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出版社
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その時のことを今でも鮮明に思い出せるのです。貴方の笑顔とちょっと人より汗をかきやすい体質。お線香なのかしらと思った白檀の香り。
貴方は私が東京の出版社を訪ねていた日、そこにいました。
出版社は文京区にありました。私のような三流作家が出版していただくには恐れ多い充分な品格のある出版社でした。
担当の内田と話し、年末のことを考えました。うちの実家は兄が板前で母はその年によってはおせちをイチから作っていたのです。
私も見よう見まねで、黒豆を炊いたものの皮がふっくらと仕上がらずしわしわの黒豆が出来上がりました。
母は嫁に行くまでに覚えれば良いと苦笑いしていたものです。
内田にはふたりの子どもがいました。
そのため、内田の子どもにと言ってはお菓子を差し入れたものです。
それは建前で本当は私の担当から外れてほしく無かったからです。
この頃、私はまだまだ出版社の仕組みや一般の会社の仕組みが分かっていませんでした。
この日はあらかたの打ち合わせが終わり、デパートで母の上生菓子を買って帰ろうとおもって電車に乗り込みました。
二駅くらい進んだところでしょうか、電車が緊急停止しました。車内には運転手と思われる人の車内アナウンスが流れ、一部の乗客が苛立ちを隠しきれず電車の中で通話し始めました。
今のようなラインと言う機能は当時無かったので私も友達に電車が止まったとメールしました。久しぶりの東京に私も疲れていたのか緊張していたのか過呼吸を起こしました。
隣に座っていた女性が何か言っているのは分かるのですが上手く聞き取れません。
電車は一向に動く気配もなく閉じ込められた車内で私は持っていたビニール袋で呼吸を整えました。それでも、なかなか過呼吸がやみませんでした。
その時、貴方がいたのです…。
貴方は私が東京の出版社を訪ねていた日、そこにいました。
出版社は文京区にありました。私のような三流作家が出版していただくには恐れ多い充分な品格のある出版社でした。
担当の内田と話し、年末のことを考えました。うちの実家は兄が板前で母はその年によってはおせちをイチから作っていたのです。
私も見よう見まねで、黒豆を炊いたものの皮がふっくらと仕上がらずしわしわの黒豆が出来上がりました。
母は嫁に行くまでに覚えれば良いと苦笑いしていたものです。
内田にはふたりの子どもがいました。
そのため、内田の子どもにと言ってはお菓子を差し入れたものです。
それは建前で本当は私の担当から外れてほしく無かったからです。
この頃、私はまだまだ出版社の仕組みや一般の会社の仕組みが分かっていませんでした。
この日はあらかたの打ち合わせが終わり、デパートで母の上生菓子を買って帰ろうとおもって電車に乗り込みました。
二駅くらい進んだところでしょうか、電車が緊急停止しました。車内には運転手と思われる人の車内アナウンスが流れ、一部の乗客が苛立ちを隠しきれず電車の中で通話し始めました。
今のようなラインと言う機能は当時無かったので私も友達に電車が止まったとメールしました。久しぶりの東京に私も疲れていたのか緊張していたのか過呼吸を起こしました。
隣に座っていた女性が何か言っているのは分かるのですが上手く聞き取れません。
電車は一向に動く気配もなく閉じ込められた車内で私は持っていたビニール袋で呼吸を整えました。それでも、なかなか過呼吸がやみませんでした。
その時、貴方がいたのです…。
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