声優召喚!

白川ちさと

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シルフ編

第86話 月

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 わたしが呆然として夜空を見上げていると、不思議そうにエルメラが聞いてきた。

「つき? つきってなに?」

 イオやルーシャちゃんも不思議そうにしている。シルフが言った通り、三百年前になくなっているなら、月を知らなくて当然だ。

「月っていうのは夜空に浮かんでいる星の一つで、星よりも丸くて大きいの」

「太陽とは違うのか?」

「うん。太陽は昼に出るでしょ。月は夜の間に出るの」

 太陽はちゃんとある。

 みんな太陽として認識しているのだから、天体の仕組みは同じはずだ。

「ふうむ。ユメノの世界にも月があるのか。それなのに、吾輩たちの世界では月が消えてしまった。なぜ消えたか、理由は分かるか、シルフ」

 どうやらこの世界で月の存在を知っているのは、精霊たちだけみたいだ。

 サラマンダーの問いかけに、シルフは首を横に振る。

「いや。三百年前、突然空から闇が落ちてきたんだ。それが僕の心に入り込んで、伴侶が居なくなった寂しさを増幅しようとした。まあ、随分と前のことだったし、僕には子孫がたくさんいたからね。だから僕自身は闇に乗っ取られ暴走せずにすんだ。だけど、心が五つに別れてしまったんだ」

 それが残りの四つのシルフの影というわけなのだろう。

「とまあ、僕が苦しんでいる間に気づいたら月が無くなっていたんだよ」

「うーん。つまり、原因は分からないということですか。ウンディーネは何か覚えているでしょうか」

 ノームが言うのは残る四大精霊の王の一人、水の精霊の王ウンディーネ。

 だけど、ウンディーネは精霊の海という、氷漬けの湖に居る。

 正確にはどこにいるか分からないから、後回しにしていた。精霊の海には村もないから手がかりもない。

 それに、わたしとサラマンダーの力は精霊の海では弱まってしまう。

 それでも、サラマンダーは言う。

「行くしかあるまい。吾輩たち四人揃えば、精霊たちが暴れている原因も何やらわかるかもしれぬ」

 サラマンダーも精霊の海でのことを思い出したのだろう。

「では、さっそく……」

「ちょっと待ちなよ!」

 シルフがわたしたちの前に立ちはだかる。

「まさか、あの分裂した僕の影をそのままにしておくつもり? 僕の子孫が今も困っているんだよ!」

「……そもそも、シルフには自我があるではないか。自分でどうにか出来ぬのか?」

 確かに憑りつかれていたサラマンダーやノームと違って、シルフはちゃんとシルフとして話している。

「出来ないからこうやって君たちを待っていたんじゃないか! 五つに別れたことで、力も五つに別れちゃったんだから!」

 つまり、シルフは完全な状態じゃないようだ。

「お願いします、皆さま。あのシルフ様の影を鎮めていただけませんでしょうか」

 ザックさんも、村の人もみんな、わたしたちを見つめていた。

 襲われたばかりだから、疲れ切った顔をしている。

「ねぇ、サラマンダー。こんな状態で次には行けないよね。たぶん、シルフだってついて来ないよ」

 わたしは精霊石に話しかけた。

「うむ。仕方があるまい。三百年も過ぎているのである。いまさら事態は急変したりしまい」

 そうサラマンダーが言った途端、わっと村の人たちから歓声が上がった。

「じゃあ、シルフの影を捕えに行くのは、わたしとイオとシルフかな」

 そこに、シュルカさんが前に出てきた。

「俺も同行させてもらってもよいか。追い立てるのに少しは力になるだろう」

 シルフの影と戦っていたときに、このために強くなったって言っていた。以前精霊ギルドで出会ったときも、そのための修行を積んでいたに違いない。

「うん。Sランクのシュルカさんが一緒なら力強いよ」

「ああ」

 イオもしっかり頷く。

 サラマンダーとの戦いのときに、すごくお世話になったからその強さは折り紙付きだ。

「じゃあ、僕はサラマンダーたちと同じように精霊石に宿って行こうかな」

 シルフがシュルカさんの精霊石に宿るなら、鬼に金棒だ。

 だけど、予想外のことをシルフは口にした。

「ルーシャ。さあ、君の精霊石をこっちに」

 みんなが、ポカンとした顔でルーシャちゃんを見つめる。

「わ! わたくしですの!?」

 一番驚いたのは、ルーシャちゃんだ。

「シルフ様。ルーシャはあなたが宿るような器ではありません。何しろ、精霊の力も満足には扱えず」

 冷静に抗議するのは、ザックさんだ。

 ルーシャちゃんが精霊の力を満足に使えないとは、どういうことだろう。精霊使いとしては、解放も出来るし、十分活躍していたけれど――。

 シルフは後ろに手を組んで、目を閉じる。

「僕が宿る器じゃない。本当にそうかな? みんな、ルーシャのことをよくよく知らないと思うよ」

 シルフの言葉に、ざわざわと村の人たちは騒ぎ出す。

「ルーシャ。お前、何か隠しているのか……?」

 疑わしい顔で、ザックさんがそう尋ねる。

「わ、わたくしは何も隠していませんわ!」

 本当に本人にも心当たりがないみたい。

「そのうち分かるさ。じゃあ、ルーシャがんばってね」

 シルフはふわりと浮かんで緑色の光の玉になる。

 するりと、ルーシャちゃんの精霊石の中に入っていってしまった。

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