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25人の妖精〜第十四章〜
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『この子の名前は陽平よ。』
『詩織が決めたならそうしよう。』
『陽平。陽平、大好きよ、陽平。』
「陽平、陽平!!」
陽平君が目を覚ますと学さんがいた。
「大丈夫か、お前泣きながら寝てたぞ!!」
「なんか不思議な夢を見て…。」
「どこか痛いとかそういうことではないんだな?」
「はい。大丈夫です。」
そう言って学さんはコーヒーを淹れてくれた。
「陽平は砂糖とかミルクはいるのか?」
「ああ、僕はブラックで大丈夫です。」
陽平君は休暇を取って鹿児島中央の神社に遊びに来ていた。と、言っても周りは皆働いているので流鏑馬をして厩舎で馬と話すくらいだ。
学さんは陽平君が帰ってきてる時しか話せないと一色さんから休みを貰った。
相変わらず一色さんとは仲が悪い。
「魔界の住人の受け入れねぇ…大半の人は受け入れないだろうな。」
そう言って学さんはコーヒーを口にする。
「でも事実だとすれば魔界にも被害者は居るんです。」
そう言って陽平君もコーヒーを飲んだ。
「神官はなんて言ってるんだ?」
「真偽の程を確かめると。」
「それでお前は外されたと。」
「まあ、そういうことですね。」
陽平君は乾いた笑いをする。
「最近、心は休まってるか?麻痺してないか?」
「何でそんなふうに思うんですか?」
「うちに来た頃のお前と今のお前はだいぶ変わったからなぁ。」
「そうですか?僕としてはなんとも…。」
「そうか目が笑ってないのか。」
「疲れてるだけだと思います。それに来た頃って僕、まだ10代ですよ。変わるに決まってるじゃないですか?」
「そうなんだけど…。」
「学さんは陽平君をからかうのが好きでしたからね。」
背後に一色さんがいた。
「うわっ!!心臓に悪い。」
「いい加減慣れてくれませんか?面倒です。」
そう言って一色さんはコーヒーを淹れる。
「書庫の整理は終わったのか?」
「あなたの口から仕事の話が出る時は早く仕事に戻れって意味でしたね…。」
学さんは苦笑いした。
「しかし、魔界の住人にもそんな人達がいるんですね…。」
「実はその後もお手紙貰っちゃったんですよ~。」
そう言って陽平君は手紙を取り出した。
「中央政権を倒して新しい魔界を作るとレジスタンスが暗躍しているそうです。」
学さんと一色さんは手紙に目を通す。中には鉛筆書きで子供が書いてるものもあった。
「神官課がどう動くかだな。」
「さてと、学さん蹴鞠付き合ってくださいよ。」
「ゔっ…。蹴鞠はなぁ…。」
「ふふふ。学さんのひとり勝ちにはさせませんよ。」
そう言って陽平君は鞠を持ってきた。
「すごいね、靴箱がこんなにあるよ!!」
「人数分の机と椅子があるんだ!!」
旦那様のお屋敷の妖精たちは学校見学に来ていた。
「学校が始まると生徒が来て賑やかになりますよ。」
「学習の遅れなどを見たいので出来るだけ同じクラスにして頂きたいのですが。」
「分かりました。旦那様のお屋敷の妖精たちですからね。さぞ優秀なことでしょう。」
「いえ、そんな事は。」
「体育館があるよー。」
「体育館って街にあるやつ?」
「学校では心身の育成を図るために色んな施設がひとつに集められているんです。」
そう言って校長先生は笑った。
「給食も出ますよ。」
「旦那様、給食って何?」
「学校で出るお昼ごはんですよ。」
「へー凄いんだね。」
「色んな子と友達になりたいなぁ。」
「ふふふ、友達100人出来るかしらね?」
校長先生は微笑んで皆は学校見学を続けた。
「かーごしーまーみやげ…。当たれ!!当たれ!!」
「なんのおまじないです?」
「懸賞らしいですよ。」
天界警察では鏑木さんが陽平君の鹿児島土産を心待ちにしていた。一方で貰えなかったときのために懸賞に応募していた。
「パンのシール集めたほうが確実じゃないです?」
「皿を貰ったところで…。」
「おはよーございまーす。」
「たっち~。」
鏑木さんが陽平君にピュンと飛びつく。
「かるかんまんじゅうとアクマキです。他は詳しくないもので。皆がここの会社なら外れはないって言ったものです。」
「神がいる…。」
鏑木さんは陽平君を拝んだ。
「皆の分ですからね…。」
陽平君は冷ややかに笑った。
「橘、また手紙来てたぞ。」
「神官課に提出するかどうかですね。」
「クビになりたくないなら出してこいよ。」
「なんかそういうことじゃないような気がするんですよね。もっとなんというか氷山の一角と言いますか…。」
「これ自体が呪詛だったりしてな。」
「怖いこと言いますね、坂本さん。」
「手紙の消印もまちまちだし、手紙の内容からして書いてる年齢層もバラバラなんですよ。そもそもにして何故僕宛に届くのか…。」
「流鏑馬の橘って全国区で有名だからなぁ。テレビにも流れてるし。」
その時、盛喜多長官が来た。
「橘君、何も言わずに一色さんを紹介して頂戴。」
「最近、良く聞かれるんですよね~。」
「彼女はいないんでしょう?」
「どうですかね~鹿児島中央の神社きっての色男ですからね~。」
「乱れてるよ、たっち~!!」
「僕子供なんで…。」
「これ、もーりーの釣書きよ。渡しといて。」
そう言ってヒールをコツコツ鳴らして盛喜多長官は去った。
「あの足元、最近の流行りですか?」
「外では靴だけど、署内ではヒール履いてる人だからね。」
へー陽平君は思った。
「アクマキ切りますよー。」
「おじいちゃんね、ここからここまで。」
「ほぼほぼ1本じゃないですか…。今日何人いますかー?」
そして鏑木さんはニコニコしながらアクマキを食べた。
「順調ですね~木馬でこれだけ弓が引ければ実践しても大丈夫ですよー。」
流鏑馬練習場には斗永さんと甥っ子がいた。
休憩に入ると甥っ子が話した。
「おじさん、ありがとうございます。」
「なんの礼だ。」
「中学から引きこもりになった僕に色んな世界を見せてくれてありがとうございます。今、塾にも行ってます。将来は天界警察に入りたいんです。」
斗永さんはタバコを吹かしながら話を聞いた。
「天界警察なんて大したものじゃないぞ。流鏑馬が出来れば神様の弟子になれる。」
「僕の目標はおじさんですからね!!」
そう言って甥っ子は笑った。
「好きにしろ。休まず続けたのは評価してやる。」
「はい!!」
そして斗永さんの甥っ子はこの日始めて馬に乗った。
「おじいちゃん…。僕の分のアクマキが無いんですけど…。」
「何でおじいちゃんに聞くかなぁ。」
「橘君は田所さんの分も切りましたって言ってましたからねぇ…。」
「今日はおじいちゃん半休で。」
「待ちなさい。今度という今度こそ決着つけましょう。ちなみに弁当も空になってましたよ。」
「ふぐぅ…。今日のお弁当は角煮…。昨日のあまりと見た。」
鏑木さんはピュンピュンと飛んでいく。
「書類だって何枚あると思って!!」
「ハーハハハ。」
坂本さんと陽平君はコーヒーを飲みながら、
「あのふたりって仲良いですよね。」
「本当になぁ…。」
そう言って笑った。
魔界ではマヤたちが話していた。
「第一ラボが爆破されたのは残念だけどまだ僕たちには打つ手がある。」
「天界に住んでる仲間から救援物資は届いているぞ。」
「アイリーンは祈祷師の末裔なんだ。結界師の結界も解くことが出来る。」
「あんまり期待しないで頂戴。最近の天界の結界は何重にも張られていてかなり解くのが困難なのよ。」
『僕は盗聴器があるから外で待つよ。』
スバルは紙にそう書いた。
「ああ、そうだったね。」
「天界にいる同士にも迷惑がかからないようにしないとね。」
マヤは話した。
「明日、魔界の中央政府に爆薬を持ち込む。」
「それって…。」
「ああ、内乱だ!!」
その頃、天界の体操教室では女の子たちが着替えをしていた。
「ゆりちゃんっていつも着替えの時、こそこそするよね。」
「なんかあるんじゃないの?」
「えー気になる。」
「あ、来た。覗いてみよう。」
ゆりちゃんは辺りをキョロキョロしながら着替え始めた。肩の一部が鱗状になっている。
「何あれ…?」
「魔界の住人にあんな人がいるって…。」
ゆりちゃんは着替えを終えて更衣室から出ていった。
「ゆりちゃんが魔界の住人?」
「でも妖気は感じないよ。大人の人に言わないと…。」
「でもゆりちゃんは何もしてないよ。」
「とりあえずウチで話そう。」
旦那様と妖精たちはお屋敷に帰り、勉強をしていた。
「どれくらい出来ていたらいいのかなぁ?」
「一応、表はもらってきました。」
「図形、分数、かけ算…。」
「冬休み明けに間に合うかなぁ~。」
「遅れている分、補習も付けてくださるそうですからしばらくはお家のことは草間さんにして貰いますよ。」
「草間さんって旦那様が好きなんでしょう?」
「ハハハ。そんな事はありませんよ。」
「草間さんが言ってたもん。緑さんがいなかったらプロポーズしてるって。」
「はいはい。その話はここまでです。順番にお風呂に入ってくださいね。今日はバブが入ってますよ。」
「わーい、バブだ!!」
「マリアちゃんお風呂行かないと…。」
「…しいの。」
「え?なんて?」
「恥ずかしいの!!」
「マリアもお年頃ですね。みんなと別に入りましょう。」
「ごめんなさい、旦那様。」
「自然なことですよ。我慢させててすみませんね。」
「旦那様…。」
マリアちゃんはうっすら流した涙を拭いた。
「海外では異性の親と入るのも虐待に当たりますからね。マリアは至極真っ当ですよ。」
そう言って旦那様は皆の食器を下げる。
「お風呂まで洗い物を手伝ってくれますか?マリア?」
「はい!!させていただきます。」
「そんなかしこまらなくとも良いんですよ。」
そう言って旦那様は流しに立った。
翌日、台車に乗った鏑木さんが運ばれていた。縄でぐるぐる巻だ。
「何したんですか?」
陽平君は坂本さんに尋ねる。
「それがみんなの分のかるかんまんじゅうも食べてたらしくて…。」
「みんなの分って、10箱はあったんですよ!!」
「市中引き回しの刑…。」
「本当に引き回しますよ…。」
「あーあ、かるかんまんじゅう楽しみにしてたのになぁ…。」
市松がぼやく。
「昨日の時点で持って帰らないとだめだったなぁ…。まあアクマキは食べれたしなぁ。」
そう言って坂本さんは笑う。
その時、内線が入った。
「神官護衛課、田所です。はい、はい、はい。分かりました、向かわせます。」
「何か事件ですか?」
「魔界へ天界の住人が向かってるらしい。現状把握と結界を張るのに神官が先に出た。警護に向かうよ。橘君は待機。」
「はーい。」
「援護射撃に入れ!!」
人間界で言うところの魔界の国会にはレジスタンスが攻め込んでいた。
「結界があるよ!!」
「右に回れ!!」
「天界から駆けつけた人が妖気に当てられないように!!」
「爆弾を用意しろ!!」
「フミチカ!!無理はしないんだよ!!」
そう言ってマヤたちは魔界の住人を血祭りにあげていく。
「ミルクより前に銃を握っただけあるな。」
「嘘に決まってるじゃん。」
「ハハハー。」
「子供たちに戦争のない社会を!!」
「立ち上がれ!!みんな!!」
そうして銃撃戦は2日に及んだ。
「ゆりちゃんは魔界の住人なの?」
次の日、モリちゃんとヤスちゃんは聞いた。
「そんなわけ無いじゃん。」
ゆりちゃんは真っ青な顔をして移動していく。
「じゃあ肩についてる鱗みたいなものなに?」
ゆりちゃんは走り出した。
「大人を呼んで!!魔界の住人がいるよ!!」
「お手紙です。橘さん。」
「ああ、どうもありがとうございます。」
ジャキンと音がした。男は小声で、
「そのまま、我々と来てください。」
と、言った。手紙の影に銃があった。
「すみません!!ちょっとトイレの場所教えに行ってきます!!」
「別に橘が行かなくてもいいだろう。」
「どうせ暇人ですから。ね。行きましょうか?」
そう言って人通りのない廊下に来た。
「妖精の出身、橘陽平だな。今から魔界に来てもらう。」
「妖気に当てられてパーになるから嫌です。」
「魔界と魔界の住人が戦っているんだ。お前には中央を収めてもらう。」
「は?」
「お前が国のトップに立つんだ。」
「いやいや待ってくださいよ。何言ってるかわかってます?」
「異論があるのは最もだ。だが適任者はお前だと判断された。さあ魔界へ。」
そうして陽平君は魔界と天界の門をくぐった。
政府は爆撃で沢山の人が死んでいた。陽平君は成瀬倫也のときのように、ふつふつと身体中の血が沸騰するような思いがあった。
魔界の地獄絵図が広がる。
そうして、その日、天界から橘陽平は消えた。
天界警察の陽平君のデスクには旦那様と25人の妖精の写真があった。最後の目撃情報から、魔界の門をくぐったことだけが判明した。
学さんは涙を流した。旦那様は陽平君の荷物を引き取りに来た。それでも鏑木さんはまだ待ってみようと言ってそれらを断った。
橘陽平は歴史の分岐点に立つことになる。それを彼はまだ知らない。
『詩織が決めたならそうしよう。』
『陽平。陽平、大好きよ、陽平。』
「陽平、陽平!!」
陽平君が目を覚ますと学さんがいた。
「大丈夫か、お前泣きながら寝てたぞ!!」
「なんか不思議な夢を見て…。」
「どこか痛いとかそういうことではないんだな?」
「はい。大丈夫です。」
そう言って学さんはコーヒーを淹れてくれた。
「陽平は砂糖とかミルクはいるのか?」
「ああ、僕はブラックで大丈夫です。」
陽平君は休暇を取って鹿児島中央の神社に遊びに来ていた。と、言っても周りは皆働いているので流鏑馬をして厩舎で馬と話すくらいだ。
学さんは陽平君が帰ってきてる時しか話せないと一色さんから休みを貰った。
相変わらず一色さんとは仲が悪い。
「魔界の住人の受け入れねぇ…大半の人は受け入れないだろうな。」
そう言って学さんはコーヒーを口にする。
「でも事実だとすれば魔界にも被害者は居るんです。」
そう言って陽平君もコーヒーを飲んだ。
「神官はなんて言ってるんだ?」
「真偽の程を確かめると。」
「それでお前は外されたと。」
「まあ、そういうことですね。」
陽平君は乾いた笑いをする。
「最近、心は休まってるか?麻痺してないか?」
「何でそんなふうに思うんですか?」
「うちに来た頃のお前と今のお前はだいぶ変わったからなぁ。」
「そうですか?僕としてはなんとも…。」
「そうか目が笑ってないのか。」
「疲れてるだけだと思います。それに来た頃って僕、まだ10代ですよ。変わるに決まってるじゃないですか?」
「そうなんだけど…。」
「学さんは陽平君をからかうのが好きでしたからね。」
背後に一色さんがいた。
「うわっ!!心臓に悪い。」
「いい加減慣れてくれませんか?面倒です。」
そう言って一色さんはコーヒーを淹れる。
「書庫の整理は終わったのか?」
「あなたの口から仕事の話が出る時は早く仕事に戻れって意味でしたね…。」
学さんは苦笑いした。
「しかし、魔界の住人にもそんな人達がいるんですね…。」
「実はその後もお手紙貰っちゃったんですよ~。」
そう言って陽平君は手紙を取り出した。
「中央政権を倒して新しい魔界を作るとレジスタンスが暗躍しているそうです。」
学さんと一色さんは手紙に目を通す。中には鉛筆書きで子供が書いてるものもあった。
「神官課がどう動くかだな。」
「さてと、学さん蹴鞠付き合ってくださいよ。」
「ゔっ…。蹴鞠はなぁ…。」
「ふふふ。学さんのひとり勝ちにはさせませんよ。」
そう言って陽平君は鞠を持ってきた。
「すごいね、靴箱がこんなにあるよ!!」
「人数分の机と椅子があるんだ!!」
旦那様のお屋敷の妖精たちは学校見学に来ていた。
「学校が始まると生徒が来て賑やかになりますよ。」
「学習の遅れなどを見たいので出来るだけ同じクラスにして頂きたいのですが。」
「分かりました。旦那様のお屋敷の妖精たちですからね。さぞ優秀なことでしょう。」
「いえ、そんな事は。」
「体育館があるよー。」
「体育館って街にあるやつ?」
「学校では心身の育成を図るために色んな施設がひとつに集められているんです。」
そう言って校長先生は笑った。
「給食も出ますよ。」
「旦那様、給食って何?」
「学校で出るお昼ごはんですよ。」
「へー凄いんだね。」
「色んな子と友達になりたいなぁ。」
「ふふふ、友達100人出来るかしらね?」
校長先生は微笑んで皆は学校見学を続けた。
「かーごしーまーみやげ…。当たれ!!当たれ!!」
「なんのおまじないです?」
「懸賞らしいですよ。」
天界警察では鏑木さんが陽平君の鹿児島土産を心待ちにしていた。一方で貰えなかったときのために懸賞に応募していた。
「パンのシール集めたほうが確実じゃないです?」
「皿を貰ったところで…。」
「おはよーございまーす。」
「たっち~。」
鏑木さんが陽平君にピュンと飛びつく。
「かるかんまんじゅうとアクマキです。他は詳しくないもので。皆がここの会社なら外れはないって言ったものです。」
「神がいる…。」
鏑木さんは陽平君を拝んだ。
「皆の分ですからね…。」
陽平君は冷ややかに笑った。
「橘、また手紙来てたぞ。」
「神官課に提出するかどうかですね。」
「クビになりたくないなら出してこいよ。」
「なんかそういうことじゃないような気がするんですよね。もっとなんというか氷山の一角と言いますか…。」
「これ自体が呪詛だったりしてな。」
「怖いこと言いますね、坂本さん。」
「手紙の消印もまちまちだし、手紙の内容からして書いてる年齢層もバラバラなんですよ。そもそもにして何故僕宛に届くのか…。」
「流鏑馬の橘って全国区で有名だからなぁ。テレビにも流れてるし。」
その時、盛喜多長官が来た。
「橘君、何も言わずに一色さんを紹介して頂戴。」
「最近、良く聞かれるんですよね~。」
「彼女はいないんでしょう?」
「どうですかね~鹿児島中央の神社きっての色男ですからね~。」
「乱れてるよ、たっち~!!」
「僕子供なんで…。」
「これ、もーりーの釣書きよ。渡しといて。」
そう言ってヒールをコツコツ鳴らして盛喜多長官は去った。
「あの足元、最近の流行りですか?」
「外では靴だけど、署内ではヒール履いてる人だからね。」
へー陽平君は思った。
「アクマキ切りますよー。」
「おじいちゃんね、ここからここまで。」
「ほぼほぼ1本じゃないですか…。今日何人いますかー?」
そして鏑木さんはニコニコしながらアクマキを食べた。
「順調ですね~木馬でこれだけ弓が引ければ実践しても大丈夫ですよー。」
流鏑馬練習場には斗永さんと甥っ子がいた。
休憩に入ると甥っ子が話した。
「おじさん、ありがとうございます。」
「なんの礼だ。」
「中学から引きこもりになった僕に色んな世界を見せてくれてありがとうございます。今、塾にも行ってます。将来は天界警察に入りたいんです。」
斗永さんはタバコを吹かしながら話を聞いた。
「天界警察なんて大したものじゃないぞ。流鏑馬が出来れば神様の弟子になれる。」
「僕の目標はおじさんですからね!!」
そう言って甥っ子は笑った。
「好きにしろ。休まず続けたのは評価してやる。」
「はい!!」
そして斗永さんの甥っ子はこの日始めて馬に乗った。
「おじいちゃん…。僕の分のアクマキが無いんですけど…。」
「何でおじいちゃんに聞くかなぁ。」
「橘君は田所さんの分も切りましたって言ってましたからねぇ…。」
「今日はおじいちゃん半休で。」
「待ちなさい。今度という今度こそ決着つけましょう。ちなみに弁当も空になってましたよ。」
「ふぐぅ…。今日のお弁当は角煮…。昨日のあまりと見た。」
鏑木さんはピュンピュンと飛んでいく。
「書類だって何枚あると思って!!」
「ハーハハハ。」
坂本さんと陽平君はコーヒーを飲みながら、
「あのふたりって仲良いですよね。」
「本当になぁ…。」
そう言って笑った。
魔界ではマヤたちが話していた。
「第一ラボが爆破されたのは残念だけどまだ僕たちには打つ手がある。」
「天界に住んでる仲間から救援物資は届いているぞ。」
「アイリーンは祈祷師の末裔なんだ。結界師の結界も解くことが出来る。」
「あんまり期待しないで頂戴。最近の天界の結界は何重にも張られていてかなり解くのが困難なのよ。」
『僕は盗聴器があるから外で待つよ。』
スバルは紙にそう書いた。
「ああ、そうだったね。」
「天界にいる同士にも迷惑がかからないようにしないとね。」
マヤは話した。
「明日、魔界の中央政府に爆薬を持ち込む。」
「それって…。」
「ああ、内乱だ!!」
その頃、天界の体操教室では女の子たちが着替えをしていた。
「ゆりちゃんっていつも着替えの時、こそこそするよね。」
「なんかあるんじゃないの?」
「えー気になる。」
「あ、来た。覗いてみよう。」
ゆりちゃんは辺りをキョロキョロしながら着替え始めた。肩の一部が鱗状になっている。
「何あれ…?」
「魔界の住人にあんな人がいるって…。」
ゆりちゃんは着替えを終えて更衣室から出ていった。
「ゆりちゃんが魔界の住人?」
「でも妖気は感じないよ。大人の人に言わないと…。」
「でもゆりちゃんは何もしてないよ。」
「とりあえずウチで話そう。」
旦那様と妖精たちはお屋敷に帰り、勉強をしていた。
「どれくらい出来ていたらいいのかなぁ?」
「一応、表はもらってきました。」
「図形、分数、かけ算…。」
「冬休み明けに間に合うかなぁ~。」
「遅れている分、補習も付けてくださるそうですからしばらくはお家のことは草間さんにして貰いますよ。」
「草間さんって旦那様が好きなんでしょう?」
「ハハハ。そんな事はありませんよ。」
「草間さんが言ってたもん。緑さんがいなかったらプロポーズしてるって。」
「はいはい。その話はここまでです。順番にお風呂に入ってくださいね。今日はバブが入ってますよ。」
「わーい、バブだ!!」
「マリアちゃんお風呂行かないと…。」
「…しいの。」
「え?なんて?」
「恥ずかしいの!!」
「マリアもお年頃ですね。みんなと別に入りましょう。」
「ごめんなさい、旦那様。」
「自然なことですよ。我慢させててすみませんね。」
「旦那様…。」
マリアちゃんはうっすら流した涙を拭いた。
「海外では異性の親と入るのも虐待に当たりますからね。マリアは至極真っ当ですよ。」
そう言って旦那様は皆の食器を下げる。
「お風呂まで洗い物を手伝ってくれますか?マリア?」
「はい!!させていただきます。」
「そんなかしこまらなくとも良いんですよ。」
そう言って旦那様は流しに立った。
翌日、台車に乗った鏑木さんが運ばれていた。縄でぐるぐる巻だ。
「何したんですか?」
陽平君は坂本さんに尋ねる。
「それがみんなの分のかるかんまんじゅうも食べてたらしくて…。」
「みんなの分って、10箱はあったんですよ!!」
「市中引き回しの刑…。」
「本当に引き回しますよ…。」
「あーあ、かるかんまんじゅう楽しみにしてたのになぁ…。」
市松がぼやく。
「昨日の時点で持って帰らないとだめだったなぁ…。まあアクマキは食べれたしなぁ。」
そう言って坂本さんは笑う。
その時、内線が入った。
「神官護衛課、田所です。はい、はい、はい。分かりました、向かわせます。」
「何か事件ですか?」
「魔界へ天界の住人が向かってるらしい。現状把握と結界を張るのに神官が先に出た。警護に向かうよ。橘君は待機。」
「はーい。」
「援護射撃に入れ!!」
人間界で言うところの魔界の国会にはレジスタンスが攻め込んでいた。
「結界があるよ!!」
「右に回れ!!」
「天界から駆けつけた人が妖気に当てられないように!!」
「爆弾を用意しろ!!」
「フミチカ!!無理はしないんだよ!!」
そう言ってマヤたちは魔界の住人を血祭りにあげていく。
「ミルクより前に銃を握っただけあるな。」
「嘘に決まってるじゃん。」
「ハハハー。」
「子供たちに戦争のない社会を!!」
「立ち上がれ!!みんな!!」
そうして銃撃戦は2日に及んだ。
「ゆりちゃんは魔界の住人なの?」
次の日、モリちゃんとヤスちゃんは聞いた。
「そんなわけ無いじゃん。」
ゆりちゃんは真っ青な顔をして移動していく。
「じゃあ肩についてる鱗みたいなものなに?」
ゆりちゃんは走り出した。
「大人を呼んで!!魔界の住人がいるよ!!」
「お手紙です。橘さん。」
「ああ、どうもありがとうございます。」
ジャキンと音がした。男は小声で、
「そのまま、我々と来てください。」
と、言った。手紙の影に銃があった。
「すみません!!ちょっとトイレの場所教えに行ってきます!!」
「別に橘が行かなくてもいいだろう。」
「どうせ暇人ですから。ね。行きましょうか?」
そう言って人通りのない廊下に来た。
「妖精の出身、橘陽平だな。今から魔界に来てもらう。」
「妖気に当てられてパーになるから嫌です。」
「魔界と魔界の住人が戦っているんだ。お前には中央を収めてもらう。」
「は?」
「お前が国のトップに立つんだ。」
「いやいや待ってくださいよ。何言ってるかわかってます?」
「異論があるのは最もだ。だが適任者はお前だと判断された。さあ魔界へ。」
そうして陽平君は魔界と天界の門をくぐった。
政府は爆撃で沢山の人が死んでいた。陽平君は成瀬倫也のときのように、ふつふつと身体中の血が沸騰するような思いがあった。
魔界の地獄絵図が広がる。
そうして、その日、天界から橘陽平は消えた。
天界警察の陽平君のデスクには旦那様と25人の妖精の写真があった。最後の目撃情報から、魔界の門をくぐったことだけが判明した。
学さんは涙を流した。旦那様は陽平君の荷物を引き取りに来た。それでも鏑木さんはまだ待ってみようと言ってそれらを断った。
橘陽平は歴史の分岐点に立つことになる。それを彼はまだ知らない。
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