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幻影
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佑が天に召されてから、八重子は母親として周囲から気の毒だなと思われるようになった。
佑は万年学年2番だったが成績が悪いわけではないし、明るくユーモアもあった。
だからこそ、今、この時に六郎の裏切りは許せるものではなかった。
八重子は飯田から貰った写真からふたりが会っているファミレスを突き止めた。
そして何度かふたりを目撃した。
見なければ良かった。最初はそう思ったが、何度か見ているうちにふたりの姿が馬鹿馬鹿しく思えてきた。
みんなにバレているのにふたりの世界に入り込んでいるふたり。
八重子は自分でも写真を撮った。
そして苑田を馬鹿な人だなと思ったが、口に出しては言わなかった。
「菜摘はどうしたい?」
その日の夕飯の席で八重子は菜摘に問いかけた。
「お母さんに付いていく。お父さんなんて見たくもない。」
菜摘は苦虫を噛み潰したようにそう言った。
「本当に看護学生になるのね?」
「先生とも話したけど合格圏内だって。」
「わかったわ。」
その時、八重子は頭の中がざわざわした。ああ、父の声が聞こえる前兆だ。そう思って声を待った。『六郎は帰ってくる』そう聞こえた。しかし八重子はもう六郎の事は頭の中にはなかった。
八重子が外で働くようになって六郎とすれ違う時間も増えていった。八重子は六郎から着信があると仕事の合間を縫って連絡を返した。
前ほど早い返信ではないことに六郎は不思議がった。しかし、八重子はいつものように六郎を家で待つ。扶養内ならバレることはない。
そう思って田原屋クリーンで、働き続けた。
協議離婚をして共有財産を半分にすればしばらくは親子ふたりでも食べていける。
苑田からも慰謝料が取れることだろう。菜摘も家のことは進んでするようになった。
その日の八重子は次原と組んで仕事をした。
休憩に入ると次原はいつものようにスマホで最近行った観光地の画像を見せてきた。
次原はキラキラとした眼差しでアクティビティや現地の食事の話をした。
八重子はその話を聞きながら次原を尊敬していった。
ひとしきり話した次原は八重子の顔を見た。
「ごめんなさい。いつも聞いてもらってばっかりで…。」
次原はそう言って縮こまった。
「私は次原さんの話が好きなんです。遠慮せず話してください。」
そう言って八重子は微笑んだ。
「大岡さんって話しやすいんですよね。何か相づちも適切だし、変なツッコミもないし。」
次原は頭をかいた。
八重子は笑いながら、
「次原さんに会えて良かったです。世界が広がりました。」
そう言って八重子は残りの仕事に取り掛かった。次原も仕事に戻った。
次原のように世界を回りたいと言う気持ちはなかったが、本来の自分は何がしたかったのだろう。八重子は仕事をしながらそう思った。
佑は万年学年2番だったが成績が悪いわけではないし、明るくユーモアもあった。
だからこそ、今、この時に六郎の裏切りは許せるものではなかった。
八重子は飯田から貰った写真からふたりが会っているファミレスを突き止めた。
そして何度かふたりを目撃した。
見なければ良かった。最初はそう思ったが、何度か見ているうちにふたりの姿が馬鹿馬鹿しく思えてきた。
みんなにバレているのにふたりの世界に入り込んでいるふたり。
八重子は自分でも写真を撮った。
そして苑田を馬鹿な人だなと思ったが、口に出しては言わなかった。
「菜摘はどうしたい?」
その日の夕飯の席で八重子は菜摘に問いかけた。
「お母さんに付いていく。お父さんなんて見たくもない。」
菜摘は苦虫を噛み潰したようにそう言った。
「本当に看護学生になるのね?」
「先生とも話したけど合格圏内だって。」
「わかったわ。」
その時、八重子は頭の中がざわざわした。ああ、父の声が聞こえる前兆だ。そう思って声を待った。『六郎は帰ってくる』そう聞こえた。しかし八重子はもう六郎の事は頭の中にはなかった。
八重子が外で働くようになって六郎とすれ違う時間も増えていった。八重子は六郎から着信があると仕事の合間を縫って連絡を返した。
前ほど早い返信ではないことに六郎は不思議がった。しかし、八重子はいつものように六郎を家で待つ。扶養内ならバレることはない。
そう思って田原屋クリーンで、働き続けた。
協議離婚をして共有財産を半分にすればしばらくは親子ふたりでも食べていける。
苑田からも慰謝料が取れることだろう。菜摘も家のことは進んでするようになった。
その日の八重子は次原と組んで仕事をした。
休憩に入ると次原はいつものようにスマホで最近行った観光地の画像を見せてきた。
次原はキラキラとした眼差しでアクティビティや現地の食事の話をした。
八重子はその話を聞きながら次原を尊敬していった。
ひとしきり話した次原は八重子の顔を見た。
「ごめんなさい。いつも聞いてもらってばっかりで…。」
次原はそう言って縮こまった。
「私は次原さんの話が好きなんです。遠慮せず話してください。」
そう言って八重子は微笑んだ。
「大岡さんって話しやすいんですよね。何か相づちも適切だし、変なツッコミもないし。」
次原は頭をかいた。
八重子は笑いながら、
「次原さんに会えて良かったです。世界が広がりました。」
そう言って八重子は残りの仕事に取り掛かった。次原も仕事に戻った。
次原のように世界を回りたいと言う気持ちはなかったが、本来の自分は何がしたかったのだろう。八重子は仕事をしながらそう思った。
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