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シルフ編
第78話 こっそり尾行
しおりを挟むここからでは声は聞こえないけれど、ルーシャちゃんは風の精霊のミルフィーユを呼び出した。
わたしとイオは地面に伏せたまま、ジッとしている。
「精霊を出してどうするつもりかな」
「見ていたら分かるだろう」
すると、ルーシャちゃんは口をパクパクさせて何かを言っている。
解放させるつもりなのだろうか。
見ているうちに、ルーシャちゃんの目の前にいたミルフィーユがみるみるうちに大きくなっていった。言霊で大きくさせたんだ。
インコぐらいの小鳥だったミルフィーユは、すぐにカラスより大きくなって、鷲ぐらいの大きさになった。
そんなミルフィーユが翼を広げると、本当に大きくて、遠くても威圧感がある。
だけど――。
「なんか、言い争っている?」
ルーシャちゃんとミルフィーユは顔を突き合わせて、何か話しているように見えた。
「妙だな。一度、配下に下した精霊は主に逆らわないものだが」
イオの言う通り、精霊たちはわたしの言うことをいつも素直に聞いてくれる。
反抗されることなんてなかった。
「あ!」
そんなことを考えていたら、ルーシャちゃんは杖を横に渡して上に掲げた。それをミルフィーユがかぎ爪でつかみ、羽ばたいた。空に飛び立つ。
わたしが身を起そうとすると、イオが押さえつける。
「……まだ伏せているんだ」
イオがそういうけれど、見失ってしまうんじゃないかと、立ち上がりたくてしょうがない。ルーシャちゃんの人影が、かなり小さくなったときにイオは顔を上げる。
「そろそろいいだろう。追いかけよう。ユメノ、サラマンダーを呼んでくれ」
「でも、見失っちゃうんじゃ」
「エルメラ。精霊の気配が辿れるか?」
イオがエルメラの顔を見る。そうか、エルメラは精霊の気配が分かるから。
こんな夜の空にミルフィーユ以外に精霊はいない。
エルメラも頷く。
「うん。よほど、遠くに行かなければ」
「でも、なんでルーシャちゃんは、こっそり居なくなろうとしたんだろう」
「……あの子には何か秘密があるな。それを隠している。シルフの行方を探すにも、追ってみるのがいいだろう」
「ルーシャちゃんの秘密……?」
確かに手がかりがない今、それに頼るしかない。
ちょっと悪いなと思いながら、わたしはサラマンダーを呼び出した。
サラマンダーには、ルーシャちゃんにバレないようにこっそり後をつけてと言った。
「あの娘、吾輩たちに全く気付いておらぬぞ」
「まあ、気づかれずに抜け出したから、空を飛んでいるのは自分たちだけって思っているんでしょ」
それにルーシャちゃんは、自分たちが飛ぶのに必死みたい。あっちにフラフラ、こっちにフラフラと見ているこっちが危なっかしく思える。
最初の浮島で会ったときは、ああやって飛んでいて落下したから怒っていたのかもしれない。
「あ! 島に向かっている!」
エルメラが一つの浮島を指さした。
確かにルーシャちゃんたちは、少し奥の島に向かっているように見える。
「なんの変哲もない島に見えるけど……」
砂漠でも何でもなくて、普通に木々が生えている。
背後に山があるだけの特徴のない島だ。
でも、ルーシャちゃんはその島になんとか着陸した。
「サラマンダー」
「分かっておる。あの娘に気づかれぬように近づく」
サラマンダーは羽を羽ばたかせて、ルーシャちゃんが着陸した場所から少し離れた場所に降りた。森の入口から少し離れた場所で、霧が深い。
「ルーシャの後を追うぞ」
イオがさっそく小走りに駆けだした。
「あ! 待って!」
でも確かに急がないと、ミルフィーユを精霊石に戻したみたいだからエルメラには頼れない。
ほどなくして、ルーシャちゃんの背中が見えてくる。
その背中は時折立ち止まっては、ため息をついているように見えた。
なんだろう? わたしたちを置いてきた罪悪感かもしれない。
しかし、しばらくすると完全に岩に座り込んでしまった。
「ルーシャちゃん、何しているんだろう」
「……シルフを一人探しているというわけではなさそうだな」
確かに何かを探しているというより、進む場所は決まっているという感じがした。
そこには、行きたくなくて足が重たいように見えた。
でも、ルーシャちゃんは決意を固めたのか、ぎゅっと杖を握って立ち上がる。
わたしたちもその後に続いた。
濃かった白い霧が少しだけ和らぐ。
本当にルーシャちゃんはここに用があるの?
そう思ったときだ。
「え!」
「……村?」
イオがつぶやく。
霧の向こうに薄っすらと見えたのは村の影。家が集まった集落があったんだ。
ルーシャちゃんはそこに向かっているみたいだ。
「こんなところに村があるなんて」
「隠された村のようだ。道理でこそこそするはずだ」
そうか、秘密の村ならルーシャちゃんは、誰かにバレないようにしないといけない。
とはいえ、村があるならシルフの情報があるかもしれない。
わたしが一歩前に進んだときだ。
「誰だ、お前たち」
わたしたちの後ろから、知らない男の人の声がした。
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