144 / 153
ウンディーネ編
第144話 宙の旅
しおりを挟む黒い闇の中、船はシルフが起こした風を受けて進む。
進行方向がよく見えるようにと、大きなランプにサラマンダーが火を灯した。船首にぶら提げているが、何かがあるようには見えない。
「ユメノ。ご飯出来たよー」
ジッと前方を見張っていたわたしをエルメラが呼びに来た。
「うん。今、行く」
船旅を始めてから、たぶん七日ほど経った。
けれど、宙の旅は驚くほど穏やかだ。
障害物もなく、舵を切るのも精霊たちがしてくれる。見張りも交代でしているから、それ以外は自由時間だ。
みんな、本を読んだり、ぼんやり星を見つめたり。
もちろんトレーニングは欠かさずしているけれど、わたしがこの世界に来てから、ここまでのんびりしたのは初めてだ。
それに時計もない上に、ずっと夜だからどれぐらい時間が経ったかも分からない。
「精霊も全然出てこないね」
「確かに。なんだか、張りがないのう」
スプーンで具をすくいながらぼんやりとつぶやくと、サラマンダーが同意する。
サラマンダーも、よく甲板であくびをかいていた。
ルーシャちゃんも手を止める。
「本当にこっちでいいのですかしら」
でも、いまさらUターンなんて出来ないし、他に当てもない。
エルメラが上を見て言う。
「でも、最初の場所となんだか違うよ」
「なんだか、ですか。エルメラさま」
ウンディーネにエルメラはうんと頷く。
「いつも精霊を感じるときより、ぼんやりとしているけれど、何かを感じるよ」
周りは変わらず夜が広がっているだけだけど、妖精のエルメラには何か感じるみたいだ。
「それってすごく手がかりになるんじゃない?」
イオも同じように思ったみたいだ。
「それならば、さらに進んでみるしかないな。エルメラ、何かを感じ取ったらすぐに知らせるんだ」
「うん。分かった」
それから、三日ほど経った頃だ。
「ちょっと待って! 精霊の気配がすごく濃くなってきたよ!」
エルメラが唐突に叫ぶ。
みんなが慌てて甲板に出て来る、けど――。
「……何もないよ?」
船首まで駆け寄って眼を凝らしてみるけれど、前方にはやっぱり暗闇が広がっているだけだ。
「おかしいな。確かに精霊の気配が濃くするんだけど……、いつもと雰囲気が少し違うけど」
エルメラも高く飛んで周りを見る。
「ここではないのかしら」
イオが後ろを振り返った。
「いや。周りをよく見てみろ」
船の後ろに何かあるのだろうか。でも、振り返っても同じに見える。
「何もないよ?」
「後方には星があるのに、前方には星がない」
「「「え!」」」
わたしたちは前と後ろを交互に見た。イオの言う通り、これまで遠くに見えていた小さな光が船の先からは消えていた。
ノームが真剣な顔をして言う。
「大地の気配もします。月があるのは間違いありません。光が遮られているようですね」
「やはり闇の精霊が関わっているのでしょうか」
ウンディーネもジッと前を見つめている。
月の光が闇に遮られて月が無くなって見えていたのだ。
しかも、エルメラが精霊の気配を感じている。なら、闇の精霊が深く関わっていてもおかしくない。
「それじゃ、準備をして慎重に船を進めよう」
船はゆっくりと進む。
「……なんだか、一層暗くなってきたね」
後ろを振り向いても、もう星は見えない。
黒い霧の中をかき分けるように船は進む。近くにサラマンダーがいるから、船の上は足元が見えるぐらいには明るいけれど、船の外の様子は全く分からなかった。
ルーシャちゃんが心配そうにつぶやく。
「こんなに闇雲に進んでも大丈夫ですかしら」
確かに座礁でもしたら、わたしたちは動けなくなってしまう。
こんな所に助けなんて来ない。
イオは船首の一番前で先を見つめる。
「せめて、もっと進行方向の視界が良ければいいんだが」
船首に下げられているランプでは、照らす範囲も限られていた。
「そうだ! ホムラ、フォームアロー!」
わたしはホムラを呼び出して、弓に具現化させる。
すると、サラマンダーが顔を寄せて来た。
「どうするつもりであるか、ユメノ」
「うん。サラマンダーの周りは明るいでしょ。つまり、炎なら明るく照らせる。だから、炎の矢を放って周りに何があるか確かめてみるの!」
「なるほど。弓矢なら遠くに飛ばせる。考えたな、ユメノ」
でしょ!と言いながら、わたしはより船の先端に近づき矢をつがえる。
「もっと明るく照らして」
静かに矢に向けて言うと、つがえていた矢が三本になった。一気に解き放つ。
バシュッ
風を切る音がした。白い炎の矢は辺りを照らしながら、より遠くへ。
そして、大きな岩に当たって弾けた。
「あれが月の地面みたい。近づいてみよう!」
再び炎の矢で辺りを照らしながら、わたしたちはゆっくりと船を岩場まで進める。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
おっとりドンの童歌
花田 一劫
児童書・童話
いつもおっとりしているドン(道明寺僚) が、通学途中で暴走車に引かれてしまった。
意識を失い気が付くと、この世では見たことのない奇妙な部屋の中。
「どこ。どこ。ここはどこ?」と自問していたら、こっちに雀が近づいて来た。
なんと、その雀は歌をうたい狂ったように踊って(跳ねて)いた。
「チュン。チュン。はあ~。らっせーら。らっせいら。らせらせ、らせーら。」と。
その雀が言うことには、ドンが死んだことを(津軽弁や古いギャグを交えて)伝えに来た者だという。
道明寺が下の世界を覗くと、テレビのドラマで観た昔話の風景のようだった。
その中には、自分と瓜二つのドン助や同級生の瓜二つのハナちゃん、ヤーミ、イート、ヨウカイ、カトッぺがいた。
みんながいる村では、ヌエという妖怪がいた。
ヌエとは、顔は鬼、身体は熊、虎の手や足をもち、何とシッポの先に大蛇の頭がついてあり、人を食べる恐ろしい妖怪のことだった。
ある時、ハナちゃんがヌエに攫われて、ドン助とヤーミでヌエを退治に行くことになるが、天界からドラマを観るように楽しんで鑑賞していた道明寺だったが、道明寺の体は消え、意識はドン助の体と同化していった。
ドン助とヤーミは、ハナちゃんを救出できたのか?恐ろしいヌエは退治できたのか?
【完結】豆狸の宿
砂月ちゃん
児童書・童話
皆さんは【豆狸】という狸の妖怪を知っていますか?
これはある地方に伝わる、ちょっと変わった【豆狸】の昔話を元にしたものです。
一応、完結しました。
偶に【おまけの話】を入れる予定です。
本当は【豆狸】と書いて、【まめだ】と読みます。
姉妹作【ウチで雇ってるバイトがタヌキって、誰か信じる?】の連載始めました。
宜しくお願いします❗️
【完結】さくら色のねずみ
榊咲
児童書・童話
森の奥にさくらの木がたくさん生い茂る森があります。
その森にはさくら色をしたねずみの一族が住んでいました。
さくら色のねずみ達の主食は桜の木の花や生い茂る葉。
そのせいか、さくら色のねずみは一族全員が桜の花と同じ色をしていました。
その桜の木が生い茂る森のに灰色のねずみが一人、迷い込んできました。
※30話で完結
【奨励賞】花屋の花子さん
●やきいもほくほく●
児童書・童話
【第2回きずな児童書大賞 『奨励賞』受賞しました!!!】
旧校舎の三階、女子トイレの個室の三番目。
そこには『誰か』が不思議な花を配っている。
真っ赤なスカートに白いシャツ。頭にはスカートと同じ赤いリボン。
一緒に遊ぼうと手招きする女の子から、あるものを渡される。
『あなたにこの花をあげるわ』
その花を受け取った後は運命の分かれ道。
幸せになれるのか、不幸になるのか……誰にも予想はできない。
「花子さん、こんにちは!」
『あら、小春。またここに来たのね』
「うん、一緒に遊ぼう!」
『いいわよ……あなたと一緒に遊んであげる』
これは旧校舎のトイレで花屋を開く花子さんとわたしの不思議なお話……。
魔法使い物語
藤里 侑
児童書・童話
高校生・音羽はひょんなことから、祖父・壱護の屋敷と庭の管理を任されることになる。しかもその屋敷と庭は普通ではなく、なんと魔法の屋敷と庭だった。さらに自分や祖父も魔法使いだということが明らかになる。
これは、新米魔法使いたちが、様々な困難の解決に奔走しながら成長する、慌ただしくもワクワクに満ちた物語。
*カクヨム・小説家になろうでも連載中
【シーズン2完】おしゃれに変身!って聞いてたんですけど……これってコウモリ女ですよね?
ginrin3go/〆野々青魚
児童書・童話
「どうしてこんな事になっちゃったの!?」
陰キャで地味な服ばかり着ているメカクレ中学生の月澄佳穂(つきすみかほ)。彼女は、祖母から出された無理難題「おしゃれしなさい」をなんとかするため、中身も読まずにある契約書にサインをしてしまう。
それは、鳥や動物の能力持っている者たちの鬼ごっこ『イソップ・ハント』の契約書だった!
夜毎、コウモリ女に変身し『ハント』を逃げるハメになった佳穂。そのたった一人の逃亡者・佳穂に協力する男子が現れる――
横浜の夜に繰り広げられるバトルファンタジー!
【シーズン2完了! ありがとうございます!】
シーズン1・めざまし編 シーズン2・学園編その1 更新完了しました!
それぞれ児童文庫にして1冊分くらいの分量。小学生でも2時間くらいで読み切れます。
そして、ただいまシーズン3・学園編その2 書きだめ中!
深くイソップ・ハントの世界に関わっていくことになった佳穂。これからいったいどうなるのか!?
本作はシーズン書きおろし方式を採用。全5シーズン順次書き上がり次第公開いたします。
お気に入りに登録していただくと、更新の通知が届きます。
気になる方はぜひお願いいたします。
【最後まで逃げ切る佳穂を応援してください!】
本作は、第1回きずな児童書大賞にて奨励賞を頂戴いたしましたが、書籍化にまでは届いていません。
感想、応援いただければ、佳穂は頑張って飛んでくれますし、なにより作者〆野々のはげみになります。
一言でも感想、紹介いただければうれしいです。
【新ビジュアル公開!】
新しい表紙はギルバートさんに描いていただきました。佳穂と犬上のツーショットです!
ゆうれいのぼく
早乙女純章
児童書・童話
ぼくはゆうれいになっていた。
ゆうれいになる前が何だったのか分からない。
ぼくが帰れる場所を探してみよう。きっと自分が何だったのかを思い出して、なりたい自分になれそうな気がする。
ぼくはいろいろなものに憑依していって、みんなを喜ばせていく。
でも、結局、ゆうれいの自分に戻ってしまう。
ついには、空で同じゆうれいたちを見つけるけれど、そこもぼくの本当の居場所ではなかった。
ゆうれいはどんどん増えていっていく。なんと『あくのぐんだん』が人間をゆうれいにしていたのだ。
※この作品は、レトロアーケードゲーム『ファンタズム』から影響を受けて創作しました。いわゆる参考文献みたいな感じです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる