66 / 153
ノーム編
第66話 イオの選択
しおりを挟むサラマンダーは、ノームの巨像の拳を避けながら滑空する。
「きゃああああ!」
あまりに速く飛ぶものだから、つい悲鳴をあげた。
でも、それぐらい速く飛ばないと、ノームと花の精霊の女王、宝石の精霊の王の猛追は避けられなかった。
重そうな鎧を着ているのに、動きの速さは変わらない。それに、ズシンズシンと音を立てて歩くノームは、自分の町のことなんて気にしていなかった。
「みんな、大丈夫かな?」
サラマンダーがなるべく離れるように飛んでいるけれど、全く無事だとは思えない。
攻撃も防御もできないサラマンダーも焦っている。
「しかし、どうする! このままではいずれは吾輩も捕まってしまうぞ!」
ノームの軍勢は総力を挙げて、サラマンダーを攻撃して来た。
「……俺が、行く」
「イオ?」
みんながイオを振り返る。
「ノームの狙いは俺だ。俺を捕まえれば、隙も出来るだろう」
「そんな! ダメだよ! 大体、隙が出来たところで何が出来るの?! ノームはあの何のどんな攻撃も通さない鎧を着ているんだよ!」
「そうだ! イオがノームに捕まって乗っ取られたら、味方が減るだけじゃないか!」
わたしの言うことにカカも同調した。
しかし、イオは続ける。
「サラマンダーなら鎧も焼けると言ったな」
「そうではあるが」
「何も全体を焼く必要はない。妖精の樹の上、胸の上だけを焼くんだ。ほんの少し穴が開く程度でいい」
「そうか! そこにユメノが入り込めば!」
「妖精の樹を乗っ取っている花を焼けるってわけね」
確かに作戦としては悪くない。
でも――。
「それでも、イオが捕まる必要はないわ!」
「そうだよ。何とか全員で攻撃をかいくぐって、妖精の樹に向かった方がいいんじゃないかな」
エルメラも賛成してくれる。イオは頑として首を横に振った。
「いや。それではたどり着く前に全員が捕まってしまう」
「でも、ダメ! イオだけが捕まるなんて絶対ダメ!」
「ユメノ」
イオがぽんと、わたしの頭に手を置いた。
「ごめんな。何もかも、ユメノに命運を託すようなことをして。それに、なんの所縁もなかったのに、俺のわがままに付き合ってこんな所まで来てくれて。本当に感謝している。ありがとう」
「何言ってんの。そんな……」
お別れみたいなセリフ。
そこまで口に出すことは出来なかった。その前にイオはサラマンダーの背中を大きく蹴って、落下していく。
「イオ!」
その顔は穏やかに微笑んでいた。
『おお! 自らわたしの物になるか!』
ノームの巨像がイオの落下地点に手を伸ばす。
その間に、サラマンダーはノームの巨像の懐に飛び込んだ。
「ユメノ! 気を取られている場合ではないぞ! 吾輩が鎧に穴を空ける。すぐに中に飛び込むのだ!」
「イオの為にもだ!」
カカは残った。
それも、イオの意志だ。
「……うん!」
サラマンダーの背中にしがみつき、ぐっと唇をかみしめた。
あの黒い花を燃やせば、きっとこのノームの巨像も止まる。
そうすれば、イオも助け出すことが出来るのだ。
「今である!」
サラマンダーはノームの巨像の首の下、妖精の樹が生えていた場所から少し上の辺りにしがみついた。
「食らうがよい。吾輩の最たる熱の炎を!」
ゴオッとサラマンダーの喉の奥から、白い熱線が鎧に浴びせられる。
ノームの巨像のから見るとほんの小さな穴だった。
だけど、わたしは通ることが出来る。
サラマンダーの肩を蹴って、穴の中に飛び込んだ。
◇ ◇ ◇
イオはノームの巨像の巨大な手に掴まれていた。
『わたしの元へ来い』
イオの周りの土が泥のように溶けて、吸い込まれていく。イオは吸い込まれながら、サラマンダーの行方を目で追っていた。
(行け、ユメノ。こっちはこっちで何とかする)
イオは決して自己犠牲の為だけに捕まったわけではない。
考えがあった。
泥の中に溶けて完全に土の中に全身が浸かる。しかし、不思議と呼吸は出来た。
イオの周りだけ、空間を開けているからかもしれない。
取り込む前に死なれたら、声を自分のものにすることが出来ないからだ。土の中で身動きは取れないが移動している気配はある。
移動はすぐに終わり、イオは投げ出された。
青い宝石の壁の一室だ。宿の一室ほどで、それほど広くはない。
「おお、来たか」
聞き覚えのある声だ。しゃがれていて甲高い。ノームの声だ。
イオは立ち上がって前を向く。
そこには椅子に座る小さな小人の老人がいた。白いひげが口を覆い、赤い服に、赤いとんがり帽子を被っている。
伝承通りの姿。間違いなくノーム本体だ。
「さあ、わたしの物になる美しいその声を聞かせておくれ」
表情は柔らかだが、その身体は黒いオーラに覆われている。表情もどことなく邪悪だ。
だが、完全に油断しているとイオは思った。
「ロックス! 剣をこの手に!」
イオは精霊石を手にしている。土の精霊のキツネはすぐに現れ、イオの手元に短剣を形作った。
しかし、ノームは全く動じない。
「うん。美しい声だ。わたしの物になるのに相応しい」
すぐ横からは宝石の精霊の王が出てきて、床からは花の精霊の女王が現れた。これでは危害を与えることは不可能だ。
「そうだろうと思ったよ。だから、こうする」
「な、何を!」
ノームは細い目を見開く。
イオは短剣の切っ先を自分の喉元に突き付けた。
「俺の声が望みなのだろう。この声が欲しければ、全ての攻撃を停止しろ」
首筋から血の玉が浮き上がる。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
まほう使いの家事手伝い
トド
児童書・童話
十才の女の子であるアミィには、将来、おヨメさんになりたいと思う人がいる。
けれどそれは、アゼルと言う名前のとても情けない男の人。
アゼルは今日もお仕事をしては、そこの店主のおばあさんにしかられてばかり。
……ですが、アゼルには秘密があったのです。
※可能な限り、毎朝7時に更新する予定です。
天神様の御用人 ~心霊スポット連絡帳~
水鳴諒
児童書・童話
【完結】人形供養をしている深珠神社から、邪悪な魂がこもる人形が逃げ出して、心霊スポットの核になっている。天神様にそれらの人形を回収して欲しいと頼まれた中学一年生のスミレは、天神様の御用人として、神社の息子の龍樹や、血の繋がらない一つ年上の兄の和成と共に、一時間以内に出ないと具合が悪くなる心霊スポット巡りをして人形を回収することになる。※第2回きずな児童書大賞でサバイバル・ホラー賞を頂戴しました。これも応援して下さった皆様のおかげです、本当にありがとうございました!
宮野くんに伝えたい想い~夢の世界から戻るには『好き』を伝え合うこと
立坂雪花
児童書・童話
好きな人と行くと
両思いになって
結ばれる場所があるらしい。
その場所へ行くと
☆。.:*・゜
憧れの宮野くんと一緒に
夢の世界で暮らすことになった。
その世界は、夢だけど
現実のような感覚の世界。
元の世界に戻る方法は
『好き』を伝えあうこと。
宮野くんのことがずっと好き。
だけど宮野くんはきっと――。
ピュアラブファンタジー❤
☆。.:*・゜
☆登場人物
小松 結芽(こまつゆめ)
ほんわかしている小柄な女の子。
自分から話しかけるのが苦手。
花や動物が好き。
↓♡
宮野 陽希(みやのはるき)
不良っぽいけど実は優しい。
運動が得意で料理も上手。
アイドル顔のイケメンで
モデルもしている。
新井 星斗(あらいせいと)
いつも静かに本を読んでいる。
インテリ系イケメン。
知識が豊富でゲーム好き。
普段はひとりでいることが多い。
水無月 葵(みなつきあおい)
積極的で明るい性格。
結芽と小さな頃から仲良し
同じ歳だけど、結芽のお姉さん的な存在。
☆。.:*・゜
恋と友情のお話
友梨奈さまの言う通り
西羽咲 花月
児童書・童話
「友梨奈さまの言う通り」
この学校にはどんな病でも治してしまう神様のような生徒がいるらしい
だけど力はそれだけじゃなかった
その生徒は治した病気を再び本人に戻す力も持っていた……
【完結】お試しダンジョンの管理人~イケメンたちとお仕事がんばってます!~
みなづきよつば
児童書・童話
異世界ファンタジーやモンスター、バトルが好きな人必見!
イケメンとのお仕事や、甘酸っぱい青春のやりとりが好きな方、集まれ〜!
十三歳の女の子が主人公です。
第1回きずな児童書大賞へのエントリー作品です。
投票よろしくお願いします!
《あらすじ》
とある事情により、寝泊まりできて、働ける場所を探していた十三歳の少女、エート。
エートは、路地裏の掲示板で「ダンジョン・マンション 住み込み管理人募集中 面接アリ」というあやしげなチラシを発見する。
建物の管理人の募集だと思い、面接へと向かうエート。
しかし、管理とは実は「お試しダンジョン」の管理のことで……!?
冒険者がホンモノのダンジョンへ行く前に、練習でおとずれる「お試しダンジョン」。
そこでの管理人としてのお仕事は、モンスターとのつきあいや、ダンジョン内のお掃除、はては、ゴーレムづくりまで!?
おれ様イケメン管理人、ヴァンと一緒に、エートがダンジョンを駆けまわる!
アナタも、ダンジョン・マンションの管理人になってみませんか?
***
ご意見・ご感想お待ちしてます!
2023/05/24
野いちごさんへも投稿し始めました。
2023/07/31
第2部を削除し、第1回きずな児童書大賞にエントリーしました。
詳しくは近況ボードをご覧ください。
完結《フラワーランド》ありちゃんとなぞなぞ? No.1 作画 てんとう🐞むしぱん&お豆
Ari
児童書・童話
なぞなぞとクイズ
さぁ、みんなで考えよう♪
毎日。一問出せたらいいなと思います。
僕の都合で絵は後からですが、イラストレイターの、お二人が描き溜めてくれています!公開お楽しみに!
(イラストいれたら、近況報告でお伝えしますね!)
柔らか頭目指すぞー!
作画 てんとう🐞むしぱん
Twitterアカウント@picture393
お豆
Twitterアカウント@fluffy_tanpopo
トゥーリとヌーッティ<短編集>
御米恵子
児童書・童話
長編小説「トゥーリとヌーッティ」のトントゥの女の子トゥーリと小熊の妖精ヌーッティの日常を描いた短編集です。
北欧フィンランドを舞台に繰り広げられる二人の活躍(?)をお楽しみください。
長編小説を未読でもお楽しみいただけると思います。また、話数は多いですが、お好きな章からお読みいただけます。迷われたら「ヌーッティ危機一髪」「戦場のモホコ」をぜひ。トゥーリとヌーッティがどんなキャラクターなのか一番わかりやすいと思います。
*フィンランド語はフィンランド人の友人に校正をしてもらいました。
*『ノベルアップ+』『小説家になろう』にも掲載中のお話です。
探偵ごっこじゃありません!~未来の花嫁は、今日も謎解き修行中~
雪華
児童書・童話
小学四年生の桜子は、容姿端麗、頭脳明晰。だけど好奇心旺盛過ぎる所が玉に瑕。
そんな彼女には、生まれる前から決められていた許嫁がいた。
許嫁の家は探偵事務所で、桜子は「花嫁修業」と称して毎日のように事務所に入り浸っている。
そんなある日、許嫁と同じ学校に通う男子高校生が、探偵事務所を訪れた。
彼は芸能人なのだが、どうやらドラマの撮影中、密室状態だった楽屋から大切なものが消えたらしい。
自分にあまり興味を持ってくれない許嫁を振り向かせるため、桜子は意気揚々と勝手に依頼を引き受けてしまう。
*****
きずな児童書大賞にエントリー中☆
のんびり不定期更新の予定です。気長にお付き合い頂けたら幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる