声優召喚!

白川ちさと

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ウンディーネ編

第126話 水面に映る影

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 わたしたちはゆっくりと洞窟を進む。

 黙って歩いていると、いきなりルーシャちゃんが叫んだ。

「ひやあああ!」

「ど、どうしたの?!」

「精霊が出たの!?」

 振り返ると、ルーシャちゃんがしゃがみ込んで縮こまっている。後ろに精霊がいる様子はない。

「な、何かが首に……!」

 天井から一滴の水滴がポトンと落ちて来る。

 それがまた、的確にルーシャちゃんの首に当たった。

「ひやああ!」

「ルーシャちゃん、ただの水だよ」

「このぐらいで叫ぶなんて、ルーシャって怖がりだよね」

 エルメラがそう言うと、ルーシャちゃんはムッとして立ち上がった。

「仕方ありませんこと? だって、こんなに暗くて狭い所、入ったことなんてないですもの」

 ルーシャちゃんの言う通り、普通に生活していても、旅をしていても、わざわざこんな洞窟に入ることなんてない。

 少し前を行っていたイオが振り返る。

「二人とも、喋っている暇はないぞ。火も焚けないし、ここで野宿は難しい。食料もあまりない」

 確かに洞窟だから空気もひんやりしているし、焚き木もない。洞窟探検のための準備なんてしてきていないから、テントも張れない。荷物のほとんどはソリに載っていた。

「とにかく進もう!」

「ああ、では次はどっちに行く」

 洞窟は二股に別れていた。右か左。

 ホムラの炎で照らしてみても、見た目はどっちも同じだ。

「じゃあ、左」

 わたしは勘で左の道を示した。

「分かった。なら左に印をつけて――」

「待ってくださいません?」

 イオを引き留めたのはルーシャちゃんだ。

「少しだけ静かにしてくださいませんか」

 わたしたちは黙って彼女を見つめる。

 ルーシャちゃんはしばらく目を閉じてたたずんでいた。

 そして、腕を上げて右の道を指さした。

「こちらから風が流れてきますわ」

「風。ということは、こっちに出口があるってこと!?」

 風が吹く理由は、道の先に出口があってそこから風が入ってきているとしか思えない。行き止まりから風が吹くはずなかった。

「よし。闇雲に進んでいくよりも、可能性があるだろう。また道が分かれたら頼むな、ルーシャ」

「ええ。任せてくださいな」

 わたしたちは微かな風を頼りに進んでいく。




 何回か同じように二股三股に分かれた道を選んで進んできた。

 今のところ、精霊は出てこない。

「風が強くなってきていますわ。もう少しだと思いますわ」

 ルーシャちゃんがそう言うので、歩く速度も期待で速まる。

「あれ? 少し明るくなって来てない?」

 確かにエルメラが言う通り、ホムラの炎以外にも薄っすらだけど光を感じた。
さらに先を急ぐと、開けた空間に出てきた。

「わあっ!」「すごい……」

 わたしとルーシャちゃんは思わず感嘆を上げた。

 そこに広がっていたのは、とても美しい地底湖だ。

 青々とした水底が透明な水の下に広がっている。

「あ! 穴が開いている! あそこから脱出できるんじゃない!?」

 エルメラが指さす天井には、かなり高いところに小さな穴が開いていた。
ここが明るい原因だ。

 たぶんルーシャちゃんならあそこまで皆を連れて行けるし、通れなかったらイオが剣で穴を広げてくれるはずだ。

「では、すぐにでも脱出しましょう。ミルフィーユ」

 ルーシャちゃんもそう思ったのか、すぐにミルフィーユを呼び出す。

「それにしても、すごく綺麗な湖だよね」

 縁にまで行って、湖を覗き込む。かなり深いようで、青く見えるけれど、透明な水なのに底は見えない。代わりにわたしの顔がよく映っている。

 エルメラも興味深そうに湖をのぞき込んだ。

「落ちたら大変だよね」

 わたしは水に手を入れてみた。

「冷た! こんなところに落ちたらそれこそ凍っちゃうよ。あれ?」

 手を引っ込めたときに水面に出来た波紋。

 それが収まると、またわたしの顔が映るはずだ。

 ――だけど、違う顔が映った。

「これ、ウンディーネ?」

 エルメラにも見えているようだ。

 確かに波打つ長い髪の女性は、神殿で見た凍ったウンディーネによく似ている。

 しかも、

「泣いている?」

 ウンディーネは何か布で巻いたものを抱えて、涙を流しているように見えた。

「どうかしましたの?」

 羽を生やしたルーシャちゃんが背後から尋ねて来る。

「あ! ルーシャちゃん! 水面にウンディーネが映っているの!」

 わたしは水面を指さす。けれど、ルーシャちゃんは首をひねった。

「何を言っていますの? ユメノとエルメラしか映っていませんわよ」

「え!」

 再び水面を見ると、そこにウンディーネの姿は見られない。

「でも、確かに……」

「ユメノと髪型が似ているから、見間違えたんじゃありませんこと?」

「うーん。でも、わたしも見たんだよ?」

 エルメラが言うことに、うんと頷く。

「ウンディーネにも、メジロが凍らせたほかにも、他の精霊の王たちと同じく何かが影響を与えているに違いない。ただ、今はここにこうしていても、どうしようもない。
 ――脱出しよう」

「……そうだよね」

 イオの言う通りだ。

 三百年前に起きた異変。それがウンディーネに悪い影響を与えたに違いないけれど、ここで水面を見つめていても原因も何も分からない。

「洞窟を脱出しよう」

「では、わたくしの手を取るのですわ」

 ルーシャちゃんを真ん中にして、わたしたち三人は手をつなぐ。

「ミルフィーユ、わたくしたちを運ぶのですわ」

 ルーシャちゃんの背中の羽から風が出てきて、手をつないだ三人を包み込む。
風は優しくわたしたちを包み込み、ふわりと足を浮かせた。

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