2 / 9
大丈夫そうですかね?というか、そっちが大丈夫そう?
しおりを挟む
鼻炎薬を飲んだ後、希望はぐっすり眠っていた。そして、目を覚ますものの相変わらず何も見えない。ただ、先ほどよりは暖かいということがわかる。毛布と掛け布団が2枚掛けられていた。腕を拘束されている中で、そこまで布団をかけられるとむしろ、拘束しているのでは?とさえ感じられる。耳を澄ますとキーボードを叩く音が聞こえた。例の男は近くにいるのかもしれない。
「誰か居ますか?」
「どうかしたか?」
希望の言葉に反応して、人工音声が流れた。ちなみにここで、男が小声で「あっ」と言ってしまったのは誰も聞こえていなかった。
「布団が多くて狭いので、1枚減らして貰えませんか?あと、目隠しも外して、」
彼女の台詞の途中で布団が1枚減らされる。希望には小声で「すみません……」と言っていたのが、聞こえた。
「その音声って使わなきゃ駄目ですか?」
「駄目だ。」
人工音声が即答した。どうやら、この男は、人工音声が無いと話せないらしい。
「では、早速本題に移ろう。」
「目隠し外してもらっても良いですか?」
またもや、台詞が被る。しばしの沈黙。部屋から男が出る音がした。数分後、またドアが開く音が聞こえる。すると、部屋に妙に吐息が響く。足音が希望に近づいた後、目隠しを外された。するとバイク用のヘルメットの中に目出し帽の顔、全身真っ黒な服の男がいた。
「暑くないんですか、それ。」
思わず本音を言ってしまう。いや、どんだけ隠したいんだよ。しかも、多分即興だよねその被り物。そんなことを希望が考えているうちに、男はPCの置いてある机に向かう。そして、座ろうとして思い切り転んだ。
「えっ、大丈夫ですか……?」
今度はこっちが大丈夫ですかを言うターンになってしまった。男はなんとか椅子に座り、スタイリッシュに脚を組んだ。もう、それっぽい格好を付けても色々と遅い。ちなみに靴はクロックスで、靴下が_____。
「では、早速本題に移ろう。」
「靴下の色が左右で違うけど、大丈夫ですか?青と灰色。」
例の如く台詞が被る。男は自分の足をしばらく見つめるとヘルメットを取った。いや、見えなかったんかい。と、希望は思った。
顔出し帽のみ男は靴下の色を改めて確認する。
「あっ、す、すみません。」
男は何故か靴下を脱いだ。そういう問題でも無い。靴下を脱ぐときに男の手の腕と手を見る。とにかく肌白く、普段は外出していないのかもしれない。希望は男の肌が綺麗で羨ましかった。希望はこの頃、仕事での外出が多く、日焼けが酷くなっていた。
「腕というか、手が綺麗ですね。どうやってケアしてます?やっぱり保湿?」
「あ、いやいやいやっ!そんなことないです、普段はハンドクリームしか塗ってないし……。」
男は慌てふためく、希望は本能的に理解した。多分、この人、犯罪出来ないタイプだ。もし、酔っていた希望であれば自分は誘拐されなかっただろうなと思った。
この前、友人の家で一緒に家呑みをした時のこと曰く、希望は酔い出すと口調が悪くなり、最終的に空き缶でクッションを叩き出したということで非常にドン引きしたらしい。
「お?やんのか?クッションの癖に何が出来るんだぁお前!」
「人の心も埋めらんねぇ癖にクッション名乗ってんじゃねえぞぉ!」
「中の腹綿出してやっか、お前ぇ。」
クッションが空き缶で叩かれていた、非常にバコバコと叩かれていたとの供述であった。
二度と私の家で酒を呑むなと禁止令が出た。
ちなみにこれが希望の恋人出来ないランキング第3位である。
「クッション。」
突然、希望はつぶやく。あれは中々いい叩き具合であった。友人には言っていないが、中々の良い叩き具合であった。あの感触とリズム。放った言葉は忘れたが、まるで上司を叩いているようで心地よかった。
「……えっと、クッション持ってきますか?」
男は希望に目を合わせないようにしながら呟く。
「じゃあ、お願いしても?」
男は走り去りしばらくすると、クッションを持ってきた。抱き枕サイズのものだ。
ベッドの上の希望の横に置かれる。よく見るとそれは大きいイルカだった。
「このクッション殴って良いですか?」
「あっ、はい、えっ!」
最早、最後のえっは悲鳴に近かった。男からしたら誘拐してきた女がクッションを要求し、急遽幼い頃から大切にしていたものを渡したら殴られそうになっているという始末だ。
「殴るのは、あの、可哀想なので、せめて俺を殴ってください。」
男は勇気を振り絞る。はっきりと誰もが聴こえる声だった。もう、被害者はどちらなのか分からない。
しかし、二人とも気づいていない。希望は腕を拘束されているためにクッションを殴れないということを。希望はじっと男を見詰める。
まさか、腕を拘束されていることを思い出したのだろうか。
「いや、綺麗な目だなと思って。初恋の人に似てる。」
「あっ、いやいやいや!」
「その帽子、暑かったら取っていいですよ?」
「いや、これはちょっと……。」
「別に嫌なら良いんですけど。」
「あっ、いや!そういう訳では無いんですけど顔出ししたくな、」
「単純にその帽子、なんかダサい……。」
男は固まる。そして無言で部屋を出ていった。一向に本題が進まない二人であった。
「誰か居ますか?」
「どうかしたか?」
希望の言葉に反応して、人工音声が流れた。ちなみにここで、男が小声で「あっ」と言ってしまったのは誰も聞こえていなかった。
「布団が多くて狭いので、1枚減らして貰えませんか?あと、目隠しも外して、」
彼女の台詞の途中で布団が1枚減らされる。希望には小声で「すみません……」と言っていたのが、聞こえた。
「その音声って使わなきゃ駄目ですか?」
「駄目だ。」
人工音声が即答した。どうやら、この男は、人工音声が無いと話せないらしい。
「では、早速本題に移ろう。」
「目隠し外してもらっても良いですか?」
またもや、台詞が被る。しばしの沈黙。部屋から男が出る音がした。数分後、またドアが開く音が聞こえる。すると、部屋に妙に吐息が響く。足音が希望に近づいた後、目隠しを外された。するとバイク用のヘルメットの中に目出し帽の顔、全身真っ黒な服の男がいた。
「暑くないんですか、それ。」
思わず本音を言ってしまう。いや、どんだけ隠したいんだよ。しかも、多分即興だよねその被り物。そんなことを希望が考えているうちに、男はPCの置いてある机に向かう。そして、座ろうとして思い切り転んだ。
「えっ、大丈夫ですか……?」
今度はこっちが大丈夫ですかを言うターンになってしまった。男はなんとか椅子に座り、スタイリッシュに脚を組んだ。もう、それっぽい格好を付けても色々と遅い。ちなみに靴はクロックスで、靴下が_____。
「では、早速本題に移ろう。」
「靴下の色が左右で違うけど、大丈夫ですか?青と灰色。」
例の如く台詞が被る。男は自分の足をしばらく見つめるとヘルメットを取った。いや、見えなかったんかい。と、希望は思った。
顔出し帽のみ男は靴下の色を改めて確認する。
「あっ、す、すみません。」
男は何故か靴下を脱いだ。そういう問題でも無い。靴下を脱ぐときに男の手の腕と手を見る。とにかく肌白く、普段は外出していないのかもしれない。希望は男の肌が綺麗で羨ましかった。希望はこの頃、仕事での外出が多く、日焼けが酷くなっていた。
「腕というか、手が綺麗ですね。どうやってケアしてます?やっぱり保湿?」
「あ、いやいやいやっ!そんなことないです、普段はハンドクリームしか塗ってないし……。」
男は慌てふためく、希望は本能的に理解した。多分、この人、犯罪出来ないタイプだ。もし、酔っていた希望であれば自分は誘拐されなかっただろうなと思った。
この前、友人の家で一緒に家呑みをした時のこと曰く、希望は酔い出すと口調が悪くなり、最終的に空き缶でクッションを叩き出したということで非常にドン引きしたらしい。
「お?やんのか?クッションの癖に何が出来るんだぁお前!」
「人の心も埋めらんねぇ癖にクッション名乗ってんじゃねえぞぉ!」
「中の腹綿出してやっか、お前ぇ。」
クッションが空き缶で叩かれていた、非常にバコバコと叩かれていたとの供述であった。
二度と私の家で酒を呑むなと禁止令が出た。
ちなみにこれが希望の恋人出来ないランキング第3位である。
「クッション。」
突然、希望はつぶやく。あれは中々いい叩き具合であった。友人には言っていないが、中々の良い叩き具合であった。あの感触とリズム。放った言葉は忘れたが、まるで上司を叩いているようで心地よかった。
「……えっと、クッション持ってきますか?」
男は希望に目を合わせないようにしながら呟く。
「じゃあ、お願いしても?」
男は走り去りしばらくすると、クッションを持ってきた。抱き枕サイズのものだ。
ベッドの上の希望の横に置かれる。よく見るとそれは大きいイルカだった。
「このクッション殴って良いですか?」
「あっ、はい、えっ!」
最早、最後のえっは悲鳴に近かった。男からしたら誘拐してきた女がクッションを要求し、急遽幼い頃から大切にしていたものを渡したら殴られそうになっているという始末だ。
「殴るのは、あの、可哀想なので、せめて俺を殴ってください。」
男は勇気を振り絞る。はっきりと誰もが聴こえる声だった。もう、被害者はどちらなのか分からない。
しかし、二人とも気づいていない。希望は腕を拘束されているためにクッションを殴れないということを。希望はじっと男を見詰める。
まさか、腕を拘束されていることを思い出したのだろうか。
「いや、綺麗な目だなと思って。初恋の人に似てる。」
「あっ、いやいやいや!」
「その帽子、暑かったら取っていいですよ?」
「いや、これはちょっと……。」
「別に嫌なら良いんですけど。」
「あっ、いや!そういう訳では無いんですけど顔出ししたくな、」
「単純にその帽子、なんかダサい……。」
男は固まる。そして無言で部屋を出ていった。一向に本題が進まない二人であった。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

【コミカライズ】今夜中に婚約破棄してもらわナイト
待鳥園子
恋愛
気がつけば私、悪役令嬢に転生してしまったらしい。
不幸なことに記憶を取り戻したのが、なんと断罪不可避の婚約破棄される予定の、その日の朝だった!
けど、後日談に書かれていた悪役令嬢の末路は珍しくぬるい。都会好きで派手好きな彼女はヒロインをいじめた罰として、都会を離れて静かな田舎で暮らすことになるだけ。
前世から筋金入りの陰キャな私は、華やかな社交界なんか興味ないし、のんびり田舎暮らしも悪くない。罰でもなく、単なるご褒美。文句など一言も言わずに、潔く婚約破棄されましょう。
……えっ! ヒロインも探しているし、私の婚約者会場に不在なんだけど……私と婚約破棄する予定の王子様、どこに行ったのか、誰か知りませんか?!
♡コミカライズされることになりました。詳細は追って発表いたします。

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです
新条 カイ
恋愛
ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。
それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?
将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!?
婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。
■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…)
■■

実在しないのかもしれない
真朱
恋愛
実家の小さい商会を仕切っているロゼリエに、お見合いの話が舞い込んだ。相手は大きな商会を営む伯爵家のご嫡男。が、お見合いの席に相手はいなかった。「極度の人見知りのため、直接顔を見せることが難しい」なんて無茶な理由でいつまでも逃げ回る伯爵家。お見合い相手とやら、もしかして実在しない・・・?
※異世界か不明ですが、中世ヨーロッパ風の架空の国のお話です。
※細かく設定しておりませんので、何でもあり・ご都合主義をご容赦ください。
※内輪でドタバタしてるだけの、高い山も深い谷もない平和なお話です。何かすみません。

悪役令嬢カテリーナでございます。
くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ……
気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。
どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。
40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。
ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。
40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。


王子殿下の慕う人
夕香里
恋愛
【本編完結・番外編不定期更新】
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。
しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──?
「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」
好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。
※小説家になろうでも投稿してます

【完結】悪役令嬢の反撃の日々
くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。
「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。
お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。
「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる