声優召喚!

白川ちさと

文字の大きさ
上 下
61 / 153
ノーム編

第61話 サラマンダーの怒り

しおりを挟む

 青い宝石の壁で囲われている部屋を赤い閃光が満たす。

 ミラーの花びらが光にかき消されて、わたしは床に落下していく。

「よくやったぞ! ユメノ!」

 床に叩きつけられる前に、サラマンダーが現れた。暖かくも、すべすべした背中に乗っている。なんとか肩に刺さった宝石を抜いて、態勢を立て直した。

「サラマンダー、よかった。何もされていなさそうね」

「そもそも吾輩は精霊石から出てもおらぬ。それより、その肩を早く治療しなくては」

 肩からは血が出ていて、ズキズキと痛む。精霊石を抱えたエルメラがそばに飛んでくる。

「ユメノ、大丈夫? これ、精霊石だよ」

「大丈夫! これぐらいへっちゃら!」

 わたしは二人にニッカリ笑って見せる。

「では、ユメノ。あの者を片付けてしまうから、安静にしているがよい」

 サラマンダーは鼻先を宝石の精霊の王へと向けた。あれほど余裕ぶっていたのに、サラマンダーに睨まれると脂汗をかいているように見えた。

 余裕を見せてサラマンダーが鼻息荒く笑う。

「ふふん。分かっておるのであろう。自分は所詮、土の精霊の王の眷属。四大精霊たる吾輩の炎に敵いはしないとな」

 眼光を鋭くしているサラマンダーは、ゴロゴロとのどを鳴らして口の中に炎を溜めている。

「ねえ、宝石が炎で溶けるの?」

 炎と宝石。エルメラの言う通り、宝石の方が強そうに思える。

 けれど、わたしは知っている。

「普通の炎じゃ溶けるはずがない。でも、サラマンダーは何千度ものマグマを行き来している。それが出せないとは思えない」

「何千度……」

 ごくりとエルメラが息を飲んだ。

「よく知っておるな、ユメノ。その通り。そして、宝石はそのマグマが結晶化したものである。つまり、お前を溶かすも固めるも吾輩の思うがまま」

 準備は整ったようだ。ゴロゴロと鳴く音が止まった。

 だけど、宝石の精霊の王は冷静な口調で話しかけてくる。

「……お前たちの目的はノーム王に会うことだろう。交渉してもよいだろうか」

 悪くない条件だと思った。無用に戦う必要はない。

 けれど、サラマンダーの腹の虫は収まらなかった。

「そんなもの、自ら探してみせるわ!! それよりよくも我が友、ユメノを傷つけおったな!!」

「ひいぃぃ! サラマンダーがめちゃくちゃ怒っている!」

 一気に部屋の気温が煮えたぎった気がする。

 サラマンダーは身体を震わして、大きな口から白い火の玉を吐き出した。宝石の精霊の王は宝石でガードしながら横に大きく飛ぶ。

 だけど、ガードに出現させた宝石も、その後ろの壁の宝石も、ドロドロに溶けてしまった。外の青い空までが見える。

「逃がさぬぞ!」

 サラマンダーは火力を弱めることなく、宝石の精霊の王に向けてブレスを吐き続けた。宝石の精霊の王は宝石で足場を作って逃げていく。

「吾輩に限ってスタミナ切れなどないぞ!」

 追いかけて、ブレスは追い続けるサラマンダー。次々に足場を溶かしていく。
宝石の精霊の王は天井近くにまで上がっていった。

 それ以上、上には行けず立ち往生している。

「追い詰めたぞ! 食らうがよい!」

 ポウッ

 そんな音がした。サラマンダーの口から白い火の玉が噴き出る。確実に宝石の精霊の王を捉えていた。そう、思ったけれど――。

「どんな宝石も、わたしの思うがままだ」

 宝石の精霊の王は天井に手をかざした。

 すると小さな宝石に砕けていき、ガラガラと地面に落下する。天井には小さな丸い穴が開いた。宝石の精霊の王は、するりと身を滑らせる。

「逃がすか!」

「わっ!」

 サラマンダーは大きく火を天井に吹いて、その中に突進した。背中に乗っているわたしもそのまま、ダンスフロアから上の階へと移動する。

 火の中を通って出てきたそこは、神々しい光に満ちていた。

「なに? ここ?」

 明らかにこれまでの場所とは違う。

「ユメノ! あれ、妖精の樹だよ!」

 エルメラが前を指さす。そこには黄金に輝く大木がそびえたっていた。

 以前見た枯れた妖精の樹ぐらいの太さがある。

 妖精の樹に間違いない。だけど……。

「なに? あの花?」

 妖精の樹の幹や枝には大きな黒い花が巻き付くように咲いている。

 五枚の花弁の花は神々しい光を打ち消すような黒いもやを放っているように見えた。どこかで見たことがあるもやだと感じる。

「よくもここまで来たものだ」

 わたしたちが妖精の樹に注目していると声がした。少し高い声。

「……ノームか」

 サラマンダーが唸り、妖精の樹の前にいる人物を睨みつけた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

処理中です...