【完結】変わり身

九時せんり

文字の大きさ
上 下
13 / 16

本気

しおりを挟む
「石松君はギリギリまで絵を描いたことがないよね。」
ある日の朝、沖田に告げられた。
「ギリギリってなんだ?」
「この作品が完成しないならいっそ無かったことにしたい、そんな境地かな?」
いつになく饒舌な沖田を前に俺は答えに窮した。
そして携帯のアラームが鳴って俺は目を覚ました。
大学に行くといつも通り沖田の作品を日向が品定めしている。
「おはよう、石松君。」
「おはよう、沖田。」
俺は肩を鳴らしながら沖田の作品を覗き込んだ。ピンクが多用された沖田らしくない作品だった。
「やっぱり沖田君は夕暮れ時なのね…。」
そう言って日向は金勘定をしていた。
「がめついなぁ…。」
珍しく永崎がいた。
「画商っていうのはね、画家が絵を描いてご飯を食べていくのに十分な金額を稼がないといけないの。無理難題を言って値引き交渉してくる人や転売目的の人を見分ける必要があるのよ。」
そう言って日向はイキイキしている。
沖田はゆっくり笑いながら、水と鮭おにぎりを開ける。
「あの、沖田君。」
神坂だ。
沖田は昨日受け取った弁当箱を洗って持ってきて今日の分と交換する。
「どうだった?」
「いつも通り美味しかったです。」
「今日の分はしらすが入っているから嫌だったら残して。」
「大事に食べます。美味しいですよね、しらす。」
そう言って沖田はニコニコする。
「それじゃあ、また後で。」
神坂はまるで中学生のようなピュアな少女なのだな、俺はそんなイメージを持った。
「どれどれ。」
日向が卵焼きを1つつまむ。沖田がそれに続いて卵焼きを食べる。
「美味しいぃぃぃ。」
日向が頬に手を当てる。
「良いお嫁さんね。」
沖田はやはり顔を真っ赤にした。
「神坂さんは素敵な女性です。」
そう言って沖田は筆を握った。
俺は今日の朝見た夢と現実が入り混じって、沖田と話がしたい。そう思った。
それでも言葉を持たない沖田の事だ。不思議な話になるに違いない。
1限目が始まるまで何度か弁当が届いた。沖田は全てを少しずつ食べて日向が横取りしていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】盲目の騎士〜第五章〜

九時せんり
現代文学
大学生の木内は日本で就活をするものの全滅でドイツのギャラリーアオヤナギへの就職を本気で考える。芸術で飯を食う、木内にその覚悟は出来るのか。

【完結】盲目の騎士〜第一章〜

九時せんり
現代文学
盲目の天才、青柳聖人を追うライターの山本美智香。失明した画家青柳を取り巻く真実とは。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】盲目の騎士〜過去〜

九時せんり
現代文学
病気が見つかり祖母の家で暮らし始めた青柳聖人。油絵を描くようになった彼に訪れた運命とは。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】盲目の騎士〜番外編〜

九時せんり
現代文学
盲目の天才、青柳聖人の子供、青柳蒼人と蒼華は父のように世界一になると各々の仕事に打ち込んでいた。 そんななか、高齢になった高真がギャラリーアオヤナギの社長を退くと言い出した。父の作品を収めるギャラリーアオヤナギの存続をかけて蒼人は社長になることを申し出る。そんな蒼人の息子パウルが選んだ人生とは。

世界の端に舞う雪

秋初夏生(あきは なつき)
現代文学
雪が降る夜、駅のホームで僕は彼女に出会った まるで雪の精のように、ふわりと現れ、消えていった少女── 静かな夜の駅で、心をふっと温める、少し不思議で儚い物語

【完結】盲目の騎士〜眠りにつく日〜

九時せんり
現代文学
ギャラリーアオヤナギ初代創業者高真武彦。ベルリンでは鮮やかな桜が咲くその日に息を引き取った。 ギャラリーアオヤナギは新しい作家、田沼凛を迎えて更に業績を伸ばしていく。 しかし田沼と荒井が親密になるなか、珠代は複雑な気持ちを抱いていて。

処理中です...