【完結】白い月と黄色の月

九時せんり

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灯る

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「叶太君には分かんないのよ!!」
私がバレエ教室のお迎えに到着した瞬間、その言葉が教室内に響き渡った。状況が分からない私とオロオロするバレエ教室の先生方。
「僕は1番になれなくても楽しめたら良いと思う。それがみんなに伝わるんだよ。」
真凛ちゃんは大声で泣き出した。小学生の朱音ちゃんが真凛ちゃんの様子を伺うようにソロリソロリと歩み寄る。
先生から聞いた話によると、朱音ちゃんは難しい舞台に出ることが決まり、主演をつとめるらしい。真凛ちゃんはそれが気に食わなかったらしく朱音ちゃんに食って掛かった。
そしてそれを叶太が止めに入った。
真凛ちゃんのお母さんが到着して私とふたり、事務所に呼ばれた。
真凛ちゃんのお母さんは恐縮して頭を下げ続けた。
私は現場を見たわけじゃないのでそんなに謝らないでください。そんな言葉を繰り返した。
事務所から出ると真凛ちゃんと叶太が先生と雑談していた。真凛ちゃんはいつもの真凛ちゃんに戻っていて、叶太と腕を組んでいる。
それでも目は少し腫れていた。
「ごめんなさい。叶太君のお母さん。」
そう言って真凛ちゃんは頭を下げる。
ああ、この子はいつも本気なんだな、私はそう思った。
叶太は伸び伸びとしているが人と競うと言うことをしない。ヘラヘラしながらプレッシャーから逃れている。
私は帰りの車に叶太を乗せる前に、
「叶太もこれが1番ってことを見つけないといつも受け身の人生になるわよ。」
そうぴしゃりと言った。
「ウケミって何?」
そう叶太に聞かれて、私は真凛ちゃんのお母さんを思い出した。真凛ちゃんは負けず嫌いだが何でも真っ直ぐに向き合っている。
私は叶太は伸び伸びとしていれば良いと思って何もしてこなかったが、これで良かったのだろうか、そんな不安が脳裏をよぎった。
うちにはうちの教育方針がある。それは本当なのか?私達は同じゴールを目指しているわけでは無い。それでも子どもの幸せを願う。この日私はいつもと違うスーパーに寄り、そこの書店に入った。
幼児向けのドリルを手に取り、内容を吟味していく。
今の叶太だとこのくらいか。そう思っていくつかのドリルをレジに持って行き会計を済ました。
「お母さん何買ったの?」
叶太は私の顔を覗き込む。
「叶太も真凛ちゃんくらいに頑張らないとね。ドリルなら出来そう?」
「えー新しい絵本が良かったなぁ。」
「ドリル一冊終わるごとに絵本一冊買ってあげるわよ。」
「本当に?僕、頑張るよ。」
そう言って私達は夕飯の材料を買って家に帰った。
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