【短編】誘拐されたけど、犯人がコミュ障すぎて大変です。【完結】

ういろうはるさめ

文字の大きさ
上 下
3 / 9

いや、すみません、俺なんかが、あっ、いやいやいや!

しおりを挟む
男は自室で考えていた。というか、引きこもっていた。自分の中では計画は全て上手くいっていた。でも、歯車がズレると全て崩れていくように、大事なイルカの「くーちゃん」を誘拐した女に取られ、最終的に「ダサい」と言われた。
「うう……。」
自室の部屋の前で体育座りをし、心の中では土砂降り状態になっていた。そういえば、あの女の名前はなんだっけ。違和感を覚える。ターゲットの勤務しているY商社は例の前田グループの子会社のはずで、前田グループの社長の娘の一人があの女だったはずだが。もう一度、別PCで情報の確認を行おう。と思った矢先だった。ついでに女が居る部屋の様子もモニターで確認する。女の様子がおかしかった。女が動かなくなっていた。というか、固まっている?眼鏡をして、別の監視カメラごとに確認を行う。すると、見てはいけないものが映っていた。

男がドアを開けて何処かに行った後、希望はイルカのクッションを眺めた。それなりの年季が入っている。あの男の必死な台詞から、このイルカが相当大切なものだとわかる。イルカが好きなのかな、後で聞いてみるか_____。と思った矢先だった。何か音がする。男は居ないのに何の音だろう。希望はそっと振り向く。ちょうど男が座って居た椅子の近くの壁に四センチ大のG様こと、ゴキブリが居た。

「うぇああああああ!!!!」
思わず叫んでしまう。恐らく、腕の拘束が無かったらクッションを即投げていただろう。しかし、届かない。こういう時はどうしたら良い?アレは下手したらこっちに飛んでくるぞ?死ぬぞ?今まで、目隠しされて居ただけでずっとアレは近くにいたのか?ということは寝ている時に髪の毛を食べられて居たかもしれない。亡くなった祖父は言っていた。「よく髪の毛をゴキブリに食べられてなぁ」と。恐らく冗談だとは思う。だが、無機質な部屋ではこの黒光るG様が良い感じのインテリアとして、見栄えしてしまう。もっと違うことを考えよう。しりとりしよう。しりとり、りんご、ゴキブリ、しりとり終了。すると、カサカサ音がする。バサっ、最悪な音がした。飛んだぞ。奴が飛んだ。視界に居ない。ということは、自分から見えないところに居る?それともまさか自分の後ろに_____。扉を閉める音が激しく鳴る。男がサングラスと黒マスクをつけて、変装して来たことについては何も言わない。きちんとスプレーなどのG様処理セットを持ってきてきた。そして、ドアの音に驚いたG様が希望の方へ飛んでいく。もう全てが終わったと希望は確信した。サングラスは黒いから、ゴキ色と同化して見えないじゃんと思いながら、目を瞑った。目を瞑っているとスプレー缶の音が聞こえた。でも、もう遅いだろう。自分の近くにGが近づいてくるのを感じた。

「終わり、ました……!」

男はいつの間にか、ビニール袋にGを確保していた。

「ありがとうございます……!」
「いえいえ、僕はただ慣れてるだけですから_____。」
「私、本当に虫が苦手で。」
「いやいや、誰にでも苦手なものくらいあると思、」

いえいえいやいや合戦をしていて、そっちに気が散っていたのだろう。男の持つ袋の中をジリジリとGは登っていく。そして男の少しの隙をついて_____。飛んだ。Gは飛んだ。

「ゴキが飛んだぁぁぁぁぁ!」
「ああああああああああ!」

どこぞのクララが立ったアルプス少女ハイジ並みに叫ぶ希望。その声の大きさとGに対して驚き、悲鳴をあげる男。部屋がコンクリート製であることからも声が響き合い、地獄へと化した。Gはドア近くの壁に止まった。しかし、男はサングラスにより、見事に気づいていない。
「ああ、ドア、ドアに……!」
拘束された腕でどう指を刺せというのか。もう無理だ、希望は発狂寸前であった。男はついにサングラスを外す。そして、壁にドア近くに居るGに袋を被せ、ようやくGを捕まえた。

「つ、捕まえまし、」
「殺せぇぇぇぇ!」
「\☆%÷、逃してきます……!」

最早、希望は完全にキレたアメリカ軍人の上官状態になっていた。その怒号に男は半分泣きながら、Gを逃しに行った。
男には美しい涙が流れており、サングラスを取った姿はそれなりに美形であった。しかし、その真実に気づくものは居ない。そして、サングラスを彼女の居る部屋に落としてきたことで、ついに男は顔の上半身を隠す方法を失くしたということに後で絶句することになる。そのことを彼はまだ知らない。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

【コミカライズ】今夜中に婚約破棄してもらわナイト

待鳥園子
恋愛
気がつけば私、悪役令嬢に転生してしまったらしい。 不幸なことに記憶を取り戻したのが、なんと断罪不可避の婚約破棄される予定の、その日の朝だった! けど、後日談に書かれていた悪役令嬢の末路は珍しくぬるい。都会好きで派手好きな彼女はヒロインをいじめた罰として、都会を離れて静かな田舎で暮らすことになるだけ。 前世から筋金入りの陰キャな私は、華やかな社交界なんか興味ないし、のんびり田舎暮らしも悪くない。罰でもなく、単なるご褒美。文句など一言も言わずに、潔く婚約破棄されましょう。 ……えっ! ヒロインも探しているし、私の婚約者会場に不在なんだけど……私と婚約破棄する予定の王子様、どこに行ったのか、誰か知りませんか?! ♡コミカライズされることになりました。詳細は追って発表いたします。

悪役令嬢カテリーナでございます。

くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ…… 気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。 どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。 40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。 ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。 40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。

推し活、始めました。

桜乃
恋愛
今まで推し活できなかった分、推して、推して、推しまくれ!!(by 月子さん) 五十嵐月子(いがらしつきこ)35歳。 アイドル、葉月輝良(はづききら)の大大ファン。 訳ありで推し活できなかった分、やっと叶った推し活生活。満喫しまくります! 葉月綺良(はづききら)23歳。 職業、アイドル。 僕の推しの押しが強すぎる! 葉月綺良(23歳)アイドル✕五十嵐月子(35歳)ファン ※推しごと・推し活……推し(好きなアイドルやアニメキャラなど)を応援する活動。 ※20000文字程度の短編です。9/16完結予定。 ※1ページの文字数は少な目です。 ※自作短編「お仕事辞めて、推しごと解禁!」を加筆修正しておりますので、そちらと重なっているページもございます。 約15000文字加筆いたしました。元作品の3倍の加筆……それは加筆と言っていいのか、些か疑問です……(;´∀`) ※ちょこっと恋愛入ってます。 ※題名、本文等、修正する可能性がございます。

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

人違いラブレターに慣れていたので今回の手紙もスルーしたら、片思いしていた男の子に告白されました。この手紙が、間違いじゃないって本当ですか?

石河 翠
恋愛
クラス内に「ワタナベ」がふたりいるため、「可愛いほうのワタナベさん」宛のラブレターをしょっちゅう受け取ってしまう「そうじゃないほうのワタナベさん」こと主人公の「わたし」。 ある日「わたし」は下駄箱で、万年筆で丁寧に宛名を書いたラブレターを見つける。またかとがっかりした「わたし」は、その手紙をもうひとりの「ワタナベ」の下駄箱へ入れる。 ところが、その話を聞いた隣のクラスのサイトウくんは、「わたし」が驚くほど動揺してしまう。 実はその手紙は本当に彼女宛だったことが判明する。そしてその手紙を書いた「地味なほうのサイトウくん」にも大きな秘密があって……。 「真面目」以外にとりえがないと思っている「わたし」と、そんな彼女を見守るサイトウくんの少女マンガのような恋のおはなし。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しています。 扉絵は汐の音さまに描いていただきました。

婚約破棄されたので、契約不履行により、秘密を明かします

tartan321
恋愛
婚約はある種の口止めだった。 だが、その婚約が破棄されてしまった以上、効力はない。しかも、婚約者は、悪役令嬢のスーザンだったのだ。 「へへへ、全部話しちゃいますか!!!」 悪役令嬢っぷりを発揮します!!!

転生先は推しの婚約者のご令嬢でした

真咲
恋愛
馬に蹴られた私エイミー・シュタットフェルトは前世の記憶を取り戻し、大好きな乙女ゲームの最推し第二王子のリチャード様の婚約者に転生したことに気が付いた。 ライバルキャラではあるけれど悪役令嬢ではない。 ざまぁもないし、行きつく先は円満な婚約解消。 推しが尊い。だからこそ幸せになってほしい。 ヒロインと恋をして幸せになるならその時は身を引く覚悟はできている。 けれども婚約解消のその時までは、推しの隣にいる事をどうか許してほしいのです。 ※「小説家になろう」にも掲載中です

処理中です...