【完結】白い月と黄色の月

九時せんり

文字の大きさ
上 下
11 / 11

芽吹く

しおりを挟む
叶太が中学1年になった年、真凛ちゃんはバレエ留学をした。空港まで見送りに行くと叶太が言ったので空港まで車を出した。
私は車の中で叶太に一言二言話しかけたが彼は何かをずっと考えていてまともな返事は返ってこなかった。
「叶太君!!」
空港のロビーでふたりは抱きしめあった。
「僕もいつか日本を出るよ。僕は日本のニジンスキーだからね。」
「だったら私はウリヤーナ・ロパートキナよ。」
ふたりはまるで永遠の別れのように静かに泣いた。
そして真凛ちゃんは世界へと羽ばたいた。

それからの叶太は学校の勉強をこなし、バレエは週に2回から3回通い、公園などでも踊っていた。
そしてバレエのオーディションを片っ端から受け続けた。バレエ教室の先生はどちらかと言えば乗り気でオーディションに出ることを応援してくれた。
あの伸び伸びとした叶太が、オーディションの結果に一喜一憂した。そこにいたのは幼児の叶太ではなくしっかりした少年の叶太だった。
この頃には彼は「白鳥の湖」などにも出演していた。
私は遥か昔に観たその舞台を思い返しながら、観客席で彼の舞台を見守っていた。
それと同時に真凛ちゃんの事を考えていた。彼女はどこまでも伸びやかに美しく演技していた。

そして真凛ちゃんから、叶太へ手紙が届いた。日本に一時帰国すると言う話だ。
叶太は少ないお小遣いから薔薇の花を買って真凛ちゃんの家に向かった。
真凛ちゃんのお母さんが出てきて、真凛ちゃんを呼んでくれた。真凛ちゃんは更にスラリとした美しいバレリーナになっていた。
叶太は真凛ちゃんの前でひざまづき、
「互いに夢を叶えたら結婚しよう。」
そう言って薔薇の花を差し出して笑った。真凛ちゃんは涙を流しながら、
「何年後の話よ。」
そう言って薔薇の花を受け取った。
国境を越えて時代を越えて芸術というものは受け継がれる。
ふと、桃香先生が手を振っている気がした。「白鳥の湖」を観に行ったあの日、私だけが彼女の真実を聞いていた。
『来月から彼と熊本に住むんです。と言っても病気でもうながくないから、一生住むわけじゃないんですけど。』
叶太はもしかしたら気づいていたのかもしれない。だから、彼はシルバーと答えたのかもしれない。
今夜、彼に月の色を聞いてみよう。
そう思いながら私はふたりを見つめ、涙を流した。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

もしもし、わたし・・・

縷々訥々(るるとつとつ)
現代文学
小説を書き始めた頃の作品です。今思い出しても楽しく書いていました。

世界の端に舞う雪

秋初夏生(あきは なつき)
現代文学
雪が降る夜、駅のホームで僕は彼女に出会った まるで雪の精のように、ふわりと現れ、消えていった少女── 静かな夜の駅で、心をふっと温める、少し不思議で儚い物語

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

注意欠陥多動性障害(ADHD)の日常

春秋花壇
現代文学
注意欠陥多動性障害(ADHD)の日常

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【短編】子犬を拾った

吉岡有隆
現代文学
 私は、ある日子犬を拾った。そこから、”私”と子犬の生活が始まった。

処理中です...