【完結】紡ぎ事〜第二章〜

九時せんり

文字の大きさ
上 下
7 / 17

餌付け

しおりを挟む
次の休み、橋口は家を訪ねてきた。
きっとこれは夢に違いない。そう思って私は居留守を使った。
「善子ーいるんでしょう?」
「居ません。」
私は小声でそう話した。橋口には聞こえていない。
「おーい。」
橋口は呼び鈴を連打する。
「あ~あ。」
そう言って帰る様子が見えた。
私がドアをゆっくり開けると反対側に橋口がいた。
「いるんじゃないですか?!」
「橋口君あのね。私達お付き合いしてるわけでも、婚約してるわけでもないのよ。」
私がそう言うと橋口は私の手を握った。
「だったら指輪なんでしてるんですか?」
「抜けなくなったのよ。」
「そんな事あります?」
「入って。話なら聞くわよ。」
「そう言うと職場みたいですね。」

「この指輪、本当に抜けないんですね。」
「呪いかと思ったわ。」
「運命なのかもしれませんね。」
橋口よ、お前は何時からそんなロマンチックになったのだ。
「最近、職場で手袋してたのって…。」
「そうよ。突っ込まれたら終わりだもの。」
「じゃあ僕からみんなに話しますよ。」
「いやよ。止めて!!ただでさえ今だって敵が増えてきてるのに。」
「敵って…。」
「大学時代の彼女とかいるんでしょう?そっちにしなさいよ。」
「僕、大学時代に彼女なんていませんよ。」
橋口は手をパタパタと振る。
「ああ、そんなことより。」
そんなことだとー私は内に怒りを秘めた。
「実家に使ってない銀食器あったんでスプーンとフォークです。」
ぎ…銀食器…。
「それって良く磨かないと行けないんでしょう?」
「どうなんですかね?母が磨いてるのは見たことないですけどね。」
「貰って良いの?」
「父も母も是非にと。あと早く会いたいそうですね。」
「ふふふ…。それでご破算になるわね。」
「母は本条先輩の容姿が可愛いって連呼してましたよ。」
「容姿?!」
「この間話しかけても無視したでしょう?その時写真撮りますよーって言ってたんですよ。」
「肖像権の侵害ー!!」
「許可は取りました。本当はスマホの待ち受けにしたいんですけど。」
「叩き壊すわよ。」
「言うと思ってました。で、次のデートなんですけど。」
私はこの時思い出した。押せば通る。橋口の悪いクセだ。
「橋口君。」
「だから橋口君呼びは。」
「何でも押して通るわけじゃないのよ。」
「善子…。」
「あーもう!!その平成顔で、昭和ネームを話すこと自体合ってないのよ!!」
「そうは言ったって時代は令和ですよ。」
「とりあえず今日は帰って。」
「ご飯の材料買ってきたんですよ。」
「何作るの?」
「チーズタッカルビです。」
「じゃあご飯済んだら帰って。お金は?」
「泊めてくれたらタダでも良いですよ。」
「絶対払うわよ。」
「ハハハ…。」
そうして私は橋口にてなづけられていった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【完結】白い月と黄色の月

九時せんり
現代文学
フランスと日本のクォーターの幼稚園の担任、桃香先生と約束しバレエダンサーを目指す叶太と、何でも1番になりたがる真凛ちゃん。 ゆるゆるとでも着実に育っていく二人の物語。

さいごの法律

赤木 さわと
児童書・童話
へんてこになっていく今の世の中見ていてたまらなくなって書きました 過激な童話です みんな死んじゃいます でも…真実は一つです でも…終末の代わりに産まれるものもあります それこそが、さいごの法律です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

2月31日 ~少しずれている世界~

希花 紀歩
恋愛
プロポーズ予定日に彼氏と親友に裏切られた・・・はずだった 4年に一度やってくる2月29日の誕生日。 日付が変わる瞬間大好きな王子様系彼氏にプロポーズされるはずだった私。 でも彼に告げられたのは結婚の申し込みではなく、別れの言葉だった。 私の親友と結婚するという彼を泊まっていた高級ホテルに置いて自宅に帰り、お酒を浴びるように飲んだ最悪の誕生日。 翌朝。仕事に行こうと目を覚ました私の隣に寝ていたのは別れたはずの彼氏だった。

処理中です...