【完結】紡ぎ事〜第二章〜

九時せんり

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橋口は当初の予定通り1か月だけ支社で働き、本社に戻った。
親の会社に移るのは未定らしい。
「あ~あ目の保養が…。」
「橋口君カムバーック。」
皆好きなことを言っていた。
「本条さんに仕事振ってもいづれは橋口君家の会社に移るんでしょう?」
この頃、私は社内でも腫れ物扱いされていた。サクサクと案件をこなす橋口と比べて、私は通常通り仕事をしていた。
橋口は是が非でも私と結婚すると言って私に親の会社のパンフレットを渡してきた。
私はここの職場が好きだ。橋口も好きだ。そのどちらも選べなかった。
この頃から足谷は私の体調を気にかけるようになった。
「何ていうか本条、青白くなったんだよなぁ…。」
そう言って顔を覗き込む。私は足谷の心配をよそに地道に仕事をこなした。
しかし、それは唐突にやってきた。
お腹が痛い…。私は脂汗をかきながら早退願いを出した。会社を出ようとすると歩けないほど辛い。すると足谷が救急車を呼んだ。
それから先のことはよく覚えていない。

「子宮筋腫…ですか…。」
病院に着くとストレッチャーに乗せられエコーを見せられた。
「だいたい皆さん良性のものですから大丈夫だと思いますよ。」

「妊娠かと思ってたよ。」
足谷は診察を終えた私と話をした。
「橋口君家の会社にもう移ったらどうだ?」
「足谷先輩…。珍しいですね、個人の話に関わってくるって。」
「まあお前が新人の頃から見てきたからな。」
足谷は車椅子に乗せられた私の顔を覗き込む。
日頃の疲れもあったのだろうと医師から点滴を受けて帰るよう言われたので左手には点滴をしていた。
「嫌がらせはないけど橋口君が戻ってからやっぱり本条、調子悪そうだと思うんだけど。」
「足谷先輩…。」
「俺じゃ話しづらいことなら言わなくても良いんだぞ。」
「私で良いのかなぁって思うんです。」
「本条…。」
「橋口君は私を大事にしてくれます。でも不安なんです。私、年上だし、嫌味もいっぱい言ってきたし可愛げないし…。でもそれが私って言うか。」
「本条、少し落ち着こう。」
私は泣いていた。
「私も橋口君と同じなんです。人を好きになるって初めてなんです。分からないんです。どうこの気持ちと向き合ったら良いのか。」
「本条…紙に書くか?結構楽になるぞ。」
足谷はカバンからノートとペンを取り出して私に渡した。
私はそこに今まで溜め込んでいた橋口との不安を書き連ねていった。
そうして点滴を終えて家へと帰った。
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