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サラマンダー編
第36話 イオのお願い
しおりを挟む三日後、ロザ王国の怪我をしていた精霊使いも動けるようになって、イオの怪我もだいぶ良くなった。一安心だ。
太陽がサンサンと降り注ぐ、この日。わたしたち、サラマンダーの討伐に行っていた者たちはゲーズの市庁舎へ呼び出されていた。
兵士さんに連れられて、奥の部屋へと向かう。
「わたしたちを呼び出して何をするのかな? お前たちに褒美を使わすとかかな?」
「宝石ざっくざくよ、きっと」
オリビアさんはとてもご機嫌だ。ビューロさんも嬉しそうに頷く。
「毎回、呼ばれて報奨金を貰えるからな。今回もそのことだろ。オリビアの機嫌がいいのはいつものことだけど、ユメノも機嫌がいいな。なにか欲しい物でもあるのか?」
「えへへ、そんなところです」
本当は欲しい物があるわけではない。
実は、わたしは慌てて帰る必要がないことが分かったのだ。
三日前、サラマンダーは言ったのだ。
わたしの魂がこちらに来ている以上、あちらの世界の時間は止まっているらしい。
どういう理屈か、詳しく聞いたけれどよく分からなかった。
でも、大事なのは、わたしが帰れたら、あのオーディションがあった日に帰れるということだ。つまり、わたしは仕事をすっぽかしたりしないし、信用を失ったりしないのだ。
これ以上の朗報は無かった。ついつい、足も弾む。
「市長、サラマンダー討伐隊一行が到着しました」
市庁舎の市長室に案内された。扉が開かれて、大きな机に小太りの男の人がいるのが見える。ゲーズの市長さんだ。にこにことご機嫌に笑っていた。
「おお! 討伐隊の者たちよ。中に入るがいい」
大仰にそう言って、わたしたちを手招きする。中に入ると毛足の長い絨毯がふかふかだ。
「市長、報告をさせていただきます」
ビューロさんが礼をして口を開く。しかし、市長が手のひらをこちらに向けてそれを制した。
「ああ、よいよい。仔細は全てロザ王国の者たちから聞いておる」
「ロザ王国の人たちから?」
市長は頷いて、わたしをじっと見てくる。みんなではなく、わたしをだ。
「聞いたぞ。ユメノという巫女がサラマンダーを討伐どころか、使役してしまったとか! よくやった!」
道理でニコニコしているはずだ。わたしたちが報告する前に全てを知っていたのだ。
「ああ、これはまだここだけの話だぞ。どこに敵国のスパイがまた紛れているか分からないからな」
「はあ……」
でも、ロザ王国の人にも教えた方がいいと思った。向こうも困って討伐隊を組んでいたのだから。サラマンダーがもう脅威じゃないと分かった方がいい。
わたしがそう言おうとすると、ビューロさんは少し顔を硬くさせる。
「それで、討伐隊は……」
「ああ、討伐隊は皆、騎士へと昇格する!」
「「「騎士!?」」」
声を上げたのはわたしとオリビアさんとエルメラだ。騎士って普通、昇格するなら兵士の人のはずだ。精霊使いも騎士になれるのだろうか。
オリビアさんは焦った声で言う。
「ちょ、ちょっと市長、今日は報奨金の話じゃ……」
「もちろん、騎士となれば報酬は弾む。一生金に困ることはないだろう」
「そうじゃなくて」
「さて、騎士として初めての戦いは明日。その力を存分に見せてくれたまえ!」
市長は完全にわたしの顔を見て言った。
サラマンダーを使って戦争をしろ言うことに違いなかった。
わたしたちは市庁舎を出て、オトヒメが隠れていた噴水までやって来た。
みんな、無言だ。
「……わたしは街を出るわ。十分お金はあるし」
オリビアさんが街を眺めながら、そう言う。シュルカさんも頷いた。
「俺は故郷に一度戻る」
みんな、サラマンダーを鎮めに行くのは良くても戦争に使われるのは嫌みたい。
「ビューロさんは?」
「リーダーの俺は逃げるわけにはいかないだろうな。だけどユメノとイオも、街を出た方がいい。精霊使いが戦争に使われるなんていけない。特にユメノは」
ビューロさんはわたしを気づかわし気に見てくる。
わたしは何が言いたいかすぐに分かった。
「そうだよね。サラマンダーが戦争に加担するなんて、勝ったも同然だもの。というか、あのサラマンダーがそんなことの為に力を貸してくれるとは思えない」
わたしの言うことに、確かにと次々に同意の声がした。みんな、サラマンダーのことを市長よりもよく知っている。
わたしはフードの中を見上げて尋ねた。
「エルメラもそれでいいよね。それとも騎士になった方がいい?」
「まさか! 戦争なんて絶対いや!」
「そうだよね。でも、どこに行こう」
元々、サラマンダーに会うためにこの街へと旅をしていた。けれど、目的は達成してしまったし、次に行くところは決めていない。
「……ユメノ」
イオがおもむろに口を開いた。わたしがその顔を見上げると、眉間にしわを寄せて苦渋の顔をしている。
「頼みがある」
「頼み?」
「ああ。俺と一緒にノームの森に来て欲しい」
そういえば、イオはサラマンダーを使役してノームを倒すつもりだったんだ。でも、わたしがサラマンダーを呼び出せるようになったわけだ。
「うーん、行くところもないから、いいかな?」
カカがスヌードの中から顔を出す。
「ただ、場合によってはノームの森は危険だぞ!」
危険といっても、シュウマ山は登れたし、火の精霊の王サラマンダーもついている。これ以上、心強いことはないだろう。
サラマンダーも精霊石の中から声を掛けてくる。
「ふむ。あのノームのジジイにも久しく会っていない。行ってみないか、ユメノ」
「今のは、サラマンダーか?」
「わたしたちの声が聞こえているの?」
みんな、いきなり聞こえたサラマンダーの声にぎょっとしている。
「あ。なんか、精霊石を通して話せるんです」
「……サラマンダー。俺に手を貸してくれないか」
イオは精霊石に向けて頭を下げる。
「構わぬ。それから明日の戦いなのだが、吾輩に妙案がある」
妙案? サラマンダーは、戦争を嫌っているんじゃなかった?
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