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夜明け

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佑が居なくなってから八重子は何度か弁当を作った。弁当を作りながら、ああ間違えた、佑の分はもう要らないんだ、そう思った。
それでも佑の弁当箱を処分する気にも、目につかない場所に置く気にもなれなかった。
佑の件があってから苑田の話はうやむやになった。
しかし、菜摘はあれから六郎とは口を利かなくなった。
じわじわとだが確実に家族は崩壊していった。菜摘は佑の最期にかかった病院の看護士さんがとても良くしてくれた事で看護士を目指すと言ってきた。八重子はそれを聞いて複雑な心境だった。菜摘が看護士になればずっと佑を思い出しながら生きていくのだろう。それは鎖のように見えた。
六郎は佑の件があってからますます家には寄り付かなくなった。
八重子は2週間に一度家に来る求人情報誌を見ながら、掃除の仕事の面接を受けに行った。
最初は週に一度でも良いという話だったので田原屋クリーンと言う会社に決めた。
スーパーのレジ打ちの仕事も内定は出たがレジの操作が随分複雑になっていて、スーパーは辞退した。
久しぶりに仕事をして八重子はやりがいを感じた。六郎が家にいて欲しいと言って仕事を辞めたものの何かがくすぶっている、そんな感じがずっとあった。
菜摘には仕事を始めたと打ち明けた。
菜摘の顔はぱあっと明るくなって、お母さんその方が絶対良いよ、格好いいよね、そう言って笑っていた。
八重子は菜摘に、協力してね、そう言って笑った。

「僕の家庭をどうする気なんだ?君は!」
六郎は苑田の近所のファミレスで、苑田に詰問していた。
「私だけ毒を喰らう気はありません。貴方とは長い付き合いです。」
そう言って苑田は飲み物を飲んだ。
「僕には大切な娘がいるんだ。」
「子供も産めない私への当てつけみたいですね。」
苑田は窓の外に目をやった。
「それとこれとは関係ない。」
六郎は続けた。
「止めてどうにかなる仲ならもう止めていたでしょう。私たちは同じ穴のムジナなんですよ。」
苑田は肩ぐらいまで伸ばした髪に手ぐしを入れる。
「そもそも、あなたから付き合おうと言ったんじゃないですか?」
「あの頃の君は旦那さんを失って何時死んでもおかしくないような雰囲気だったじゃないか。」
「頼んだ覚えはありません。」
「君は一体どうしたいんだ?」
「全部すっきり終わらせたいんですよね。奥さまのことも娘さんのことも。」
「僕から家族を奪おうと言うのか?」
「私の再婚の機会を奪い続けてきたのはあなたじゃないですか?」
六郎はポケットに手を入れてゴソゴソと動いた。
「ここは禁煙ですよ。」
苑田がそう言うと六郎はピタリと止まった。
「僕たちはやっぱり息が合うんだよ。」
「私の考えも分からないのに?」
六郎は苑田の手を掴んで話した。
「君以上に僕の理解者はいない。神様が出会わせてくれたんだ。」
苑田はふふふと笑って、六郎の手を離した。
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