声優召喚!

白川ちさと

文字の大きさ
上 下
47 / 153
ノーム編

第47話 ノームではない

しおりを挟む
 イリアさんはすごく痩せていて、歩くのもやっとだ。けれど、おじさんに支えられて、なんとか食卓につくことが出来た。

「みなさん、助けていただきありがとうございました」

 イリアさんの声は、とても可愛らしい。アイドルのアニメに出てきそうだ。でも、座っていても少しフラフラしている。

「気分は悪くないですか?」

 向かい側に座るムウさんが気遣う。

「はい。大丈夫です。ずっと寝ていましたから、もうベッドにはいたくありません。それにお腹が空いちゃって」

 イリアさんは恥ずかしそうにお腹を押さえた。食べたいっていう欲求があるっていうことは、きっと生命力が復活しているっていうことだ。

 そこへ、イリアさんの前にスープの入った皿が置かれる。

「ほら、豆のスープが出来たぞ。みなさんも、どうぞ」

 おじさんが本当に嬉しそうにスープを配っていく。ニコニコとしていて、最初に会ったときとは別人みたい。

「いただきます」

 イリアさんはゆっくりとスプーンを口に運ぶ。

「いただきまーす」

 わたしたちも遠慮せずにいただいた。




 わたしたちはスープをぺろりと平らげて、お茶を飲みながらゆっくり食べているイリアさんが食べ終わるのを待つ。イリアさんには大事な用がある。

 イリアさんは、ノームに挑んで植物と同化されそうになった。ということは、ノームの森の様子も、少なからず知っているはずだ。

「あなた方もノームに……?」

 わたしたちがそのことを告げると、イリアさん親子は当然のように驚いていた。

 おじさんが口早に言う。

「でも、イリアがこんな目にあったことを知ったのだから、断念するのですよね」

 イオはおじさんの顔を見つめて、首を横に振った。

「いいや。俺たちは行かなければならない」

「ええ。これ以上悲劇を繰り返させるわけにはいきません」

 ムウさんもハッキリと言い切った。みんな、気持ちは一緒だ。

 わたしはイリアさんを見つめる。

「それで、ノームの森のことを教えて欲しいの」

 考え込むように下を向いていたイリアさんだったけれど、やがて顔を上げた。

「ノームの森はここから北に進んだ森にあります」

 ゆっくりと語りだすイリアさん。

「森の入り口はゴーレムが守っています。ですが、何かと理由をつければ入ることは可能です。ただ、安全に出ることが出来る人は、ほとんどいませんが……」

 入ることは簡単だけれど、出ることは難しいということだ。

「森の中はまるで楽園です」

「楽園?」

 あまりに予想外な単語が出てきた。イリアさんは神妙に頷く。

「はい。花が咲き乱れ、木々も潤い。この集落とは正反対のところです。そこで人々は幸せそうに暮らしています」

「え! ノーム森に人が居るの?! 精霊じゃなくて!?」

 わたしは精霊たちが暮らす森だと勝手に思い込んでいた。

 イオが苦々しい口調で答える。

「……裏切り者たちだ。他の森から、妖精たちから奪い取った物で自分たちだけ裕福に暮らしている」

 そんな人たちがいるなんて思ってもみなかった。

 でも、自分たちの利権ばかり考える人はどの世界にもいるものだ。

「裏切り者はノームも同じかもしれません」

「ん? どういうこと??」

 イリアさんは真剣な目をして語る。

「わたしは偶然にもノームの姿を目にしました。ノーム王と呼ばれているのは、ノームではありません」

「どういう? ノーム王ならノームじゃないの??」

「あれはノームを語るだけの精霊使いだと、わたしは思っています」

「ノームを語る……」

「精霊使い!?」

 カカが大きな声で驚いてみせた。

 カカだけじゃない。イオもムウさんも、もちろんわたしにも寝耳に水のことに言葉が出てこない。

「ノームの姿は老人の小人だと言われていますよね。でも、ノーム王と呼ばれているのは、若い男の姿をしていました」

 わたしは頭の中を整理する。

「つまり……敵は、土の精霊の王ノームじゃない?」

「はい」

 これはちょっと考え方を改めないといけないようだ。




 おじさんの家は三人も泊まる場所はない。わたしたちは隣の空き家に移動する。
人はいないけれど、家具はそのままにしてあった。ちょっと埃っぽいけれど、野宿よりましだ。

 みんなでテーブルを囲んで椅子に座った。

「で、聞いていたんでしょ。サラマンダー」

 杖の精霊石がぼんやりと赤く光った。

「うむ。なるほどと、思ったぞ。やはりあのノームが森を潰すような大それたことをするはずはなかったな」

 サラマンダーは、ふふんと鼻息が聞こえそうなほど得意げだ。

「サラマンダー様」

 ムウさんがスッと立ち上がって、床に片膝をついた。

 サラマンダーを敬うような行動にびっくりする。だけど、精霊の王なのだから、それが当たり前の姿かもしれない。味方だったらという条件がつくけど。

「わたしは花の精霊使いムウと申します。そのお力、偽りのノーム王を倒すために貸していただけますか」

「うむ。本物のノームの行方も気になる。構わぬぞ」

 なんだか偉そうだ。わたしには歌わないと出てこないと駄々をこねていたサラマンダーとは随分違う。イオが腕を組んで言う。

「ただ、単にサラマンダーがノームの森を焼けばいいという訳じゃない」

「そうよね。森を焼くんじゃ、偽のノームと一緒だもの」

 ただでさえ、森は損なわれているのにこれ以上被害を拡大させるわけにはいかない。

 ムウさんも頷く。

「まずは、その偽りのノーム王を演じているという青年をこの目で確かめる必要があると思います。どうやって妖精の樹から生命力を奪っているのか。なぜ、逃げたイリアさんをあのような目に合わせるのか」

「そうだね、ムウさん。なんにしても、ノームの森に行ってみないと」

 わたしたちは明日、ノームの森に旅立つことにした。

 明日には精霊の海で冷え切っていたサラマンダーも復活しているだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔法使い物語

藤里 侑
児童書・童話
高校生・音羽はひょんなことから、祖父・壱護の屋敷と庭の管理を任されることになる。しかもその屋敷と庭は普通ではなく、なんと魔法の屋敷と庭だった。さらに自分や祖父も魔法使いだということが明らかになる。 これは、新米魔法使いたちが、様々な困難の解決に奔走しながら成長する、慌ただしくもワクワクに満ちた物語。 *カクヨム・小説家になろうでも連載中

泣き虫な君を、主人公に任命します!

成木沢ヨウ
児童書・童話
『演技でピンチを乗り越えろ!!』  小学六年生の川井仁太は、声優になるという夢がある。しかし父からは、父のような優秀な医者になれと言われていて、夢を打ち明けられないでいた。  そんな中いじめっ子の野田が、隣のクラスの須藤をいじめているところを見てしまう。すると謎の男女二人組が現れて、須藤を助けた。その二人組は学内小劇団ボルドの『宮風ソウヤ』『星みこと』と名乗り、同じ学校の同級生だった。  ひょんなことからボルドに誘われる仁太。最初は断った仁太だが、学芸会で声優を目指す役を演じれば、役を通じて父に宣言することができると言われ、夢を宣言する勇気をつけるためにも、ボルドに参加する決意をする。  演技を駆使して、さまざまな困難を乗り越える仁太たち。  葛藤しながらも、懸命に夢を追う少年たちの物語。

【完結】豆狸の宿

砂月ちゃん
児童書・童話
皆さんは【豆狸】という狸の妖怪を知っていますか? これはある地方に伝わる、ちょっと変わった【豆狸】の昔話を元にしたものです。 一応、完結しました。 偶に【おまけの話】を入れる予定です。 本当は【豆狸】と書いて、【まめだ】と読みます。 姉妹作【ウチで雇ってるバイトがタヌキって、誰か信じる?】の連載始めました。 宜しくお願いします❗️

ティー・ブレイク~うさぎの国の物語エピソードゼロ

ねこうさぎしゃ
児童書・童話
既出の「眠れる森のうさぎ姫」の少し前のお話です。魔法使いルタニが人間の姿になった理由とは…。

【奨励賞】花屋の花子さん

●やきいもほくほく●
児童書・童話
【第2回きずな児童書大賞 『奨励賞』受賞しました!!!】 旧校舎の三階、女子トイレの個室の三番目。 そこには『誰か』が不思議な花を配っている。 真っ赤なスカートに白いシャツ。頭にはスカートと同じ赤いリボン。 一緒に遊ぼうと手招きする女の子から、あるものを渡される。 『あなたにこの花をあげるわ』 その花を受け取った後は運命の分かれ道。 幸せになれるのか、不幸になるのか……誰にも予想はできない。 「花子さん、こんにちは!」 『あら、小春。またここに来たのね』 「うん、一緒に遊ぼう!」 『いいわよ……あなたと一緒に遊んであげる』 これは旧校舎のトイレで花屋を開く花子さんとわたしの不思議なお話……。

おっとりドンの童歌

花田 一劫
児童書・童話
いつもおっとりしているドン(道明寺僚) が、通学途中で暴走車に引かれてしまった。 意識を失い気が付くと、この世では見たことのない奇妙な部屋の中。 「どこ。どこ。ここはどこ?」と自問していたら、こっちに雀が近づいて来た。 なんと、その雀は歌をうたい狂ったように踊って(跳ねて)いた。 「チュン。チュン。はあ~。らっせーら。らっせいら。らせらせ、らせーら。」と。 その雀が言うことには、ドンが死んだことを(津軽弁や古いギャグを交えて)伝えに来た者だという。 道明寺が下の世界を覗くと、テレビのドラマで観た昔話の風景のようだった。 その中には、自分と瓜二つのドン助や同級生の瓜二つのハナちゃん、ヤーミ、イート、ヨウカイ、カトッぺがいた。 みんながいる村では、ヌエという妖怪がいた。 ヌエとは、顔は鬼、身体は熊、虎の手や足をもち、何とシッポの先に大蛇の頭がついてあり、人を食べる恐ろしい妖怪のことだった。 ある時、ハナちゃんがヌエに攫われて、ドン助とヤーミでヌエを退治に行くことになるが、天界からドラマを観るように楽しんで鑑賞していた道明寺だったが、道明寺の体は消え、意識はドン助の体と同化していった。 ドン助とヤーミは、ハナちゃんを救出できたのか?恐ろしいヌエは退治できたのか?

【シーズン2完】おしゃれに変身!って聞いてたんですけど……これってコウモリ女ですよね?

ginrin3go/〆野々青魚
児童書・童話
「どうしてこんな事になっちゃったの!?」  陰キャで地味な服ばかり着ているメカクレ中学生の月澄佳穂(つきすみかほ)。彼女は、祖母から出された無理難題「おしゃれしなさい」をなんとかするため、中身も読まずにある契約書にサインをしてしまう。  それは、鳥や動物の能力持っている者たちの鬼ごっこ『イソップ・ハント』の契約書だった!  夜毎、コウモリ女に変身し『ハント』を逃げるハメになった佳穂。そのたった一人の逃亡者・佳穂に協力する男子が現れる――  横浜の夜に繰り広げられるバトルファンタジー! 【シーズン2完了! ありがとうございます!】  シーズン1・めざまし編 シーズン2・学園編その1  更新完了しました!  それぞれ児童文庫にして1冊分くらいの分量。小学生でも2時間くらいで読み切れます。  そして、ただいまシーズン3・学園編その2 書きだめ中!  深くイソップ・ハントの世界に関わっていくことになった佳穂。これからいったいどうなるのか!?  本作はシーズン書きおろし方式を採用。全5シーズン順次書き上がり次第公開いたします。  お気に入りに登録していただくと、更新の通知が届きます。  気になる方はぜひお願いいたします。 【最後まで逃げ切る佳穂を応援してください!】  本作は、第1回きずな児童書大賞にて奨励賞を頂戴いたしましたが、書籍化にまでは届いていません。  感想、応援いただければ、佳穂は頑張って飛んでくれますし、なにより作者〆野々のはげみになります。  一言でも感想、紹介いただければうれしいです。 【新ビジュアル公開!】  新しい表紙はギルバートさんに描いていただきました。佳穂と犬上のツーショットです!

ゆうれいのぼく

早乙女純章
児童書・童話
ぼくはゆうれいになっていた。 ゆうれいになる前が何だったのか分からない。 ぼくが帰れる場所を探してみよう。きっと自分が何だったのかを思い出して、なりたい自分になれそうな気がする。 ぼくはいろいろなものに憑依していって、みんなを喜ばせていく。 でも、結局、ゆうれいの自分に戻ってしまう。 ついには、空で同じゆうれいたちを見つけるけれど、そこもぼくの本当の居場所ではなかった。 ゆうれいはどんどん増えていっていく。なんと『あくのぐんだん』が人間をゆうれいにしていたのだ。 ※この作品は、レトロアーケードゲーム『ファンタズム』から影響を受けて創作しました。いわゆる参考文献みたいな感じです。

処理中です...