【短編】誘拐されたけど、犯人がコミュ障すぎて大変です。【完結】

ういろうはるさめ

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大丈夫そうですかね?というか、そっちが大丈夫そう?

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鼻炎薬を飲んだ後、希望はぐっすり眠っていた。そして、目を覚ますものの相変わらず何も見えない。ただ、先ほどよりは暖かいということがわかる。毛布と掛け布団が2枚掛けられていた。腕を拘束されている中で、そこまで布団をかけられるとむしろ、拘束しているのでは?とさえ感じられる。耳を澄ますとキーボードを叩く音が聞こえた。例の男は近くにいるのかもしれない。
「誰か居ますか?」
「どうかしたか?」
希望の言葉に反応して、人工音声が流れた。ちなみにここで、男が小声で「あっ」と言ってしまったのは誰も聞こえていなかった。
「布団が多くて狭いので、1枚減らして貰えませんか?あと、目隠しも外して、」
彼女の台詞の途中で布団が1枚減らされる。希望には小声で「すみません……」と言っていたのが、聞こえた。
「その音声って使わなきゃ駄目ですか?」
「駄目だ。」
人工音声が即答した。どうやら、この男は、人工音声が無いと話せないらしい。
「では、早速本題に移ろう。」
「目隠し外してもらっても良いですか?」
またもや、台詞が被る。しばしの沈黙。部屋から男が出る音がした。数分後、またドアが開く音が聞こえる。すると、部屋に妙に吐息が響く。足音が希望に近づいた後、目隠しを外された。するとバイク用のヘルメットの中に目出し帽の顔、全身真っ黒な服の男がいた。
「暑くないんですか、それ。」
思わず本音を言ってしまう。いや、どんだけ隠したいんだよ。しかも、多分即興だよねその被り物。そんなことを希望が考えているうちに、男はPCの置いてある机に向かう。そして、座ろうとして思い切り転んだ。
「えっ、大丈夫ですか……?」
今度はこっちが大丈夫ですかを言うターンになってしまった。男はなんとか椅子に座り、スタイリッシュに脚を組んだ。もう、それっぽい格好を付けても色々と遅い。ちなみに靴はクロックスで、靴下が_____。
「では、早速本題に移ろう。」
「靴下の色が左右で違うけど、大丈夫ですか?青と灰色。」
例の如く台詞が被る。男は自分の足をしばらく見つめるとヘルメットを取った。いや、見えなかったんかい。と、希望は思った。
顔出し帽のみ男は靴下の色を改めて確認する。
「あっ、す、すみません。」
男は何故か靴下を脱いだ。そういう問題でも無い。靴下を脱ぐときに男の手の腕と手を見る。とにかく肌白く、普段は外出していないのかもしれない。希望は男の肌が綺麗で羨ましかった。希望はこの頃、仕事での外出が多く、日焼けが酷くなっていた。
「腕というか、手が綺麗ですね。どうやってケアしてます?やっぱり保湿?」
「あ、いやいやいやっ!そんなことないです、普段はハンドクリームしか塗ってないし……。」
男は慌てふためく、希望は本能的に理解した。多分、この人、犯罪出来ないタイプだ。もし、酔っていた希望であれば自分は誘拐されなかっただろうなと思った。
この前、友人の家で一緒に家呑みをした時のこと曰く、希望は酔い出すと口調が悪くなり、最終的に空き缶でクッションを叩き出したということで非常にドン引きしたらしい。

「お?やんのか?クッションの癖に何が出来るんだぁお前!」
「人の心も埋めらんねぇ癖にクッション名乗ってんじゃねえぞぉ!」
「中の腹綿はらわた出してやっか、お前ぇ。」

クッションが空き缶で叩かれていた、非常にバコバコと叩かれていたとの供述であった。
二度と私の家で酒を呑むなと禁止令が出た。
ちなみにこれが希望の恋人出来ないランキング第3位である。
「クッション。」
突然、希望はつぶやく。あれは中々いい叩き具合であった。友人には言っていないが、中々の良い叩き具合であった。あの感触とリズム。放った言葉は忘れたが、まるで上司を叩いているようで心地よかった。
「……えっと、クッション持ってきますか?」
男は希望に目を合わせないようにしながら呟く。
「じゃあ、お願いしても?」
男は走り去りしばらくすると、クッションを持ってきた。抱き枕サイズのものだ。
ベッドの上の希望の横に置かれる。よく見るとそれは大きいイルカだった。
「このクッション殴って良いですか?」
「あっ、はい、えっ!」
最早、最後のえっは悲鳴に近かった。男からしたら誘拐してきた女がクッションを要求し、急遽幼い頃から大切にしていたものを渡したら殴られそうになっているという始末だ。
「殴るのは、あの、可哀想なので、せめて俺を殴ってください。」
男は勇気を振り絞る。はっきりと誰もが聴こえる声だった。もう、被害者はどちらなのか分からない。
しかし、二人とも気づいていない。希望は腕を拘束されているためにクッションを殴れないということを。希望はじっと男を見詰める。
まさか、腕を拘束されていることを思い出したのだろうか。
「いや、綺麗な目だなと思って。初恋の人に似てる。」
「あっ、いやいやいや!」
「その帽子、暑かったら取っていいですよ?」
「いや、これはちょっと……。」
「別に嫌なら良いんですけど。」
「あっ、いや!そういう訳では無いんですけど顔出ししたくな、」
「単純にその帽子、なんかダサい……。」
男は固まる。そして無言で部屋を出ていった。一向に本題が進まない二人であった。
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