【完結】蓮の花

九時せんり

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蓮の花

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就活まではうまく行った。地味で大人しい私が内定を貰うなら真面目を売りにすべきかな?そう先輩には言われた。

会社に入って新入社員の歓迎会を兼ねてバーベキューがあった。私は、森ガール的な服装で参加した。
先輩の秋津が料理を取り分けてくれる。
優しいんですね。そう言って笑うと、じゃあ今度ふたりで出かけない?そう耳打ちされた。
私は秋津は確か既婚者だったはずだ、そう思った。しかし指輪はなかった。

私はそんな事も忘れて日々の仕事に打ち込んだ。同期の鈴原が1番仕事ができるなぁ、皆がそういった。早くて丁寧でミスがない。私は少し意地悪い気持ちになった。鈴原は仕事ができる上美人なのだ。
一部の人は鈴原の仕事ぶりより顔や身体をなめ回すように見ていたのを私は気づいていた。
鈴原はそんなことなどお構い無しで毎日仕事していた。

鈴原は仕事は出来たが私達同期とはどんどん距離ができていった。私達、新人は飲みに行く約束をしても鈴原は誘わなかった。
たまたま、昨日のご飯は楽しかったね、そんな話をしてしまうと、鈴原は寂しそうに、今度は私も誘ってね。と笑顔で返した。
私達はなおさら鈴原を誘わなくなった。

ある日の新人の飲み会での帰り道、秋津と会った。秋津はキャバ嬢らしき女と一緒だった。いわゆる同伴というやつだろう。
私はまた月曜日会社で~と言って帰路についた。家について5分後、秋津から電話があった。何故、私の連絡先を知っているのだろう?そう思うと不安だった。
玄関まで来てるから開けてくれ。そう言ってきたが私は帰ってください、そう繰り返した。
窓から秋津が帰っていく姿が見えて私はホッとした。

次の仕事の日、新人の中田に携帯の話をした。それなら、ああ、亜美ちゃんだよ。そう言っていた。この間の夜、秋津先輩が番号教えるまで帰さないって脅してきたんだよ。
そう言って化粧を直した。私は自宅まで来たと話した。
中田はすごい執念だね、そう言って笑った。この頃、私が知らなかっただけでハブにされていたのは私だった。私が来るなら行かないね。鈴原はそう言っていたらしい。
1年間は何とか勤めた。しかし、私は退職願を出して会社を去った。
前職を生かした仕事に就こうと思ったが1年しか保たなかった私を受け入れてくれる会社はなかった。日払いの仕事をして何とか食いつないだ。それでも貯金は減っていく。

その日は、街でティッシュ配りをしていた。そこに黒服の男が来てティッシュを配りだした。私はさして気にも留めず、その横でティッシュを配った。男はゆっくりと私に近づいてきた。ここで配られると迷惑などと言われるのかもしれない。そう思った。
「時給いくら?」
「千円ですけど。」
私はキョトンとしながら答えた。
「うちなら時給五千円出せるよ。」
「ティッシュ配りがですか?」
「違う。店の女の子になってくれたらだよ。」
「私がですか?」
「その気があったら電話して。」
そう言って名刺を渡されてその日の仕事は終わった。

それでも私は地道に日払いで働いた。急遽、残業になりおにぎりの差し入れが届いた時、噛み締めながら味わった。同じ会社から日払いで来ている人と話したり、たまに遊びに行った。しかし日払いで働くというのはやはり訳ありだ。皆が自分の話を口にしない。それも私には心地良いことだった。
しかし突然私は日払いを首にされた。私は私に悪いところがあれば直します、そう言って必死になったが理由は教えてもらえなかった。
どうも一緒に遊びに行った人の中に断るのが苦手な人が居たらしい。
私に強引に誘われて断り切れなかった、そう言ったらしい。それを聞いたのは私がお水になってからだった。

日払いを首にされた私は背に腹は代えられないと、名刺とポケットティッシュ片手に電話した。
簡単な面接があり、次の日から私はお水になった。母や父は、年金ぐらしだ。助けてもらうわけには行かない。私はせっせと仕事をこなした。
お客さんに水割りを作り、話をした。大体はすごーいとか流石ですね~とかそんな事を言っていればお客さんは喜ぶ。しかし私を指名してくるお客さんは哲学的な人が多かった。
持論を述べて私に意見を求める。私が答えに悩むとそれがいいんだよ、そう言って笑った。
中には下ネタ満載の人も一発やらせてくれという人もいたが先輩たちの返しを見ながら私も交わしていけるようになった。

5ヶ月がたった。
ヤクザのような堂々としたお客さんが来店してきた。シノブはいるか?と言っていた。しかしシノブは結婚して店にはもういなかった。
私はその席に呼ばれた。好きなものを飲め、と言われてドリンクのメニュー表を見た。
ジュースが1杯二千円だった。
大淵さんは太っ腹よね~女の子たちがそう言っていた。この人は大淵というのか、そう思った。大淵は会社の経営者だった。やる気のない新人が増えた、専門職がなかなか捕まらない、そうぼやいた。私は学生時代、公認会計士の勉強を少しかじっていたのでその知識を引き出して大淵と会話をした。
大淵は同伴の日時と場所を指定してきた。
私は身構えたが、大淵は私の考えがお見通しだったのか、
「そんな明るい時間からやることないだろう…。」
と、呆れていた。

大淵は会社の経営をしているだけあって色んな場所に連れて行ってくれた。それと同時に私は本をよく読むようになった。
大淵にも、たくさん本を買ってもらった。
ホテルでご飯を食べることになった。食事のマナーは本で読んだ。大淵がシャンパンを入れてくれた。
「なんで私なんですか?」
「ミサキは営業メールとかしてこないからな、それに金を引き出そうともしない。」
そう言って大淵は料理を口にする。
「食えよ。いい女はいいものからしか作れない。」
私はゆっくりと丁寧に料理を味わった。
「部屋は取ってある。」
そう言われて私は手を止めた。
「冗談だ。ミサキくらいなら娘だったな。」
「それってどういう?」
「嫁が不妊でな、子供に恵まれなかったんだ。あの店にいくとたまにミサキのような子に会えるから通っている。」
大淵はシャンパンを口にする。
「私は大淵さんなら良いです。」
そう答えた。
「自分を安売りするな。抱いたらそこで終わりと言う男は大勢いるんだぞ。」
「でも大淵さんなら…。」
「店はやめてこい。」
そうして私は大淵の愛人になった。

街なかで鈴原に会った。
後輩を連れていて意気揚々としている。あちらは私に気が付かずに皆ではしゃぎながら歩いていった。私はただのOLで、職場恋愛か合コンでもして旦那さんを見つけて結婚して子供を持つ。そんな人生を送るはずだった。
内定を貰い初めて会社のデスクについたことを思い出す。
「2年間だ。2年間は面倒を見てやる。それまでに手に職をつけろ。それと月に一回お前を抱く。それで良いな。」
大淵はそう語った。
私はホテルのスイートルームで日々、勉強に励んだ。食事はホテルで食べた。会計はすべて大淵がもってくれた。

そしてその日は来た。
大淵は仕事帰り、シャワーを浴びた。私は普段大淵はホテルのシャワーなど使わないので、その意味をすぐに察した。
大淵が、シャワーを終えると私もシャワーを浴びた。
ベッドでは大淵が待っている。
「怖いならやめても良い。」
そう言って頭を撫でられた。
「大丈夫です。」
「初めてなんだろう?」
「なんでそんな事を…。」
「男に染まったことがない女だと思ったからだ。」
「それは…。」
「本当にいいんだな?」
そうして私は初めてを大淵に捧げた。

それからは勉強を続けて月に1度大淵と事に及んだ。すべて順調に進んでいた。
大渕は良くいった。
「人生はどこで何が起こるか分からない、だから自分に誠実に生きろ。」
私は大淵が何故奥さんではなく若い子に手を出すのか不思議だった。

2年間の勉強を終えて公認会計士に合格した。私は日払いをしながら資格を取りました。そう言って内定を貰った。
大淵がこれで最後だと言ってその夜、私を抱いた。
私は大淵を激しく求めた。
そして最後に、
「奥さんはさぞいい女何でしょう?」
「そうだなぁ。嫁よりいい女を探しても見つからなくてな。」
そう言ってふたりで笑った。

内定を貰った会社でドジだけど真面目で愚直な男性が私をデートに誘ってきた。
私は随分焦らしてOKを出した。
そうしてこの男性と結婚した。大淵が好きだったかと言われれば愛していた。私はそう答えるだろう。
それでも大淵は次のミサキを探すのだろう。
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