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シルフ編
第110話 ミルフィーユ
しおりを挟むサラマンダーは急いで、ルーシャちゃんたちの元に飛んでいく。
「ザックさん!!」
ザックさんが命をかけて作ってくれたチャンスを無駄にしてはいけない。サラマンダーに気づいたルーシャちゃんが動き出した。
「離してくださいませ!」
ルーシャちゃんは大斧を動かして、ザックさんを引き離そうとする。
でも、ザックさんはがっちり掴まえて離さない。
わたしはサラマンダーの背中から飛び降りた。大斧に飛び乗り、ルーシャちゃんの精霊石に触れる。
「ミルフィーユ! お願い、出て来て!」
精霊石が一層、緑色に光った。緑の玉が精霊石から出てくる。
それはすぐに小鳥の姿に――。
「あれ?」
小鳥にしては大きい。わたしとルーシャちゃんは、ポカンとその姿を見つめた。
ミルフィーユはその純白の羽を広げる。
首も長くて、くちばしも大きい。
「ミルフィーユ……。白鳥に」
それは間違いなく、白鳥の姿だった。
「わたくしじゃなくて、ユメノが呼び出したから」
ルーシャちゃんはぎゅっと大斧の柄を握り込む。
だけど、すぐに何かに呼び掛けられたように顔を上げた。
「ミルフィーユ?」
ルーシャちゃんとミルフィーユは見つめ合う。
そういえば、エレメンタルハーフとそのパートナーの精霊は言葉を交わすことが出来ると言っていた。ミルフィーユが何か話しかけているのかもしれない。
◇ ◇ ◇
辺りは真っ暗な闇だ。そこで、ルーシャはしゃがみ込み、膝を抱えていた。
「ルーシャ、いったい何をしていますの」
「ミルフィーユ」
大きな羽を持った純白の服を着た女の子、解放した姿でミルフィーユは立っている。
「そこで縮こまっていても、何も始まりませんわ。シルフの影に自我を乗っ取られたままですのよ」
「……わたくしは弱いですの。影の言う快楽に任せて、ザックお兄さまを……」
シルフの影は辛いことなど忘れて楽しみましょうと、心の中のルーシャに呼び掛けて来たのだ。
その圧倒的な誘惑に、ルーシャは簡単に負けてしまった。
「しかもまた、ミルフィーユをユメノに取られてしまって」
「それは違いますわ、ルーシャ。ユメノと最初出会ったときは、あなた調子に乗っているようだったから、わたくしがお灸を据えようとしたの。今回はあなたにわたくしが必要だったからですわ」
「ミルフィーユが必要?」
ルーシャの問いかけにミルフィーユは頷く。
「ええ。ルーシャ、ごめんなさい。今まで辛かったのは、ルーシャのせいじゃないの。わたくしがあなたを選んだから。だから、村の人たちはあなたに辛く当たった」
「ミルフィーユが選んだ?」
はじめて聞く話だ。パートナーの精霊は生まれたときから、ずっと一緒にいる。一緒に生まれるものだと思っていた。
「わたくしは元々力の強い精霊。あなたが生まれたとき、村の近くの風に乗って過ごしていましたの。そこであなたを見つけた。他にもあなたとパートナーになりたいという精霊はたくさんいましたわ。でも、それを跳ねのけて、わたくしがあなたのパートナーになった」
「どうして?」
赤子のルーシャに力があったわけではない。
ミルフィーユは口元を緩める。
「だって、あなたの笑顔がとても楽しそうだったから」
「ミルフィーユ」
ルーシャの頬に手を触れるミルフィーユ。
「ごめんね、ルーシャ。あなたのコントロールしきれない力の原因はわたくしなの」
そのままミルフィーユはルーシャの手を取る。
ルーシャの目から、涙がこぼれ落ちた。
「わたくし、自分の力が嫌いでしたわ。でも、ミルフィーユがいたおかげで村を出て、ユメノともエルメラとも出会いましたの。二人はわたくしのことを友達といってくださいますの」
「ええ。あの三人で笑っているときが一番ルーシャらしいですわ。さあ、立ち上がって。みんなが待っている。大丈夫。わたくしがついていますわ」
「でも、みんなを傷つけてしまって……」
「確かにしてしまったことは、元には戻りませんわ。でも、あなたには闇を晴らす力がある」
ルーシャは辺りを見る。暗い闇はルーシャの心ではない。
ここは、シルフの影の中なのだ。
「さあ、ルーシャ」
「ええ。ミルフィーユ」
ルーシャは立ち上がり、ミルフィーユを抱きしめた。
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