【完結】紡ぎ事〜第二章〜

九時せんり

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足谷

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「お帰り本条。」
仕事復帰の朝一番に足谷にあいさつされた。
そういえば最近合コンの話をしなくなったなぁと思った。
「三田さんの件は…?」
「一昨日付けで自主退職してもらったよ。」
「私、しばらく病院探すんで残業はあんまり入れなくなるんですが。」
「大丈夫だ。任せとけ。」
「足谷先輩…。」
「田辺さんにも話は通してある。業務に支障の出ない範囲で頑張れよ。橋口とは連絡したのか?」
「まだです。まだ怖いんです。」
「確かに橋口と付き合い出して、本条は弱くなったな。」
「私、自分はもっと強い人間だと思ってたんです。でもそれって背水の陣だったからなんだってようやく気づいたんです。私、弱かったんです。」
「そういうの全部含めて橋口と話せばいい。橋口は若いけど芯の強い人間だ。」
「足谷先輩…。」
「俺が最初に出会った頃の本条は今みたいに弱かったな…。それが職場に揉まれるうちに皮肉を吐いて強がって頑張って。本条、お前はいい女だよ。まあ、セクハラかもな。」
「先輩…。」
「泣くなよ本条。泣いていいのは橋口の前だけだ。さぁ仕事しようぜ。」
その時、思った。
ああ、私はこの職場が好きなんだと。

「橋口君、私…。」
昼の休憩に入って橋口に電話した。
「本条先輩…なんで僕…っつ。」
「一緒に病院探すの手伝ってくれる?」
「本条先輩…。」
「強がりだけどそういう私が好きなんでしょう?」
「全部ですよ。」
「ふふっ。」

それから私たちは休みを合わせて取り病院をまわった。15件周った所で白髪頭の優しげな先生と出会った。
「赤ちゃんが欲しいんです。子宮摘出しないで筋腫をどうにかしたいんです。」
そう言って私は泣いた。
「大丈夫ですよ。産めますよ、赤ちゃん。」
「本当ですか?!」
橋口が乗り出した。
「他のお母さんよりも頻繁に診察に来ないといけませんが産めますよ。」
医師は私を見つめて穏やかに微笑んだ。
「元気な赤ちゃん産みましょうね。」

「橋口君。」
「良かったです。これで結婚出来ますね。」
「私やっぱり今の職場辞めたくない。それでいいなら私を選んで。」
「善子…。」
「私好きなの今の職場。」
「僕はそれでも良いですよ。善子が僕を選んでくれるなら。」
「結婚してね。」
「こちらこそ。」

それからの橋口は仕事で十分な成果を出して、実家の系列会社へと移った。父親とは喧嘩ばかりしているが業績は優秀らしい。
私は橋口が全てを父親に話してそれならばと橋口ファミリーに迎えられる事となった。
そしてもう少ししたら家族が増える。
私は病院のベッドから外を眺めた。
あなたと出会えると知っていたなら私はもっと言葉を紡いだことでしょう。
今日は橋口が面会に来る日だ。
私は静かにそれを心待ちにした。
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