【完結】白い月と黄色の月

九時せんり

文字の大きさ
上 下
10 / 11

ステップ

しおりを挟む
その後もふたりはバレエの練習を欠かさなかった。叶太が小学校に上がると男なのにバレエなんて…と言う子も現れたが、音楽の授業で先生と即興劇をした所、その中傷はピタリと止んだ。
ふたりの小学校にはバレエを習っている子が各学年にひとりかふたりいる程度で決して多くもなかったが、バレエで世界を目指す子は多かった。
「叶太君は日本のニジンスキーだものね。」
その日の帰り道、真凛ちゃんは笑った。
「ニジンスキー以外に、日本にも優秀なバレエダンサーはいるんだけどね。」
叶太はあどけなさが残る少年に育っていた。
「だったら私はウリヤーナ・ロパートキナを目指すわ。」
「ふたりで世界を見ようよ。」
そしてふたりは笑った。
この頃の叶太は少なくともモテる男の子の方に属していた。元々おちゃらけた彼がバレエを無言で踊りだす。そのギャップに女の子たちはキャーキャー言った。
真凛ちゃんはそんな叶太と腕を組んで登校したり下校したりしていた。
女帝真凛、貴公子叶太。
それが二人のあだ名だった。それでも真凛ちゃんは変わらないもので、
「あ、深田君。またね。」
と男の子には絶大な人気を誇っていた。

小学四年生になった真凛ちゃんはトウシューズを履くことになった。
トウシューズは大体10歳前後の子になれば履けるらしいが、もちろん身体が出来てないと履けない。真凛ちゃんはその日眠れなかったと言いながら涙を流した。
叶太はフニャフニャとしながら、おめでとうと繰り返した。
中学に上る前に留学について調べた。
一口に留学と言ってもバレエに関しては幅が広い。とりあえず出願は前年の9月から始まる。真凛ちゃんはこの頃英検も持っていて簡単な日常会話は英語で出来た。
「真凛ちゃんは留学するみたいだけど叶太はどうしたい?」
私は主人が休みの日の朝、叶太にそう尋ねた。
叶太はキョトンとして答えに詰まった。
「僕はまだ日本でも良い。ただ、勝負はしたい。」
「どういう事?」
「バレエの舞台に出たいんだ。オーディションを受けて。」
そう言って叶太は目を輝かせた。
「分かったわ。教室の先生と相談してみましょう。」
そう言って私達は朝食を食べた。

主人は休みになると何も言わずバレエ鑑賞をして過ごす。叶太もその横でバレエを見る。
「高いジャンプだなぁ…。」
叶太が呟く。
「それはそうだよ。この人たちは何百回と踊っているんだから。」
主人がそう言うと叶太はムッとする。
「僕は日本のニジンスキーだよ。」
「いつかそうなることを期待してます。」
そう言ってふたりは笑った。
私はたったこれだけの期間しかひとつ屋根の下で暮らせないのか…そう思ってうっすら涙ぐんだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

もしもし、わたし・・・

縷々訥々(るるとつとつ)
現代文学
小説を書き始めた頃の作品です。今思い出しても楽しく書いていました。

世界の端に舞う雪

秋初夏生(あきは なつき)
現代文学
雪が降る夜、駅のホームで僕は彼女に出会った まるで雪の精のように、ふわりと現れ、消えていった少女── 静かな夜の駅で、心をふっと温める、少し不思議で儚い物語

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

注意欠陥多動性障害(ADHD)の日常

春秋花壇
現代文学
注意欠陥多動性障害(ADHD)の日常

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【短編】子犬を拾った

吉岡有隆
現代文学
 私は、ある日子犬を拾った。そこから、”私”と子犬の生活が始まった。

処理中です...