声優召喚!

白川ちさと

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ノーム編

第66話 イオの選択

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 サラマンダーは、ノームの巨像の拳を避けながら滑空する。

「きゃああああ!」

 あまりに速く飛ぶものだから、つい悲鳴をあげた。

 でも、それぐらい速く飛ばないと、ノームと花の精霊の女王、宝石の精霊の王の猛追は避けられなかった。

 重そうな鎧を着ているのに、動きの速さは変わらない。それに、ズシンズシンと音を立てて歩くノームは、自分の町のことなんて気にしていなかった。

「みんな、大丈夫かな?」

 サラマンダーがなるべく離れるように飛んでいるけれど、全く無事だとは思えない。

 攻撃も防御もできないサラマンダーも焦っている。

「しかし、どうする! このままではいずれは吾輩も捕まってしまうぞ!」

 ノームの軍勢は総力を挙げて、サラマンダーを攻撃して来た。

「……俺が、行く」

「イオ?」

 みんながイオを振り返る。

「ノームの狙いは俺だ。俺を捕まえれば、隙も出来るだろう」

「そんな! ダメだよ! 大体、隙が出来たところで何が出来るの?! ノームはあの何のどんな攻撃も通さない鎧を着ているんだよ!」

「そうだ! イオがノームに捕まって乗っ取られたら、味方が減るだけじゃないか!」

 わたしの言うことにカカも同調した。

 しかし、イオは続ける。

「サラマンダーなら鎧も焼けると言ったな」

「そうではあるが」

「何も全体を焼く必要はない。妖精の樹の上、胸の上だけを焼くんだ。ほんの少し穴が開く程度でいい」

「そうか! そこにユメノが入り込めば!」

「妖精の樹を乗っ取っている花を焼けるってわけね」

 確かに作戦としては悪くない。

 でも――。

「それでも、イオが捕まる必要はないわ!」

「そうだよ。何とか全員で攻撃をかいくぐって、妖精の樹に向かった方がいいんじゃないかな」

 エルメラも賛成してくれる。イオは頑として首を横に振った。

「いや。それではたどり着く前に全員が捕まってしまう」

「でも、ダメ! イオだけが捕まるなんて絶対ダメ!」

「ユメノ」

 イオがぽんと、わたしの頭に手を置いた。

「ごめんな。何もかも、ユメノに命運を託すようなことをして。それに、なんの所縁もなかったのに、俺のわがままに付き合ってこんな所まで来てくれて。本当に感謝している。ありがとう」

「何言ってんの。そんな……」

 お別れみたいなセリフ。

 そこまで口に出すことは出来なかった。その前にイオはサラマンダーの背中を大きく蹴って、落下していく。

「イオ!」

 その顔は穏やかに微笑んでいた。

『おお! 自らわたしの物になるか!』

 ノームの巨像がイオの落下地点に手を伸ばす。

 その間に、サラマンダーはノームの巨像の懐に飛び込んだ。

「ユメノ! 気を取られている場合ではないぞ! 吾輩が鎧に穴を空ける。すぐに中に飛び込むのだ!」

「イオの為にもだ!」

 カカは残った。

 それも、イオの意志だ。

「……うん!」

 サラマンダーの背中にしがみつき、ぐっと唇をかみしめた。

 あの黒い花を燃やせば、きっとこのノームの巨像も止まる。

 そうすれば、イオも助け出すことが出来るのだ。

「今である!」

 サラマンダーはノームの巨像の首の下、妖精の樹が生えていた場所から少し上の辺りにしがみついた。

「食らうがよい。吾輩の最たる熱の炎を!」

 ゴオッとサラマンダーの喉の奥から、白い熱線が鎧に浴びせられる。

 ノームの巨像のから見るとほんの小さな穴だった。

 だけど、わたしは通ることが出来る。

 サラマンダーの肩を蹴って、穴の中に飛び込んだ。


 ◇ ◇ ◇


 イオはノームの巨像の巨大な手に掴まれていた。

『わたしの元へ来い』

 イオの周りの土が泥のように溶けて、吸い込まれていく。イオは吸い込まれながら、サラマンダーの行方を目で追っていた。

(行け、ユメノ。こっちはこっちで何とかする)

 イオは決して自己犠牲の為だけに捕まったわけではない。

 考えがあった。

 泥の中に溶けて完全に土の中に全身が浸かる。しかし、不思議と呼吸は出来た。
イオの周りだけ、空間を開けているからかもしれない。

 取り込む前に死なれたら、声を自分のものにすることが出来ないからだ。土の中で身動きは取れないが移動している気配はある。

 移動はすぐに終わり、イオは投げ出された。

 青い宝石の壁の一室だ。宿の一室ほどで、それほど広くはない。

「おお、来たか」

 聞き覚えのある声だ。しゃがれていて甲高い。ノームの声だ。

 イオは立ち上がって前を向く。

 そこには椅子に座る小さな小人の老人がいた。白いひげが口を覆い、赤い服に、赤いとんがり帽子を被っている。

 伝承通りの姿。間違いなくノーム本体だ。

「さあ、わたしの物になる美しいその声を聞かせておくれ」

 表情は柔らかだが、その身体は黒いオーラに覆われている。表情もどことなく邪悪だ。

 だが、完全に油断しているとイオは思った。

「ロックス! 剣をこの手に!」

 イオは精霊石を手にしている。土の精霊のキツネはすぐに現れ、イオの手元に短剣を形作った。

 しかし、ノームは全く動じない。

「うん。美しい声だ。わたしの物になるのに相応しい」

 すぐ横からは宝石の精霊の王が出てきて、床からは花の精霊の女王が現れた。これでは危害を与えることは不可能だ。

「そうだろうと思ったよ。だから、こうする」

「な、何を!」

 ノームは細い目を見開く。

 イオは短剣の切っ先を自分の喉元に突き付けた。

「俺の声が望みなのだろう。この声が欲しければ、全ての攻撃を停止しろ」

 首筋から血の玉が浮き上がる。

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