【完結】25人の妖精〜第十三章〜

九時せんり

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25人の妖精〜第十三章〜

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「新年の加持祈祷がお済みの皆様、只今より流鏑馬が行われます。是非、ご観覧ください。新年の加持祈祷がお済みの皆様、只今より流鏑馬が行われます。是非ご観覧ください。」
鹿児島中央の神社では新年の流鏑馬行事が行われていた。
「橘様よー!!」
「ちょっと押さないでよ!!」
「橘様ー!!」
陽平君はニコニコしながら周りの人に手を振った。
天界警察に復帰して早5年以上が経つ。神官課からは煙たがられたものの、鏑木さんは陽平君が復帰するのを全面的に応援してくれた。大切な皆を失ってから僕にはもう何も無いと思っていた。しかしそれは間違いだった。今こうして息ができること、身体が動くこと全てに感謝した。
「陽平!!一色みたいになるな!!」
「相変わらず失礼な人ですね。」
そう言って学さんと一色さんは笑う。
「今年も無事に新年を迎えられて真に感謝しております。皆様、ありがとうございます。」
陽平君がそう言うと境内で拍手が起こった。
「はい!!」
陽平君の前にふたりの新人が馬を走らせた。すべての的に中たるものの真ん中には中たらない。
「流鏑馬の橘かぁ…。今は天界警察何だもんなぁ。」
若い子たちがブツブツ言っている。
「どうやったらそう成れるか聞いてこいよ。」
「お前が行けよ。」
「いや、お前が行けよ。」
「どうかしたのかい?」
陽平君は若い子たちに近寄って微笑む。
「あの、今年天界警察を受験するんです。どうやったら合格するんですか?」
陽平君はハハハと笑った。
「覚悟があれば受かるよ。」
そう言って馬に乗った。

「御唱和くださいぃぃ!!」
天界警察神官護衛課の皆は御唱和に参加していた。御唱和の最中、私語は厳禁だ。
鏑木さんが音頭を取るのに合わせて皆が言霊を繰り返す。
「こちら御唱和のため通行止めでーす。キャッ。」
霊体の交通課が交通整理をする。
休憩に入ると盛喜多長官は鏑木さんに話しかけた。
「今年も天界警察アイドルの陽平君はいないのね。残念だわ~。」
「5年で役付きだからな。出世頭だよ。」
そう言って鏑木さんは笑う。
「しばらくは大きな事件はないものね。」
そう言って盛喜多長官は静かに微笑んだ。
陽平君が天界警察に入って様々な事があった。耳を塞ぎたくなる事件も目を覆いたくなる事件もあった。
それでも橘陽平はそれを乗り越えてきた。その生き様は皆に勇気を与えた。
それは鏑木さんたちも同様だった。
「あと5分で御唱和始まるからおじいちゃんトイレ行ってくるよ。」
そう言って鏑木さんはピュンピュン跳んでいった。

「陽平ー!!」
「なんですか?学さん。」
「今年も流鏑馬代受け取らない気か?」
「そうですね。今年も寄付してください。」
そう言って陽平君はスルスルと流鏑馬の衣装を脱いでいく。
「一色みたいに金は金とか言っても良いんだぞ。」
「誰がそんなことを言いましたか?」
「うおっ!!背後を取るなよ!!」
「鍛練が足りないんでしょう?後ろに人がたてば気付きますよ。」
「お前は幽霊かってくらい気配がないんだよ。」
「お褒めいただき光栄です。」
「褒めてないぞ。」
「陽平は頑張りましたね。」
鹿児島中央の神社の神様が出てきた。
「ありがとうございます!!」
陽平君は頭を下げる。
「明日からは天界警察ですか…せわしないですね。」
「泊まって行けたら良かったんだけどな。」
「御唱和を取るのか流鏑馬を取るのかって詰問されましたからね。」
陽平君はハハハと笑う。
「まぁ神官護衛課はかきいれ時だもんな。」
「学さん、うちは公務員ですよ。」
「鏑木さんは大丈夫なのか?腹黒そうな人だろう。」
「鏑木さんは大丈夫ですよ。信頼できる人です。」
陽平君はそう言って着替えを終えた。
「では、皆に挨拶して帰ります。」
「なんかあったらいつでも言いに来いよ。いつでも良いんだからな。」
そう言って学さんは陽平君をギュッと抱きしめた。
「大丈夫ですよ。僕は自分で思うほど強くも弱くもないんです。」
そう言って陽平君は皆に挨拶しに回った。

「うおお…。」
交通課藤崎はトイレに籠もっていた。
「絶対、冷えたんだよーカイロ忘れるんじゃなかったー。」
市松は外で待ちながら爆笑した。
「運がつくなぁ…。」
「やべえ、紙ない。市松トイレットペーパー投げてくれ。」
「はいよ。」
「橘は今日いなかったけど、どうかしたのか?」
「鹿児島中央の神社で流鏑馬だって。」
「ああ、流鏑馬の橘ってそういう意味なのか。」
藤崎はトイレを済ませて出てきた。
「もう大丈夫なのか?」
「微妙…。」
「橘かぁ…話題の中心だよなぁ…。」
市松はそう言って遠くを見た。
「俺等の同期で良かったな。」
「本当にな。」
「やべぇ、もう一回トイレ…。」
「盛喜多長官には言っとくよ。俺はもう戻るよ。」
「付き合わせて悪いな。後でなー。」
「はいよ。」

「成瀬倫也か…。片腕にすらならなかったな。」
そう言って男は笑った。
「天界、下界、魔界を治めるのは私だ。」
「スメラギ様、人柱結界がある今、我々の勝つ手立てはありませんよ。」
「まだ手はある。烏丸や、お使いに行ってくれるか?」
「はい。かしこまりました。」
「ハハハ。ハハッハハハ。」

「橘おかえり~、お土産は?」
宿舎では藤崎が迎えてくれた。
「新年だから店が開いてないんだよ~ごめんね~。」
「冗談だよ。今年の流鏑馬上手く行ったか?」
「まずまずってところだよ。」
「射撃の授業もトップだったもんな。」
藤崎は笑う。
「授業が面白かったんだよ。」
「そういえば、斗永さんが橘はどこに行ったって探してたぞ。なんかしたのか?」
「斗永さんが?なんだろう?」
「斗永さんって地獄耳らしいな。どこで悪口言ってても聞こえてるらしいもんな。」
「とりあえず明日朝イチで弓道場でも行ってみるよ。」
「ほんなら、おやすみ~。」
「藤崎いつもありがとうな~。」

「御唱和サボりの橘か…。」
次の日の朝、鏑木さんはふて腐れていた。
「鹿児島土産楽しみにしてたのに…。」
「新年だから店が開いてないんですよ。」
「分かってるけど、おじいちゃんは切ないんだ。かるかんまんじゅう、アクマキ、さつま揚げ…。」
「お詳しいですね…。」
「美味しいと言われれば有給使ってでも食べに行くからな。」
「おじいちゃん…。」
その瞬間、田所さんが鬼の形相で鏑木さんの背後に立っていた。
「経費でおせち代は落ちませんよ。」
そう言って鏑木さんの財布から5万円をシャッと抜いた。
「嫌あぁぁ…!!」
鏑木さんは泣いた。
「こんな高いおせち頼んで…。」
「梨本雅史監修?そりゃ高いわなぁ。」
皆がおせちをつつきに来る。
「ほら、橘。栗きんとん。」
「ああ、ありがとうございます。」
「財産増えたらいいなぁ。」
坂本さんはそう言って笑う。
「でも天界警察って高給取りって聞きましたよ。」
「まぁ公務員だからなぁ。お中元もお歳暮もないし。」
「田所さん、せめて半分出してー。」
「黒豆と田作りどっちが良いです?」
「栗きんとん。」
「田作りですね。」
「ノー…。」
鏑木さんは黙った。
「神官護衛課、橘はいるか?」
斗永さんがいた。
「折り入って頼みたいことがある。」
そう言って陽平君を連れて弓道場へと向かった。

旦那様のお屋敷では、妖精たちが遊んでいた。
「お正月は遊んでても良いから嬉しいよね。」
「でも陽平君が言ってたじゃないか。」
「神様のお屋敷で働けば良いんでしょう?」
「陽平君は優秀だからなぁ。」
「私達にだって出来るわよ。」
旦那様がゆっくりと顔を出した。
「そろそろ、初詣に行きますよ。支度してください。」
「はーい。」

「流鏑馬をですか?」
弓道場には陽平君と斗永さんがいた。
「うちの甥っ子がどうしてもしたいらしいんだ。」
「斗永さんも人間だったんですね…。」
陽平君は感動した。
「何が言いたい?」
斗永さんは陽平君のおでこにゴリッと拳銃を突きつける。
「お前なら神様繋がりで流鏑馬の練習場が借りられるだろう?それで頼みたい。」
「分かりました。鹿児島中央の神社から問い合わせて貰います。」
「無理にとは言わん。」
「大丈夫ですよ。」
「後はこれだな。」
そう言って斗永さんはお年賀を差し出した。
「うちに来たあまりだ。神官護衛課で食べてくれ。」
「受け取れません。公務員ですよ。」
「そう言っても皆、何かしら受け取ってるんだ。気にするな。」
そう言って斗永さんは弓道場から去った。

天界警察神官護衛課では鏑木さんが泣き叫んでいた。
「伊勢エビー!!」
「あ、お帰り橘ー。」
「伊勢エビ食べるか?」
「良いんですか?」
「若いんだから精のつくもん食っとけ。」
「おじいちゃんの伊勢エビ…。」
「おじいちゃん、今年の初仕事ありますよ。」
「ノー…。」
鏑木さんは田所さんといつものようにやり合っている。
「あの、これ斗永さんから。」
陽平君はお年賀を差し出す。皆が身構える。
「薬莢の斗永からって拳銃か…?」
「いえ、田淵総本家のおまんじゅうです。」
「こんな高いもん貰って良いのか?」
「そう言えば斗永さんってぼんぼんだって聞いたことあるわ。」
へー陽平君は思った。
「まぁ皆、何かしらあって天界警察に来るんだろうな。」
坂本さんはそう言ってお湯で出来るお汁粉をマグカップに入れて作った。
「橘も食うか?」
「じゃあください。ありがとうございます。」
「よしよし、お前は本当に爽やかだな。」
坂本さんは笑った。

「妖気が増している?」
神官課では斗歩長官が部下と話していた。
「あそこには人柱結界が張られているでしょう?」
斗歩長官は声を潜める。
「どうやら魔界の住人も人柱をしているようなんです。」
「そんな…。」
斗歩長官はよろめく。
「今すぐ祈祷師を呼んでください。結界を強化します!!」
「はい!!」

「なんかバタバタしてません?」
「神官課だな。」
陽平君は2杯目のお汁粉を食べていた。
田所さんが内線を取る。
「神官護衛課、田所です。はい、はい、はい。分かりました、手配します。」
「田所さん何だったんですか?」
「南の結界に亀裂が生じているらしい。神官課の祈祷師が集められた。後は護衛に人が欲しいと。」
「たっち~行けるか?」
「はい!!行きます!!」
「手が空いてる者は急行するように!!」
「はい!!」

「これは…。」
斗歩長官は自分の目を疑った。
人柱結界の周りに黒いモヤが溜まっている。
「ここが1番古い人柱結界です。」
「魔界のこの土地に人柱結界があるのか…。」
結界師の彩女が出てきた。
「結界自体はまだ有効みたいね。でもモヤが多いわ。結界師も集めて頂戴。」
「新年早々やぶさかではありますね。」

「スメラギ様のお陰です。この土地に水が湧きました。」
そう言って魔界の住人は笑った。
「どんな術を使ったんです?」
「容易いことよ。」
そう言ってスメラギは笑った。
「この地に天界の気を張れば、そこは天界の一部となる。」
「我々も試したことがありますが上手く行ったことが無いんです。」
「秘術だからのぅ…。ところで魔界の子どもは居るか?」
「はい。用意しました。」
「人柱の手引きを教える。子供は息の根を止めておくように。」
「はい!!」

「恨むなら天界を恨め!!」
そう言って魔界の住人は魔界の子供たちを殺めていった。
「どうして僕らが…。」
「恨むなら天界を恨め!!」
「走るよ!!りん!!」
「子供を逃がすな!!」
「もう少ししたらレジスタンスのアジトがある。保護してもらおう。」
「アイリーンは味方なの?」
「魔界も嫌だけど天界の子供を食べるのもゴメンだよ。」
その時、車が目の前にとまった。
「フミチカ!!」
「悪い待たせたな。ガソリンを手に入れるのに時間がかかってな。」
「爆薬は?」
「2発ある。」
「迂回してアイリーンと合流しよう。」
「逃がすか!!」
「車出して!!フミチカ!!」
「捕まれよ、行くぞ!!」
そうして車は走り去った。

「順調に結界が結べていますね。」
「ひとまず安心といったところかしら?」
斗歩長官と彩女は話す。
現場には陽平君がいた。陽平君は人柱は自分と対して年の変わらない子だと思った。
陽平君は恭しくお辞儀して敬意を払った。
「想定外でしたが発見が早くてよかったです。」
斗歩長官が話す。
「他の結界も念のため確認したほうが良いわね。」
彩女は扇子を広げて話す。
「斗歩長官、先程入ってきた情報なんですが、天界で魔界の住人から野菜を仕入れている問屋があると。」
「特定できていますか?」
「たぶん、田民商会かと。」
「案内してください。彩女、ここは任せますよ。」

「お野菜って美味しいんだね~。」
りんはもぐもぐとレタスを食べていた。
魔界の廃校舎では地下で野菜が育てられている。
「魔界の地は表面は荒れ果てているけど地下には水脈が眠っているの。」
アイリーンは話す。
「以前にも私達のような団体が、魔界で作物を育てていたけど出荷する前に施設が爆破されたのよ。」
「魔界で作物が育てられるのを良く思わない人達がいるんだ。」
「魔界から天界に食物を出荷する日が来るなんて…。」
マヤは感動した。
「いつかこの大地に緑が茂る日も来るんだよ。」
そう言ってマヤは笑った。
「それにしても人柱結界か…天界も本気なんだろうな。天界も魔界も子供に罪はない。」
「反旗を翻すんだ!!」
「平和をこの手に!!」

「護衛に当たるものは妖気に当てられないように順次交代するようにー。」
人柱結界の周りには依然として黒いモヤがあった。陽平君は皆をかき分けて人柱結界の後ろに入った。
「そこ!!橘何してる!!」
「こんなものがあったんですけど…。」
それは髪の毛で出来た人形だった。禍々しいオーラを放っている。
「うっ…良くそれが持てるな…。」
「まあ気持ち悪いのは確かなんですけどね。」
「これが黒いモヤと亀裂の犯人ね。」
彩女が話す。
「まだどこかに魔界と天界を繋ぐルートがあるようだわ。」
「残った祈祷師と結界師は天界警察で待機。神官護衛課はそれぞれ現場に向かうように。」
「はい!!」

「2名逃がしたか…。」
魔界ではスメラギが話していた。
「代わりの2名を用意します!!」
「魔界で言語を話せるのは天界に近い子だ。そんなにたくさんいるわけではないであろう?」
「ですがあのふたりは以前からレジスタンスに出入りしていると有名で。」
「レジスタンス?また馬鹿な集団が出たのだなぁ。レジスタンスを始末するように。」
「まだ情報があまり上がってないんです。アジトも分からないんです。」
「では、探しなさい。言い訳ならあとからでも出来る。」
そう言ってスメラギは笑った。

「橘は祈祷を受けてから戻るように!!」
「ハハハーすみません。」
「次からは神官に指示を仰ぐようにな。」
「最もですね~。」
「なんでそんな余裕綽々なんだい?」
市松が眉をひそめる。
「もう、なるようにしかならないからね。」
「人生は切り開くものだろう?橘は1番それが分かってるだろう?」
「人生はあらかた決まっているんだ。後は運命を受け入れるかどうかだ。さてと禊かぁ…寒いなぁ…。」
「橘…。」

「田民商会ですね。立ち入り検査に入らせてもらいます。神官です。」
田民商会では神官が立ち入り検査に入っていた。
「神官だ!!」
「社長。帳簿を隠してください!!」
「間に合わない!!」
「隠したら隠したぶん、罪は重くなりますよ。」
「魔界の野菜は天界の市場価格の十分の一なんです。妖気に当てられたというトラブルも今のところないし。」
「しばらくは営業停止ですね。」
「そんな…今市場を拡大しているところなのに…。」
「証拠品を集めてください!!」

「ここが魔界と繋がっていたのか…。」
雑居ビルの一室に天界警察が集められた。
「どうするんです?結界張って終わるんですか?」
「魔界で野菜を作っている事について話を聞きたい。魔界の住人が来るまで網を張る。」
「分かりました!!」
そう言って現場には数名の天界警察が残った。

「旦那様、お願いがあります。」
旦那様のお屋敷ではみんながいた。
「僕たちも学校に通わせてください。他の子達には何もしません。もっと広い世界が見たいんです。」
「それは…。」
「お家のことは学校に行きながら続けます。」
「私達には教育が必要なんです。」
「今から通うとなると遅れた分が相当あるんですよ。」
「みんなで頑張ります!!」
「陽平君だっているし大丈夫です!!」
「そうですね。考えてみましょう。」
そう言って旦那様はどこかに電話していた。

翌日、スバルという男の子が、野菜を持って魔界と天界を繋ぐドアから出てきた。
「ふー。急に発注が増えたからねー。」
「良かったよね。魔界でも作物が無事に育つようになって。」
ジャキンと音がして、天界警察に囲まれた。
「魔界の住人か?話を聞かせてもらおう。」
「逃げて!!アイル!!」
「動くな!!撃つぞ!!」
「アイルは魔界に戻って!!」
「スバル!!ごめん!!」
「さて、何から聞かせてもらおうか…?」
スバルはゆっくりと天界警察と睨み合った。

「学校に通う許可が降りました。明日、手続きをしてきます。」
「はーい。」
「やったぁー。」
「これで色んなところで働けるね。」
「学用品を揃えないといけませんね。」
「旦那様、お金は大丈夫なの?」
「制服はお下がりを貰えるように手配しました。文房具などはひとり分ずつ用意しましょうね。しばらくは倹約ですよ。」
「学校に行けるんだもん。それでも良いよね。」
「マリアちゃんどうしたの?」
「学校っていじめがあるんでしょう?」
「大丈夫だよ。みんなおなじ学校何だから。」
そう言って颯君は笑った。

天界警察では、魔界の子ども、スバルに尋問していた。
「お前たちは魔界の妖気を天界に送り込んでるんだろう?」
「魔界の人間みんなが天界を嫌ってるわけじゃない。僕たちだって天界の子供なんて食べたくないんだ!!」
「嘘をつくな!!」
「本当だよ!!今だってアイリーンが畑を作ってるんだ!!」
斗歩長官はその様子を真剣に見ていた。
「魔界の食物を流通させて毒を混ぜる可能性がありますからね。」
「でも、子供ですよ。」
「子供だからといって加担していないとは限りません。」
「僕たちはレジスタンスだ!!魔界に緑を産み出すんだ!!」
その時、スバルのお腹がなった。
「食事を用意してあげてください。次の尋問は2時からで。」
そう言って斗歩長官は席を立った。

「福袋で文房具揃えられてよかったねー。」
「私、ミニーちゃん。」
「僕、トーマス。」
「あくまでも勉強に行くんですよ。」
デパートの帰り道、旦那様は話した。
「友達いっぱい作りたいね~。」
「楽しみだね~。」
「書店に寄りますよ。ドリルを買わないと。」
「はーい!!」
「レオ・レオニの絵本が欲しいなぁ。」
「クリスマスまで待ってください。」
「少年ガッツの最新刊出てる!!」
「立ち読みは止めなさい。」
「はーい。」
「音のなる絵本だー。」
「ドリルを買ったら帰りますよ!!」
「はーい。」
颯君がみんなの分のドリルを抱えてレジに行った。
「うわぁ、凄い金額だね。」
「旦那様、大丈夫?」
「恥ずかしいので静かにしてください。」
そう言って皆は笑い帰路についた。

「魔界の住人とはいえ、子供相手にここまで尋問するのもいかがなものかと…。」
大苫長官が話した。
「白なら白で、こちらにも考えがあります。」
「諜報員ってところかしら?」
「頭の回転の早い人ですね。」
「結界師は一分一秒を争いますからね。」
斗歩長官が話し、彩女が笑う。
「確かに運ばれてきた野菜は毒素も妖気も含まれていませんでした。」
「彼を諜報員にします。関係部署に連絡を。」
「はい!!」

「今から君に盗聴器を仕込む。それと同時に脳に小型爆弾を埋め込む。下手に動くと脳が吹き飛ぶ。」
スバルは堂々としている。
「早く魔界に帰って野菜を育てたいんだ。こんなの仕組んだところで無駄なことだと思うけどね。」
「可愛げのない子だな。」
「良く言うよ。大人げないくせに。」
そうして手術が行われ、スバルの脳には爆弾が埋め込まれた。
「早く帰らせてよ。」
「物事には順序があるんだ。」
そう言って写真を撮られた。
「後は声紋と指紋だな。」
「田民商会以外に野菜を卸してる先はないな?」
「ああ、そうだよ。もう帰してよ。」
「以上で終わりだ。君を魔界に帰そう。」
そうしてスバルは魔界へと帰った。

「エジプトはナイル川の氾濫で肥沃な大地になった…肥沃って何?」
「3分間で、40リットルの水を貯めるには1分間に何リットル貯めれば良いですか?へーなんだろう。」
旦那様のお屋敷ではみんながせっせとドリルを解いていた。
「なんと言いますか、流石ですね。」
そこには陽平君がいた。
「質問があれば聞いて欲しいと言ったんですがドリルの解説で皆は理解してますね。」
「そうですね。陽平、忘れていました。これ、お年賀です。」
「受け取れません。これから何かと入り用になるのに…。」
「皆に人柱の話をしてもらったお詫びでもあるんです。」
陽平君は渋々お年賀を受け取った。
「学校かぁ…天界警察警察学校しか経験ないなぁ。」
「陽平君羨ましいんでしょう?」
皆は得意げに笑う。
「バドミントン買ってきたんだけどなぁ…。」
「え、嘘?ごめんなさい、陽平君!!」
「お年玉も用意して来たんだけどなぁ。」
「陽平君大好きー!!」
「チョロいな~。」
「陽平…。」
旦那様は苦笑いした。

「スバル!!生きててくれて良かったよ!!」
アイルはスバルを抱きしめた。
スバルは紙に天界で起こったことを書いた。
アイルは声に出しそうになるのを抑えてそれを読んだ。
「天界の住人も酷い事するんだね」
マヤとりんが話す。
「でもご飯はやっぱり美味しかったよ。穢も溜まらないしね。」
「大人には見つからないようにしないと。銃はいくつある?」
「今あるのは20丁だ。」
「作戦を次の段階に移そう。」

「旦那様が育った家とはどんな家だったんです?」
みんながバドミントンをしている側で陽平君は尋ねた。
「うちには緑さんがいるでしょう?それと同じく、私の旦那様も桔梗さんが家にいました。」
「天界と下界がリンクしているって場所ですね。」
「そうです。」
「緑さんは旦那様の奥様なんですか?」
「そうですね。それでも下界に行かないと会えませんが。」
「同じ場所で生活しているのに不思議ですね。」
そう言って陽平君はバドミントンに混ざった。
「陽平君が味方に入ったらずるいよ!!」
「陽平君、また大きくなったね。」
「そう言えば天界警察の健康診断でまだ伸びてるねって言われましたね。」
そう言って陽平君はニコニコする。
「13対1だー!!陽平君をやっつけろ!!」
「ふふふ。天界警察で鍛えたこの運動神経、とくとご覧あれ!!」
「うおおぉぉ…!!」
そしてみんなは陽平君と戦った。

「わざわざ来ていただき申し訳ない。」
「いえ、経験者についてもらったほうが上達が早いと思いまして。」
天界の都内の流鏑馬練習場には斗永さんの姿があった。甥っ子も一緒だ。
「下界と違って許可が降りないと流鏑馬場は作れませんからね。お代は結構です。未来ある若者を育成しましょうね。」
「僕、馬に乗ったこともないんです。」
「一つずつ始めていきましょうね。まずは弓を引くことからです。」
そう言って斗永さんの甥っ子は弓を引く練習を始めた。
「目標はありますか?」
「流鏑馬行事に出れるくらいです。」
「お。なかなか大きく出ましたね~。それでは弓を引く練習は長めに取りましょう。」
「お願いします。」
そう言って斗永さんは甥っ子を眺めていた。

「田所さん、おじいちゃんそろそろ旅に出たいんだ…。」
「ハイハイ。鰻屋ですね。また吉富ですか?」
「せっかく食べるなら美味しい方がいい。」
「吉富も値上げしたんですよ。」
「そうなの?!何で田所さん知ってるの?!」
「こないだの会議で斗歩長官が全額負担して取ってくれたんですよ。おじいちゃんサボったでしょう?領収証見てビビりましたよ。」
「おじいちゃんの分のうな重は?」
「代理ででてた坂本さんが食べましたよ。」
「何で電話くれなかったの?」
「仕事に出たいならまだしもうな重食べたいだけの人を呼ぶのはちょっと…。」
「坂本を呪い殺す…。」
「穏やかじゃないですね…。」
「おはようございまーす。」
半休を取っていた陽平君が出勤してきた。
「たっち~話聞いてよ~。」
ピュンと鏑木さんが飛びついてくる。
「うな重でしょう?吉富なんて数万円するって旦那様も仰ってましたよ。」
「それが生きがい何だなぁ…。」
「まあ食べ物の恨みは恐ろしいですからね。」
陽平君はベリッと鏑木さんを剥がして席についた。
「あれ、これなんですか?」
「手紙だなぁ…。」
「それは見て分かるんですけど。」
「たっち~へのファンレター…。」
「無いです。無い無い。」
陽平君はハハハと笑った。
「我々は天界に潜んで暮らしている魔界の住人です…。」
「いたずらか?!」
「我々は天界の人間と姿形が変わらず産まれてくるため魔界の住人の家畜として育てられます。それが嫌で天界に避難しています。今、魔界にはスメラギという男が現れ、魔界の子供たちを人柱にしています。我々は天界の人間を食べません。是非、我々の受け入れを許可してください。魔界の住人より。」
「魔界にも隠しておきたい色んな事情があるようだな。」
「この手紙どうします?」
「妖気は感じられないな。ひとまず神官課に提出しよう。」

魔界ではレジスタンスの皆が話していた。
「田民商会さん大丈夫かなぁ…?」
「アイリーンの前身に当たる人からの繋がりだからなぁ。」
「僕たちは魔界を緑に変えるんだ!!世界は変えられる!!」
その時、ふらりと髪の長い女の人が出てきた。
「アイリーン!!」
「今日は起きてても大丈夫なの?」
「今日は妖気に当てられてないから…。」
「アイリーンは天界の人なんでしょう?」
「そうね。そう言ってもクオーターだけどね。」
そう言ってアイリーンはココアを飲んだ。
「皆、政府への不満を天界の住人を蹂躙することで晴らしてるんだ。本来、政府がすべき事なんだよ。」
「中央政権を叩き潰すんだ。僕たちの世界を作るんだよ。」
その時、車がスピンする音が聞こえた。
「フミチカ!!」
「駄目だ!!付けられた!!避難してくれ!!」
「そんなここまで野菜が育ったのに…。」
「行くしか無いわ。」
「アイリーン…。」
「私達の施設は1つじゃないの、シェルターもいざというときのため管理してあるわ。」
ドーンという爆発音がした。
施設が燃えている。
「毎日、頑張ってきたのに…。」
「大丈夫だよ、スバル。ヒーローは最後に出てくるんだから。」
そう言ってアイリーン一行は施設を後にした。

陽平君は神官課に手紙を提出した。
「これが何故橘宛に来ていたかだ!!」
「まあ、魔界に降りたこともありますしね。」
陽平君は飄々としている。
「お前は前から胡散臭いんだ!!成瀬を挙げた時も何故か人間界に入り込んでいただろう!!」
「藤崎と一緒に始末書書いたじゃないですか?」
ハハハと陽平君は笑う。
「この手紙は神官課で保管する。が、お前はしばらくは署内で待機だ!!いいな!!」
「はーい。」
そうして陽平君は神官課を後にした。

魔界では事実上の内乱が起こっていた。
「魔界に未来を!!」
「政府に責任を取らせろ!!」
「天界の子供を救うんだ!!」

そうして陽平君はまた第一線に出ることになる。魔界と天界の戦いは違う側面を見せるようになった。神界の子供、陽平君はその目撃者となる。
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なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

【完結】どうやら魔森に捨てられていた忌子は聖女だったようです

山葵
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ジャンヌ・ガーディクスの世界

常に移動する点P
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近くで戦闘勝利があるだけで経験値吸収。戦わずして最強になる見習い僧侶ジャンヌの成長物語。 オーガーやタイタン、サイクロプロス、ヘカトンケイレスなど巨人が治める隣国。その隣国と戦闘が絶えないウッドバルト王国に住むジャンヌ。まだ見習い僧兵としての彼は、祖父から譲り受けた「エクスペリエンスの指輪」により、100メートル以内で起こった戦闘勝利の経験値を吸収できるようになる。戦わずして、最強になるジャンヌ。いじめられっ子の彼が強さを手に入れていく。力をつけていくジャンヌ、誰もが無意識に使っている魔法、なかでも蘇生魔法や即死魔法と呼ばれる生死を司る魔法があるのはなぜか。何気なく認めていた魔法の世界は、二章から崩れていく。 全28話・二章立てのハイファンタジー・SFミステリーです。 ※この作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。

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