32 / 62
3 黒川さんたちはお金がない
3 - 8
しおりを挟む
「じゃあ、聖夜君もやっぱり鬼なんですか?」
「はは、ボクは違うよ。お姉ちゃん」
と、聖夜が家の奥から二人のところにやってきた。宿題を自分の部屋に置いてきた後のようだった。
「ああ、赤城さん。聖夜は赤ちゃんのときに海外から僕の家に養子に来た子なので、僕と直接血のつながりはないんですよ」
「へえ、通りで……」
全然似てないわけだ。なんとなく黒川に比べると気品があって、利発そうな顔もしてるし。
「というわけで、ボクは羅刹っていう鬼の妖怪じゃないんだよ、お姉ちゃん」
「じゃあ、普通の人間なの?」
「違うよ。鬼ってつく妖怪には違いないけどね」
と、イーッと口を大きく横に開いて、歯をむき出しにする聖夜だった。見ると、その犬歯はとても鋭く、まるで牙のようだった。この牙に、海外から来た鬼とつく妖怪……雪子ははっと閃いた。
「あ、もしかして吸血鬼?」
「そう! すごいや、今のでよくわかったね!」
「いやあ、むしろわかりやすいんじゃないかなって」
吸血鬼のイメージにぴったり当てはまる金髪の美少年だしなあ。本当に、近くにいる黒川とは月とスッポンの、ノーブルなたたずまいである。
「聖夜は僕たちと違って、特に人間に変身しているわけじゃないのですよ。吸血鬼そのまんまの姿で生活しているんです」
「へえ、そのまんま妖怪なんですか」
まあ、元々人間とほぼ見分けがつかないくらいの妖怪だしなあ。しかし、日本の鬼の一家に吸血鬼の養子とは。実は東洋と西洋の妖怪って、普通に仲がよいものなのだろうか?
「ところで、聖夜。白夜は今日は帰りは遅いんですか?」
「わかんない。最近忙しいって言ってるし、今日も遅くなるかもね」
「そうですか。なら、ただ待っているだけというのもアレですねー」
と、そこで黒川はすっとソファから立ち上がり、台所のほうへすたすたと歩いていってしまった。
なんだろう? 残業で疲れて帰ってくる弟のために夕食を用意してあげるつもりなのだろうか? 雪子は気になり、その後を追って台所に行ってみた。
するとそこには――高級システムキッチンの戸棚の奥から大量の缶詰を取り出しては、せっせと唐草模様の風呂敷に包んでいる黒川の姿があった……。
「な、何してるんですか、黒川さん?」
「いやなに、ちょっと確認したところ、消費期限があやしい食品がいくつかあったので、廃棄処分の手伝いを――」
「いや、どう見ても食材を盗んでるところじゃないですか!」
見ると、黒川が運び出そうとしているのは高級そうなカニ缶やキャビア缶ばかりのようだった。何が消費期限だ。缶詰にそんなの、あってないようなものじゃないの。というか、唐草模様の風呂敷なんてなんで持ってきているのだろう。初めから盗みに入る気まんまんではないか。
「いくら弟さんだからって、人の家のものを勝手に盗むのはよくないですよ」
「はは、何を言ってるのですか。兄というのは弟よりも絶対的に立場が上なのです。兄のものは兄のもの。弟のものも兄のものです。人間の社会ではどうだか知りませんが、僕たちの世界ではそうなっているんですよ」
「……って、お兄ちゃん言ってるけど、どうなの、聖夜くん?」
と、ちょうどこっちに来ていた聖夜に尋ねてみたが、彼は「どうかなー?」と、どうでもいい感じの答えだった。黒川が勝手に言ってるだけの屁理屈のようだった。
「まあ、ボクとしては一夜兄ちゃんが泥棒でも別にいいよ。だって、一夜兄ちゃんってすごく貧乏なんでしょう? うちはお金持ちっぽいし、貧乏な人には優しく施しをしてあげないとね。ノブレスオブリージュってやつだよ」
「おお、そうですよね、聖夜! 金持ちの弟は兄ちゃんにじゃんじゃん施すべきですよね!」
なんか知らんが、ナチュラルに兄を見下しているノーブルな弟と、それを実に自然に受け入れている意地汚い兄であった。兄弟仲がいいのかなんなのか。
まあ、この家の住人である聖夜くんがいいと言うのなら、何をやってもいいのかな……。雪子はもう何も口を挟まないことにした。黒川は水を得た魚のごとく、高そうな食材をジャンジャン風呂敷につめていく。
だが、そこで――、
「……貴様、そんなところで何をしている」
突如、雪子のすぐ後ろに一人の大男が現れた。スーツを着ており、身長二メートル近くはありそうだった。体つきも実にがっちりしており、顔立ちも精悍そのものだ。
「や、やあ、今日は意外と早い帰りですねえ……」
黒川は大男のほうに振り替えるや否や、顔を青くして、缶詰を包んだ風呂敷を自分の背中に隠した。だが、すでに彼の一連の動きは大男に察知されているようだった。
「はは、ボクは違うよ。お姉ちゃん」
と、聖夜が家の奥から二人のところにやってきた。宿題を自分の部屋に置いてきた後のようだった。
「ああ、赤城さん。聖夜は赤ちゃんのときに海外から僕の家に養子に来た子なので、僕と直接血のつながりはないんですよ」
「へえ、通りで……」
全然似てないわけだ。なんとなく黒川に比べると気品があって、利発そうな顔もしてるし。
「というわけで、ボクは羅刹っていう鬼の妖怪じゃないんだよ、お姉ちゃん」
「じゃあ、普通の人間なの?」
「違うよ。鬼ってつく妖怪には違いないけどね」
と、イーッと口を大きく横に開いて、歯をむき出しにする聖夜だった。見ると、その犬歯はとても鋭く、まるで牙のようだった。この牙に、海外から来た鬼とつく妖怪……雪子ははっと閃いた。
「あ、もしかして吸血鬼?」
「そう! すごいや、今のでよくわかったね!」
「いやあ、むしろわかりやすいんじゃないかなって」
吸血鬼のイメージにぴったり当てはまる金髪の美少年だしなあ。本当に、近くにいる黒川とは月とスッポンの、ノーブルなたたずまいである。
「聖夜は僕たちと違って、特に人間に変身しているわけじゃないのですよ。吸血鬼そのまんまの姿で生活しているんです」
「へえ、そのまんま妖怪なんですか」
まあ、元々人間とほぼ見分けがつかないくらいの妖怪だしなあ。しかし、日本の鬼の一家に吸血鬼の養子とは。実は東洋と西洋の妖怪って、普通に仲がよいものなのだろうか?
「ところで、聖夜。白夜は今日は帰りは遅いんですか?」
「わかんない。最近忙しいって言ってるし、今日も遅くなるかもね」
「そうですか。なら、ただ待っているだけというのもアレですねー」
と、そこで黒川はすっとソファから立ち上がり、台所のほうへすたすたと歩いていってしまった。
なんだろう? 残業で疲れて帰ってくる弟のために夕食を用意してあげるつもりなのだろうか? 雪子は気になり、その後を追って台所に行ってみた。
するとそこには――高級システムキッチンの戸棚の奥から大量の缶詰を取り出しては、せっせと唐草模様の風呂敷に包んでいる黒川の姿があった……。
「な、何してるんですか、黒川さん?」
「いやなに、ちょっと確認したところ、消費期限があやしい食品がいくつかあったので、廃棄処分の手伝いを――」
「いや、どう見ても食材を盗んでるところじゃないですか!」
見ると、黒川が運び出そうとしているのは高級そうなカニ缶やキャビア缶ばかりのようだった。何が消費期限だ。缶詰にそんなの、あってないようなものじゃないの。というか、唐草模様の風呂敷なんてなんで持ってきているのだろう。初めから盗みに入る気まんまんではないか。
「いくら弟さんだからって、人の家のものを勝手に盗むのはよくないですよ」
「はは、何を言ってるのですか。兄というのは弟よりも絶対的に立場が上なのです。兄のものは兄のもの。弟のものも兄のものです。人間の社会ではどうだか知りませんが、僕たちの世界ではそうなっているんですよ」
「……って、お兄ちゃん言ってるけど、どうなの、聖夜くん?」
と、ちょうどこっちに来ていた聖夜に尋ねてみたが、彼は「どうかなー?」と、どうでもいい感じの答えだった。黒川が勝手に言ってるだけの屁理屈のようだった。
「まあ、ボクとしては一夜兄ちゃんが泥棒でも別にいいよ。だって、一夜兄ちゃんってすごく貧乏なんでしょう? うちはお金持ちっぽいし、貧乏な人には優しく施しをしてあげないとね。ノブレスオブリージュってやつだよ」
「おお、そうですよね、聖夜! 金持ちの弟は兄ちゃんにじゃんじゃん施すべきですよね!」
なんか知らんが、ナチュラルに兄を見下しているノーブルな弟と、それを実に自然に受け入れている意地汚い兄であった。兄弟仲がいいのかなんなのか。
まあ、この家の住人である聖夜くんがいいと言うのなら、何をやってもいいのかな……。雪子はもう何も口を挟まないことにした。黒川は水を得た魚のごとく、高そうな食材をジャンジャン風呂敷につめていく。
だが、そこで――、
「……貴様、そんなところで何をしている」
突如、雪子のすぐ後ろに一人の大男が現れた。スーツを着ており、身長二メートル近くはありそうだった。体つきも実にがっちりしており、顔立ちも精悍そのものだ。
「や、やあ、今日は意外と早い帰りですねえ……」
黒川は大男のほうに振り替えるや否や、顔を青くして、缶詰を包んだ風呂敷を自分の背中に隠した。だが、すでに彼の一連の動きは大男に察知されているようだった。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
おにぎり屋さんの裏稼業 〜お祓い請け賜わります〜
瀬崎由美
キャラ文芸
高校2年生の八神美琴は、幼い頃に両親を亡くしてからは祖母の真知子と、親戚のツバキと一緒に暮らしている。
大学通りにある屋敷の片隅で営んでいるオニギリ屋さん『おにひめ』は、気まぐれの営業ながらも学生達に人気のお店だ。でも、真知子の本業は人ならざるものを対処するお祓い屋。霊やあやかしにまつわる相談に訪れて来る人が後を絶たない。
そんなある日、祓いの仕事から戻って来た真知子が家の中で倒れてしまう。加齢による力の限界を感じた祖母から、美琴は祓いの力の継承を受ける。と、美琴はこれまで視えなかったモノが視えるようになり……。
第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
CODE:HEXA
青出 風太
キャラ文芸
舞台は近未来の日本。
AI技術の発展によってAIを搭載したロボットの社会進出が進む中、発展の陰に隠された事故は多くの孤児を生んでいた。
孤児である主人公の吹雪六花はAIの暴走を阻止する組織の一員として暗躍する。
※「小説家になろう」「カクヨム」の方にも投稿しています。
※毎週金曜日の投稿を予定しています。変更の可能性があります。
男装官吏と花散る後宮〜禹国謎解き物語〜
春日あざみ
キャラ文芸
<第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。応援ありがとうございました!>
宮廷で史書編纂事業が立ち上がると聞き、居ても立ってもいられなくなった歴史オタクの柳羅刹(りゅうらせつ)。男と偽り官吏登用試験、科挙を受験し、見事第一等の成績で官吏となった彼女だったが。珍妙な仮面の貴人、雲嵐に女であることがバレてしまう。皇帝の食客であるという彼は、羅刹の秘密を守る代わり、後宮の悪霊によるとされる妃嬪の連続不審死事件の調査を命じる。
しかたなく羅刹は、悪霊について調べ始めるが——?
「歴女×仮面の貴人(奇人?)」が紡ぐ、中華風世界を舞台にしたミステリ開幕!
京都鴨川まねき亭~化け猫さまの愛され仮嫁~
汐埼ゆたか
キャラ文芸
はじまりは、京都鴨川にかかる『賀茂大橋』
再就職先に行くはずが迷子になり、途方に暮れていた。
けれど、ひょんなことからたどり着いたのは、アンティークショップのような古道具屋のような不思議なお店
『まねき亭』
見たことがないほどの端正な容姿を持つ店主に「嫁になれ」と迫られ、即座に断ったが時すでに遅し。
このときすでに、璃世は不思議なあやかしの世界に足を踏み入れていたのだった。
・*:.。 。.:*・゚✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚
『観念して俺の嫁になればいい』
『断固としてお断りいたします!』
平凡女子 VS 化け猫美男子
勝つのはどっち?
・*:.。 。.:*・゚✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
※他サイトからの転載作品
※無断転載禁止
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

30歳、魔法使いになりました。
本見りん
キャラ文芸
30歳の誕生日に魔法に目覚めた鞍馬花凛。
そして世間では『30歳直前の独身』が何者かに襲われる通り魔事件が多発していた。巻き込まれた花凛を助けたのは1人の青年。……彼も『魔法』を使っていた。
そんな時会社での揉め事があり実家に帰った花凛は、鞍馬家本家当主から呼び出され思わぬ事実を知らされる……。
ゆっくり更新です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる