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3 黒川さんたちはお金がない
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「じゃあ、聖夜君もやっぱり鬼なんですか?」
「はは、ボクは違うよ。お姉ちゃん」
と、聖夜が家の奥から二人のところにやってきた。宿題を自分の部屋に置いてきた後のようだった。
「ああ、赤城さん。聖夜は赤ちゃんのときに海外から僕の家に養子に来た子なので、僕と直接血のつながりはないんですよ」
「へえ、通りで……」
全然似てないわけだ。なんとなく黒川に比べると気品があって、利発そうな顔もしてるし。
「というわけで、ボクは羅刹っていう鬼の妖怪じゃないんだよ、お姉ちゃん」
「じゃあ、普通の人間なの?」
「違うよ。鬼ってつく妖怪には違いないけどね」
と、イーッと口を大きく横に開いて、歯をむき出しにする聖夜だった。見ると、その犬歯はとても鋭く、まるで牙のようだった。この牙に、海外から来た鬼とつく妖怪……雪子ははっと閃いた。
「あ、もしかして吸血鬼?」
「そう! すごいや、今のでよくわかったね!」
「いやあ、むしろわかりやすいんじゃないかなって」
吸血鬼のイメージにぴったり当てはまる金髪の美少年だしなあ。本当に、近くにいる黒川とは月とスッポンの、ノーブルなたたずまいである。
「聖夜は僕たちと違って、特に人間に変身しているわけじゃないのですよ。吸血鬼そのまんまの姿で生活しているんです」
「へえ、そのまんま妖怪なんですか」
まあ、元々人間とほぼ見分けがつかないくらいの妖怪だしなあ。しかし、日本の鬼の一家に吸血鬼の養子とは。実は東洋と西洋の妖怪って、普通に仲がよいものなのだろうか?
「ところで、聖夜。白夜は今日は帰りは遅いんですか?」
「わかんない。最近忙しいって言ってるし、今日も遅くなるかもね」
「そうですか。なら、ただ待っているだけというのもアレですねー」
と、そこで黒川はすっとソファから立ち上がり、台所のほうへすたすたと歩いていってしまった。
なんだろう? 残業で疲れて帰ってくる弟のために夕食を用意してあげるつもりなのだろうか? 雪子は気になり、その後を追って台所に行ってみた。
するとそこには――高級システムキッチンの戸棚の奥から大量の缶詰を取り出しては、せっせと唐草模様の風呂敷に包んでいる黒川の姿があった……。
「な、何してるんですか、黒川さん?」
「いやなに、ちょっと確認したところ、消費期限があやしい食品がいくつかあったので、廃棄処分の手伝いを――」
「いや、どう見ても食材を盗んでるところじゃないですか!」
見ると、黒川が運び出そうとしているのは高級そうなカニ缶やキャビア缶ばかりのようだった。何が消費期限だ。缶詰にそんなの、あってないようなものじゃないの。というか、唐草模様の風呂敷なんてなんで持ってきているのだろう。初めから盗みに入る気まんまんではないか。
「いくら弟さんだからって、人の家のものを勝手に盗むのはよくないですよ」
「はは、何を言ってるのですか。兄というのは弟よりも絶対的に立場が上なのです。兄のものは兄のもの。弟のものも兄のものです。人間の社会ではどうだか知りませんが、僕たちの世界ではそうなっているんですよ」
「……って、お兄ちゃん言ってるけど、どうなの、聖夜くん?」
と、ちょうどこっちに来ていた聖夜に尋ねてみたが、彼は「どうかなー?」と、どうでもいい感じの答えだった。黒川が勝手に言ってるだけの屁理屈のようだった。
「まあ、ボクとしては一夜兄ちゃんが泥棒でも別にいいよ。だって、一夜兄ちゃんってすごく貧乏なんでしょう? うちはお金持ちっぽいし、貧乏な人には優しく施しをしてあげないとね。ノブレスオブリージュってやつだよ」
「おお、そうですよね、聖夜! 金持ちの弟は兄ちゃんにじゃんじゃん施すべきですよね!」
なんか知らんが、ナチュラルに兄を見下しているノーブルな弟と、それを実に自然に受け入れている意地汚い兄であった。兄弟仲がいいのかなんなのか。
まあ、この家の住人である聖夜くんがいいと言うのなら、何をやってもいいのかな……。雪子はもう何も口を挟まないことにした。黒川は水を得た魚のごとく、高そうな食材をジャンジャン風呂敷につめていく。
だが、そこで――、
「……貴様、そんなところで何をしている」
突如、雪子のすぐ後ろに一人の大男が現れた。スーツを着ており、身長二メートル近くはありそうだった。体つきも実にがっちりしており、顔立ちも精悍そのものだ。
「や、やあ、今日は意外と早い帰りですねえ……」
黒川は大男のほうに振り替えるや否や、顔を青くして、缶詰を包んだ風呂敷を自分の背中に隠した。だが、すでに彼の一連の動きは大男に察知されているようだった。
「はは、ボクは違うよ。お姉ちゃん」
と、聖夜が家の奥から二人のところにやってきた。宿題を自分の部屋に置いてきた後のようだった。
「ああ、赤城さん。聖夜は赤ちゃんのときに海外から僕の家に養子に来た子なので、僕と直接血のつながりはないんですよ」
「へえ、通りで……」
全然似てないわけだ。なんとなく黒川に比べると気品があって、利発そうな顔もしてるし。
「というわけで、ボクは羅刹っていう鬼の妖怪じゃないんだよ、お姉ちゃん」
「じゃあ、普通の人間なの?」
「違うよ。鬼ってつく妖怪には違いないけどね」
と、イーッと口を大きく横に開いて、歯をむき出しにする聖夜だった。見ると、その犬歯はとても鋭く、まるで牙のようだった。この牙に、海外から来た鬼とつく妖怪……雪子ははっと閃いた。
「あ、もしかして吸血鬼?」
「そう! すごいや、今のでよくわかったね!」
「いやあ、むしろわかりやすいんじゃないかなって」
吸血鬼のイメージにぴったり当てはまる金髪の美少年だしなあ。本当に、近くにいる黒川とは月とスッポンの、ノーブルなたたずまいである。
「聖夜は僕たちと違って、特に人間に変身しているわけじゃないのですよ。吸血鬼そのまんまの姿で生活しているんです」
「へえ、そのまんま妖怪なんですか」
まあ、元々人間とほぼ見分けがつかないくらいの妖怪だしなあ。しかし、日本の鬼の一家に吸血鬼の養子とは。実は東洋と西洋の妖怪って、普通に仲がよいものなのだろうか?
「ところで、聖夜。白夜は今日は帰りは遅いんですか?」
「わかんない。最近忙しいって言ってるし、今日も遅くなるかもね」
「そうですか。なら、ただ待っているだけというのもアレですねー」
と、そこで黒川はすっとソファから立ち上がり、台所のほうへすたすたと歩いていってしまった。
なんだろう? 残業で疲れて帰ってくる弟のために夕食を用意してあげるつもりなのだろうか? 雪子は気になり、その後を追って台所に行ってみた。
するとそこには――高級システムキッチンの戸棚の奥から大量の缶詰を取り出しては、せっせと唐草模様の風呂敷に包んでいる黒川の姿があった……。
「な、何してるんですか、黒川さん?」
「いやなに、ちょっと確認したところ、消費期限があやしい食品がいくつかあったので、廃棄処分の手伝いを――」
「いや、どう見ても食材を盗んでるところじゃないですか!」
見ると、黒川が運び出そうとしているのは高級そうなカニ缶やキャビア缶ばかりのようだった。何が消費期限だ。缶詰にそんなの、あってないようなものじゃないの。というか、唐草模様の風呂敷なんてなんで持ってきているのだろう。初めから盗みに入る気まんまんではないか。
「いくら弟さんだからって、人の家のものを勝手に盗むのはよくないですよ」
「はは、何を言ってるのですか。兄というのは弟よりも絶対的に立場が上なのです。兄のものは兄のもの。弟のものも兄のものです。人間の社会ではどうだか知りませんが、僕たちの世界ではそうなっているんですよ」
「……って、お兄ちゃん言ってるけど、どうなの、聖夜くん?」
と、ちょうどこっちに来ていた聖夜に尋ねてみたが、彼は「どうかなー?」と、どうでもいい感じの答えだった。黒川が勝手に言ってるだけの屁理屈のようだった。
「まあ、ボクとしては一夜兄ちゃんが泥棒でも別にいいよ。だって、一夜兄ちゃんってすごく貧乏なんでしょう? うちはお金持ちっぽいし、貧乏な人には優しく施しをしてあげないとね。ノブレスオブリージュってやつだよ」
「おお、そうですよね、聖夜! 金持ちの弟は兄ちゃんにじゃんじゃん施すべきですよね!」
なんか知らんが、ナチュラルに兄を見下しているノーブルな弟と、それを実に自然に受け入れている意地汚い兄であった。兄弟仲がいいのかなんなのか。
まあ、この家の住人である聖夜くんがいいと言うのなら、何をやってもいいのかな……。雪子はもう何も口を挟まないことにした。黒川は水を得た魚のごとく、高そうな食材をジャンジャン風呂敷につめていく。
だが、そこで――、
「……貴様、そんなところで何をしている」
突如、雪子のすぐ後ろに一人の大男が現れた。スーツを着ており、身長二メートル近くはありそうだった。体つきも実にがっちりしており、顔立ちも精悍そのものだ。
「や、やあ、今日は意外と早い帰りですねえ……」
黒川は大男のほうに振り替えるや否や、顔を青くして、缶詰を包んだ風呂敷を自分の背中に隠した。だが、すでに彼の一連の動きは大男に察知されているようだった。
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