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月の王子さま

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その日、自宅に電話があった。
電話は図書館からで、夏休みに借りた、月の王子さまが延滞しているという件だった。
僕は本棚からガサガサと本を探して図書館に向かった。
この日、図書館のカウンターは混雑していたので並んでいた子どもの後ろに僕はついた。
すると、その子がこちらを向き絵本を指さした。
「月の王子さまだー!!」
「こら、やめなさい。」
お母さんらしき人物が子どもを嗜める。
「面白いよね?月の王子さま。」
僕はしゃがんでその子の目線に合わせて話した。
「うん!!」
そう言ってその子はニコニコしていた。僕は返却ではなく再び借りようとしていたので貸出カウンターに並び直した。
僕は月の王子さまの境地に達したいと思っていた。大人でも難解なこの作品の境地に達することが出来たら木下の役に立てる気がした。
思えば僕は彼と出会った頃からずっと助けてもらってきた。
幸い、別の人の予約が入ってなかったので僕はこの日も月の王子さまを家に持ち帰った。

ふとスマホを開くと木下から着信があった。何か用事でもあったのかなと思ったが時間が時間だったので折り返すことはしなかった。

次の日、学校へ行くと皆が木下の話をしていた。僕はクラスメイトを捕まえて木下の話を聞いた。木下は大女優夏田りょうの隠し子で、昨日の夜のニュースではトップニュースに上がっていたと。
それから木下は転校が決まり、学校に来ることもなく僕達の前から去っていった。
僕は何度かスマホに電話を入れたが木下は出なかった。
僕はあの日、電話をかけ直さなかった自分を責めた。それでも木下に電話が繋がるわけではなかった。

後日、れみちゃんから電話がかかってきた。
「知ってた?」
「知るわけないよ。友だちになって1番日の浅いのは僕なんだから。」
そう言って僕は泣いた。
れみちゃんはニュースが始まる前に電話を貰ったらしい。たぶん、転校させられると言う話をして、雅貴が大丈夫なのか不安だと最後まで言っていたらしい。
木下はお受験が必要な学校へと転校すると、れみちゃんが教えてくれた。

僕は木下にあれだけ助けて貰ったのに何も返せないのだ。それは僕の心をミシミシと打ち砕いていった。
木下は絵本作家にはなれないのかもしれない。今更、隠し子だと言う辺り、たぶん木下に自由はない。僕は月の王子さまを読みながら涙を流した。
それでも木下はきっと夢を叶えるはずだ。僕は高専に向けて更に勉学に励んだ。
そして時折、木下を思い出して泣いた。
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