【完結】変わり身

九時千里

文字の大きさ
上 下
16 / 16

羽ばたく

しおりを挟む
俺はその後なんとか院生になった。それでも沖田には適うところが無かった。
卒展では沖田の作品の前に人集りが出来た。
俺はそれを見ながら涙ぐんだ。嬉しいとも悔しいとも言えるこの感情に何と名前をつけたら良いのか、そう思うと少し怖かった。
卒業後、沖田は式をあげた。友達には俺と永崎が呼ばれお世話になった教授も式に出ていた。神坂は恐ろしくきれいな花嫁で、本当に誰かを好きになった女性というのはこんな姿になるんだな、俺達はふたりでそういった。
それから1年後、永崎も目黒と式をあげた。
俺はこれと言って出会いがないまま助教授になった。
見合いもしたが上手くいくことは無かった。
そうしているうちに俺は教授になりメディアにも進出するようになった。
いかにも良いうちの子が見ていそうな芸術番組に呼ばれて沢山の解説をした。
そうしていくうちに俺は教授になって良かった。これが天職だと思うようになった。
それでも家に帰ると必ず、イーゼルにセットされたキャンバスの前に座った。
俺は日展に作品を出品することを続けていた。周りには内緒だ。
沖田と最後に交わした言葉が残っていく。
「石松君は作る側の人だよ。忘れないで。」
俺は日展に出しても賞は取れなかった。
それでも沖田宗純という天才に見出された天才なのだ。
そう思いながら今日もキャンバスに向き合った。
ネットやテレビには若き天才、沖田宗純、その名前がチラホラ見られた。
俺は芸大生から姿を変え、1人の芸術家として作品を描き続けた。
俺は沖田と出会ったのは運命なのだ、そう思って今日も筆を握った。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。


処理中です...