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叶太が中学1年になった年、真凛ちゃんはバレエ留学をした。空港まで見送りに行くと叶太が言ったので空港まで車を出した。
私は車の中で叶太に一言二言話しかけたが彼は何かをずっと考えていてまともな返事は返ってこなかった。
「叶太君!!」
空港のロビーでふたりは抱きしめあった。
「僕もいつか日本を出るよ。僕は日本のニジンスキーだからね。」
「だったら私はウリヤーナ・ロパートキナよ。」
ふたりはまるで永遠の別れのように静かに泣いた。
そして真凛ちゃんは世界へと羽ばたいた。
それからの叶太は学校の勉強をこなし、バレエは週に2回から3回通い、公園などでも踊っていた。
そしてバレエのオーディションを片っ端から受け続けた。バレエ教室の先生はどちらかと言えば乗り気でオーディションに出ることを応援してくれた。
あの伸び伸びとした叶太が、オーディションの結果に一喜一憂した。そこにいたのは幼児の叶太ではなくしっかりした少年の叶太だった。
この頃には彼は「白鳥の湖」などにも出演していた。
私は遥か昔に観たその舞台を思い返しながら、観客席で彼の舞台を見守っていた。
それと同時に真凛ちゃんの事を考えていた。彼女はどこまでも伸びやかに美しく演技していた。
そして真凛ちゃんから、叶太へ手紙が届いた。日本に一時帰国すると言う話だ。
叶太は少ないお小遣いから薔薇の花を買って真凛ちゃんの家に向かった。
真凛ちゃんのお母さんが出てきて、真凛ちゃんを呼んでくれた。真凛ちゃんは更にスラリとした美しいバレリーナになっていた。
叶太は真凛ちゃんの前でひざまづき、
「互いに夢を叶えたら結婚しよう。」
そう言って薔薇の花を差し出して笑った。真凛ちゃんは涙を流しながら、
「何年後の話よ。」
そう言って薔薇の花を受け取った。
国境を越えて時代を越えて芸術というものは受け継がれる。
ふと、桃香先生が手を振っている気がした。「白鳥の湖」を観に行ったあの日、私だけが彼女の真実を聞いていた。
『来月から彼と熊本に住むんです。と言っても病気でもうながくないから、一生住むわけじゃないんですけど。』
叶太はもしかしたら気づいていたのかもしれない。だから、彼はシルバーと答えたのかもしれない。
今夜、彼に月の色を聞いてみよう。
そう思いながら私はふたりを見つめ、涙を流した。
私は車の中で叶太に一言二言話しかけたが彼は何かをずっと考えていてまともな返事は返ってこなかった。
「叶太君!!」
空港のロビーでふたりは抱きしめあった。
「僕もいつか日本を出るよ。僕は日本のニジンスキーだからね。」
「だったら私はウリヤーナ・ロパートキナよ。」
ふたりはまるで永遠の別れのように静かに泣いた。
そして真凛ちゃんは世界へと羽ばたいた。
それからの叶太は学校の勉強をこなし、バレエは週に2回から3回通い、公園などでも踊っていた。
そしてバレエのオーディションを片っ端から受け続けた。バレエ教室の先生はどちらかと言えば乗り気でオーディションに出ることを応援してくれた。
あの伸び伸びとした叶太が、オーディションの結果に一喜一憂した。そこにいたのは幼児の叶太ではなくしっかりした少年の叶太だった。
この頃には彼は「白鳥の湖」などにも出演していた。
私は遥か昔に観たその舞台を思い返しながら、観客席で彼の舞台を見守っていた。
それと同時に真凛ちゃんの事を考えていた。彼女はどこまでも伸びやかに美しく演技していた。
そして真凛ちゃんから、叶太へ手紙が届いた。日本に一時帰国すると言う話だ。
叶太は少ないお小遣いから薔薇の花を買って真凛ちゃんの家に向かった。
真凛ちゃんのお母さんが出てきて、真凛ちゃんを呼んでくれた。真凛ちゃんは更にスラリとした美しいバレリーナになっていた。
叶太は真凛ちゃんの前でひざまづき、
「互いに夢を叶えたら結婚しよう。」
そう言って薔薇の花を差し出して笑った。真凛ちゃんは涙を流しながら、
「何年後の話よ。」
そう言って薔薇の花を受け取った。
国境を越えて時代を越えて芸術というものは受け継がれる。
ふと、桃香先生が手を振っている気がした。「白鳥の湖」を観に行ったあの日、私だけが彼女の真実を聞いていた。
『来月から彼と熊本に住むんです。と言っても病気でもうながくないから、一生住むわけじゃないんですけど。』
叶太はもしかしたら気づいていたのかもしれない。だから、彼はシルバーと答えたのかもしれない。
今夜、彼に月の色を聞いてみよう。
そう思いながら私はふたりを見つめ、涙を流した。
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