あやかし漫画家黒川さんは今日も涙目

真木ハヌイ

文字の大きさ
上 下
34 / 62
3 黒川さんたちはお金がない

3 - 10

しおりを挟む
「全部で支払額は税込み八万八千円。俺はあまり現金は持ち歩かない主義だから、今はこれだけの手持ちはないぞ」
「はは、かまいませんよ。今は財布にあるだけの現金で。足りない分は後でもらいますから。ほら、とっととお金出そ?」

 だんだん態度がでかくなる黒川だった。

「わかった。確か、報酬は二人で二等分という話だったな」

 白夜はスーツの胸ポケットから財布を出し、まず四万四千円を出して目の前の黒川に手渡した――が、それは一瞬のうちに引っ込められ、財布に戻された。「俺は兄さんにはだいぶ金を貸していたな。ここで返してもらうぞ」という言葉とともに。

「びゃ、白夜! それとこれとは話が別でしょう!」
「別じゃない。むしろここで返してもらわずにいつ返してもらえるんだ、俺が前に立て替えた兄さんの半年分の家賃は」

 なんと、このだらしのない兄は、弟に家賃援助までしてもらっていた! そりゃあ、信用もないわけである。

「そ、それはそのう、いつかまとまったお金が手に入ったときに返すって話だったような?」
「それはいつだ? 兄さんは確か、五月に新刊が発売されて、雀の涙ながらも印税収入があったはずだが、俺には一円も返済されていないんだが?」
「いや、それは本当に雀さんの涙だったから、いろんなところで滞納していた料金を払ってたら勝手に自然消滅――」
「借金なら、まず俺のところに返しにくるのが筋だろう!」

 白夜は居間のローテーブルを拳でドンッ!と強く叩いた。とたんに、「うひゃあっ」と、素っ頓狂な声を出す黒川であった。

「そういうわけだから、兄さんへの支払いは俺への借金返済で相殺だ。まだ全然足りてないがな。そして、こちらが赤城さんのぶん」

 白夜は再び財布から四万四千円を出し、雪子に手渡した。

「通常の手続きとは違うので、支払い明細は出せませんが、いいですか?」
「ええ、かまいません。ありがとうございます」

 やった、大金ゲットだ! 雪子はうやうやしくその金を受け取った。隣で黒川が、「そのお札、僕がさっきいったん受け取ったものですよね?」と、その様子を実にうらめしそうに見ていた。

「くう……。せっかくわざわざこんなところまで来たのに、一円ももらえないとは」

 しまいには、ソファの上で体育座りの姿勢のまま、いじけはじめる黒川であった。いや、そもそも弟に借金しているのが悪い気がするのだが。

「あ、そうだ! ボクも一夜兄ちゃんにお金あげなくちゃいけないんだった」

 と、そこで救世主のように聖夜が口を開いた。

「はい、一夜兄ちゃん。夏休みの宿題のお礼だよ」

 そう言って、聖夜は半ズボンのポケットの中から五千円札を出し、黒川に差し出した。

「おお、聖夜! なんという兄思いのできた弟!」

 黒川は何やら感動しながら、それを受け取る――が、そこで、白夜がすごい速さで割り込んできて、その五千円札を黒川の手から奪ってしまった。

「これも回収させてもらう。まだ貸したぶんには全然足りないがな」
「ちょ、お前! 今、僕に渡されたばかりのものでしょう! 回収早すぎますよ! 金は天下の周りモノって言うでしょう! もっとかわいいお金に旅をさせてみましょうよ!」
「旅立つなら俺の財布からでもできるから問題ないだろう」
「いや、それ、聖夜が持ってたものですし、もとはお前の財布から出たやつでしょう! 旅に出るどころか、出戻りしてるじゃないですか、その五千円札の彼女は! って、名前誰でしたっけ」
「樋口一葉な」
「あー、そうそう! なんか早死にした人だったような」
「ムダに長生きしそうな兄さんとは全く縁がなさそうな女だな。だから、彼女のことはあきらめろ」
「えー」

 黒川は不満げなふくれっつらで、白夜をにらんだ。まるで子供だ。

 そして、やがて再び、雪子の手にある一万円札と千円札をうらめしそうに見つめ始めた。「ゆきち、ひでよ、ゆきち、ひでよ……」と、今度はブツブツつぶやきながら。

「赤城さん、どんなに泣いてすがられようとも、隣の生物にエサやお金をあげてはいけませんよ。できれば目もあわせないように」
「は、はあ……」

 白夜は兄のことを完全に害獣扱いだ。隣から、ぐるるるっ!と、そんな白夜に向けたかのような威嚇の鳴き声が聞こえた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

おにぎり屋さんの裏稼業 〜お祓い請け賜わります〜

瀬崎由美
キャラ文芸
高校2年生の八神美琴は、幼い頃に両親を亡くしてからは祖母の真知子と、親戚のツバキと一緒に暮らしている。 大学通りにある屋敷の片隅で営んでいるオニギリ屋さん『おにひめ』は、気まぐれの営業ながらも学生達に人気のお店だ。でも、真知子の本業は人ならざるものを対処するお祓い屋。霊やあやかしにまつわる相談に訪れて来る人が後を絶たない。 そんなある日、祓いの仕事から戻って来た真知子が家の中で倒れてしまう。加齢による力の限界を感じた祖母から、美琴は祓いの力の継承を受ける。と、美琴はこれまで視えなかったモノが視えるようになり……。 第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

処理中です...