声優召喚!

白川ちさと

文字の大きさ
上 下
110 / 153
シルフ編

第110話 ミルフィーユ

しおりを挟む

 サラマンダーは急いで、ルーシャちゃんたちの元に飛んでいく。

「ザックさん!!」

 ザックさんが命をかけて作ってくれたチャンスを無駄にしてはいけない。サラマンダーに気づいたルーシャちゃんが動き出した。

「離してくださいませ!」

 ルーシャちゃんは大斧を動かして、ザックさんを引き離そうとする。
でも、ザックさんはがっちり掴まえて離さない。

 わたしはサラマンダーの背中から飛び降りた。大斧に飛び乗り、ルーシャちゃんの精霊石に触れる。

「ミルフィーユ! お願い、出て来て!」

 精霊石が一層、緑色に光った。緑の玉が精霊石から出てくる。

 それはすぐに小鳥の姿に――。

「あれ?」

 小鳥にしては大きい。わたしとルーシャちゃんは、ポカンとその姿を見つめた。
ミルフィーユはその純白の羽を広げる。

 首も長くて、くちばしも大きい。

「ミルフィーユ……。白鳥に」

 それは間違いなく、白鳥の姿だった。

「わたくしじゃなくて、ユメノが呼び出したから」

 ルーシャちゃんはぎゅっと大斧の柄を握り込む。

 だけど、すぐに何かに呼び掛けられたように顔を上げた。

「ミルフィーユ?」

 ルーシャちゃんとミルフィーユは見つめ合う。

 そういえば、エレメンタルハーフとそのパートナーの精霊は言葉を交わすことが出来ると言っていた。ミルフィーユが何か話しかけているのかもしれない。



 ◇ ◇ ◇

 
 辺りは真っ暗な闇だ。そこで、ルーシャはしゃがみ込み、膝を抱えていた。

「ルーシャ、いったい何をしていますの」

「ミルフィーユ」

 大きな羽を持った純白の服を着た女の子、解放した姿でミルフィーユは立っている。

「そこで縮こまっていても、何も始まりませんわ。シルフの影に自我を乗っ取られたままですのよ」

「……わたくしは弱いですの。影の言う快楽に任せて、ザックお兄さまを……」

 シルフの影は辛いことなど忘れて楽しみましょうと、心の中のルーシャに呼び掛けて来たのだ。

 その圧倒的な誘惑に、ルーシャは簡単に負けてしまった。

「しかもまた、ミルフィーユをユメノに取られてしまって」

「それは違いますわ、ルーシャ。ユメノと最初出会ったときは、あなた調子に乗っているようだったから、わたくしがお灸を据えようとしたの。今回はあなたにわたくしが必要だったからですわ」

「ミルフィーユが必要?」

 ルーシャの問いかけにミルフィーユは頷く。

「ええ。ルーシャ、ごめんなさい。今まで辛かったのは、ルーシャのせいじゃないの。わたくしがあなたを選んだから。だから、村の人たちはあなたに辛く当たった」

「ミルフィーユが選んだ?」

 はじめて聞く話だ。パートナーの精霊は生まれたときから、ずっと一緒にいる。一緒に生まれるものだと思っていた。

「わたくしは元々力の強い精霊。あなたが生まれたとき、村の近くの風に乗って過ごしていましたの。そこであなたを見つけた。他にもあなたとパートナーになりたいという精霊はたくさんいましたわ。でも、それを跳ねのけて、わたくしがあなたのパートナーになった」

「どうして?」

 赤子のルーシャに力があったわけではない。

 ミルフィーユは口元を緩める。

「だって、あなたの笑顔がとても楽しそうだったから」

「ミルフィーユ」

 ルーシャの頬に手を触れるミルフィーユ。

「ごめんね、ルーシャ。あなたのコントロールしきれない力の原因はわたくしなの」

 そのままミルフィーユはルーシャの手を取る。

 ルーシャの目から、涙がこぼれ落ちた。

「わたくし、自分の力が嫌いでしたわ。でも、ミルフィーユがいたおかげで村を出て、ユメノともエルメラとも出会いましたの。二人はわたくしのことを友達といってくださいますの」

「ええ。あの三人で笑っているときが一番ルーシャらしいですわ。さあ、立ち上がって。みんなが待っている。大丈夫。わたくしがついていますわ」

「でも、みんなを傷つけてしまって……」

「確かにしてしまったことは、元には戻りませんわ。でも、あなたには闇を晴らす力がある」

 ルーシャは辺りを見る。暗い闇はルーシャの心ではない。

 ここは、シルフの影の中なのだ。

「さあ、ルーシャ」

「ええ。ミルフィーユ」

 ルーシャは立ち上がり、ミルフィーユを抱きしめた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おっとりドンの童歌

花田 一劫
児童書・童話
いつもおっとりしているドン(道明寺僚) が、通学途中で暴走車に引かれてしまった。 意識を失い気が付くと、この世では見たことのない奇妙な部屋の中。 「どこ。どこ。ここはどこ?」と自問していたら、こっちに雀が近づいて来た。 なんと、その雀は歌をうたい狂ったように踊って(跳ねて)いた。 「チュン。チュン。はあ~。らっせーら。らっせいら。らせらせ、らせーら。」と。 その雀が言うことには、ドンが死んだことを(津軽弁や古いギャグを交えて)伝えに来た者だという。 道明寺が下の世界を覗くと、テレビのドラマで観た昔話の風景のようだった。 その中には、自分と瓜二つのドン助や同級生の瓜二つのハナちゃん、ヤーミ、イート、ヨウカイ、カトッぺがいた。 みんながいる村では、ヌエという妖怪がいた。 ヌエとは、顔は鬼、身体は熊、虎の手や足をもち、何とシッポの先に大蛇の頭がついてあり、人を食べる恐ろしい妖怪のことだった。 ある時、ハナちゃんがヌエに攫われて、ドン助とヤーミでヌエを退治に行くことになるが、天界からドラマを観るように楽しんで鑑賞していた道明寺だったが、道明寺の体は消え、意識はドン助の体と同化していった。 ドン助とヤーミは、ハナちゃんを救出できたのか?恐ろしいヌエは退治できたのか?

泣き虫な君を、主人公に任命します!

成木沢ヨウ
児童書・童話
『演技でピンチを乗り越えろ!!』  小学六年生の川井仁太は、声優になるという夢がある。しかし父からは、父のような優秀な医者になれと言われていて、夢を打ち明けられないでいた。  そんな中いじめっ子の野田が、隣のクラスの須藤をいじめているところを見てしまう。すると謎の男女二人組が現れて、須藤を助けた。その二人組は学内小劇団ボルドの『宮風ソウヤ』『星みこと』と名乗り、同じ学校の同級生だった。  ひょんなことからボルドに誘われる仁太。最初は断った仁太だが、学芸会で声優を目指す役を演じれば、役を通じて父に宣言することができると言われ、夢を宣言する勇気をつけるためにも、ボルドに参加する決意をする。  演技を駆使して、さまざまな困難を乗り越える仁太たち。  葛藤しながらも、懸命に夢を追う少年たちの物語。

【完結】豆狸の宿

砂月ちゃん
児童書・童話
皆さんは【豆狸】という狸の妖怪を知っていますか? これはある地方に伝わる、ちょっと変わった【豆狸】の昔話を元にしたものです。 一応、完結しました。 偶に【おまけの話】を入れる予定です。 本当は【豆狸】と書いて、【まめだ】と読みます。 姉妹作【ウチで雇ってるバイトがタヌキって、誰か信じる?】の連載始めました。 宜しくお願いします❗️

【シーズン2完】おしゃれに変身!って聞いてたんですけど……これってコウモリ女ですよね?

ginrin3go/〆野々青魚
児童書・童話
「どうしてこんな事になっちゃったの!?」  陰キャで地味な服ばかり着ているメカクレ中学生の月澄佳穂(つきすみかほ)。彼女は、祖母から出された無理難題「おしゃれしなさい」をなんとかするため、中身も読まずにある契約書にサインをしてしまう。  それは、鳥や動物の能力持っている者たちの鬼ごっこ『イソップ・ハント』の契約書だった!  夜毎、コウモリ女に変身し『ハント』を逃げるハメになった佳穂。そのたった一人の逃亡者・佳穂に協力する男子が現れる――  横浜の夜に繰り広げられるバトルファンタジー! 【シーズン2完了! ありがとうございます!】  シーズン1・めざまし編 シーズン2・学園編その1  更新完了しました!  それぞれ児童文庫にして1冊分くらいの分量。小学生でも2時間くらいで読み切れます。  そして、ただいまシーズン3・学園編その2 書きだめ中!  深くイソップ・ハントの世界に関わっていくことになった佳穂。これからいったいどうなるのか!?  本作はシーズン書きおろし方式を採用。全5シーズン順次書き上がり次第公開いたします。  お気に入りに登録していただくと、更新の通知が届きます。  気になる方はぜひお願いいたします。 【最後まで逃げ切る佳穂を応援してください!】  本作は、第1回きずな児童書大賞にて奨励賞を頂戴いたしましたが、書籍化にまでは届いていません。  感想、応援いただければ、佳穂は頑張って飛んでくれますし、なにより作者〆野々のはげみになります。  一言でも感想、紹介いただければうれしいです。 【新ビジュアル公開!】  新しい表紙はギルバートさんに描いていただきました。佳穂と犬上のツーショットです!

宇宙人は恋をする!

山碕田鶴
児童書・童話
私が呼んでいると勘違いして現れて、部屋でアイスを食べている宇宙人・銀太郎(仮名)。 全身銀色でツルツルなのがキモチワルイ。どうせなら、大大大好きなアイドルの滝川蓮君そっくりだったら良かったのに。……え? 変身できるの? 中学一年生・川上葵とナゾの宇宙人との、家族ぐるみのおつきあい。これは、国家機密です⁉ (表紙絵:山碕田鶴/人物色塗りして下さった「ごんざぶろう」様に感謝) 【第2回きずな児童書大賞】奨励賞を受賞しました。ありがとうございます。

【奨励賞】花屋の花子さん

●やきいもほくほく●
児童書・童話
【第2回きずな児童書大賞 『奨励賞』受賞しました!!!】 旧校舎の三階、女子トイレの個室の三番目。 そこには『誰か』が不思議な花を配っている。 真っ赤なスカートに白いシャツ。頭にはスカートと同じ赤いリボン。 一緒に遊ぼうと手招きする女の子から、あるものを渡される。 『あなたにこの花をあげるわ』 その花を受け取った後は運命の分かれ道。 幸せになれるのか、不幸になるのか……誰にも予想はできない。 「花子さん、こんにちは!」 『あら、小春。またここに来たのね』 「うん、一緒に遊ぼう!」 『いいわよ……あなたと一緒に遊んであげる』 これは旧校舎のトイレで花屋を開く花子さんとわたしの不思議なお話……。

魔法使い物語

藤里 侑
児童書・童話
高校生・音羽はひょんなことから、祖父・壱護の屋敷と庭の管理を任されることになる。しかもその屋敷と庭は普通ではなく、なんと魔法の屋敷と庭だった。さらに自分や祖父も魔法使いだということが明らかになる。 これは、新米魔法使いたちが、様々な困難の解決に奔走しながら成長する、慌ただしくもワクワクに満ちた物語。 *カクヨム・小説家になろうでも連載中

【完結】さくら色のねずみ

榊咲
児童書・童話
森の奥にさくらの木がたくさん生い茂る森があります。 その森にはさくら色をしたねずみの一族が住んでいました。 さくら色のねずみ達の主食は桜の木の花や生い茂る葉。 そのせいか、さくら色のねずみは一族全員が桜の花と同じ色をしていました。 その桜の木が生い茂る森のに灰色のねずみが一人、迷い込んできました。 ※30話で完結

処理中です...