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12.穂香の気付き

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◇◇一ノ瀬穂香◇◇

 はぁ~。
 自分の部屋に帰ってきてドアを後ろ手に閉めると、思わずため息をついてしまった。
 ゆうくんにされた事ではなく、自分のとった行動についてだ。
 もっとさせてあげればいいのに……私の中でそう語りかけてくる何かがいるような気さえする。
 私だって大好きなゆうくんにならって思うけど、それをどうしても拒んでしまう理由がある。
 でも、さっきのはよくわからなかったけど、気持ち良かったなぁ。お風呂で身体洗うときにも触れたりするけど、あんな風にはならないし……ゆうくんに触ってもらったからなのかな?
 先ほどの行為を思い出すと、股間の辺りがジュンと熱くなってきたような気がした。

「え?」

 恐る恐る股間に手を伸ばしてみると、ぐっしょりと濡れたショーツがあった。それにも驚いたけど、ゆうくんに触られたように触れてみると、身体中に電気が走ったような気がした。

「ああっ……んんっ」

 意図せず声が出てしまったこと手で口を塞いでしまい、周りに誰もいないことなどわかっているのに、辺りの様子を伺ってしまう。
 やだ……何、これ? 変な感覚だけど、気持ちいい。

「うっ……ぁ……あぁ…………んんんっ……」

 次第に指が激しく動き、与えてくる快感も増してくる。
 そこでふと思ってしまった。直接触ったらどうなんだろうと。気になった私はショーツとスカートを脱ぎ捨て、下半身だけ裸になった。
 熱を持った股間が外気にさらされて、ひんやりとした感じが心地よい。

「んあっ!」

 直接触れると先ほどまでとは比べものにならないくらい強い快感が訪れた。勝手にビクビクする身体をよそに、割れ目に沿って指を滑らせると、水とは違う少しだけ粘性のある液体で濡れているのがわかる。
 その液体を絡ませた指を目の前に持ってきて、親指と中指をくっつけたり離したりすると、にゅ~んと糸を引いた。

「うっ、なんかエッチな感じ……これが濡れるってこと……か」

 私はエッチな事に関してはあまりというか、ほとんど知識がない。なっちゃんは好奇心旺盛なようで、色々話を聞いたりするけど、よくわかってないことの方が多い。
 それでも、今している行為がオナニーだっていうことはわかる。

「んっ……んっ、んっ…………ぁ、あぁぁ……」

 今までしようと思ったこともなかったし、何のためにするのかもわからなかったけど、ゆうくんのことを考えながら触るとわかる気がする。
 今日された風に、ゆうくんの指を思い出しながら触ると、その時の感覚がよみがえってくるような気がした。

「はぁ……はぁ……んっ、んっ、んっ…………んんっ、んんんんんんんっ!」

 一瞬、頭が真っ白になるような感じがして、腰を中心に身体がビクッ、ビクッと痙攣する。

「はぁ、はぁ……ふぅ……」

 しばらくそのままの姿勢でいると、次第に興奮が冷めてきて冷静になっていく。それに合わせて、今やっていた行為が虚しく思えてきた。

「うぅ……お風呂……入ろう……」

 頭を切り替えて脱衣場で服を脱いでいく。下半身は脱いでいるから上半身だけだ。セーターを脱ぎ、ブラを外せば全裸のはずだが、私はそうじゃない。
 胸の下からお腹までミイラのようにぐるぐる巻かれた包帯がある。
 これこそが、私がゆうくんともう一歩先に進むのを躊躇させる最大の原因。この包帯の下には胸の下からお腹にかけて、大きな傷痕がある。
 子供の頃、事故で負った大怪我。何度も治療して怪我は治ったけど、一生消えないであろう大きな傷痕が残ってしまった。中学生の頃は怪我が治ったのが嬉しくて包帯を着けずにいたら、傷痕が原因でたくさん虐められた。それからは段々学校に行かなくなって……あの頃は何も良いことなかった。
 高校は誰も知り合いがいないくらい遠くて、プールがなくて水泳の授業がない学校を選んだ。他にすることが無くて勉強ばかりしてきたことと、体力をつけるために運動はしっかりやってきたおかげもあって、どちらも好成績を残せている。ただ、周りの男子から女神様と呼ばれていることについてはいただけない。
 私なんてそんな風に呼ばれる柄じゃない。みんながこの傷跡のことを知ったらどう思うだろう。また中学時代みたいになってしまうのかなと思う。
たとえみんなに嫌われたとしても、ゆうくんとなっちゃんには嫌われたくない。
なっちゃんと言えば……間違いなくゆうくんの事、好きよね。なっちゃんと取り合いは……嫌だなぁ。いっそのことゆうくんが二人とも選んでくれたらいいのに。
あ……でも、私はこれがあるから選んでももらえないか。
段々ネガティブな思考になっていくのを振り払って、包帯に手をかける。私が一日の中で一番嫌な時間だ。嫌でも目にしてしまうこの傷痕。

「あ、あれ?」

 いつもならすぐに見えてくるはずの傷痕がない。急いで包帯を全部取ってみると、一回り小さくなった傷痕があった。

「な……んで? 急に小さく……」

 昨日の夜はいつもと同じ大きさだった。それは間違いない。
 今日初めてあった出来事と言えば、ゆうくんにされたエッチなこととオナニーしたことくらい。でも、そんなことで傷痕が小さくなることなんてないはず。
 あとは……ゆうくんにされる前、少し寝ちゃってた時、お腹がポカポカ温かかった気がする。それくらいしか思い浮かばないけど、そんな魔法みたいなことあるはずもないよね。
 屋上から落ちた私を優しく受け止めてくれた時から気になって、気が付いたらすごく好きになっている自分がいて……あれ? そう言えば、あの高さから落ちたのに、私はほとんど衝撃を感じなかったけど……そんなことあるの?
 気になった私は全裸のままリビングへ行って、紙とペンを手に取りゆうくんが受けたであろう衝撃の強さを計算した。

「私がぬいぐるみみたいに軽かったら可能だけど……それに……」

 何回計算しても、誤差の範囲で条件の数値を変えても、ゆうくんが受け止めたようなことはできないとしか思える数値しか出ない。しかも、落下し始めてから墜落まで約二秒しかない。それなのに、ゆうくんのかばんは少し遠くにあった。落ちるのを確認してからあの距離を移動して受け止めるなんて……それこそ、漫画やアニメのような出来事だとしか思えない。
 結局、答えが出ないままそのことばかりが気になって、この日はなかなか寝付けなかった。
 
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