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25人の妖精〜第四章〜
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その日、天界警察には大きな荷物が届いた。台車に乗った段ボールだ。
「うさぎ急便…なにこれ?」
「鏑木さんが歩きたくないって言うんで、コピー機が入ってた箱でどうかなって思って。」
「送り状ならあるよ。送っとく?」
「それも考えたんですけどね、鏑木さんを敵に回すと後が怖いですからねぇ。」
「全部聞こえてんだぞー!!」
「とりあえず蓋閉めますか…。」
「ちっちゃなおっさんって鏑木さんだったのかぁ…。」
鏑木さんが段ボールに入ったまま会議が始まった。鏑木さんはせっせと花占いをしている。
「鹿児島の中央の神社で魔界の住人が結界を突破する事件が起きた。」
「知ってますぅ。」
鏑木さんがニュッと出てサッと潜る。
「黙れ、うさぎ急便。一連の流れとして東の神様が亡くなり、西の神様が毒殺され結界が手薄になったところを狙われたらしい。」
「昔からある手口やーん。」
再びニュッと出てサッと潜る。
「うさぎ急便、送られたいか?うちからは捜査官と護衛団を送り込んでいる。皆も担当する神社の調査報告を改めてして頂きたい。報告書は来月末までの提出だ。以上、解散。」
「結局、何がしたかったのかですよね~。」
「鹿児島中央の神社を潰せば魔界の住人は鹿児島でやりたい放題だ。神様の子供たちが魔界に連れて行かれて飼われていたという話もある。」
「随分グロいんですね。」
「魔界の住人との戦いは今に始まった事じゃないからなぁ。」
「ふーん。」
「ところで田所さん…出られない…。」
「出なくていいですよ。このまま職場に帰りましょう。さあさあさあ。」
「週に2回の健康ランドー!!月に2回のうな重ー!!」
そう言って鏑木さんは泣いた。
「お前は本当に無理するよな。」
鹿児島中央の神社では学さんが陽平君の頭をくしゃくしゃ撫でていた。
「皆が頑張っているのに僕だけ逃げたりは出来ません。」
「それがいい場合と悪い場合があるんだからな。今回はなんとかなったけど預かって数年のお前を戦に借り出したなんて旦那様に申し訳ないよ。」
「学さんは一色さんと良く話してましたけど本当に仲悪いんですか?」
「ここだけの話しだぞ…。」
「はい。」
「一色は仕事で来た巫女さんと逢瀬を重ねてるんだ。」
ああ、やっぱりな、陽平君は思った。
「鈍感な俺でも気づくんだ。周りはたぶん皆知ってるよ。それでも一色は写経を教えているとか嘘つくんだぞ。」
へー学さんは鈍感だったのか、再び陽平君は思った。
「それがまたきれいどころばっかり引き連れているもんだから腹立ってな…。」
「一色さんには気をつけろって…。」
「陽平はキレイな顔してるからな。来たばっかりの頃は第2の一色か?!って…。」
学さんは佇まいを直して陽平君に言った。
「陽平はあんなキザ臭い男になるんじゃないぞ。」
そうして手を握った。
東京では旦那様が悩んでいた。
「陽平君、魔界の住人をやっつけたんでしょう?」
「僕だって出来るよ!」
「私だって!」
「陽平君は鹿児島の神社で徹底的に指導を受けた上で実戦に出たんです。貴方たちにはまだ無理です。」
「えー。」
「門限は夕刻4時から変わりませんよ。それに魔界の住人は1対1で現れるとは限りません。3対1などになったら食べられてしまいますよ。」
「はーい。」
皆は渋々返事をした。
「すずちゃん、陽平君はどんどん格好良くなっていくね。」
「それがどうかしたの?」
「好きなんでしょ、陽平君が。」
すずちゃんは顔を真っ赤にした。
「違うよ、違う!尊敬してるの!!」
「皆、気付いてるよ~。」
かどま君がスライディングしていく。
「もう、止めてったら!!」
そう言ってすずちゃんは洗濯物を取り込みに行った。
「ここでざっと魔界についてのおさらいです。」
鏑木さんが箱の中から解説する。
「魔界の住人は元は天界の住人です。何らかの事件を起こし判断基準がつかなくなったものが魔界に堕ちます。しかし、この魔界の住人は天界の子供を食べます。子供には浄化する力があるためです。そして一時的にはもとに戻りますが、子供を食べると元の状態に戻れることだけ学習します。」
「ほー。」
「この世界は天界と下界が融合しかけている世界です。従って4時以降の子供の外出は今後とも罰則があります。」
「他になにかありますか?」
田所さんがそう聞く。
「それと今回の事件がどう重なってくるんですか?」
「我々は今回の事件は魔界の住人のテストだと思っている。第2、第3の事件が起こる前触れかと思う。」
皆は黙り込んだ。
「うちからは喜多川チームが乗り込んでいる。良い報告が得られることを期待している。以上。みんな仕事にもどれ。」
「は~い交通課長官盛喜多マキよ。みんなからはモーリーって呼ばれてるわ。」
「盛喜多さん、どうでもいいんで室長に電話を繋いでください。」
「あら、モーリーには興味はないかしら?」
「そういうのは非番の時にお願いします。」
「あら、非番でも田所から電話もらったことなんてないんだぞ。キャッ。」
「室長ー。」
「今変わるわ。待って頂戴。」
「はい。お電話変わりました、堀内です。」
「永遠に繋がらないかと思いましたよ。」
「田所さんが私なんかになんの御用です?」
「うちの魔界の住人の研究の第一人者は堀内さんと聞いて。」
「大学で専攻した程度です。お恥ずかしい限りですよ。」
「魔界の住人の生態について詳しい資料を都内の神社に配ろうかと思いまして。」
「分かりました。いつまでにですか?」
「再来週くらいだと助かるんですが。」
「都合をつけて提出しますよ。」
「ありがとうございます。よろしくお願いします。」
「では失礼いたします。」
「はい。どうも。」
それから2週間が経ち資料が届いた。魔界の住人の生態と過去に起きた事件の一覧だ。
「毎度の事ですが辛くなりますね。」
「まあ大人は食べられないからな。」
「鹿児島の事件では戦った子どもが居たそうですね。流鏑馬の名手らしいですよ。」
「へー優秀なんだな。」
「とりあえず、この書類のコピーを取って管轄区域の神社に配りましょう。」
「業さん、業さん。待ってください。」
鹿児島の西の神社ではトラブルが起きていた。
「功に代表が務まるとは思えん。別の神社に移らせてもらう。」
「百人力の業さんが居なかったらうちは保たないんです。お願いします。考え直してください。」
「ならば役付はどうだ?」
「今役付に空きはないんです。中央から来た緒形さんが担当してるんです。」
「まあ、急くこともないか。もう少し様子を見させて貰おう。」
そう言って業さんはどっかりと座り酒を飲んだ。
「業さん、仕事中ですよ。」
「笑止千万!酒のない人生など!」
「酒クッサ…どれだけ飲んでるんです。」
「酒は清めだ。嗜む程度だな。」
そう言ってガハハと業さんは笑った。
「陽平、どうした?」
「魔界の住人は動き方に特徴があったんです。こうカクンカクンと近寄ってくるんです。」
そう言って陽平君は動きを真似た。
「だから逆にこう来た瞬間矢を放てばすっと届くんです。」
「魔界の住人はもうしばらくは来ないぞ。忘れて良いんだ。」
学さんは笑った。
「僕の勘でしかないんですけど、まだ続くような気がするんです。」
「…。」
「胸騒ぎがするんです…。」
そうして1か月が経った。
「法力解錠、法力解錠、法力解錠、…。」
「古式の術など、簡単なものよのう…。魔界も天界もおさめるのは私だ。」
「スメラギ様、あまり急がれますと事を仕損じますよ。」
そう言って、カラスが話した。
「烏丸や、私が失敗したことがあったか?」
「いいえ。ございませんよ。」
「3日だ、3日でこの世を我が手中におさめる。鹿児島は手始めだ。上手く行ったものだ。」
「では早急に手配いたします。」
そう言って烏丸は飛び去った。
そうして男は不気味な笑みを浮かべた。
天界では子供たちがハロウィンをしていた。
「トリック・オア・トリート。」
そう言ってキャイキャイとしている。
「こんなに貰っちゃったね。」
「1年分はあるよ。」
旦那様のお屋敷には旦那様の部下が遊びに来ていた。皆がお菓子をたくさんくれる。
「陽平君もいたら良かったのに…。」
「陽平君は一生懸命働いてるんだから言っちゃだめ!!」
すずちゃんが話した。
ドシンと音がした。地鳴りのような大きな音だ。旦那様が子供たちにテーブルの下に入るように指示する。旦那様が外を見ると、魂の固まりとなった大型の人形が歩いていた。道を歩く大人を食べている。旦那様は自室から刀を用意してきた。
「天界警察が出動しているそうです。」
草間が報告する。
子ども達は怯えて小さな声で泣く。
「陽平君はやっぱり凄いんだね。」
かどま君がそう言う。旦那様はろうそくを用意して家の電気を消した。
「人がいると思われては困りますからね。」
皆、ガタガタと震えている。
次の瞬間、ドーンと音がした。天界警察のヘリが周辺を囲み始めた。人形になった魂を郊外へと追いやっていく。
「ただいま、天界警察で、魔界の住人の回収を行っております。建物の損壊などは後日補填いたします。どうかご協力ください。」
そう言って拡声器越しの声がした。
「大人の方も速やかに建物に避難してください。窓から顔を出すのもお控えください。」
パラパラとヘリの旋回音が響く。
「1番隊、よーい。」
地上では天界警察の1番隊が銃を構えている。
「発射!!」
ドーンと音がした。街の中の灯りが一斉に消えていく。山の方に火が灯った。
「堀内さん、すげーなー。」
「おじいちゃん、集中してくださいよ。被害は最小限に抑えるよう言われてるんですから。」
「陽平…。」
鹿児島の中央の神社では皆が東京の様子をテレビで見ていた。
「旦那様が…すずちゃんが…。」
「泣くな、陽平。きっと皆大丈夫だ。」
そうして学さんはギュッと陽平君を抱きしめた。
「原因の特定はまだなのか。」
「天界警察の回線パンクしてて繋がらないんですよ。」
「都内なら陰陽師も多数在籍しているだろう?」
「それが先日の事件で県外から結界の点検として方々に散っていて都内にいないんです。」
「狙われましたね。陽平君、花札は分かりますか?」
「いえ、わからないです。」
「では、教えながら進めましょう。」
そうして陽平君は花札の山を2つに分けるように言われた。それを一色さんが切っていく。
「古今東西、法力というものはすべてのものに宿るものとされてきました。なかでも修業を続けると其の者に力を与えると。」
一色さんが、手札を配り終える。
「さあ、守りたいものはなんですか?」
都内では人形が灯りに向かって歩いていた。
「本当に思考力がないんだなぁ…。」
「あって貰っちゃ困りますよ。」
ブロック塀がガラガラと崩れる。
「2番隊よーい。発射。」
ドーンと音がして人形が進行方向を変える。
「古い家なら潰しても新築になるなら良くない?」
「それ、マスコミの前で絶対に言わないでくださいよ。」
そう言って田所さんはヘリを飛ばす。そして無線が入る。
「ハロー盛喜多よ。交通課でも誘導を始めたわ。地上でライトを点灯してるから、力を貸すわ。」
「分かりました。ありがとうございます。」
このまま何も起きずに収まってくれれば皆がそう思った。
「お母さん、ポチが…。」
静まり返った都内で男の子の声がした。
「静かにしなさい。お母さんがなんとかするから!!」
人形がそちらを見る。母親はそれに気づいて中に入る。しかしポチが持ち上げられ人形の中に溶けていく。
「ポチー!!」
男の子が飛び出してくる。
「だめよ!!入りなさい!!」
「3番隊、よーい。発射。」
人形が銃に気を取られている隙に母親は息子と家に戻って電気を消した。
山手線も緊急事態として電車を停止している。
1時間近く時間をかけて人形は山の方に移動した。後は朝日が出るのを待つまでだ。
田所さんはヘリを旋回させながらピリピリしている。車で陰陽師が都内に戻り始めた。
祈祷や術が方々で始まる。
鹿児島では、変わらず陽平君が一色さんと花札をしていた。
「これで私の勝ちです。上達するのが早いですね。」
「なんで今花札なんてしなくちゃいけないんですか?!」
陽平君は泣きながら話した。
「今すぐ皆に会いに行きたいんです。魔界の住人なら僕だって戦えます!!」
「なら、私を倒して行きなさい。私は魔界の住人ほど強くありませんよ。私を倒せるなら倒せるかもしれませんね。」
「なんで一色さんと戦わなくちゃ…。」
「大将は最後に出てくるものなんですよ。分かったら花札を続けましょう。」
「日の出まで20分を切りました。総員待機でお願いします。」
田所さんが拡声器越しに話しだす。
「こちらは天界警察です。日の出まで20分を切りました。まだ電気はつけないようにお願い致します。こちらは天界警察です。日の出まで20分を切りました。まだ電気はつけないようにお願い致します。」
「アイス食べたいぃぃ。」
「この非常事態にそんな事言ってるのおじいちゃんくらいですよ。」
「残り何分切った?」
「5分です。」
盛喜多さんの無線が入る。
「はーい盛喜多よ。結界が所々解除されてるみたい。今、神官と陰陽師で張り直してるわ。山の方は最後になるわ。気をつけてね。」
「分かりました。お願いします。」
「あ、光だ。」
かどま君が気づいた。
「お日様だよ皆。」
子ども達は一斉に泣き出した。旦那様と部下の大人が褒めてくれる。
「良く泣かずに頑張りましたね。」
「皆無事で良かったねー。」
「旦那様、皆…。」
陽平君はテレビを見ながら泣き続けた。学さんと一色さんが隣に来て良く頑張りましたねと褒めてくれる。朝日はすべてを浄化する。綺麗な街の姿が浮かび上がってくる。
「花札の意味って…。」
「時間稼ぎですよ。」
そう言って一色さんは笑った。
「ふむふむ、内部の犯行というわけか。まさかあやつが黒幕と繋がっていたとはな。」
鹿児島の西の神社では業さんがなにかに気づいた。
「さて、天界警察にどうやって証拠を持ち込むかだな。」
そう言って業さんは酒を飲んだ。
陽平君は皆に初めて電話をした。皆代わる代わる、元気だよーと言ってくる。僕が守りたいのは皆の笑顔だ。そうして陽平君は天界警察へと志願する。この時はまだ誰もが彼が最年少長官になるとは想像していなかった。
「うさぎ急便…なにこれ?」
「鏑木さんが歩きたくないって言うんで、コピー機が入ってた箱でどうかなって思って。」
「送り状ならあるよ。送っとく?」
「それも考えたんですけどね、鏑木さんを敵に回すと後が怖いですからねぇ。」
「全部聞こえてんだぞー!!」
「とりあえず蓋閉めますか…。」
「ちっちゃなおっさんって鏑木さんだったのかぁ…。」
鏑木さんが段ボールに入ったまま会議が始まった。鏑木さんはせっせと花占いをしている。
「鹿児島の中央の神社で魔界の住人が結界を突破する事件が起きた。」
「知ってますぅ。」
鏑木さんがニュッと出てサッと潜る。
「黙れ、うさぎ急便。一連の流れとして東の神様が亡くなり、西の神様が毒殺され結界が手薄になったところを狙われたらしい。」
「昔からある手口やーん。」
再びニュッと出てサッと潜る。
「うさぎ急便、送られたいか?うちからは捜査官と護衛団を送り込んでいる。皆も担当する神社の調査報告を改めてして頂きたい。報告書は来月末までの提出だ。以上、解散。」
「結局、何がしたかったのかですよね~。」
「鹿児島中央の神社を潰せば魔界の住人は鹿児島でやりたい放題だ。神様の子供たちが魔界に連れて行かれて飼われていたという話もある。」
「随分グロいんですね。」
「魔界の住人との戦いは今に始まった事じゃないからなぁ。」
「ふーん。」
「ところで田所さん…出られない…。」
「出なくていいですよ。このまま職場に帰りましょう。さあさあさあ。」
「週に2回の健康ランドー!!月に2回のうな重ー!!」
そう言って鏑木さんは泣いた。
「お前は本当に無理するよな。」
鹿児島中央の神社では学さんが陽平君の頭をくしゃくしゃ撫でていた。
「皆が頑張っているのに僕だけ逃げたりは出来ません。」
「それがいい場合と悪い場合があるんだからな。今回はなんとかなったけど預かって数年のお前を戦に借り出したなんて旦那様に申し訳ないよ。」
「学さんは一色さんと良く話してましたけど本当に仲悪いんですか?」
「ここだけの話しだぞ…。」
「はい。」
「一色は仕事で来た巫女さんと逢瀬を重ねてるんだ。」
ああ、やっぱりな、陽平君は思った。
「鈍感な俺でも気づくんだ。周りはたぶん皆知ってるよ。それでも一色は写経を教えているとか嘘つくんだぞ。」
へー学さんは鈍感だったのか、再び陽平君は思った。
「それがまたきれいどころばっかり引き連れているもんだから腹立ってな…。」
「一色さんには気をつけろって…。」
「陽平はキレイな顔してるからな。来たばっかりの頃は第2の一色か?!って…。」
学さんは佇まいを直して陽平君に言った。
「陽平はあんなキザ臭い男になるんじゃないぞ。」
そうして手を握った。
東京では旦那様が悩んでいた。
「陽平君、魔界の住人をやっつけたんでしょう?」
「僕だって出来るよ!」
「私だって!」
「陽平君は鹿児島の神社で徹底的に指導を受けた上で実戦に出たんです。貴方たちにはまだ無理です。」
「えー。」
「門限は夕刻4時から変わりませんよ。それに魔界の住人は1対1で現れるとは限りません。3対1などになったら食べられてしまいますよ。」
「はーい。」
皆は渋々返事をした。
「すずちゃん、陽平君はどんどん格好良くなっていくね。」
「それがどうかしたの?」
「好きなんでしょ、陽平君が。」
すずちゃんは顔を真っ赤にした。
「違うよ、違う!尊敬してるの!!」
「皆、気付いてるよ~。」
かどま君がスライディングしていく。
「もう、止めてったら!!」
そう言ってすずちゃんは洗濯物を取り込みに行った。
「ここでざっと魔界についてのおさらいです。」
鏑木さんが箱の中から解説する。
「魔界の住人は元は天界の住人です。何らかの事件を起こし判断基準がつかなくなったものが魔界に堕ちます。しかし、この魔界の住人は天界の子供を食べます。子供には浄化する力があるためです。そして一時的にはもとに戻りますが、子供を食べると元の状態に戻れることだけ学習します。」
「ほー。」
「この世界は天界と下界が融合しかけている世界です。従って4時以降の子供の外出は今後とも罰則があります。」
「他になにかありますか?」
田所さんがそう聞く。
「それと今回の事件がどう重なってくるんですか?」
「我々は今回の事件は魔界の住人のテストだと思っている。第2、第3の事件が起こる前触れかと思う。」
皆は黙り込んだ。
「うちからは喜多川チームが乗り込んでいる。良い報告が得られることを期待している。以上。みんな仕事にもどれ。」
「は~い交通課長官盛喜多マキよ。みんなからはモーリーって呼ばれてるわ。」
「盛喜多さん、どうでもいいんで室長に電話を繋いでください。」
「あら、モーリーには興味はないかしら?」
「そういうのは非番の時にお願いします。」
「あら、非番でも田所から電話もらったことなんてないんだぞ。キャッ。」
「室長ー。」
「今変わるわ。待って頂戴。」
「はい。お電話変わりました、堀内です。」
「永遠に繋がらないかと思いましたよ。」
「田所さんが私なんかになんの御用です?」
「うちの魔界の住人の研究の第一人者は堀内さんと聞いて。」
「大学で専攻した程度です。お恥ずかしい限りですよ。」
「魔界の住人の生態について詳しい資料を都内の神社に配ろうかと思いまして。」
「分かりました。いつまでにですか?」
「再来週くらいだと助かるんですが。」
「都合をつけて提出しますよ。」
「ありがとうございます。よろしくお願いします。」
「では失礼いたします。」
「はい。どうも。」
それから2週間が経ち資料が届いた。魔界の住人の生態と過去に起きた事件の一覧だ。
「毎度の事ですが辛くなりますね。」
「まあ大人は食べられないからな。」
「鹿児島の事件では戦った子どもが居たそうですね。流鏑馬の名手らしいですよ。」
「へー優秀なんだな。」
「とりあえず、この書類のコピーを取って管轄区域の神社に配りましょう。」
「業さん、業さん。待ってください。」
鹿児島の西の神社ではトラブルが起きていた。
「功に代表が務まるとは思えん。別の神社に移らせてもらう。」
「百人力の業さんが居なかったらうちは保たないんです。お願いします。考え直してください。」
「ならば役付はどうだ?」
「今役付に空きはないんです。中央から来た緒形さんが担当してるんです。」
「まあ、急くこともないか。もう少し様子を見させて貰おう。」
そう言って業さんはどっかりと座り酒を飲んだ。
「業さん、仕事中ですよ。」
「笑止千万!酒のない人生など!」
「酒クッサ…どれだけ飲んでるんです。」
「酒は清めだ。嗜む程度だな。」
そう言ってガハハと業さんは笑った。
「陽平、どうした?」
「魔界の住人は動き方に特徴があったんです。こうカクンカクンと近寄ってくるんです。」
そう言って陽平君は動きを真似た。
「だから逆にこう来た瞬間矢を放てばすっと届くんです。」
「魔界の住人はもうしばらくは来ないぞ。忘れて良いんだ。」
学さんは笑った。
「僕の勘でしかないんですけど、まだ続くような気がするんです。」
「…。」
「胸騒ぎがするんです…。」
そうして1か月が経った。
「法力解錠、法力解錠、法力解錠、…。」
「古式の術など、簡単なものよのう…。魔界も天界もおさめるのは私だ。」
「スメラギ様、あまり急がれますと事を仕損じますよ。」
そう言って、カラスが話した。
「烏丸や、私が失敗したことがあったか?」
「いいえ。ございませんよ。」
「3日だ、3日でこの世を我が手中におさめる。鹿児島は手始めだ。上手く行ったものだ。」
「では早急に手配いたします。」
そう言って烏丸は飛び去った。
そうして男は不気味な笑みを浮かべた。
天界では子供たちがハロウィンをしていた。
「トリック・オア・トリート。」
そう言ってキャイキャイとしている。
「こんなに貰っちゃったね。」
「1年分はあるよ。」
旦那様のお屋敷には旦那様の部下が遊びに来ていた。皆がお菓子をたくさんくれる。
「陽平君もいたら良かったのに…。」
「陽平君は一生懸命働いてるんだから言っちゃだめ!!」
すずちゃんが話した。
ドシンと音がした。地鳴りのような大きな音だ。旦那様が子供たちにテーブルの下に入るように指示する。旦那様が外を見ると、魂の固まりとなった大型の人形が歩いていた。道を歩く大人を食べている。旦那様は自室から刀を用意してきた。
「天界警察が出動しているそうです。」
草間が報告する。
子ども達は怯えて小さな声で泣く。
「陽平君はやっぱり凄いんだね。」
かどま君がそう言う。旦那様はろうそくを用意して家の電気を消した。
「人がいると思われては困りますからね。」
皆、ガタガタと震えている。
次の瞬間、ドーンと音がした。天界警察のヘリが周辺を囲み始めた。人形になった魂を郊外へと追いやっていく。
「ただいま、天界警察で、魔界の住人の回収を行っております。建物の損壊などは後日補填いたします。どうかご協力ください。」
そう言って拡声器越しの声がした。
「大人の方も速やかに建物に避難してください。窓から顔を出すのもお控えください。」
パラパラとヘリの旋回音が響く。
「1番隊、よーい。」
地上では天界警察の1番隊が銃を構えている。
「発射!!」
ドーンと音がした。街の中の灯りが一斉に消えていく。山の方に火が灯った。
「堀内さん、すげーなー。」
「おじいちゃん、集中してくださいよ。被害は最小限に抑えるよう言われてるんですから。」
「陽平…。」
鹿児島の中央の神社では皆が東京の様子をテレビで見ていた。
「旦那様が…すずちゃんが…。」
「泣くな、陽平。きっと皆大丈夫だ。」
そうして学さんはギュッと陽平君を抱きしめた。
「原因の特定はまだなのか。」
「天界警察の回線パンクしてて繋がらないんですよ。」
「都内なら陰陽師も多数在籍しているだろう?」
「それが先日の事件で県外から結界の点検として方々に散っていて都内にいないんです。」
「狙われましたね。陽平君、花札は分かりますか?」
「いえ、わからないです。」
「では、教えながら進めましょう。」
そうして陽平君は花札の山を2つに分けるように言われた。それを一色さんが切っていく。
「古今東西、法力というものはすべてのものに宿るものとされてきました。なかでも修業を続けると其の者に力を与えると。」
一色さんが、手札を配り終える。
「さあ、守りたいものはなんですか?」
都内では人形が灯りに向かって歩いていた。
「本当に思考力がないんだなぁ…。」
「あって貰っちゃ困りますよ。」
ブロック塀がガラガラと崩れる。
「2番隊よーい。発射。」
ドーンと音がして人形が進行方向を変える。
「古い家なら潰しても新築になるなら良くない?」
「それ、マスコミの前で絶対に言わないでくださいよ。」
そう言って田所さんはヘリを飛ばす。そして無線が入る。
「ハロー盛喜多よ。交通課でも誘導を始めたわ。地上でライトを点灯してるから、力を貸すわ。」
「分かりました。ありがとうございます。」
このまま何も起きずに収まってくれれば皆がそう思った。
「お母さん、ポチが…。」
静まり返った都内で男の子の声がした。
「静かにしなさい。お母さんがなんとかするから!!」
人形がそちらを見る。母親はそれに気づいて中に入る。しかしポチが持ち上げられ人形の中に溶けていく。
「ポチー!!」
男の子が飛び出してくる。
「だめよ!!入りなさい!!」
「3番隊、よーい。発射。」
人形が銃に気を取られている隙に母親は息子と家に戻って電気を消した。
山手線も緊急事態として電車を停止している。
1時間近く時間をかけて人形は山の方に移動した。後は朝日が出るのを待つまでだ。
田所さんはヘリを旋回させながらピリピリしている。車で陰陽師が都内に戻り始めた。
祈祷や術が方々で始まる。
鹿児島では、変わらず陽平君が一色さんと花札をしていた。
「これで私の勝ちです。上達するのが早いですね。」
「なんで今花札なんてしなくちゃいけないんですか?!」
陽平君は泣きながら話した。
「今すぐ皆に会いに行きたいんです。魔界の住人なら僕だって戦えます!!」
「なら、私を倒して行きなさい。私は魔界の住人ほど強くありませんよ。私を倒せるなら倒せるかもしれませんね。」
「なんで一色さんと戦わなくちゃ…。」
「大将は最後に出てくるものなんですよ。分かったら花札を続けましょう。」
「日の出まで20分を切りました。総員待機でお願いします。」
田所さんが拡声器越しに話しだす。
「こちらは天界警察です。日の出まで20分を切りました。まだ電気はつけないようにお願い致します。こちらは天界警察です。日の出まで20分を切りました。まだ電気はつけないようにお願い致します。」
「アイス食べたいぃぃ。」
「この非常事態にそんな事言ってるのおじいちゃんくらいですよ。」
「残り何分切った?」
「5分です。」
盛喜多さんの無線が入る。
「はーい盛喜多よ。結界が所々解除されてるみたい。今、神官と陰陽師で張り直してるわ。山の方は最後になるわ。気をつけてね。」
「分かりました。お願いします。」
「あ、光だ。」
かどま君が気づいた。
「お日様だよ皆。」
子ども達は一斉に泣き出した。旦那様と部下の大人が褒めてくれる。
「良く泣かずに頑張りましたね。」
「皆無事で良かったねー。」
「旦那様、皆…。」
陽平君はテレビを見ながら泣き続けた。学さんと一色さんが隣に来て良く頑張りましたねと褒めてくれる。朝日はすべてを浄化する。綺麗な街の姿が浮かび上がってくる。
「花札の意味って…。」
「時間稼ぎですよ。」
そう言って一色さんは笑った。
「ふむふむ、内部の犯行というわけか。まさかあやつが黒幕と繋がっていたとはな。」
鹿児島の西の神社では業さんがなにかに気づいた。
「さて、天界警察にどうやって証拠を持ち込むかだな。」
そう言って業さんは酒を飲んだ。
陽平君は皆に初めて電話をした。皆代わる代わる、元気だよーと言ってくる。僕が守りたいのは皆の笑顔だ。そうして陽平君は天界警察へと志願する。この時はまだ誰もが彼が最年少長官になるとは想像していなかった。
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ひまわり組誕生から十年(出版からは八年ですが)を記念して、書籍になる際にカットされた閑話、勇者撃退後の日常の話、季節限定で公開していた短編を集めました。記念に書き下ろした未公開の短編もございます
*設定・キャラクターの説明は省いています。本編をお読みいただいてからの方がお楽しみいただけます*
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