間の文化や文明に興味を持つものも少なくないわけなのだった。
買い物代行で頼まれる物品は多岐にわたったが、たいていはスーパーに普通に売っているような食べ物で、仕事は簡単だった。他に、服やら本やらゲームやらあったが、ほとんどはネットを駆使すれば入手できないことはなかった。まあ、中には探すだけ探してやっぱり入手無理という、ムダ骨案件もあったが。
買い物代行の単価は安く、一件当たり五百円から二千円くらいだったが、毎日の買い物のついでに実行できるので悪い仕事ではなかった。幽世ハロワの支払いシステムも妙に洗練されており、報酬が未払いに終わることも特になかった。
さすがハロワを名乗っているだけのことはある……というか、これはむしろ、ハロワというより派遣会社なのでは? やはり妖怪世界。微妙にネーミングがズレている。
また、そんななか、幽世ハロワの受付で妖怪たちと話をする機会もあった。
主に話をするのは、雪子の担当になった、馬の頭の妖怪、馬頭《めず》である。
「雪子ちゃんが来てくれて、マジ超助かってるわ。現世とここを気軽に往復できる人って、なかなかいないのよねえ」
牛頭と同じムキムキマッチョボディをしているが、牛頭と違ってオネエ言葉なのであった。
「私のほうこそ、助かっています。簡単なお使いでお金をいただいちゃって」
「いいのよお。みんな感謝してるんだから、気にしないで」
オホホ、と、馬頭は笑いながら言う。
そして、
「ところで、雪子ちゃんって、もう一夜ちゃんとはヤったの?」
なんかいきなり下品なこと聞いてくるし!
「そ、そんなことするわけないでしょう!」
「えー、なんで? 二人って付き合ってるんでしょ? だったら――」
「付き合ってません! あの人は、恋人でもなんでもないです!」
「そーなの? 雪子ちゃんかわいいし、一夜ちゃんもイケメンで超お似合いのカップルじゃない。付き合っちゃいなさいよ」
「お、お断りです、あんな人!」
雪子は必死に馬頭の言葉を否定した。この妖怪、見た目は不気味なのに言動はただのコイバナ好きのオカマである。
「もったいないわねえ。噂によると、一夜ちゃんのお父さんって超大物妖怪らしいわよ? 玉の輿のチャンスじゃないのよ」
「超大物妖怪? どんな妖怪なんですか?」
「さあ? みんな詳しくは知らないのよねえ。ただ、お母さんのほうが羅刹で、これまた超一流妖怪でしょ? それとデキちゃったんだから、相当な妖怪じゃないとつり合わないわよね」
「羅刹もそうなんですか」
知らなかった。ただ、羅刹とは、日常会話レベルでたまに耳にする言葉なので、妖怪としては有名どころであることには違いないだろう。ということは、父親も……。
「でも、いくら妖怪世界の血統エリートだからって、あんな生き方じゃ……」
「まー、そういう考え方もあるわね。オトコはしょせん、顔より、生まれより、年収よね」
「そう! それが一番大事ですよ!」
ようやく馬頭と意見が一致した雪子だった。
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