【完結】古ぼけた時計

九時せんり

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「難産だったもんなー。」
ひなこの耳にはそんな言葉が入ってきた。
ガラス越しに男の人と女の人がいた。
「まさか、朝までかかるとは思わなかったわ。」
そう言って、女の人は笑った。
ここはどこだろう。
周りには自分と同じくらいの子供が籠の中に入れられていた。
「まあ後は父さんと母さんだなぁ…。」
「結婚式までには体型戻さないとね。」
「大嶋さん、ミルクの時間ですよ。」
ひなこの入った籠がガラガラと病室に運ばれていく。
「ゆっくりで良いですよ。ゆっくりで。」
そう言って、看護婦が、女の人の胸にひなこの口を寄せた。
ひなこは条件反射で、母乳をチュウチュウと吸い出した。スイカの味がした。
それはとても美味しくてずっと飲んでいられる味だった。
よく見ると籠の中の上の方に大嶋ベビーと札が貼ってあった。
自分は大嶋と言うのか、ひなこは思った。
「名前なんだけどさ…。」
「私も考えてる。」
「妃咲とかどうかな?」
「なんかきつそうな名前ね。お日様みたいな子がいいわ。」
「お日様かぁ、ひなたとかどうだろう?」
「じゃあひなこにしない?」
「おーそうしよう。」
そしてひなこは大嶋ひなこになった。

病室にはたまにお母さん意外の人が遊びに来た。ひなこを抱きかかえては可愛い可愛いと言っていく。大体は職場の人だったがたまに身内の人も来た。
身内の人は着物を着ていて厳格な雰囲気のする人達だった。
身内の人が来るとお母さんの母乳は少し苦くてあまり美味しくはなかった。
「名前はもう決めたの?」
ある日、着物姿のおばあさんが言ってきた。
「ひなこにしようと思って。」
「いつまでも雛のような名前だね。そんな名前のどこが良かったのか…。」
そう言って、大きなため息をつく。
ひなこは大声で泣き出した。

お母さんをいじめないで。

そう思ってひとしきり泣いた。
「ほら貸しなさい。まだまだ母親らしくないのね。」
おばあさんはそう言ってひなこをあやす。しかしひなこは泣き止まない。
看護婦がやってきてひなこをあやした。そこでひなこは泣きやんだ。そしてお母さんの手に戻るとにーぃと笑った。
「あら、笑ってるわね。やっぱりお母さんが良いのねー。」
看護婦はそこまで言うとナースステーションに戻った。
「もう育児は久しぶりだからね。たまたまよ。」
おばあさんはそう言って、帰っていった。
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