【短編】誘拐されたけど、犯人がコミュ障すぎて大変です。【完結】

ういろうはるさめ

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本当は僕は、あっ、いや、はい。

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希望は颯爽と自分のアパートに向かう。あまりにもアパートとは相性の悪い高級車で。
「着きましたよー。」
希望は死にかけの満の身体をガンガン揺らす。
「や、ヤメテクダサイ、は、吐く。」
満に意識が戻ったところで久々に家に帰る希望。
「そういえば、私って誘拐されてから何日経ったんですかね?
「昨日、誘拐したばかりなので、あの、そんなに時間は経ってないです。」
「え?ということは今日の仕事は_____、」
「希望さんの知り合いを装って休みにしておきました。」
「今日って何曜日?」
「金曜ですね、一応、」
「土日休みじゃん!!!」
ハイテンションになる希望。それをただ眺める満。
そうこうするうちに、希望の住む部屋の扉の前までやってきた。
「えっと、」
「入ってください。」
希望の部屋に入るのを躊躇する満を無理やり部屋に入れる。というか詰め込む。
「し、失礼します!」
今まで女性の部屋に入ったことのない満の声は甲高くなっていた。イントネーションは「しつれいしまぁ↑す」である。
満は女性の部屋はいい匂いがして、清潔で_____、そんな想像をしていた。
「あー、そうだった、一昨日、友達と呑み会したばかりだったんだっけ。」
希望の部屋のテーブルやら床にアルコールの缶やらお菓子の袋が散乱している。実際の独り暮らし生活など、そんなものだ。
「お片付け、手伝いましょうか……?」
「満さんは疲れたと思うのでその辺で、休んでて良いですよ!」

この様々な物が散らばった部屋のどこがその辺なのだろうと思いつつ、満はさりげなく体育座りをして希望を待機する。イルカのクッションことクーちゃんを抱き抱えながら、軽く眠りに落ちた。
「これでお掃除完了!ってあれ?」
気づけば満はすやすやと眠っていた。車の中で気絶していた時とは違って上品な寝顔をしている。普段なら仰向けに寝て、手を組むお姫様眠りをしていそうだなと思った。
「……っんぁっ!」
ちょうど満が起きた。希望がじっと満の寝顔を見ていたため、反射条件的に起きた。
「ごめんなさい、寝てました……。」
「おはようございます?」
そんなやりとりをしつつ、希望においでという合図をされたのでテーブルに近づく。コンビニで買った飲み物などを希望は取り出した。
「好きに食べてください!」
テーブルにあるのは頼んだ紅茶と栄養ドリンクと大量のサプリメントグミと少しのおにぎりだった。ちなみにサラダちきんもある。
「こ、これは一体、」
「私が考えた最強の栄養食です!」
確かに全部食べれば、満遍なく栄養は取れるだろうと思った。
「これ、なんですか……?鉄分が入っているグミ、そんなのあるんだ。」
満は普段、家では調理担当で滅多に外食をすることはなかった。配達ピザは例外として。ましてや、コンビニの菓子など食べたことなんて無かった。
「だ、食べてみてもいいですか?」
そう言いながら、満はグミの袋を開けようとする。
「あ」
袋の開け方を失敗し、無事にグミが部屋に飛び散った。
「うわぁ!ご、ごめんなさい、今洗って_____、」
水で洗ってから満は食べようとしたが希望は飛び散ったグミを床から直で食べていた。
「三秒ルールですよ、まだ床に落ちて三秒しか経ってないから食べられます。」
「もう三秒経ってる、」
「良いから早く食べる!」
まるで、母親に囃し立てられるようにされ、床に転がったグミを食べる。
「美味しい、すごく美味しいです、こんなの初めて食べました……!」
床に転がるグミを食べながら感動する満という非常にシュールな状態が生じる。
「もしかして、グミ食べたことないんですか?」
「世の中にはこんなに美味しいものがあったんですね……!」
さすが御曹司。お育ちが違いになられる。と、希望は思う。
「そういえば、満さんの布団を用意しないとですね。」
あーだこーだしているうちに、時計は22時を過ぎていた。
「いや、自分は床に寝るので大丈夫、です。」
さすがに女性が使用する布団で寝るのには抵抗があるのか、後退りをして、壁に体育座りをする。
「ちゃんと布団で寝ないと風邪引きますよー、ただでさえ、身体弱そうなのにー。」
そう言いながら、テキパキと布団の準備をする。そして満は布団に潜る。
「布団って良いですね。」
馴染むのが早いというツッコミを心の中で希望はしつつ、部屋の電気を消す。
「今日は疲れたし、これからのことは明日考えましょう。」
「そうですね……。」
そして、おやすみなさいと言う前に満が呟く。
「ごめんなさい、俺、じゃなくて僕は一つ嘘をついていました。」
「ん?」
「僕は本当は弟じゃなくて兄です。双子だから間違えられやすいんですけど……。」
「ん??」
「僕は鈴鹿家の長男です、これでも……。」
希望は考える。てっきり、鈴鹿グループの息子の弟を連れてきたと思ったら、兄の方だった。つまり。
「まさか、満さんって将来、鈴鹿グループの社長になる立場にいらっしゃる……?」
「僕よりも弟の方が優秀なので、弟が引き継ぐとは思いますが、父は僕に引き継がせたがってます。」
「ということは私はとんでもない方を家に引き連れてしまった……?」
「いえいえいえっ、僕が弟だなんて嘘をつくから悪いんです!でも、本当のことを言える機会が無くて_____。」
「満さんは想像以上の御曹司ということで合ってます?」
「はい、一応、そうなるのかなって……。」
希望は固まる。そうだ、明日考えよう。全部明日考えよう。自分がとんでもないことをしてしまったと今更気付いたのだった。
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