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人見知りの言葉は必ず「あ、」から始まる
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前田希望23歳。ようやく仕事に慣れてきたありきたりなOLだ。彼女の日課は夜の帰り道に栄養ドリンクとチョコレート菓子を買うことだ。これにより、ここ数ヶ月で3kgほど太った。
「疲れたし、帰ろう……。」
希望は今日突然の残業により、帰り時間が既に22時を過ぎていた。
「仕事は分裂するんだよ。」
謎の独り言を言いながら、いつものエナドリとチョコレートを買う。いわば、元気の前借りである。
「帰ったらー、寝て、お風呂、入って、歩く、ん?」
そんな独り言を言いながらいつもより暗い夜道を歩く。いつもなら警戒して歩く道も、疲れていて、警戒してなかった。
隣に突如ワゴン車が止まった。暗くて分からないが、色は黒系だろう。そして車から人が出てきた。その人物は彼女の背中に刃物を突きつけた。
「大人しくしろ。」
それは合成音声だった。とりあえず、この合成音声人に従い、大人しく車に乗ることになった。疲れのせいだろうか。恐怖も感じず、気づけば眠っていた。
起きると、ひんやりとした部屋のベッドに目隠しをされて、拘束されていた。ベッドはふかふかで柔らかい、が。寒い。非常に寒い。この部屋コンクリートだけで出来ているの?という程度には寒い部屋だった。
「っくしょーい!わっしょい!」
希望からいかにも、おっさんのようなくしゃみが出る。
「っくっしゅん、うぇっ。」
彼女に恋人が出来ない理由第5位を挙げるとするのならば、このおっさんくしゃみだろう。
そんなおっさんくしゃみを繰り返していると、ドアの開く音がした。誰かが近づいてくる足音が響いた。
そしてベッドの前で、足音は止む。
「調子はどうだね?希望さん」
「っくしょい!んごほっ!」
合成音声とくしゃみが同時発生する。前日に自分を誘拐した人物との再会だが、気まずい時間が2秒ほど流れる。
「調子はどうだね?希望さん」
「っくしょーんうえっ!」
今までで、最大のくしゃみが出た。そして彼女の鼻水は見事合成音声人に付着する。無言の時間がしばらく続く。
何か音が聞こえ。非常に小さな音だった。一方、希望はというと鼻を啜っている。
「あ、あの。」
それは想像以上に若い男の声だった。
「ティッシュ、持ってきた方がいい感じですかね……?」
あまりにも弱々しい声がコンクリートの部屋に響く、ことはなかった。希望はコクコクと頷く。
合成音声人、いや男が走って部屋から出て行き、数分後ティッシュを持ってきた。
「だ、大丈夫そうですかね?」
男の声は震えている。一方、希望はというとティッシュで鼻をかみ、それなりに落ち着き始めていた。
「調子はどうだね?希望さん」
「私の名前、希望では無くて、希望です。」
合成音声と希望の台詞が見事に被る。
「あっ、あ。すみません、えっと。」
弱々しい声の男は焦り出す。
「もう一度」、「身代金を」、「お前は拘束されている!」
男がPCのキーボードをカチャカチャと鳴らす音が聞こえる。どうやら、合成音声で、あらかじめ台詞を作っておき、それを流す予定だったようだ。
「私の名前は希望では無く、希望と読みます。」
まるで、英語を直訳した日本語の彼女の台詞が響いた。
「す、すみません。こういうの慣れてなくて……。」
男は最早泣きそうな声になっている。
「こちらこそ。」
何がこちらこそなのかはよく分かって居ないが、とりあえず希望は返事をした。
また、しばし無音になる。
「は、は、」
「っくしょい!うおっ、びっくりした。」
「わぁっ!」
希望のくしゃみと共に男の悲鳴が上がる。
「あの、申し訳ないんですけど。」
希望の台詞の後に流れる沈黙。
「鼻炎薬ってあります?」
「あっ、ありますあります!」
そして、男はまたしても部屋を出て行く。これが希望と誘拐男の出会いだった。
「疲れたし、帰ろう……。」
希望は今日突然の残業により、帰り時間が既に22時を過ぎていた。
「仕事は分裂するんだよ。」
謎の独り言を言いながら、いつものエナドリとチョコレートを買う。いわば、元気の前借りである。
「帰ったらー、寝て、お風呂、入って、歩く、ん?」
そんな独り言を言いながらいつもより暗い夜道を歩く。いつもなら警戒して歩く道も、疲れていて、警戒してなかった。
隣に突如ワゴン車が止まった。暗くて分からないが、色は黒系だろう。そして車から人が出てきた。その人物は彼女の背中に刃物を突きつけた。
「大人しくしろ。」
それは合成音声だった。とりあえず、この合成音声人に従い、大人しく車に乗ることになった。疲れのせいだろうか。恐怖も感じず、気づけば眠っていた。
起きると、ひんやりとした部屋のベッドに目隠しをされて、拘束されていた。ベッドはふかふかで柔らかい、が。寒い。非常に寒い。この部屋コンクリートだけで出来ているの?という程度には寒い部屋だった。
「っくしょーい!わっしょい!」
希望からいかにも、おっさんのようなくしゃみが出る。
「っくっしゅん、うぇっ。」
彼女に恋人が出来ない理由第5位を挙げるとするのならば、このおっさんくしゃみだろう。
そんなおっさんくしゃみを繰り返していると、ドアの開く音がした。誰かが近づいてくる足音が響いた。
そしてベッドの前で、足音は止む。
「調子はどうだね?希望さん」
「っくしょい!んごほっ!」
合成音声とくしゃみが同時発生する。前日に自分を誘拐した人物との再会だが、気まずい時間が2秒ほど流れる。
「調子はどうだね?希望さん」
「っくしょーんうえっ!」
今までで、最大のくしゃみが出た。そして彼女の鼻水は見事合成音声人に付着する。無言の時間がしばらく続く。
何か音が聞こえ。非常に小さな音だった。一方、希望はというと鼻を啜っている。
「あ、あの。」
それは想像以上に若い男の声だった。
「ティッシュ、持ってきた方がいい感じですかね……?」
あまりにも弱々しい声がコンクリートの部屋に響く、ことはなかった。希望はコクコクと頷く。
合成音声人、いや男が走って部屋から出て行き、数分後ティッシュを持ってきた。
「だ、大丈夫そうですかね?」
男の声は震えている。一方、希望はというとティッシュで鼻をかみ、それなりに落ち着き始めていた。
「調子はどうだね?希望さん」
「私の名前、希望では無くて、希望です。」
合成音声と希望の台詞が見事に被る。
「あっ、あ。すみません、えっと。」
弱々しい声の男は焦り出す。
「もう一度」、「身代金を」、「お前は拘束されている!」
男がPCのキーボードをカチャカチャと鳴らす音が聞こえる。どうやら、合成音声で、あらかじめ台詞を作っておき、それを流す予定だったようだ。
「私の名前は希望では無く、希望と読みます。」
まるで、英語を直訳した日本語の彼女の台詞が響いた。
「す、すみません。こういうの慣れてなくて……。」
男は最早泣きそうな声になっている。
「こちらこそ。」
何がこちらこそなのかはよく分かって居ないが、とりあえず希望は返事をした。
また、しばし無音になる。
「は、は、」
「っくしょい!うおっ、びっくりした。」
「わぁっ!」
希望のくしゃみと共に男の悲鳴が上がる。
「あの、申し訳ないんですけど。」
希望の台詞の後に流れる沈黙。
「鼻炎薬ってあります?」
「あっ、ありますあります!」
そして、男はまたしても部屋を出て行く。これが希望と誘拐男の出会いだった。
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