【完結】密告

声のする者

相手の男は確か、茅原という名前でした。
生家は私のように神をおさめる家でした。私は慎重にふたりの様子を伺いました。
貴女が派遣社員として働く職場に彼はいました。彼は貴女の心の声が聞こえるように毎日、貴女に張られた結界を解いていきました。
この頃の貴女には誰が張ったのか分からない結界がありました。
非常に精巧なもので相当の祈祷師が張ったものでした。それでも茅原は結界をほぼ解いてしまいました。
私はこの日新幹線に乗り、貴女の職場に到着しました。貴女は非常用エレベーターのボタンを間違えて押したと、私に飛びついてきました。でも本当は、非常用エレベーターなどはありませんでした。私が仕組んだのです。
私は貴女に私の法力を吹き込みました。
あとは貴女次第でした。
結界が解かれた貴女は茅原の罠にかかりました。茅原は迎えに行くから駅にいてくれと心の声で言うのです。貴女は幻聴だからと思ってふたつ返事で了承しました。
しかし、家に帰ろうとすると駅から出られないのです。貴女は駅の構内をグルグルと回り続けました。
それでも貴女には味方がいました。星次という貴女の上司です。星次さんは、茅原が貴女に手を出さないように結界を張りました。ふたりは五分五分と言ったところで時間ばかりが過ぎていきました。
その内に貴女は会社のある方には歩けると気が付きました。そして決断したのです。