【完結】白昼夢

九時せんり

文字の大きさ
上 下
12 / 13

出版社

しおりを挟む
その時のことを今でも鮮明に思い出せるのです。貴方の笑顔とちょっと人より汗をかきやすい体質。お線香なのかしらと思った白檀の香り。
貴方は私が東京の出版社を訪ねていた日、そこにいました。
出版社は文京区にありました。私のような三流作家が出版していただくには恐れ多い充分な品格のある出版社でした。
担当の内田と話し、年末のことを考えました。うちの実家は兄が板前で母はその年によってはおせちをイチから作っていたのです。
私も見よう見まねで、黒豆を炊いたものの皮がふっくらと仕上がらずしわしわの黒豆が出来上がりました。
母は嫁に行くまでに覚えれば良いと苦笑いしていたものです。
内田にはふたりの子どもがいました。
そのため、内田の子どもにと言ってはお菓子を差し入れたものです。
それは建前で本当は私の担当から外れてほしく無かったからです。
この頃、私はまだまだ出版社の仕組みや一般の会社の仕組みが分かっていませんでした。
この日はあらかたの打ち合わせが終わり、デパートで母の上生菓子を買って帰ろうとおもって電車に乗り込みました。
二駅くらい進んだところでしょうか、電車が緊急停止しました。車内には運転手と思われる人の車内アナウンスが流れ、一部の乗客が苛立ちを隠しきれず電車の中で通話し始めました。
今のようなラインと言う機能は当時無かったので私も友達に電車が止まったとメールしました。久しぶりの東京に私も疲れていたのか緊張していたのか過呼吸を起こしました。
隣に座っていた女性が何か言っているのは分かるのですが上手く聞き取れません。
電車は一向に動く気配もなく閉じ込められた車内で私は持っていたビニール袋で呼吸を整えました。それでも、なかなか過呼吸がやみませんでした。
その時、貴方がいたのです…。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

息子の日記を発見したから読んでみた話

kkkkk
現代文学
息子の結婚式を来月に控える父親は、息子の部屋から高校時代の日記を発見した。 娘の日記を読む父親はクズだと思う。かと言って、息子の日記を読んでいいのかと聞かれると返答に困る。 この物語は、勇気を出して息子の日記を読む父親の話である。 前半はおじさんが日記を読みながらブツブツと感想を言っているだけの内容です。読む人によっては嫌悪感しかない描写かもしれません。 最後まで見ると、この話が何か分かると思います。5話完結を予定しています。 【補足】 この話は2人の知人の話を参考にした物語です。2人のノンフィクションを組み合わせて、性別、年齢、場所などを変えました。これをフィクションと呼ぶのかノンフィクションと呼ぶのかは分かりません。 物語全体としては、ホームドラマ、恋愛、ミステリーを組み合わせたような内容になっています。 なお、この話は当時の社会背景を基にしていますが、政治的思想について言及するものではありません。

パリ15区の恋人

碧井夢夏
現代文学
付き合い始めて4か月。 実家暮らしの二人はまだ相手のことを深く知らない。 そんな時、休みが合ってパリに旅行をすることに。 文学が好きな彼女と建築が好きな彼。 芸術の都、花の都に降り立って過ごす数日間。 彼女には彼に言えない秘密があった。 全編2万字の中編小説です。 ※表紙や挿絵はMidjourneyで出力しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

わかばの恋 〜First of May〜

佐倉 蘭
青春
抱えられない気持ちに耐えられなくなったとき、 あたしはいつもこの橋にやってくる。 そして、この橋の欄干に身体を預けて、 川の向こうに広がる山の稜線を目指し 刻々と沈んでいく夕陽を、ひとり眺める。 王子様ってほんとにいるんだ、って思っていたあの頃を、ひとり思い出しながら…… ※ 「政略結婚はせつない恋の予感⁉︎」のネタバレを含みます。

アイスエジ

佐寺奥 黒幸
現代文学
この町は死んでいた。全てが死んでいた。

思い出と少女は水槽の中で眠る

TEKKON
現代文学
「おじさんは私としたいの? したくないの?」 ― たまたま立ち寄った出会い喫茶で出会ったのは、   遠い昔に死んだ美術部の後輩だった ― 勿論別人なのはわかっている。 しかし、どうしても気になった男は トークルームに彼女を呼ぶ事にした。 そこで彼女が口にした言葉とは……

処理中です...